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〜 おへその乱読1000本ノック #0106 ~ SAMTORはメチオニン代謝をmTORC1につなぐSAMセンサーである

 ようこそ、第106回 おへその乱読1000本ノックへ。
 これまでの数回は、栄養シグナルが細胞成長・代謝・老化をどう制御するかを、mTORC1を中心に見てきました。mTORC1は、栄養が十分なときに細胞成長やタンパク質合成を促進し、不足時にはそれらを抑制するシグナル経路です。今回からは、そのさらに上流でアミノ酸の状態を感知する分子装置に注目していきます。
 今回取り上げるのは、Gu et al.(2017)による、SAMTORを介したメチオニン代謝とmTORC1制御に関する論文です。メチオニンは必須アミノ酸であると同時に、細胞内でS-アデノシルメチオニン(SAM)に変換されます。SAMはDNA・ヒストン・RNA・リン脂質などのメチル化反応に使われる中心代謝物質ですが、このSAMがmTORC1上流の栄養シグナルとしても機能することが示されました。
 メチオニンが十分にあればSAM濃度が保たれてmTORC1は活性化しやすくなり、不足すればSAM濃度が低下し、SAMTORを介してmTORC1シグナルが抑制されます。メチオニンの充足状態がSAMTORという分子装置を通じてmTORC1経路に伝わる仕組みを明らかにした研究を読み解いていきます。

要旨
 mTORC1は、栄養が十分にあると細胞成長やタンパク質合成を促進し、栄養が不足するとそれらを抑制する中心的なシグナル経路である。アミノ酸はRag GTPアーゼを介してmTORC1のリソソーム局在と活性化を制御するが、メチオニンの充足状態がどのようにmTORC1へ伝えられるかは十分に明らかではなかった。
 本論文では、未解析タンパク質C7orf60がGATOR1およびKICSTORと相互作用することが見いだされ、このタンパク質はSAMTORと命名された。SAMTORはmTORC1シグナルを抑制する因子であり、GATOR1-KICSTOR複合体を介してRag GTPアーゼ上流で作用する。これにより、SAMTORはアミノ酸感知経路においてmTORC1を負に制御する分子として位置づけられた。
 SAMTORは、メチオニンそのものではなく、メチオニンから生成されるS-アデノシルメチオニン、すなわちSAMを感知する。メチオニンが十分に存在する状態では、細胞内SAM濃度が保たれ、SAMがSAMTORに結合することでSAMTORはGATOR1-KICSTOR複合体から解離し、mTORC1シグナルは活性化しやすい状態となる。一方、メチオニンが不足するとSAM濃度が低下し、SAMTORとGATOR1-KICSTORの結合が促進され、mTORC1のリソソーム局在と下流シグナルが抑制される。
 以上より、本研究は、メチオニンの充足状態がSAMへ変換されたうえでSAMTORに感知され、GATOR1-KICSTORおよびRag GTPアーゼ系を介してmTORC1活性へ伝達されることを明らかにした。SAMTORは、メチオニン代謝、一炭素代謝、mTORC1シグナルを結びつける分子装置である。


1.イントロダクション:メチオニンはどのようにmTORC1へ伝えられるのか

1.1 mTORC1は栄養に応じて細胞成長と代謝を切り替える

 mTORC1は、細胞外の栄養状態や成長因子を統合し、細胞の成長・タンパク質合成・代謝を調節する中心的なシグナル経路である。栄養が十分な状態ではmTORC1は同化反応を促進して細胞成長を支える一方、栄養が不足すると活性が低下し、細胞は資源の節約や分解系の制御へと傾く。
 この活性化の鍵となるのが、mTORC1のリソソーム表面への移動である。リソソーム表面には活性化因子Rhebが存在しており、mTORC1がここへ動員されることが、栄養シグナルを成長シグナルへ変換する重要なステップとなる。

1.2 Rag GTPアーゼ系がアミノ酸シグナルをmTORC1へ伝達する

 アミノ酸によるmTORC1活性化には、Rag GTPアーゼが中心的な役割を果たす。Rag GTPアーゼはRagA/BとRagC/Dからなるヘテロ二量体として機能し、アミノ酸が十分な条件下でmTORC1をリソソーム表面へ動員する。
 この上流には複数の制御複合体が存在する。GATOR1はRagA/BのGAPとしてmTORC1を抑制し、KICSTORはGATOR1と結合してこれをリソソーム側に配置する。一方GATOR2は、GATOR1の上流でmTORC1経路を活性化する方向に働くと考えられている。
 このように、アミノ酸感知経路は単一のセンサーで完結するものではなく、Rag GTPアーゼを中心に複数の制御装置が重なり合うネットワークとして構成されている(参考図1)。


参考図1 アミノ酸によるmTORC1制御ネットワーク


アミノ酸シグナルは、リソソーム膜上のRag GTPアーゼを中心とする経路を介してmTORC1の局在と活性を調節する。Ragヘテロダイマーは、アミノ酸十分条件下でmTORC1をリソソーム膜上へ動員し、Rhebによる活性化を可能にする。この過程にはRagulator/LAMTOR、v-ATPase、GATOR1、GATOR2、KICSTOR、FLCN–FNIPなどの複合体が関与し、さらにSestrin、CASTOR、SAMTOR、SLC38A9などのセンサーが、ロイシン・アルギニン・メチオニン由来SAMなどの情報をRag経路へ入力する。本稿で扱うSAMTORは、メチオニンそのものではなくSAMを介してGATOR1–KICSTOR側に接続されるセンサーである。(出典:Fernandes and Demetriades, 2021より一部改変)

1.3 ロイシン・アルギニンと異なり、メチオニン感知機構は未解明であった

 ロイシンやアルギニンについては、mTORC1上流の分子センサーがすでに同定されていた。ロイシンはSestrin2、アルギニンはCASTOR1やSLC38A9によって感知され、いずれもGATOR2やRagulatorを介してmTORC1制御へ接続される。つまり、少なくとも一部のアミノ酸には、それを専用に感知する分子装置が存在することが分かっていた。
 しかし、mTORC1がすべてのアミノ酸を同一の仕組みで感知しているわけではなく、アミノ酸ごとに異なるセンサーがRag GTPアーゼ系へ情報を入力している可能性がある。メチオニンもmTORC1活性に関わる重要な必須アミノ酸だが、その充足状態がどの分子を介してmTORC1へ伝わるのかは、これまで明らかになっていなかった。

1.4 本研究の問い:メチオニン代謝物SAMはmTORC1上流のシグナルとなりうるか

 メチオニンはタンパク質合成の材料であるだけでなく、細胞内でS-アデノシルメチオニン(SAM)へと変換される。SAMはDNA・ヒストン・RNA・リン脂質などのメチル化反応に使われる中心的なメチル基供与体であり、一炭素代謝とも密接に結びついている。
 本研究では、メチオニン分子そのものではなく、その代謝物であるSAMがmTORC1上流の栄養シグナルとして機能する可能性に着目した。もし細胞がSAM濃度を読み取る分子装置を備えているなら、メチオニンの充足状態はメチオニン自体ではなくSAMを介してmTORC1へ伝えられることになる。
 そこで、GATOR1およびKICSTORと相互作用する未知タンパク質を探索し、メチオニン代謝・一炭素代謝・Rag GTPアーゼ系・mTORC1シグナルをつなぐ分子機構の解明を試みた。

2.SAMTORの同定:GATOR1-KICSTOR複合体と結合する未知タンパク質を見つける

2.1 BioPlex相互作用データベースからC7orf60を候補化する

 mTORC1のアミノ酸感知経路に関わる未知の制御因子を探すため、GATOR1またはKICSTORに結合するタンパク質をBioPlexタンパク質相互作用データベースから探索した。BioPlexは、HEK-293T細胞に多数のタンパク質を発現させ、免疫沈降と質量分析によって相互作用タンパク質を網羅的に同定したデータベースである。
 この解析から、GATOR1構成因子(Depdc5、Nprl3、Nprl2)およびKICSTOR構成因子(Kaptin、ITFG2、C12orf66、SZT2)の相互作用候補として、C7orf60が浮かび上がった。C7orf60は第7染色体上の未解析オープンリーディングフレームに由来する機能未知タンパク質で、この時点ではmTORC1経路との関わりも不明であった。後の解析でSAM(S-アデノシルメチオニン)を感知してmTORC1上流に作用することが判明したため、SAMTORと命名された。

2.2 SAMTORはGATOR1およびKICSTORと結合し、GATOR2とは結合しない

 次に、SAMTORが実際にGATOR1やKICSTORと結合するかを検証した。内在性にFLAGタグを付加したGATOR1構成因子Depdc5・GATOR2構成因子WDR59、および安定発現させたKICSTOR構成因子Kaptinを用いてFLAG免疫沈降を行い、SAMTORの共沈降を調べた。
 その結果、SAMTORはDepdc5およびKaptinと共免疫沈降したが、WDR59とは共沈降しなかった。SAMTORを一過性発現させた場合にも、内在性のNprl3(GATOR1)およびSZT2(KICSTOR)が共沈降した。これらの結果は、SAMTORがGATOR2ではなくGATOR1・KICSTORと相互作用することを示している(Fig. 1A)。


Fig. 1 SAMTORはGATOR1-KICSTOR複合体と相互作用する


BioPlex解析により、機能未知タンパク質C7orf60がGATOR1・KICSTOR構成因子の相互作用候補として同定された。A 内在性FLAG-Depdc5、FLAG-WDR59、FLAG-Kaptinを用いた共免疫沈降により、SAMTORがGATOR1・KICSTORと結合し、GATOR2とは結合しないことを示した。B GATOR1またはKICSTOR構成因子を欠く細胞では、SAMTORとGATOR1-KICSTORの相互作用が低下した。C SAMTORは、GATOR1とKICSTORの両方を含む複合体として相互作用する。D SAMTORオルソログは脊椎動物と一部の無脊椎動物に認められるが、線虫・酵母には明確なオルソログは認められない。

2.3 GATOR1とKICSTORの両方がSAMTORとの相互作用に必要である

 SAMTORがGATOR1・KICSTORのいずれか一方に単独で結合するのか、それとも両者からなる複合体を認識するのかを調べるため、GATOR1、KICSTOR、GATOR2それぞれの構成因子を欠損させた細胞で相互作用を検証した。
 GATOR1またはKICSTORの構成因子を欠くと、SAMTORとの相互作用は大きく低下した。一方、GATOR2を欠いても相互作用は保たれた。この結果は、SAMTORがGATOR1単独ではなく、GATOR1-KICSTORスーパー複合体を認識して結合することを示している(Fig. 1B, C)。
 この解釈は補足実験でも支持された。GATOR1を過剰発現させても、KICSTORを同時に発現させた条件でのみSAMTORはGATOR1と共免疫沈降した。したがって、SAMTORの結合はGATOR1単独の構造ではなく、KICSTORを含む複合体としての配置に依存すると考えられる(Fig. S1)。

Fig. S1 KICSTORはGATOR1とSAMTORの相互作用に必要である

一過性発現系を用いた共免疫沈降により、過剰発現GATOR1はKICSTOR共発現条件下でのみSAMTORと共沈降した。HEK-293T細胞にGATOR1構成因子、KICSTOR構成因子、SAMTORを組み合わせて発現させ、FLAG免疫沈降により相互作用を検証した。KICSTORの存在が、GATOR1とSAMTORの相互作用成立に必要であることが示された。

2.4 SAMTORは脊椎動物と一部の無脊椎動物に保存されている

 SAMTORの生物学的位置づけを調べるため、各生物種におけるオルソログの有無を解析した。その結果、SAMTORはヒトを含む脊椎動物に広く保存され、無脊椎動物の一部であるショウジョウバエにも存在した。一方、線虫(Caenorhabditis elegans)や酵母(Saccharomyces cerevisiae)には明確なオルソログは認められなかった。
 この解析により、SAMTORは脊椎動物と一部の無脊椎動物に保存されたタンパク質であり、GATOR1-KICSTOR複合体と相互作用するmTORC1上流因子として位置づけられた(Fig. 1D)。

3.SAMTORの機能的位置づけ:Rag GTPアーゼ上流でmTORC1を抑制する

3.1 SAMTOR過剰発現はmTORC1下流シグナルを抑制する

 SAMTORがGATOR1-KICSTOR複合体と相互作用することから、SAMTORがmTORC1経路の制御因子として働く可能性を検討した。まず、HEK-293T細胞にSAMTORを過剰発現させ、mTORC1活性の指標であるS6K1 Thr389リン酸化を解析した。
 その結果、SAMTORの発現量が増えるにつれてS6K1 Thr389リン酸化は低下した。S6K1はmTORC1の代表的な下流標的であることから、この結果はSAMTORがmTORC1シグナルを抑制する因子であることを示している(Fig. 2A)。


Fig. 2 SAMTORはGATOR1-KICSTORを介してRag GTPアーゼ上流でmTORC1を抑制する 

SAMTORの機能的位置づけを調べるため、過剰発現、mTOR局在解析、Rag GTPアーゼ変異体、GATOR1/KICSTOR欠損細胞を用いてmTORC1シグナルへの影響を検証した。A SAMTOR過剰発現により、mTORC1下流標的であるS6K1 Thr389リン酸化が用量依存的に低下した。B GFP-SAMTORの発現により、mTORのリソソームマーカーLAMP2との共局在が低下した。C 野生型RagA/RagC条件ではSAMTORがS6K1リン酸化を抑制したが、活性型RagA/RagC変異体ではこの抑制作用が回避された。D GATOR1またはKICSTORを欠く細胞ではSAMTORによるmTORC1抑制が失われ、SAMTORの作用にはGATOR1-KICSTOR複合体が必要であることが示された。

3.2 SAMTORはmTORC1のリソソーム局在を低下させる

 アミノ酸によるmTORC1活性化には、mTORC1がリソソーム表面へ動員されることが重要である。そこで、GFPタグを付加したSAMTORを発現させ、免疫蛍光法によりmTORの細胞内局在を解析した。
 対照条件では、mTORはリソソームマーカーLAMP2と共局在する点状シグナルとして観察された。一方、GFP-SAMTORを発現させると、mTORのリソソーム局在は低下した。すなわちSAMTORは、mTORC1の下流リン酸化を抑えるだけでなく、mTORC1のリソソーム表面への動員にも影響する(Fig. 2B)。

3.3 活性型Rag GTPアーゼはSAMTORによる抑制を回避する

 次に、SAMTORがRag GTPアーゼ経路のどの位置で働くかを調べるため、Rag GTPアーゼ変異体を用いたエピスタシス解析を行った。野生型RagA/RagCを発現させた細胞では、SAMTOR過剰発現によりS6K1リン酸化が抑制された。
 一方、mTORC1をリソソームへ恒常的に動員する活性型RagA/RagC変異体を発現させると、SAMTORによる抑制は回避された。この結果は、SAMTORがRag GTPアーゼ自体の下流ではなく、Rag GTPアーゼを制御する上流側で作用することを示している(Fig. 2C)。

3.4 GATOR1またはKICSTORを欠く細胞ではSAMTORの抑制作用が失われる

 SAMTORがGATOR1-KICSTOR複合体と結合することから、この抑制作用にGATOR1またはKICSTORが必要かを検証した。GATOR1構成因子またはKICSTOR構成因子を欠損させた細胞にSAMTORを発現させ、S6K1リン酸化への影響を調べた。
 野生型細胞ではSAMTOR過剰発現によりS6K1リン酸化が低下したが、GATOR1またはKICSTORを欠く細胞ではこの抑制作用が失われた。一方、GATOR2欠損細胞では抑制作用が保たれた。これらの結果は、SAMTORによるmTORC1抑制がGATOR1およびKICSTORに依存していることを示している(Fig. 2D)。

3.5 SAMTORはGATOR1-KICSTORを介してRag GTPアーゼ上流で働く

 以上の結果から、SAMTORはGATOR1-KICSTOR複合体と相互作用するだけでなく、mTORC1シグナルを機能的に抑制する因子であることが示された。SAMTOR過剰発現はS6K1リン酸化を低下させ、mTORのリソソーム局在を減少させる。さらに、活性型Rag GTPアーゼによって抑制作用が回避されること、GATOR1またはKICSTOR欠損細胞ではSAMTORが作用できないことから、SAMTORはGATOR1-KICSTORを介してRag GTPアーゼ上流でmTORC1を抑制する因子であると結論づけられる。

4.SAMTORはSAMに直接結合する:メチオニン代謝物を読むセンサーとしての証明

4.1 SAMTORはRossmann fold型メチルトランスフェラーゼ様領域をもつ

 SAMTORがどのような分子を感知しうるかを調べるため、まず配列解析を行った。その結果、SAMTORはClass I Rossmann fold型メチルトランスフェラーゼ様領域をもつタンパク質と予測された。この領域は、SAMを補因子として利用するメチルトランスフェラーゼに広く見られる構造である。
 ただし、SAMTORが実際にメチル基転移酵素として働くことは示されていない。ここで重要なのは、SAMTORがSAM結合タンパク質である可能性が生じた点である。そこで次に、SAMTORがSAMを直接結合するかどうかを検証した。

4.2 [³H]SAM結合アッセイによりSAMTORのSAM直接結合を示す

 SAMTORがSAMに直接結合するかを調べるため、精製SAMTORタンパク質と放射標識[³H]SAMを用いた結合アッセイを行った。精製SAMTORに[³H]SAMを反応させ、結合したSAM量を測定することで、両者の直接的な相互作用を評価した。
 その結果、SAMTORは[³H]SAMと結合し、非標識SAMを加えるとこの結合は競合的に低下した。これは、SAMTORがSAMを特異的に結合することを示している。結合解析から、SAMTORのSAMに対する解離定数は約7 µMと算出された。この値は、後に細胞内SAM濃度の変動と結びつけられ、SAMTORが生理的なSAM濃度変化を感知しうる根拠となる(Fig. 3A, B)。


Fig. 3 SAMTORはSAMに直接結合し、SAMTOR-GATOR1-KICSTOR相互作用を制御する
 

SAMTORがSAMを感知するかを検証するため、精製SAMTORを用いた[³H]SAM結合アッセイ、競合結合、in vitro複合体解離アッセイ、SAM結合不能変異体解析を行った。A, B 精製SAMTORは[³H]SAMに直接結合し、非標識SAMとの競合により、SAMに対する解離定数は約7 µMと算出された。C SAMおよびSAHはSAMTORとGATOR1-KICSTORの相互作用をin vitroで低下させたが、メチオニン、ホモシステイン、アデノシン、5-メチルチオアデノシン、ロイシン、イソロイシンは同様の効果を示さなかった。D G172AおよびD190A変異体はSAM結合能を失った。E, F SAM結合不能変異体はGATOR1-KICSTORとの結合が強く、SAMによる解離が低下した。G SAM結合不能変異体もmTORC1下流シグナルを抑制したことから、SAM結合はSAMTORの抑制活性そのものではなく、SAMによる抑制解除に必要であることが示された。

4.3 SAMとSAHはSAMTOR-GATOR1-KICSTOR相互作用をin vitroで解離させる

 次に、SAM結合がSAMTORとGATOR1-KICSTOR複合体の相互作用に影響するかを調べた。GATOR1-KICSTORと結合したSAMTORにSAMまたは関連代謝物を加え、複合体の結合状態の変化を解析した。
 SAMを加えると、SAMTORとGATOR1-KICSTORの相互作用は低下した。SAMのメチル基供与後に生じる代謝物であるSAHも、同様に相互作用を解離させた。一方、メチオニン、ホモシステイン、アデノシン、5-メチルチオアデノシン、ロイシン、イソロイシンは同様の効果を示さなかった。したがって、SAMTORはメチオニンそのものではなく、SAMおよびそれに構造の近いSAHを認識し、その結合状態に応じてGATOR1-KICSTORとの相互作用を変化させることが示された(Fig. 3C)。

4.4 G172AおよびD190A変異体はSAM結合能を失う

 SAMTORのSAM結合に必要な残基を調べるため、配列解析と構造予測に基づいて保存残基を選定し、変異体解析を行った。SAMTORホモログの配列アラインメント、および既知メチルトランスフェラーゼとの比較から、G172とD190がSAM結合に関わる候補残基として注目された(Fig. S2A, B)。
 そこで、G172をアラニンに置換したG172A変異体、およびD190をアラニンに置換したD190A変異体を作製し、SAM結合能を解析した。その結果、いずれの変異体も[³H]SAMとの結合を失った。これにより、G172およびD190がSAMTORのSAM結合に必要な残基であることが示された(Fig. 3D)。


Fig. S2 SAMTORの保存残基G172およびD190はSAM結合に関わる
 

SAMTORホモログの配列アラインメントと、既知メチルトランスフェラーゼとの比較により、G172およびD190が保存された候補残基として示された。A 複数生物種のSAMTORホモログにおいて、G172とD190に対応する残基が保存されていた。B ヒトSAMTORと既知メチルトランスフェラーゼの配列比較により、G172およびD190がSAM結合に関わる候補残基として位置づけられた。

4.5 SAM結合不能変異体はGATOR1-KICSTORとの結合解除に応答できない

 SAM結合がSAMTOR-GATOR1-KICSTOR相互作用の制御に必要かを検証するため、SAM結合不能変異体を用いた解析を行った。野生型SAMTORではSAMの添加によりGATOR1-KICSTORとの相互作用が低下したが、G172A変異体やD190A変異体ではSAMを加えてもこの相互作用は十分に解離しなかった。
 さらに、これらの変異体は野生型SAMTORよりもGATOR1-KICSTORと強く共沈降した。この結果は、SAM結合がSAMTORをGATOR1-KICSTOR複合体から解離させる方向に働くことを示しており、SAMを結合できないSAMTORはGATOR1-KICSTORに結合した抑制状態にとどまりやすいと考えられる(Fig. 3E, F)。

4.6 SAM結合はSAMTORの抑制活性そのものではなく、SAMによる解除に必要である

 最後に、SAM結合不能変異体がmTORC1抑制能をもつかを調べた。SAMTORのG172A変異体およびD190A変異体を細胞に発現させると、S6K1 Thr389リン酸化は低下した。すなわち、これらの変異体はmTORC1を抑制する能力を失っていない。
 この結果は、SAM結合がSAMTORの抑制活性そのものに必要なのではなく、SAMによってその抑制状態を解除するために必要であることを示している。すなわち、SAMが少ない状態ではSAMTORがGATOR1-KICSTORと結合してmTORC1を抑制し、SAMが十分に存在するとSAMTORにSAMが結合してGATOR1-KICSTORから解離し、mTORC1抑制が解除される、という制御モデルが導かれる(Fig. 3G)。

5.メチオニン飢餓はSAM低下を介してSAMTOR-GATOR1-KICSTOR結合を強める

5.1 メチオニン飢餓により細胞内SAM濃度はSAMTORのKd以下へ低下する

 前章では、SAMTORがSAMに直接結合し、SAMによってGATOR1-KICSTORとの相互作用が低下することを示した。次に、細胞内でメチオニン濃度の変化がSAM濃度に反映されるかを検証した。HEK-293T細胞をメチオニン飢餓条件に置き、液体クロマトグラフィー質量分析により細胞内SAMおよびSAH濃度を測定した。
 その結果、メチオニンを除去すると細胞内SAM濃度は大きく低下した。通常条件ではSAM濃度がSAMTORのSAM結合解離定数(約7 µM)を上回っていたが、メチオニン飢餓下ではこの値を下回る水準まで低下した。したがって、SAMTORはメチオニンの有無に応じて変動する細胞内SAM濃度を感知しうる親和性をもつことが示された(Fig. 4A)。

5.2 SAH濃度はSAMTOR制御の主要な生理的入力とは考えにくい

 SAMTORはin vitroではSAMだけでなくSAHにも結合し、SAMTOR-GATOR1-KICSTOR相互作用を低下させる。そこで、細胞内SAH濃度も同時に測定した。
 その結果、SAH濃度はSAMTORに作用しうる濃度よりも低い範囲にとどまった。したがって、SAHはin vitroではSAMTORに結合しうるものの、メチオニン飢餓に対する細胞内応答における主な入力は、SAHではなくSAM濃度の変化であると考えられる(Fig. 4A)。


Fig. 4 メチオニン飢餓はSAMTORを介してmTORC1を抑制する
 

細胞内のメチオニン状態が、SAM濃度・SAMTOR-GATOR1-KICSTOR相互作用・mTORC1活性へどのように反映されるかを検証した。 A LC/MS解析により、メチオニン飢餓下では細胞内SAM濃度がSAMTORのSAM結合解離定数(約7 µM)を下回る水準まで低下することを示した。一方、SAH濃度はSAMTOR制御の主要な入力となるには低い範囲にとどまった。 B メチオニン飢餓によりSAMTORとGATOR1-KICSTORの相互作用は増加し、メチオニンまたはSAMの再添加によりこの相互作用は低下した。 C SAMTORを欠く細胞では、メチオニン飢餓によるmTORC1下流シグナルの抑制が弱まった。 D メチオニン飢餓は、SAMTOR依存的にmTORのリソソーム局在を低下させた。 E SAMTOR欠損細胞に野生型SAMTORを再発現させると、メチオニン飢餓に対するmTORC1応答が回復した。 F SAM結合不能SAMTOR変異体では、メチオニン飢餓後のメチオニン再刺激に対するmTORC1応答が回復しなかった。 G ショウジョウバエS2R+細胞でも、dSamtorのノックダウンによりメチオニン飢餓に対するdTOR応答が弱まった。 H SAM添加およびMAT2A抑制実験から、mTORC1がメチオニンそのものではなく、メチオニンから生成されるSAMを介して制御されることが示された。 I SAMTORがSAM濃度を感知し、GATOR1-KICSTORおよびRag GTPアーゼ系を介してmTORC1活性を制御するという制御モデルを示した。

5.3 メチオニン飢餓はSAMTORとGATOR1-KICSTORの結合を強める

 次に、細胞内SAM濃度の低下がSAMTORとGATOR1-KICSTORの相互作用に反映されるかを検証した。メチオニン飢餓条件下で細胞を処理し、共免疫沈降によりSAMTORとGATOR1-KICSTORの結合状態を解析した。
 メチオニン飢餓により、SAMTORとGATOR1-KICSTORの相互作用は増加した。これは、SAM濃度が低下するとSAMTORがGATOR1-KICSTORに結合しやすくなるという、4章で示されたin vitroの性質と一致する。したがって、メチオニン不足は、SAM低下を介してSAMTORをGATOR1-KICSTOR結合状態へ移行させると考えられる(Fig. 4B)。

5.4 メチオニンまたはSAMの再添加によりSAMTOR-GATOR1-KICSTOR結合は低下する

 メチオニン飢餓で強まったSAMTOR-GATOR1-KICSTOR相互作用が、メチオニンまたはSAMの再供給によって可逆的に変化するかを調べた。メチオニン飢餓後にメチオニンまたはSAMを再添加し、SAMTORとGATOR1-KICSTORの共沈降を解析した。
 その結果、メチオニンを再添加するとSAMTORとGATOR1-KICSTORの相互作用は低下した。SAMを直接添加した場合にも同様の低下がみられた。この結果は、メチオニン充足状態がSAM濃度を介してSAMTORへ伝わり、SAMTORをGATOR1-KICSTORから解離させることを示している(Fig. 4B)。

5.5 SAMTORはGATOR1-GATOR2相互作用の制御にも関与する

 GATOR1はmTORC1抑制側に働き、GATOR2はその上流でmTORC1活性化側に関わる。そこで、メチオニン飢餓とSAMTORがGATOR1-GATOR2相互作用に影響するかを調べた。
 メチオニン飢餓ではSAMTORとGATOR1-KICSTORの相互作用が増加する一方、GATOR1とGATOR2の相互作用は低下した。メチオニンを再添加すると、この変化は回復した。また、SAMTORを欠く条件では、メチオニン飢餓によるGATOR1-GATOR2相互作用の変化が弱まった。さらに、SAMTORを過剰発現させると、GATOR1-GATOR2相互作用は低下した。これらの結果は、SAMTORがGATOR1-KICSTORに結合することで、GATOR1とGATOR2の相互作用状態にも影響することを示している(Fig. S3A-D)。

Fig. S3 SAMTORはメチオニン飢餓に伴うGATOR1-GATOR2相互作用の変化に関与する 

メチオニン飢餓時のGATOR1、GATOR2、SAMTORの相互作用変化を共免疫沈降により解析した。A メチオニン飢餓によりSAMTORとGATOR1の相互作用は増加し、GATOR1とGATOR2の相互作用は低下した。メチオニン再添加によりこれらの変化は回復した。 B SAMTORを欠く細胞では、メチオニン飢餓によるGATOR1-GATOR2相互作用の変化が弱まった。 C, D SAMTOR過剰発現により、GATOR1-GATOR2相互作用は低下した。

5.6 SAMTORは細胞内SAM濃度の低下をGATOR1-KICSTOR結合へ変換する

 以上の結果から、メチオニン飢餓は細胞内SAM濃度を低下させ、その濃度低下がSAMTORとGATOR1-KICSTORの結合を強めることが示された。SAMTORはSAM濃度が高い状態ではGATOR1-KICSTORから解離しやすく、SAM濃度が低下するとGATOR1-KICSTORに結合しやすくなる。
 したがって、SAMTORは単なるSAM結合タンパク質ではなく、細胞内メチオニン状態をSAM濃度として読み取り、それをGATOR1-KICSTOR複合体の結合状態へ変換する因子である。この結合変化が、次章で扱うメチオニン飢餓時のmTORC1抑制へとつながる。

6.SAMTORはメチオニン飢餓によるmTORC1抑制に必要である

6.1 SAMTOR欠損細胞ではメチオニン飢餓によるmTORC1抑制が弱まる

  メチオニン飢餓でSAMTORとGATOR1-KICSTORの結合が増加することから、次に、この変化がmTORC1活性の低下に必要かを検証した。SAMTORを欠損させたHEK-293T細胞を作製し、メチオニン飢餓時のmTORC1下流シグナルを解析した。
 野生型細胞では、メチオニン飢餓によりS6K1 Thr389リン酸化および4E-BP1 Ser65リン酸化が低下した。一方、SAMTOR欠損細胞ではこれらのリン酸化低下が弱まった。したがって、SAMTORはメチオニン飢餓時にmTORC1下流シグナルを抑制するために必要である(Fig. 4C)。
 なお、SAMTOR欠損では、ロイシン飢餓、アルギニン飢餓、成長因子除去に対するmTORC1応答に明らかな低下は認められなかった。したがって、SAMTORはmTORC1制御全般に必須な因子ではなく、メチオニン/SAM入力に選択的に関わる因子である。

6.2 SAMTORはメチオニン飢餓時のmTORリソソーム局在低下に必要である

 mTORC1の活性化には、リソソーム表面への動員が必要である。そこで、SAMTOR欠損がメチオニン飢餓時のmTOR局在変化に影響するかを免疫蛍光法で調べた。
 野生型細胞では、メチオニン飢餓によりmTORとリソソームマーカーLAMP2の共局在が低下した。一方、SAMTOR欠損細胞ではこの低下が弱まった。これにより、SAMTORはメチオニン不足をmTORC1のリソソーム動員低下へ結びつける因子であることが示された(Fig. 4D)。

6.3 野生型SAMTORの再発現はメチオニン飢餓応答を回復させる

 SAMTOR欠損による表現型がSAMTORの喪失そのものに由来することを確認するため、SAMTOR欠損細胞に野生型SAMTORを再発現させ、メチオニン飢餓に対するmTORC1応答が回復するかを検証した。
 SAMTOR欠損細胞ではメチオニン飢餓によるmTORC1下流シグナルの抑制が弱かったが、野生型SAMTORを再発現させるとこの応答は回復した。したがって、メチオニン飢餓時のmTORC1抑制にはSAMTORが必要であり、欠損細胞でみられた応答低下はSAMTOR喪失によるものであるといえる(Fig. 4E)。

6.4 SAM結合不能SAMTOR変異体ではメチオニン応答を回復できない

 次に、SAMTORのSAM結合能が細胞内メチオニン応答に必要かを調べた。SAMTOR欠損細胞に野生型SAMTORまたはSAM結合不能変異体を再発現させ、メチオニン飢餓後の再刺激に対するmTORC1応答を解析した。
 野生型SAMTORを再発現させると、メチオニン飢餓および再刺激に対するmTORC1応答は回復した。一方、G172AまたはD190A変異体ではこの応答は十分に回復しなかった。これにより、SAMTORがメチオニン充足状態をmTORC1へ伝えるにはSAM結合能が必要であることが示された(Fig. 4F)。

6.5 ショウジョウバエ細胞でもdSamtorはメチオニン飢餓応答に必要である

 SAMTORの機能が哺乳類細胞に限られるかを調べるため、SAMTORオルソログをもつショウジョウバエS2R+細胞を用いた。dSamtorをRNAiでノックダウンし、メチオニン飢餓時のdTORシグナルを解析した。
 対照細胞では、メチオニン飢餓によりdS6Kリン酸化が低下した。一方、dSamtorをノックダウンするとこの低下が弱まった。比較として、ロイシン飢餓応答にはdSesnが必要であった。これにより、ショウジョウバエ細胞でもSamtorがメチオニン飢餓に対するTOR抑制に必要であることが示された(Fig. 4G)。

6.6 mTORC1はメチオニンそのものではなくSAMを介して制御される

 メチオニンは細胞内でMAT2AによりSAMへ変換される。そこで、mTORC1がメチオニンそのものを感知するのか、それともSAMを介して制御されるのかを切り分けるため、MAT2A発現をドキシサイクリン制御系で抑制した。
 MAT2Aを低下させると、メチオニンからSAMを作る能力が低下する。この条件ではメチオニン再添加によるmTORC1活性化は大きく弱まったが、SAMを添加した場合はmTORC1シグナルが比較的保たれた。したがって、mTORC1はメチオニン分子そのものではなく、メチオニンから生成されるSAMを介して制御されることが示された(Fig. 4H)。

6.7 SAMTORはメチオニン/SAM状態をmTORC1へ伝える分子装置である

 以上の結果から、SAMTORはメチオニン飢餓によるmTORC1抑制に必要な因子であることが示された。メチオニン不足により細胞内SAM濃度が低下すると、SAMTORはGATOR1-KICSTORと結合し、Rag GTPアーゼ系を介してmTORC1のリソソーム局在と下流シグナルを抑制する。一方、メチオニンが十分に存在しSAM濃度が保たれると、SAMがSAMTORに結合してGATOR1-KICSTORから解離し、mTORC1抑制は解除される。
 したがって、SAMTORはメチオニンそのものではなく、その代謝物であるSAMを感知するセンサーである。SAMTORは、メチオニン代謝・一炭素代謝・GATOR1-KICSTOR・Rag GTPアーゼ系を結び、メチオニンの充足状態をmTORC1活性へ変換する分子装置として位置づけられる(Fig. 4I)。



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