〜 おへその乱読1000本ノック #0086 ~ 断食はカロリー制限による健康維持・寿命延長効果を駆動する
ようこそ、第86回 おへその乱読1000本ノックへ。今回は、Pakら(2021)による、カロリー制限の老化抑制効果において、日々の長い絶食がどの程度寄与しているのかを検討した論文を取り上げます。
前回は、マウスにおいてタンパク質・炭水化物・脂質の比率が、寿命や心代謝系の健康に大きく関わることを見てきました。今回は、カロリー制限そのものをもう一段細かく分解します。従来のげっ歯類カロリー制限では、与えられた餌を短時間で食べ尽くすため、摂取カロリーの低下と長時間の絶食がほぼセットで生じます。つまり、カロリー制限の効果として理解されてきた現象の中には、実は絶食によって駆動されるものが含まれている可能性があります。
本論文は、この絡み合った二つの要素を実験的に切り分け、摂取カロリーの低下だけでは再現できない代謝・分子・老化抑制効果を明らかにした重要な一報です。カロリー制限とは何を制限していたのか、その前提を問い直す論文として読んでいきます。

要旨
カロリー制限は多くの生物種で健康老化や寿命延長と関連づけられてきたが、げっ歯類の標準的なカロリー制限では、給餌量の低下とともに長時間の絶食が生じる。
本論文では、摂取カロリーの低下と絶食時間を切り分ける複数の給餌条件を用い、カロリー制限による代謝・分子・老化抑制効果の要因を検討した。その結果、希釈食によって摂取カロリーのみを低下させても、インスリン感受性の改善や燃料利用の切り替えは十分に再現されなかった。
一方、長時間絶食を伴う条件では、伝統的カロリー制限に類似した代謝応答や遺伝子発現変化が誘導された。さらに高齢マウスでは、長時間絶食がカロリー制限によるフレイル抑制、記憶維持、寿命延長効果に重要であることが示された。
これらの結果は、カロリー制限の効果を摂取量の低下だけで説明することは不十分であり、日々の長時間絶食がその主要な駆動因子である可能性を示している。
1.イントロダクション
カロリー制限は、酵母、線虫、ショウジョウバエ、げっ歯類、霊長類を含む多様な生物で、健康老化や寿命延長と関連づけられてきた。哺乳類においても、カロリー制限は代謝機能を改善し、加齢に伴う疾患や機能低下を遅らせる介入として長く研究されてきた。
一方で、げっ歯類を用いた標準的なカロリー制限実験には、解釈上の重要な問題がある。マウスやラットでは、制限された量の餌を与えると、動物はその餌を短時間で食べ尽くす。その結果、カロリー摂取量の低下だけでなく、日々の長時間絶食が同時に生じる。したがって、従来カロリー制限の効果として理解されてきた代謝改善や老化抑制効果の中には、摂取カロリーの低下そのものではなく、長時間絶食によって生じる効果が含まれている可能性がある。
近年、絶食や時間制限給餌そのものが、代謝機能や寿命に影響を及ぼすことも示されてきた。この知見は、カロリー制限研究の解釈をさらに複雑にする。カロリー制限による効果を正確に理解するには、摂取カロリーの低下と絶食時間の延長を実験的に切り分ける必要がある。
本論文では、この問題を検証するために、摂取カロリーと絶食時間を独立に操作する複数の給餌条件を設定する。自由摂食、希釈食によるカロリー低下、分割給餌によるカロリー制限、従来型のカロリー制限、時間制限自由摂食を比較し、代謝応答、遺伝子発現、健康寿命、寿命への影響を解析する。これにより、カロリー制限の老化抑制効果が、摂取量の低下と長時間絶食のどちらによって担われているのかを明らかにする。
2.給餌条件の設計:カロリー低下と絶食時間を切り分ける
2.1 従来型CRに含まれる長時間絶食
げっ歯類を用いた従来型のカロリー制限では、摂取カロリーを一定割合で減らした餌を1日1回与えることが多い。この条件では、動物は与えられた餌を短時間で食べ尽くすため、摂取カロリーの低下とともに、日々の長時間絶食が生じる。したがって、従来型CRで観察される代謝改善や老化抑制効果は、摂取量の低下だけでなく、長時間絶食を含む複合的な介入として理解する必要がある。
本論文では、この点を明確にするために、標準的な自由摂食群と従来型CR群を比較の軸に置いた。自由摂食群では餌を常時摂取できるのに対し、従来型CR群では摂取カロリーが低下するだけでなく、給餌後に長い絶食時間が生じる。つまり、従来型CRは少なく食べる条件であると同時に、長く食べない条件でもある(Fig. 1)。
2.2 希釈食と分割給餌によるカロリー低下の分離
摂取カロリーの低下そのものの効果を検証するため、希釈自由摂食条件が設定された。この条件では、食餌のエネルギー密度を低下させることで、総摂取カロリーを減らしながら、餌へのアクセスは自由摂食と同様に維持する。これにより、長時間絶食を伴わないカロリー低下条件を作ることができる。
さらに、分割給餌CR条件では、従来型CRと同程度に摂取カロリーを制限しつつ、1日分の餌を複数回に分けて与えた。この設計により、摂取カロリーは低下するが、従来型CRのような長時間絶食は生じにくくなる。希釈自由摂食と分割給餌CRは、いずれもカロリー低下を保ちながら絶食時間を短くする条件として位置づけられる(Fig. 1)。
2.3 時間制限自由摂食による絶食効果の分離
一方、長時間絶食そのものの効果を検証するため、時間制限自由摂食条件が設定された。この条件では、総摂取カロリーを自由摂食群と同程度に保ちながら、摂食できる時間を短い時間帯に制限する。これにより、摂取カロリーの低下を伴わずに、日々の長時間絶食を導入することができる。
以上の給餌条件により、本論文では、摂取カロリーの低下と絶食時間の延長を実験的に切り分けた。自由摂食、希釈自由摂食、分割給餌CR、従来型CR、時間制限自由摂食を比較することで、CRに伴う代謝応答や老化抑制効果が、カロリー低下と長時間絶食のどちらに依存するのかを検証する実験系が構築された(Fig. 1)。

3.長時間絶食はCR様の代謝応答に必要である
3.1 インスリン感受性の改善には長時間絶食が関与する
まず、若齢雄C57BL/6Jマウスを用いて、各給餌条件が糖代謝に及ぼす影響を検討した。従来型CRでは、自由摂食群と比較して糖負荷後の血糖上昇が抑えられ、インスリン負荷に対する血糖低下も大きくなった。したがって、従来型CRは糖処理能力とインスリン感受性を改善した(Fig. 1F, G)。
一方、希釈自由摂食や分割給餌CRでは、摂取カロリーは低下していても、従来型CRと同程度の糖代謝改善は再現されなかった。これらの条件では長時間絶食が生じにくいため、摂取カロリーの低下だけではCRに特徴的なインスリン感受性改善を十分に説明できない。若齢雄C57BL/6JマウスにおけるCR様の糖代謝応答には、長時間絶食が重要な要素として関与していた。
3.2 燃料選択の切り替えは絶食条件で明瞭になる
次に、代謝ケージを用いて、各群の呼吸交換比とエネルギー利用を解析した。呼吸交換比は、糖質と脂質のどちらを主な燃料として利用しているかを反映する指標である。従来型CRでは、給餌後と絶食期のあいだで呼吸交換比が大きく変化し、摂食後には糖質利用が高まり、絶食期には脂質利用へと切り替わるパターンが明瞭になった(Fig. 1H, I)。
この燃料選択の切り替えは、長時間絶食を伴う従来型CRで顕著であった。希釈自由摂食や分割給餌CRでは、カロリー摂取量は低下していても、同様の大きな呼吸交換比の変動は十分に生じなかった。したがって、CRに伴う代謝柔軟性の変化は、摂取カロリーの低下だけではなく、長時間絶食によって強く規定されていた。
3.3 カロリー低下のみではCR様代謝応答を十分に再現できない
これらの結果は、従来型CRの代謝効果を単純なカロリー低下として理解することが不十分であることを示している。希釈自由摂食と分割給餌CRは、摂取カロリーを低下させる条件であるにもかかわらず、従来型CRにみられるインスリン感受性の改善や燃料選択の切り替えを十分には再現しなかった。
一方、従来型CRでは、摂取カロリーの低下と長時間絶食が同時に生じ、糖代謝改善と脂質利用へのシフトが明瞭に認められた。したがって、若齢雄C57BL/6JマウスにおけるCR様の代謝応答には、カロリー低下そのものに加えて、日々の長時間絶食が必要であると考えられる(Fig. 1F–J)。
4.CR応答には系統差と性差が存在する
4.1 系統によって食事介入への応答は異なる
若齢雄C57BL/6Jマウスで得られた結果が、他の遺伝的背景や性にも当てはまるかを検討するため、C57BL/6J雌、DBA/2J雄、DBA/2J雌を用いて同様の食事介入が行われた。これらの解析では、体組成、糖代謝、インスリン応答、呼吸交換比、燃料利用、エネルギー消費など、複数の表現型を比較した(Fig. 2A–G)。
その結果、食事介入に対する応答は、C57BL/6J雄で観察されたパターンと完全には一致しなかった。DBA/2Jでは、C57BL/6Jとは異なる糖代謝応答やインスリン応答がみられ、同じCR条件であっても、遺伝的背景によって代謝表現型の現れ方が変化した。したがって、CRや絶食に対する反応は、単一のマウス系統だけで一般化することはできない。
4.2 性差はCR応答の解釈に影響する
性差も、食事介入への応答に影響した。雌マウスでは、体重や脂肪量の変化、糖代謝応答、脂肪酸酸化の変化が、雄マウスとは異なるパターンを示した。とくに、希釈自由摂食や分割給餌CRに対する反応は、系統だけでなく性によっても異なっていた。
インスリン感受性についても、すべての系統・性で同じように改善したわけではなかった。長時間絶食を伴わない希釈自由摂食では、いずれの系統・性においても明瞭なインスリン感受性改善は認められず、カロリー低下のみではCR様の代謝効果を十分に再現できないという傾向は維持された。一方で、CRや分割給餌CRに対する応答の強さは、系統と性によって変化した(Fig. 2H–J)。
4.3 本論文の主解析はC57BL/6J雄を軸に進む
CRや絶食に対する応答は、遺伝的背景と性によって修飾された。したがって、食事介入の効果を解釈する際には、系統差と性差を考慮する必要がある。本論文では、この違いを確認したうえで、以降の詳細な解析をC57BL/6J雄に絞って進める(Fig. 2)。

5.絶食単独でCR様の代謝効果が再現される
5.1 時間制限自由摂食は摂取カロリーを低下させずに長時間絶食を導入する
カロリー低下を伴わない長時間絶食の効果を検証するため、時間制限自由摂食(TR.al)条件が設定された。この条件では、自由摂食群と同程度の摂取カロリーを維持しながら、摂食可能な時間を短く制限する。マウスは短時間の給餌時間内に1日分の餌を摂取し、その後は長時間絶食する。これにより、摂取カロリーの低下を伴わずに、従来型CRに近い絶食時間を導入することができる(Fig. 3A)。
TR.al群では、総摂取カロリーは自由摂食群と大きく変わらなかったが、16週間の介入により体重増加と脂肪量増加が抑えられた。従来型CR群と同様に、TR.al群でも体組成の変化が認められ、長時間絶食そのものが体重および脂肪量の制御に影響することが示された(Fig. 3B)。
5.2 絶食単独でインスリン感受性と燃料利用が変化する
TR.al群では、糖負荷試験およびインスリン負荷試験において、自由摂食群より良好な応答が認められた。これらの改善は従来型CR群と同方向であり、カロリー摂取量を低下させなくても、長時間絶食によって糖代謝とインスリン感受性が改善しうることを示している(Fig. 3C, D)。
代謝ケージ解析でも、TR.al群は従来型CR群とよく似た燃料利用パターンを示した。給餌後には呼吸交換比が上昇し、摂食後の代謝応答が強く現れた一方、絶食期には呼吸交換比が低下し、脂質利用への切り替えが明瞭になった。24時間の燃料利用を解析すると、TR.al群とCR群では脂肪酸酸化が増加し、自由摂食群とは異なる代謝状態を示した(Fig. 3E, F)。
5.3 CR様の代謝応答は摂取量低下だけでは説明できない
TR.al群で観察された代謝変化は、従来型CRでみられる応答の多くを再現していた。体組成、糖代謝、インスリン応答、呼吸交換比、燃料利用などを総合すると、TR.al群は自由摂食群よりもCR群に近い表現型を示した(Fig. 3G)。
さらに、これまでの給餌条件を比較すると、インスリン感受性の改善は、長時間絶食を伴うCR群とTR.al群で明瞭であった。一方、摂取カロリーを低下させても長時間絶食を伴わない条件では、同じ応答は十分に再現されなかった。したがって、CR様の代謝効果は、摂取カロリーの低下だけでは説明できず、長時間絶食がその主要な要素として機能している(Fig. 3H)。

6.絶食とCRは肝臓・白色脂肪組織で類似した転写応答を誘導する
6.1 肝臓におけるCR様転写応答
代謝表現型の類似性が分子レベルでも再現されるかを検討するため、自由摂食、従来型CR、時間制限自由摂食の各群から肝臓を採取し、RNA-seqによる遺伝子発現解析を行った。従来型CRでは、多数の遺伝子発現が自由摂食群から変化し、肝臓の転写状態が大きく再構成された。
時間制限自由摂食でも、従来型CRと同方向の遺伝子発現変化が広く認められた。CRで変化した遺伝子の多くはTR.alでも変化し、両条件は肝臓において高い転写応答の重なりを示した。したがって、摂取カロリーを低下させなくても、長時間絶食によってCR様の肝臓転写応答が大きく再現された(Fig. 4A–C)。
6.2 白色脂肪組織におけるCR様転写応答
白色脂肪組織でも、CRとTR.alの転写応答は大きく重なった。従来型CRでは、脂肪組織の遺伝子発現が自由摂食群から大きく変化し、代謝経路や細胞応答に関わる遺伝子群が再構成された。TR.al群でも同様に、CRと共通する遺伝子発現変化が多数認められた。
この結果は、長時間絶食が、肝臓だけでなく白色脂肪組織においてもCR様の分子応答を誘導することを示している。TR.alは摂取カロリーを大きく低下させない条件であるため、CRに伴う脂肪組織の転写変化の多くは、カロリー低下そのものではなく、長時間絶食によっても誘導されうる(Fig. 4A–D, F)。
6.3 絶食はCRの分子シグネチャーを大きく再現する
肝臓と白色脂肪組織のネットワーク解析および経路解析でも、CRとTR.alの類似性が確認された。CR群とTR.al群で変化した遺伝子は、単に数として重なるだけでなく、関連する機能経路にも共通性を示した。白色脂肪組織と肝臓のいずれにおいても、CRとTR.alは多数の共通した発現変化と経路変化を示した(Fig. 4D–G)。
したがって、TR.alは、代謝表現型だけでなく、肝臓と白色脂肪組織における分子シグネチャーの面でも従来型CRを大きく再現した。CRに伴う転写応答の少なくとも一部は、摂取カロリーの低下だけではなく、日々の長時間絶食によって駆動される。

7.高齢マウスでも長時間絶食はCR様代謝応答に必要である
7.1 高齢マウスにおけるCR条件の再検証
若齢マウスで観察された結果が加齢個体でも成り立つかを検討するため、高齢雄C57BL/6Jマウスを用いて食事介入が行われた。高齢マウスでも、自由摂食、希釈自由摂食、分割給餌CR、従来型CRを比較し、摂取カロリーの低下と長時間絶食の影響を切り分けた。
この解析では、若齢期と同様に、従来型CRでは摂取カロリーの低下と長時間絶食が同時に生じる。一方、希釈自由摂食や分割給餌CRでは、摂取カロリーを低下させながら、長時間絶食を回避する条件が設定された。これにより、高齢個体においても、CR様代謝応答に絶食時間が必要かどうかを検証した(Fig. 5A)。
7.2 インスリン感受性と燃料選択の改善
高齢マウスにおいても、従来型CRは糖代謝とインスリン応答を改善した。糖負荷試験では血糖上昇が抑えられ、インスリン負荷試験では血糖低下が大きくなった。これに対し、長時間絶食を伴わない希釈自由摂食や分割給餌CRでは、従来型CRと同程度の改善は十分に再現されなかった(Fig. 5B, C)。
呼吸交換比と燃料利用の解析でも、従来型CRでは給餌後と絶食期の燃料選択の切り替えが明瞭に認められた。絶食期には脂質利用が高まり、CRに特徴的な代謝状態が形成された。一方、長時間絶食を伴わないカロリー低下条件では、このような燃料利用の切り替えは弱かった(Fig. 5D–F)。
7.3 若齢期の結果は高齢期にも拡張される
高齢マウスで得られた結果は、若齢マウスでの解析と同じ方向を示した。摂取カロリーを低下させるだけでは、CRに特徴的なインスリン感受性改善や燃料選択の変化は十分に再現されなかった。一方、長時間絶食を伴う従来型CRでは、これらの代謝応答が明瞭に認められた。
したがって、CR様の代謝効果に長時間絶食が必要であるという関係は、若齢個体に限らず、高齢個体にも当てはまる。加齢したマウスにおいても、CRの代謝効果は摂取カロリーの低下だけでは説明できず、日々の長時間絶食が重要な要素として働いていた(Fig. 5)。

8.長時間絶食はCRの健康維持・寿命延長効果に必要である
8.1 CRによるフレイル抑制には絶食が関与する
高齢マウスにおいて、CRが老化関連表現型に及ぼす影響を評価するため、フレイル指標が解析された。従来型CRでは、自由摂食群と比較してフレイルの進行が抑制された。一方、摂取カロリーを低下させても長時間絶食を伴わない条件では、同じ改善は十分に再現されなかった。
この結果は、CRによる健康維持効果の一部が、摂取カロリーの低下だけではなく、長時間絶食に依存することを示している。フレイル抑制という老化関連表現型においても、長時間絶食はCR効果を構成する重要な要素であった(Fig. 6A–C)。
8.2 長期記憶と全身状態への影響
CRの効果は、身体機能だけでなく、認知機能や全身状態にも及んだ。長期記憶の評価では、従来型CR群で記憶保持の改善が認められた。これに対し、長時間絶食を伴わないカロリー低下条件では、同様の改善は明瞭ではなかった(Fig. 6D)。
また、被毛や全身状態に関する老化指標でも、従来型CRは自由摂食群より良好な状態を示した。これらの表現型は、単一の代謝指標ではなく、加齢に伴う全身性の機能低下を反映する。CRによる老化関連表現型の改善は、代謝応答と同様に、長時間絶食の有無によって大きく左右された(Fig. 6E, F)。
8.3 絶食を伴わないカロリー低下では寿命延長が再現されない
寿命解析では、従来型CR群で寿命延長が認められた。従来型CRは、摂取カロリーの低下と長時間絶食を同時に伴う条件であり、これまでCRの代表的な寿命延長モデルとして扱われてきた。
一方、希釈自由摂食により摂取カロリーを低下させても、長時間絶食を伴わない場合には、寿命延長は再現されなかった。むしろ、この条件では自由摂食群と比較して寿命が延長せず、CRとは異なる結果を示した。したがって、少なくとも本実験条件では、摂取カロリーの低下だけではCRによる寿命延長効果を説明できない(Fig. 6G)。
8.4 CR効果における長時間絶食の位置づけ
フレイル、長期記憶、全身状態、寿命の結果を総合すると、CRの老化抑制効果は、摂取カロリーの低下だけでは十分に再現されなかった。代謝応答で示された傾向と同様に、健康維持および寿命延長に関わる表現型でも、長時間絶食の有無が重要な分岐点となった。
したがって、本論文は、CRによる健康維持・寿命延長効果を、単なる摂取量低下の結果としてではなく、長時間絶食を含む複合的な介入として捉え直す必要があることを示している。長時間絶食は、CRの代謝効果だけでなく、老化関連表現型の改善にも深く関与していた(Fig. 6)。

9.結論:カロリー制限研究における長時間絶食の役割
本論文では、従来型CRに含まれていた摂取カロリーの低下と長時間絶食を実験的に切り分け、代謝応答、転写応答、健康寿命、寿命への影響を検討した。希釈自由摂食や分割給餌CRでは、摂取カロリーを低下させても長時間絶食を伴わない条件が作られた。一方、時間制限自由摂食では、摂取カロリーを大きく低下させずに長時間絶食を導入した。
その結果、CRに特徴的なインスリン感受性の改善、燃料利用の切り替え、肝臓および白色脂肪組織の転写応答は、摂取カロリーの低下だけでは十分に再現されなかった。長時間絶食を伴う条件では、これらの代謝・分子応答がCR様に誘導された。さらに高齢マウスでは、CRによるフレイル抑制、記憶維持、全身状態の改善、寿命延長にも長時間絶食が重要であった。
以上の結果は、げっ歯類におけるCR効果を、単なる摂取カロリーの低下としてではなく、日々の長時間絶食を含む介入として理解する必要があることを示している。長時間絶食は、CRによる代謝改善、分子応答、健康維持・寿命延長効果を駆動する主要な要素として位置づけられる(Fig. 7)。

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