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〜 おへその乱読1000本ノック #0094 ~  FGF21は低タンパク質食による寿命延長と代謝改善に必須である

 ようこそ、第94回 おへその乱読1000本ノックへ。今回は、Hill et al.(2022)による、タンパク質制限の寿命延長効果と代謝改善にFGF21が必要であることを示した研究を取り上げます。
 前回は、ラパマイシンによるmTOR阻害が、寿命延長効果と代謝副作用をあわせ持つことを確認しました。栄養や成長因子の情報を受け取るmTOR経路は、老化制御の中心に位置する一方で、その操作は必ずしも単純ではありません。
 今回の論文では、視点をmTORなどの細胞内栄養感知経路から、肝臓由来ホルモンFGF21へ移します。タンパク質制限は、摂取エネルギーを減らさずに代謝健康を改善し、寿命を延ばす食餌介入として注目されてきました。しかし、その効果がどのような全身性シグナルによって実行されるのかは十分に明らかではありませんでした。
 本論文は、低タンパク質食による寿命延長、脂肪量低下、糖代謝改善、身体機能維持が、FGF21を欠くマウスでは成立しないことを示します。今回は、タンパク質制限の抗老化効果を、単なる栄養不足ではなく、FGF21を介した内分泌応答として読み解いていきます。

要旨
 本論文では、低タンパク質食による寿命延長と代謝改善に、肝臓由来ホルモン 線維芽細胞増殖因子21(fibroblast growth factor 21:FGF21)が必要であるかが検討された。野生型マウスとFgf21欠損マウスに、3か月齢から対照食または低タンパク質食を自由摂取させ、寿命、体重、体組成、糖代謝、身体機能、フレイル指標を比較した。
 その結果、野生型マウスでは低タンパク質食により寿命が延長し、体重増加と脂肪蓄積が抑制され、摂食量とエネルギー消費量が増加した。また、耐糖能、インスリン感受性、身体機能、フレイル指標にも有益な変化が認められた。一方、Fgf21欠損マウスではこれらの応答は成立せず、低タンパク質食によってむしろ寿命短縮、早期の体重減少、身体機能低下、フレイル増加が生じた。
 さらに、中年期からの低タンパク質介入は、野生型マウスにおいて、高脂肪食背景でも肥満と糖代謝異常を改善した。以上より、FGF21はタンパク質制限による寿命延長、代謝改善、抗フレイル効果に必須の内分泌因子であることが示された。

1.タンパク質制限とFGF21を結ぶ研究背景

 カロリー制限、間欠的断食、断食模倣、食餌制限などの食餌介入は、健康状態や寿命を改善する方法として検討されてきた。疫学研究では、食餌中のタンパク質量の低下が代謝改善やレジリエンスと関連し、高タンパク質摂取は死亡リスクの上昇と関連することが報告されている。
 タンパク質制限は、エネルギー制限を伴わずに食餌中のタンパク質量を低下させる介入であり、げっ歯類、ショウジョウバエ、酵母などで寿命延長や健康指標の改善をもたらす。さらに、メチオニン、スレオニン、トリプトファン、分岐鎖アミノ酸など、特定のアミノ酸制限も複数の生物種で寿命を延長する。これらの知見は、タンパク質またはアミノ酸制限が、代謝健康を改善し寿命を延長する独自の機構を作動させる可能性を示している。
 タンパク質制限やアミノ酸制限の作用機構として、これまでmTOR、GCN2、AMPK、オートファジーなどの細胞内栄養感知経路が注目されてきた。一方で、タンパク質制限に対する内分泌性の実行シグナルが存在する可能性も考えられてきた。この視点から、肝臓由来ホルモンFGF21がタンパク質制限によって強く誘導され、Fgf21欠損が若齢マウスにおけるタンパク質制限への代謝適応を阻害することが示されてきた。
 FGF21は主に肝臓で産生され、FGF受容体と共受容体β-Klothoを介して作用する。FGF21はエネルギー消費を増加させ、糖代謝を改善し、熱産生関連マーカーUCP1を上昇させる。また、血液脳関門を通過し、その生理作用の一部は脳を介して発揮される可能性がある。最近の研究では、脳におけるFGF21/β-Klothoシグナルが、タンパク質制限によるエネルギー消費増加、糖恒常性改善、食餌誘導性肥満への保護作用に必要であることが示されている。
 そこで本研究では、若齢マウスでのタンパク質制限応答にFGF21が重要であること、またFGF21過剰発現が寿命延長とインスリン感受性改善をもたらすことを踏まえ、長期のタンパク質制限による有益な効果もFGF21によって媒介されるかを検証する。

2.研究デザイン:低タンパク質食とFgf21欠損で何を検証したか

 本研究では、タンパク質制限による寿命延長と代謝改善にFGF21が必要であるかを検証するため、雄の野生型マウスとFgf21欠損マウスを用いた。寿命試験では、3か月齢から対照食または低タンパク質食を自由摂取させ、自然死まで追跡した。対照食は20% casein、低タンパク質食は5% caseinを含む食餌であり、通常脂肪食ではタンパク質由来エネルギー比が18%または4%となるよう設計された(Fig. 1A, Table S1)。


Fig. 1 低タンパク質食とFGF21欠損を組み合わせた寿命・加齢表現型の評価
 

A 野生型マウスとFgf21欠損マウスを3か月齢から対照食または低タンパク質食に割り付け、自然死まで追跡した寿命試験の設計を示す。B 野生型マウスでは、低タンパク質食により生存曲線が右方へ移動し、寿命延長が認められた。C Fgf21欠損マウスでは、低タンパク質食により寿命が短縮した。D, E 各群の体重および体重増加量の推移を示す。野生型では低タンパク質食により体重増加が抑制され、Fgf21欠損マウスでは加齢期の体重減少が早期に生じた。F 各月齢における体重増加量を比較し、低タンパク質食に対する体重応答が遺伝子型によって異なることを示す。G 脱毛、被毛状態、腹部膨満、脊柱後弯、身体スコアからなるフレイル構成要素を評価した。H これらの項目を平均したFrailty Indexでは、低タンパク質食が野生型ではフレイルを低下させる一方、Fgf21欠損マウスでは低下させなかった。

 寿命試験とは別に、同じ食餌条件で3か月齢から22か月齢まで飼育する代謝評価コホートを設定した。このコホートでは、体重、体組成、摂食量、エネルギー消費、身体機能、糖代謝を経時的に評価し、22か月齢で血清、肝臓、脂肪組織などを回収した。これにより、寿命への影響だけでなく、低タンパク質食に対する代謝適応と加齢期の身体機能変化を、FGF21の有無と関連づけて解析した(Fig. 2A)。


Fig. 2 加齢期における低タンパク質食への代謝適応

A 野生型マウスとFgf21欠損マウスに、3か月齢から22か月齢まで対照食または低タンパク質食を与え、代謝・身体機能を経時的に評価した実験設計を示す。B, C 低タンパク質食は野生型マウスの体重増加を抑制したが、この効果はFgf21欠損マウスでは認められなかった。D, E 22か月齢での脂肪量および除脂肪量の増加量を示す。F 体脂肪率は野生型マウスの低タンパク質食群で低下した。G 摂食量は野生型マウスの低タンパク質食群で増加したが、Fgf21欠損マウスでは増加しなかった。H, I 12か月齢および20か月齢でのエネルギー消費量は、野生型マウスの低タンパク質食群で増加したが、Fgf21欠損マウスでは増加しなかった。

 さらに、中年期からの低タンパク質介入が代謝悪化を抑えるかを検証するため、12か月齢の野生型雄マウスに、通常脂肪食または高脂肪食を背景として、対照タンパク質食または低タンパク質食を4か月間与えた。高脂肪食背景では、HF-20%CとHF-5%Cを比較し、脂質由来エネルギー比を59%に保った条件でタンパク質量の違いを評価した(Fig. 7A, Table S1)。


Fig. 7 中年期からの低タンパク質介入による高脂肪食誘導性代謝悪化の抑制

A 12か月齢の雄マウスを、通常脂肪対照食、通常脂肪低タンパク質食、高脂肪対照食、高脂肪低タンパク質食に割り付け、16か月齢まで4か月間介入した実験設計を示す。B, C 高脂肪食は体重増加を促進したが、通常脂肪食および高脂肪食のいずれの背景でも、低タンパク質化により体重増加が抑制された。D, E 高脂肪食は脂肪量および除脂肪量の増加を促進し、低タンパク質化はこれらの増加を抑制した。F 低タンパク質化により体脂肪率が低下し、高脂肪低タンパク質食では高脂肪食背景でも体脂肪率の上昇が抑えられた。G 摂食量は低タンパク質食および高脂肪低タンパク質食で増加した。H, I 高脂肪食により悪化した耐糖能は、低タンパク質化によって改善した。J, K 空腹時血糖および血清インスリンも、低タンパク質化により低下した。

 以上のように、本研究は、長期寿命試験、加齢期の代謝・身体機能評価、中年期高脂肪食背景での介入試験を組み合わせ、低タンパク質食の有益性がFGF21依存的に成立するかを多面的に検証する構成である。

3.FGF21は低タンパク質食による寿命延長に必要である

3.1 低タンパク質食は野生型で寿命を延ばし、Fgf21欠損で寿命を縮める

 低タンパク質食が寿命を延長するか、そしてその効果にFGF21が必要であるかを検証するため、野生型マウスとFgf21欠損マウスに対照食または低タンパク質食を与え、自然死まで追跡した。野生型マウスでは、低タンパク質食により生存曲線が右方へ移動し、寿命が延長した。一方、Fgf21欠損マウスでは、同じ低タンパク質食によって寿命が短縮した(Fig. 1B, C)。
 この結果は、低タンパク質食の寿命延長効果がFGF21に依存することを示している。さらに、FGF21を欠く状態では、低タンパク質食の効果は単に消失するだけでなく、有害な方向へ転じた。リスク解析でも、低タンパク質食は野生型マウスでは死亡リスクを低下させたが、Fgf21欠損マウスでは死亡リスクを上昇させる方向を示した。

3.2 寿命効果は加齢に伴う体重変化にも反映される

 寿命への影響は、加齢に伴う体重変化とも対応していた。野生型対照群では、体重は約21か月齢まで増加し、その後に加齢性の体重減少へ移行した。野生型低タンパク質食群では、若齢から中年期にかけて体重増加が抑えられ、晩年の体重減少はやや遅く、程度も軽かった(Fig. 1D–F)。
 一方、Fgf21欠損マウスでは、低タンパク質食に対する初期の体重応答が乏しかった。しかし加齢期に入ると、Fgf21欠損低タンパク質食群では体重減少が早期に始まり、最終的には野生型低タンパク質食群よりも低い体重へ移行した。したがって、FGF21を欠く状態では、低タンパク質食に対する適応的な体重制御が成立せず、加齢期の体重減少が前倒しされた。

3.3 FGF21は低タンパク質食によるフレイル低下にも関与する

 加齢に伴う身体状態を評価するため、脱毛、被毛状態、腹部膨満、脊柱後弯、身体スコアを用いたフレイル指標が解析された。低タンパク質食は、野生型マウスではフレイル構成要素を低下させる方向に働いた。一方、Fgf21欠損マウスでは低タンパク質食によるフレイル低下は認められず、一部の老化徴候は悪化した(Fig. 1G)。
 これらの項目を平均したFrailty Indexでも、低タンパク質食の効果は遺伝子型によって異なった。野生型では低タンパク質食によりフレイルが低下する方向を示したが、Fgf21欠損マウスではその効果は成立しなかった(Fig. 1H)。

3.4 低タンパク質食の抗老化効果はFGF21依存的に成立する

 以上より、低タンパク質食は、FGF21が存在する場合には寿命延長、体重増加の抑制、フレイル低下を伴う抗老化介入として働く。一方、FGF21を欠く状態では、低タンパク質食への適応が成立せず、早期の体重減少、フレイル増加、寿命短縮へ向かう。したがって、FGF21は低タンパク質食の有益性を成立させるための必須因子である。

4.FGF21は低タンパク質食への代謝適応を支える

4.1 低タンパク質食は野生型マウスの体重増加を抑える

 寿命試験で認められた体重変化を詳しく評価するため、別コホートの野生型マウスとFgf21欠損マウスに、3か月齢から22か月齢まで対照食または低タンパク質食を与えた。野生型マウスでは、低タンパク質食により体重増加が持続的に抑えられた。一方、Fgf21欠損マウスではこの効果は認められず、低タンパク質食に対する体重応答はFGF21に依存していた(Fig. 2B, C)。

4.2 体脂肪の低下にもFGF21が必要である

 体組成解析では、野生型マウスにおいて低タンパク質食が脂肪量と除脂肪量の増加を抑制した。ただし、脂肪量の低下がより大きかったため、体脂肪率も低下した。一方、Fgf21欠損マウスでは、低タンパク質食による脂肪量、除脂肪量、体脂肪率の変化は認められなかった(Fig. 2D–F)。
 したがって、低タンパク質食は単に体重増加を抑えるだけでなく、野生型マウスでは脂肪蓄積をより強く抑制する。この体組成の変化も、FGF21を欠く状態では成立しない。

4.3 摂食量増加とエネルギー消費増加はFGF21依存的に起こる

 低タンパク質食を与えた野生型マウスでは、摂食量が持続的に増加した。これは、低タンパク質条件下で食餌摂取を増やす適応応答と考えられる。しかし、Fgf21欠損マウスではこの摂食量増加は認められなかった(Fig. 2G)。
 さらに、体重で補正したエネルギー消費量は、12か月齢および20か月齢のいずれにおいても、野生型低タンパク質食群で増加した。一方、Fgf21欠損マウスでは、低タンパク質食によるエネルギー消費増加は認められなかった(Fig. 2H, I)。

4.4 FGF21は低タンパク質食への全身性適応を成立させる

 以上より、低タンパク質食は、野生型マウスでは体重増加と脂肪蓄積を抑え、摂食量とエネルギー消費を増加させた。これらの応答はFgf21欠損マウスでは失われた。したがって、FGF21は低タンパク質食に対して、体重、体組成、摂食、エネルギー消費を協調的に変化させる代謝適応に必要である。

5.低タンパク質食はFGF21依存的に身体機能を維持する

5.1 低タンパク質食は野生型マウスの運動協調性を改善する

 低タンパク質食が加齢期の身体機能に及ぼす影響を評価するため、21か月齢のマウスでRotarod試験を行った。野生型マウスでは、低タンパク質食により回転棒から落下するまでの時間が延長し、運動協調性または身体パフォーマンスが改善した。一方、Fgf21欠損マウスではこの効果は認められず、低タンパク質食による機能改善はFGF21に依存していた(Fig. 3A)。

5.2 握力への影響は体重補正後に明確になる

 前肢握力では、低タンパク質食による効果は遺伝子型によって異なった。野生型マウスでは、生の握力値は大きく変化しなかったが、体重で補正した握力は低タンパク質食により増加した。一方、Fgf21欠損マウスでは、低タンパク質食により生の握力値および体重補正後の握力が低下した(Fig. 3B, C)。
 この結果は、低タンパク質食が野生型マウスでは体重低下を伴いながらも相対的な身体機能を維持または改善する一方、Fgf21欠損マウスでは身体機能の低下を伴うことを示している。

5.3 活動量には明確な変化は認められない

 20か月齢で代謝ケージ内の活動量を評価したところ、歩行活動量および運動量には、遺伝子型または食餌による明確な差は認められなかった(Fig. 3D, E)。したがって、低タンパク質食によるRotarodや握力の変化は、単純な自発活動量の増減として説明されるものではない。

5.4 FGF21は低タンパク質食による機能維持に必要である

 以上より、低タンパク質食は野生型マウスにおいて運動協調性を改善し、体重補正後の握力を高めた。一方、Fgf21欠損マウスではこれらの有益な反応は失われ、握力低下が認められた。低タンパク質食は、FGF21が存在する場合には加齢期の身体機能維持に結びつくが、FGF21を欠く状態では同じ介入が機能低下を伴う。


Fig. 3 低タンパク質食による加齢期身体機能の変化

A 21か月齢でRotarod試験を行い、回転棒から落下するまでの時間を測定した。低タンパク質食は野生型マウスで落下までの時間を延長したが、Fgf21欠損マウスではこの効果は認められなかった。B 21か月齢で前肢握力を測定した。低タンパク質食は野生型マウスの生の握力値には明確な増加を示さなかったが、Fgf21欠損マウスでは握力を低下させた。C 体重で補正した握力では、野生型マウスで低タンパク質食による増加が認められた一方、Fgf21欠損マウスでは低下した。D, E 20か月齢で代謝ケージ内の歩行活動量および運動量を評価したが、食餌または遺伝子型による明確な差は認められなかった。

6.FGF21は低タンパク質食による糖代謝改善に必要である

6.1 低タンパク質食は野生型マウスの耐糖能を改善する

 低タンパク質食が加齢期の糖代謝に及ぼす影響を調べるため、10か月齢および18か月齢で糖負荷試験を行った。野生型マウスでは、低タンパク質食により糖負荷後の血糖上昇が抑えられ、耐糖能が改善した。一方、Fgf21欠損マウスでは、低タンパク質食による耐糖能改善は認められなかった(Fig. 4A, B, E, F)。
 この結果は、低タンパク質食による糖処理能力の改善にFGF21が必要であることを示している。少なくとも耐糖能については、低タンパク質食そのものではなく、FGF21を介した適応応答が有益な効果を成立させている。

6.2 インスリン感受性改善はFGF21欠損下でも一部残る

 インスリン負荷試験では、低タンパク質食によりインスリン感受性が改善した。この効果は野生型マウスで明確であったが、Fgf21欠損マウスでも一部認められた。ただし、Fgf21欠損下では低タンパク質食の効果は弱まり、野生型と同程度には成立しなかった(Fig. 4C, D, G, H)。
 したがって、糖代謝改善のすべてが完全にFGF21依存的であるとはいえない。耐糖能改善はFGF21欠損で失われる一方、インスリン感受性の改善にはFGF21非依存的な要素も残る。

6.3 空腹時血糖と血清インスリンも低下する

 18か月齢で測定した空腹時血糖は、低タンパク質食により低下する方向を示した。22か月齢での血清インスリン濃度も、野生型マウスでは低タンパク質食によって有意に低下した。一方、Fgf21欠損マウスでは、この血清インスリン低下は弱まった(Fig. 4I, J)。
 これらの結果は、低タンパク質食が加齢期の糖恒常性を改善し、インスリン需要を低下させることを示している。ただし、その効果はFGF21欠損下では減弱する。

6.4 膵島関連指標は食餌と遺伝子型の影響を受ける

 22か月齢で膵臓組織を解析すると、インスリン陽性面積には食餌と遺伝子型の主効果が認められた。低タンパク質食はインスリン陽性面積を低下させる傾向を示し、Fgf21欠損はこれを増加させる方向に働いた。一方、膵島分画には食餌の明確な効果は認められず、Fgf21欠損マウスで高い値を示した(Fig. 4K, L)。
 したがって、低タンパク質食とFGF21欠損は膵島関連指標にも影響を及ぼすが、ここでの主な結論は、低タンパク質食による糖恒常性改善がFGF21欠損下で弱まる点にある。

6.5 FGF21は低タンパク質食による糖恒常性改善を支える

 以上より、低タンパク質食は野生型マウスにおいて耐糖能、インスリン感受性、空腹時血糖、血清インスリンを改善した。Fgf21欠損マウスでは、耐糖能改善が失われ、血清インスリン低下も弱まった。一方、インスリン感受性改善にはFGF21非依存的な側面も残った。したがって、FGF21は低タンパク質食による糖代謝改善に重要であるが、その作用は糖代謝指標ごとに異なる。


Fig. 4 低タンパク質食による糖恒常性改善とFGF21依存性

A, B 10か月齢で糖負荷試験を行い、血糖推移および曲線下面積を評価した。低タンパク質食は野生型マウスの耐糖能を改善したが、Fgf21欠損マウスではこの効果は認められなかった。C, D 10か月齢でインスリン負荷試験を行い、血糖低下反応および曲線下面積を評価した。低タンパク質食はインスリン感受性を改善した。E, F 18か月齢で糖負荷試験を行った。加齢後も低タンパク質食による糖代謝への影響が評価され、Fgf21欠損マウスでは耐糖能改善が弱い、または認められなかった。G, H 18か月齢でインスリン負荷試験を行った。低タンパク質食はインスリン感受性を改善したが、その効果はFgf21欠損下で減弱した。I 18か月齢で空腹時血糖を測定し、低タンパク質食による低下傾向を評価した。J 22か月齢で血清インスリンを測定し、野生型マウスでは低タンパク質食により血清インスリンが低下した。K, L 22か月齢で膵臓のインスリン陽性面積および膵島分画を解析した。インスリン陽性面積は食餌と遺伝子型の影響を受け、膵島分画はFgf21欠損マウスで高かった。

7.肝臓と脂肪組織の分子応答:FGF21依存性と非依存性

7.1 低タンパク質食は肝臓でFGF21応答を誘導する

 22か月齢で組織を回収し、低タンパク質食が肝臓および脂肪組織に及ぼす分子応答を評価した。野生型マウスでは、低タンパク質食により血清FGF21濃度が大きく上昇し、肝臓のFgf21 mRNA発現も増加した。Fgf21欠損マウスでは血中FGF21は検出されず、低タンパク質食によるFGF21応答は成立しなかった(Fig. 5A, B)。
 肝臓では、FGF21関連遺伝子に加えて、アミノ酸生合成関連遺伝子であるAsnsとPhgdhも低タンパク質食によって増加した。この反応は野生型だけでなくFgf21欠損マウスでも認められたため、食餌中タンパク質の低下そのものに対する肝臓の応答として位置づけられる(Fig. 5C)。

7.2 肝臓の一部応答はFGF21非依存的に生じる

 低タンパク質食は、血清IGF-1を低下させ、肝臓の脂質合成関連遺伝子であるScd1、Srebp1c、Fasの発現を低下させた。これらの変化には、明確な遺伝子型依存性は認められず、FGF21を欠く状態でも低タンパク質食に対する応答が残った(Fig. 5D, E)。
 肝重量も低タンパク質食により低下し、肝トリグリセリドは同様の方向を示したが、有意な変化ではなかった。肝障害マーカーでは、ALTは遺伝子型と食餌の相互作用を示し、野生型低タンパク質食群で大きく低下した。一方、ASTは食餌により低下したが、遺伝子型との相互作用は明確ではなかった(Fig. 5F–I)。したがって、肝臓の分子応答には、FGF21依存的な変化と、FGF21非依存的に残る変化が混在していた。


Fig. 5 低タンパク質食による肝臓分子応答

A 22か月齢で血清FGF21濃度を測定した。低タンパク質食は野生型マウスで血清FGF21を大きく上昇させたが、Fgf21欠損マウスではFGF21は検出されなかった。B 肝臓におけるFgf21、Fgfr1、Klb mRNA発現を測定した。低タンパク質食は野生型マウスで肝Fgf21発現を増加させ、Fgfr1は両遺伝子型で低下した。C アミノ酸生合成関連遺伝子AsnsおよびPhgdhは、低タンパク質食により両遺伝子型で増加した。D 血清IGF-1はFgf21欠損により高く、低タンパク質食により低下した。E 肝臓の脂質合成関連遺伝子Scd1、Srebp1、Fasは、低タンパク質食により両遺伝子型で低下した。F 肝重量は低タンパク質食により低下した。G 肝トリグリセリド量は同様の方向を示したが、有意な変化ではなかった。H 血清ALTは遺伝子型と食餌の相互作用を示し、野生型低タンパク質食群で低下した。I 血清ASTは低タンパク質食により低下したが、遺伝子型との相互作用は明確ではなかった。

7.3 脂肪組織ではFGF21依存的な熱産生・代謝応答が目立つ

 脂肪組織では、低タンパク質食により血中アディポネクチンが増加した。この反応は野生型マウスだけでなくFgf21欠損マウスでも認められ、FGF21非依存的な成分を含む応答と考えられる(Fig. 6A)。
 一方、鼠径部白色脂肪組織では、低タンパク質食により熱産生関連遺伝子Ucp1およびCideaが強く誘導された。この誘導は野生型マウスで明確であったが、Fgf21欠損マウスでは失われた。同様に、脂質代謝やミトコンドリア機能に関わるAcc1、Fas、Ppara、Pgc1aなどの発現変化も、Fgf21欠損下では認められなかった(Fig. 6B, C)。したがって、低タンパク質食による白色脂肪組織の熱産生様応答と代謝再編には、FGF21が重要である。

7.4 褐色脂肪組織と炎症関連応答の違い

 鼠径部白色脂肪組織で熱産生関連遺伝子が増加した一方、褐色脂肪組織では、低タンパク質食による明確な熱産生関連遺伝子の誘導は認められなかった(Fig. 6D)。このことから、低タンパク質食によるエネルギー消費増加は、少なくともこの解析では褐色脂肪組織の熱産生マーカー上昇としては説明されなかった。
 精巣上体白色脂肪組織では、低タンパク質食によりAdgre、Cd68、Arg1、Itgamなど複数の炎症関連マーカーが低下した。この効果はFgf21欠損マウスでは大きく弱まり、脂肪組織の炎症関連応答にもFGF21が関与することが示された(Fig. 6E)。


Fig. 6 低タンパク質食による脂肪組織応答

A 血清アディポネクチンは、低タンパク質食により野生型マウスとFgf21欠損マウスの両方で増加した。B 鼠径部白色脂肪組織では、低タンパク質食により熱産生関連遺伝子Ucp1およびCideaが野生型マウスで強く誘導されたが、Fgf21欠損マウスではこの反応は失われた。C 鼠径部白色脂肪組織における脂質代謝・ミトコンドリア関連遺伝子の発現も、野生型マウスでは低タンパク質食により変化したが、Fgf21欠損マウスでは誘導されなかった。D 褐色脂肪組織では、低タンパク質食による熱産生関連遺伝子の明確な誘導は認められなかった。E 精巣上体白色脂肪組織では、低タンパク質食によりAdgre、Cd68、Arg1、Itgamなどの炎症関連マーカーが低下したが、この反応はFgf21欠損下で大きく弱まった。

7.5 低タンパク質食の組織応答は単一経路では説明できない

 以上より、低タンパク質食は肝臓と脂肪組織に広範な分子応答を引き起こした。肝臓ではFGF21誘導に加えて、アミノ酸生合成、IGF-1、脂質合成関連遺伝子、肝障害マーカーに変化が生じたが、そのすべてがFGF21依存的ではなかった。一方、白色脂肪組織における熱産生関連遺伝子や代謝関連遺伝子の誘導、炎症関連マーカーの低下には、FGF21依存性が強く現れた。したがって、低タンパク質食の抗老化・代謝改善効果はFGF21を中心に成立するが、その組織応答にはFGF21依存性と非依存性が併存する。

8.中年期からの低タンパク質介入は高脂肪食背景でも代謝悪化を抑える

8.1 中年期からの介入でも体重増加と脂肪蓄積を抑える

 長期介入では、低タンパク質食を3か月齢から開始していた。そこで、低タンパク質食が中年期からでも代謝改善をもたらすかを検証するため、12か月齢の野生型雄マウスに、通常脂肪食または高脂肪食を背景として、対照タンパク質食または低タンパク質食を4か月間与えた。
 高脂肪対照食では体重増加が促進されたが、通常脂肪食および高脂肪食のいずれの背景でも、低タンパク質化により体重増加は抑えられた。高脂肪対照食では脂肪量と除脂肪量の増加が大きかったが、低タンパク質化によりこれらの増加は抑制された。脂肪量の低下がより大きかったため、低タンパク質食群では体脂肪率も低下した(Fig. 7B–F)。

8.2 高脂肪食による糖代謝悪化も低タンパク質化で抑えられる

 体組成の変化に対応して、糖代謝にも明確な改善が認められた。高脂肪対照食では、耐糖能が悪化し、空腹時血糖と血清インスリンが上昇した。一方、通常脂肪食および高脂肪食のいずれの背景でも、低タンパク質化により耐糖能が改善し、空腹時血糖と血清インスリンが低下した(Fig. 7H–K)。
 特に、高脂肪低タンパク質食群では、高脂肪食を自由摂取しているにもかかわらず、体脂肪率、耐糖能、空腹時血糖、血清インスリンが対照食群に近い水準まで改善した。したがって、低タンパク質化は中年期に開始しても、高脂肪食による代謝悪化を強く抑える作用を示した。

8.3 中年期介入でもFGF21と脂肪組織応答が誘導される

 中年期介入後の血清および組織解析では、低タンパク質食および高脂肪低タンパク質食により、血中FGF21とアディポネクチンが増加した。肝臓では、高脂肪対照食により肝トリグリセリドが増加したが、高脂肪低タンパク質食ではこの増加が抑えられた。また、低タンパク質化によりAsns、Phgdh、肝Fgf21などの発現が増加した(Fig. 8A–E)。
 脂肪組織では、通常脂肪低タンパク質食により鼠径部白色脂肪組織のUcp1やCideaが強く誘導された。高脂肪低タンパク質食でもUcp1の増加は認められたが、その程度は通常脂肪低タンパク質食より小さく、Cideaの明確な増加は認められなかった。関連する脂質代謝遺伝子の誘導も、高脂肪食背景では弱まった(Fig. 8F–I)。


Fig. 8 中年期からの低タンパク質介入による血清・肝臓・脂肪組織応答


A 16か月齢で血清FGF21を測定した。低タンパク質食および高脂肪低タンパク質食により、血清FGF21が増加した。B 血清アディポネクチンも、低タンパク質化により増加した。C 肝トリグリセリド量は高脂肪対照食で増加したが、高脂肪低タンパク質食ではこの増加が抑えられた。D 肝臓のアミノ酸生合成関連遺伝子AsnsおよびPhgdhは、低タンパク質化により増加した。E 肝臓のFgf21関連遺伝子では、低タンパク質化によりFgf21発現が増加した。F 肝臓の脂質合成関連遺伝子Scd1、Srebp1、Fasは、食餌条件により変化した。G, H 鼠径部白色脂肪組織では、低タンパク質食によりUcp1およびCideaが誘導された。高脂肪低タンパク質食ではUcp1の誘導は認められたが、通常脂肪低タンパク質食より弱く、Cideaの明確な増加は認められなかった。I 鼠径部白色脂肪組織の脂質代謝関連遺伝子は、通常脂肪低タンパク質食で変化したが、高脂肪食背景では誘導が弱まった。

8.4 中年期の低タンパク質化は代謝保護作用を示す

 以上より、低タンパク質食は若齢からの長期介入だけでなく、中年期から開始した場合にも、体重増加、脂肪蓄積、耐糖能悪化、血糖上昇、インスリン上昇を抑えた。さらに、高脂肪食背景でも低タンパク質化により代謝悪化が大きく抑制された。ただし、この中年期介入実験は野生型マウスで行われており、Fgf21欠損マウスを用いたFGF21依存性の直接検証ではない。したがって、この章では、低タンパク質化が中年期・高脂肪食背景でも代謝保護作用を示し、同時にFGF21を誘導することが示された、と位置づける。

9.結論:タンパク質制限の抗老化効果はFGF21を介して成立する

 本研究では、雄マウスにおいて、低タンパク質食が寿命、代謝健康、身体機能、フレイルに及ぼす影響を、FGF21の有無から検証した。野生型マウスでは、低タンパク質食により寿命が延長し、体重増加と脂肪蓄積が抑えられ、摂食量とエネルギー消費が増加した。さらに、糖代謝、身体機能、フレイル指標にも有益な変化が認められた。
 一方、Fgf21欠損マウスでは、これらの低タンパク質食応答は成立しなかった。とくに寿命については、低タンパク質食の効果が単に消失するだけでなく、短縮方向へ転じた。また、加齢期の体重減少は早期化し、身体機能やフレイル指標にも不利な変化が生じた。
 組織レベルでは、低タンパク質食により肝臓でFGF21が誘導され、脂肪組織、糖代謝、エネルギー代謝に広範な応答が生じた。ただし、そのすべてがFGF21依存的ではなく、肝臓や血中因子の一部にはFGF21非依存的な変化も含まれていた。
 以上より、低タンパク質食による寿命延長、代謝改善、抗フレイル効果は、単なるタンパク質摂取量の低下ではなく、FGF21を介した全身性の内分泌適応によって支えられる。FGF21は、タンパク質制限の有益性を抗老化効果へ結びつける必須因子である。



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