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〜 おへその乱読1000本ノック #0042 ~ 老化に伴うメチル化変化を理解する

 第42回「おへその乱読1000本ノック」へようこそ。
 老化研究が進むにつれて、DNAメチル化は老化を読み解く重要な手がかりとして注目されるようになりました。DNAメチル化は、遺伝子の働きを調節するエピジェネティックな仕組みの一つであり、細胞や組織の状態を反映する分子の記録ともいえます。実際、加齢とともにメチル化パターンは変化し、その変化は多くの加齢関連疾患とも結びついていることが知られています。
 しかし、老化に伴うメチル化変化は単純ではありません。あるCpGでは平均値が変化し、別のCpGではばらつきが増え、さらにはメチローム全体の秩序そのものが変化することも報告されています。こうした多様な現象を、私たちはどのように整理して理解すればよいのでしょうか。
 今回取り上げる Seale et al. (2022) のレビューは、老化に伴うDNAメチル化変化を体系的に整理し、老化メチロームという視点からその全体像を描こうとする論文です。個々のCpGの変化から、エピジェネティック時計、さらにはメチローム全体の構造的変化に至るまで、老化とDNAメチル化の関係を俯瞰的にまとめています。老化に伴うエピゲノム変化をどのように理解すべきなのか。その枠組みを、この論文を手がかりに見ていきます。

要旨
 本稿は、加齢に伴うDNAメチル化変化を老化メチロームという視点から包括的に整理し、その特徴と意義を多角的に論じたものである。DNAメチル化は、加齢に伴って個々のCpGサイトの平均メチル化レベルが変化するだけでなく、個体間のばらつきの増加、メチローム全体のエントロピー上昇、さらにCpGサイト間の相関ネットワークの変化としても捉えられる。こうした複数の解析スケールを統合することで、老化に伴うエピゲノム変化をより立体的に理解できることが示されている。
 まず、平均メチル化レベルが変化するCpGサイト(DMP)と、ばらつきが増加するCpGサイト(VMP)という二つの基本的な変化様式を整理し、それぞれが老化の異なる側面を反映している可能性を論じる。さらに、DNAメチル化時計、メチロームのエントロピー、相関ネットワーク解析といった手法を通じて、老化メチロームの全体像を捉える枠組みが提示される。加えて、DMPが一次的老化、VMPが二次的老化を反映する可能性や、発生・概日リズム・DNA損傷修復・代謝といった生理機能の協調低下がエピジェネティック老化の背景にあるという機構仮説についても触れる。
 以上の議論から、DNAメチル化変化は単なる加齢マーカーにとどまらず、老化の分子基盤を理解するための統合的な情報層として位置づけられる。一方で、これらの変化が老化の原因なのか結果なのかという因果関係、組織特異性、環境要因の影響など、今後解明すべき課題も多い。老化メチロームの理解には、CpGサイトレベルの変化からメチローム全体の構造、さらには生理機能との連関までを視野に入れた統合的研究が求められる。

1. Introduction

1.1 世界が直面する高齢化という課題

 世界的な高齢化は、現代社会が直面する大きな課題の一つとなっています。2050年までに、多くの地域で人口の約4分の1が65歳以上になると予測されています。しかし平均寿命は延びている一方で、健康に生活できる期間(healthspan)が同じように延びているわけではありません。高齢化に伴って慢性疾患の増加や生活の質の低下が進み、社会的・経済的な負担も大きくなっています。

1.2 老化とは何か ~ 生物学的理解

 生物学的に見ると、老化は時間の経過とともに生体機能が低下していく過程であり、その背景には分子レベルの損傷の蓄積や修復能力の低下があると考えられています。老化の原因については、①発生や成長の延長としてプログラムされた過程とみなす考え方と、②長年にわたる損傷や偶発的なエラーの蓄積によるものとする考え方があります。いずれの場合でも、老化に伴う組織機能の低下の背後には共通する分子レベルの変化が存在すると考えられており、これらは老化のホールマークとして整理されています。

1.3 エピゲノムとDNAメチル化

 こうした老化の分子基盤の一つとして注目されているのがエピゲノムの変化です。エピゲノムはDNA配列を変えることなく遺伝子発現を調節する仕組みであり、その代表的な修飾がDNAメチル化です。DNAメチル化は主にCpG配列に生じ、発生過程で確立された後、細胞分裂を通じて維持されることで細胞の性質を保っています。一方で、このメチル化パターンは環境要因の影響も受け、運動や食事、喫煙、大気汚染などの要因によって変化することが知られています。また、DNAメチル化の異常はアルツハイマー病、心血管疾患、がんなど、多くの加齢関連疾患とも関連しています。

1.4 老化メチローム研究の未解決課題

 しかし、老化に伴うDNAメチル化変化の全体像には、まだ多くの未解明の点が残されています。どのメチル化変化が一次的な老化と二次的な老化*に関係するのか、組織ごとにメチロームはどのように変化するのか、そして生涯を通じて生じるメチル化変化の分子機構は何なのかといった問題です。

* 一次的老化と二次的老化
 一次的老化とは、時間の経過に伴って生体に自然に生じる機能低下であり、種を超えて共通して見られる基本的な老化過程を指す。一方、二次的老化とは、生活習慣や環境、疾患などの影響によって生じる追加的な老化変化であり、個人差を生み出す要因と考えられている。実際の生体では、これら二つの過程が重なり合いながら老化表現型を形成すると理解されている。

1.5 本レビューの目的

 本レビューでは、ヒトの老化メチロームを包括的に整理し、加齢に伴うDNAメチル化変化を多角的な視点から捉えることを目的としています。個々のCpGの変化だけでなく、エピジェネティック時計、メチロームのエントロピー、CpG間の相関ネットワークといったさまざまな解析アプローチを通して、老化メチロームの全体像を描き出します。さらに、それらの変化が加齢関連疾患とどのように関係するのか、また環境要因がメチロームに与える影響についても議論し、今後の研究の方向性を提示しています。

2.ヒトの老化メチローム

  時間の経過とともに蓄積するDNAメチル化(DNAm)の変化についての理解は、それらの変化をどのような統計的・計算的手法で定量するかに大きく依存している(表1)。
 加齢に伴うDNAm変化を定量する代表的な方法として、若年者と高齢者の間で、CpGサイトにおけるDNAメチル化の平均値の違い、あるいはばらつき(分散)の違いを調べる手法が広く用いられてきた。しかしこれらの手法は、いずれも個々のCpGサイトに焦点を当てた一次元的な測定であり、複数のCpGサイトの関係性を同時に捉えるものではない。
 一方で、メチローム全体のレベルで生じる変化を評価する方法も提案されている。例えば、エントロピーのように単一の指標としてメチローム全体の状態を表す方法や、複数のCpGサイトにおけるDNAメチル化の協調的変化を解析する相関ネットワークなどがある。

3. CpGメチル化レベルの変化

3.1 加齢に伴うCpGメチル化の変化

 老化に伴うDNAメチル化の変化を調べる研究は、当初、ゲノム全体のメチル化量が年齢とともに減少するのではないかという観察から始まった。しかし、その後の研究では、組織や細胞の種類によって結果は必ずしも一致せず、加齢によるメチル化変化は単純な全体的低下だけでは説明できないことが明らかになってきた。
 現在では、加齢に伴うメチル化変化は、ゲノム全体で一様に起こるのではなく、特定のCpGサイトにおける局所的な変化として観察されることが知られている。こうした変化のうち、年齢とともに平均メチル化レベルが変化するCpGサイトは、Differentially Methylated Positions(DMP)と呼ばれる(図1)。

3.2 エピゲノムワイド解析とメチル化領域

 加齢に伴うCpGメチル化の変化は、マイクロアレイや次世代シーケンス技術の発展により、エピゲノムワイド関連解析(epigenome-wide association studies: EWAS)を通じて体系的に解析されるようになった。これらの研究により、年齢とともにメチル化レベルが上昇するCpGサイト(ハイパーメチル化)と、逆に低下するCpGサイト(ハイポメチル化)の両方が存在することが明らかになっている。
 また、メチル化変化は個々のCpGサイトだけでなく、近接する複数のCpGサイトがまとまって生じる場合もある。こうした領域はDifferentially Methylated Regions(DMR)と呼ばれ、数百塩基対程度の範囲にわたって協調的なメチル化変化が観察されることが多い。こうした領域レベルの変化は、遺伝子発現の調節と関連する可能性があると考えられている。

3.3 エピジェネティック時計

 加齢に伴って変化するCpGサイトの一部は、DNAメチル化パターンから年齢を推定するエピジェネティック時計の構築にも利用されている。エピジェネティック時計は、多数のCpGサイトのメチル化状態を統合的に解析することで、サンプルの年齢を高い精度で予測する統計モデルである。
 これまでに、血液や唾液など特定の組織に特化した時計のほか、複数の組織で利用可能なマルチ組織エピジェネティック時計など、さまざまなモデルが開発されている。こうした時計は、数万のCpGサイトの中から年齢予測に有用なCpGを選択し、それらのメチル化状態を統合することでDNAメチル化年齢(DNAm age)を推定する。
 ただし、エピジェネティック時計はあくまで多数のDMPの中から選ばれた限られたCpGサイトに基づくモデルであり、老化メチローム全体を直接表しているわけではない。したがって、DNAメチル化時計は老化の有用な指標ではあるものの、メチロームの変化を理解するためには、より広い視点からの解析も必要とされる。

図1 加齢に伴うCpGメチル化レベルの平均変化とばらつきの変化 加齢に伴うDNAメチル化(DNAm)の変化は、主に二つの側面から捉えることができる。一つは、年齢とともに平均メチル化レベルが変化するCpGサイトであり、これはDifferentially Methylated Positions(DMP)と呼ばれる。もう一つは、年齢とともにメチル化レベルのばらつき(分散)が増加するCpGサイトであり、Variably Methylated Positions(VMP)と呼ばれる。 図上段は、若年個体と高齢個体におけるCpGメチル化レベルの変化を散布図で模式的に示したものであり、平均のみが変化する場合(DMP only)、平均と分散の両方が変化する場合(DMP and VMP)、分散のみが増加する場合(VMP only)の三つの例を示している。 図下段は、それぞれの場合におけるメチル化レベルの分布(density)を示したものであり、DMPでは分布の中心が移動するのに対し、VMPでは平均値がほぼ変わらないまま分布が広がることを示している。

4.CpGメチル化レベルのばらつき

4.1 加齢に伴うメチル化ばらつきの増加

 加齢に伴うDNAメチル化変化は、平均メチル化レベルの変化だけでは説明できない場合がある。近年の研究では、年齢とともにメチル化レベルのばらつきが増加するCpGサイトが存在することが明らかになっている。このようなCpGサイトはVariably Methylated Positions(VMP)と呼ばれる。
 VMPでは、若い個体では比較的そろっていたメチル化レベルが、年齢とともに個体間で大きくばらつくようになる。この現象は、老化に伴うエピゲノムのゆらぎとしてエピジェネティックドリフト(epigenetic drift)とも呼ばれている。双子研究では、若年期には類似していたDNAメチル化パターンが、加齢とともに徐々に異なっていくことが報告されており、こうしたばらつきの増加が環境要因や生活習慣の違いと関連する可能性が示唆されている。
 図1に示されるように、VMPでは平均メチル化レベルが大きく変化しない場合でも、年齢とともにメチル化レベルの分散が増加することが特徴である。これは、老化が進むにつれてエピゲノム状態の個体差が拡大していくことを示している。

4.2 VMPの検出方法

 VMPを同定するためには、DNAメチル化レベルの分散の変化を統計的に評価する必要がある。年齢を連続変数として扱う場合には、回帰モデルの残差の分散を検定するBreusch–Pagan検定やWhite検定などが用いられる。
 一方、新生児と高齢者のように異なる年齢群を比較する場合には、Bartlett検定、Levene検定、Brown–Forsythe検定などの方法によって分散の違いを評価することができる。さらに、マイクロアレイデータに対してVMPを検出するための統計パッケージとして、RのDiffVarなどが開発されている。
 また、個々のCpGサイトだけでなく、複数のCpGサイトが集まった領域としてばらつきが生じる場合もある。このような領域はVariably Methylated Regions(VMR)と呼ばれ、DMRと同様にゲノム領域単位でのエピジェネティック変化として解析されることがある。

4.3 VMPが示す老化の特徴

 多くの研究では、VMPの大部分が加齢とともに分散が増加する方向を示すことが報告されている。これは、年齢が進むにつれてDNAメチル化パターンが個体間で不均一になっていくことを意味する。
 一方で、少数ではあるが、加齢とともにばらつきが減少するCpGサイトも存在することが報告されている。こうしたCpGでは、メチル化レベルが完全にメチル化された状態または非メチル化状態に近づく傾向がみられる。
 VMPは、個体が生涯にわたって受ける環境要因の影響を反映している可能性が高いと考えられている。食事、喫煙、運動、汚染物質への曝露など、さまざまな外的要因がエピゲノムに影響を与えることが知られており、こうした要因の違いがメチル化パターンの個体差として現れる可能性がある。

5.メチロームのエントロピー

5.1 加齢に伴うメチル化パターンの乱れ

 DNAメチル化は本来、メチル化されているかされていないかという二つの状態をとるエピジェネティック修飾である。しかし実際の測定では、個体の組織は多数の細胞の集合であるため、あるCpGサイトのメチル化率は0〜100%の連続値として観察される。
 若い個体では、多くのCpGサイトは強くメチル化された状態か、あるいはほとんどメチル化されていない状態に集中している。しかし加齢とともに、こうした明確な状態は次第に崩れ、メチル化レベルが中間的な値へと近づくCpGサイトが増加することが知られている(図2a)。これは、エピゲノムの秩序が徐々に失われていく現象と捉えることができる。

5.2 エピジェネティックエントロピー

 このようなメチローム全体の秩序の変化は、エントロピー(entropy)という概念を用いて定量化することができる。エントロピーとは、系の不確実性やランダム性の程度を表す指標であり、情報理論ではShannonエントロピーとして知られている。
 DNAメチル化データでは、各CpGサイトのメチル化率を用いてエントロピーを計算することで、メチローム全体の乱れの程度を評価することができる。エントロピーが低い場合、メチル化状態は比較的予測可能で秩序だった状態にある。一方、エントロピーが高い場合、メチル化状態のばらつきが大きく、エピジェネティック情報の不確実性が高い状態を意味する。
 実際に、加齢とともにメチロームのエントロピーが増加することが報告されており、老化が進むにつれてエピゲノムの秩序が徐々に失われていく可能性が示唆されている(図2b)。

図2 加齢に伴うDNAメチル化エントロピーの増加 (a) 若年個体と高齢個体におけるDNAメチル化レベルの分布の模式図。若い個体では、多くのCpGサイトが高メチル化または低メチル化の状態に集中しており、メチル化状態は比較的秩序だった分布を示す。一方、加齢に伴ってこれらの分布は次第に広がり、中間的なメチル化レベルを示すCpGサイトが増加する。 (b) DNAメチル化データから計算されるエントロピーの概念図。若い個体ではメチル化状態が比較的予測可能であるためエントロピーは低いが、加齢に伴いメチル化パターンのばらつきが増加すると、メチローム全体のエントロピーが上昇する。これは、老化が進むにつれてエピジェネティック情報の秩序が徐々に失われていくことを示している。

6.メチル化相関ネットワーク

6.1 メチル化相関ネットワーク

 DNAメチル化の変化は、これまで主に個々のCpGサイトの変化として解析されてきた。しかし実際には、複数のCpGサイトが協調して変化する場合があり、DNAメチル化はネットワーク構造として理解することもできる。
 このような視点では、CpGサイト間のメチル化レベルの相関関係を解析することで、メチローム全体の構造を調べることができる。各CpGサイトをノード、CpG間のメチル化レベルの相関をエッジとして表現することで、DNAメチル化の相関ネットワークを構築することが可能である(図3a)。このようなネットワーク解析により、メチロームの組織化された構造を可視化することができる。

6.2 加齢に伴うネットワーク構造の変化

 近年の研究では、加齢に伴ってDNAメチル化ネットワークの構造が変化することが示されている。若い個体では、多くのCpGサイトが互いに強く相関した状態を示し、メチロームは比較的密なネットワーク構造を保っている(図3b)。
 一方、加齢が進むにつれてこれらの相関関係は弱まり、特定のCpG間で観察される協調的なメチル化パターンが失われていく。この結果、メチロームのネットワーク構造はより疎なものとなり、エピジェネティック情報の統合的な構造が低下していく可能性がある(図3c)。

図3 加齢に伴うDNAメチル化相関ネットワークの変化 (a) DNAメチル化データから相関ネットワークを構築する解析の概略。CpGサイト間のメチル化レベルの相関をもとに類似度行列および隣接行列を作成し、トポロジカルオーバーラップ(TOM)に基づく階層的クラスタリングにより、共通のメチル化パターンを示すCpG群(モジュール)を同定する。さらに、各モジュールは固有ベクトル(eigengene)によって要約され、年齢との関連が評価される。 (b) 同定されたCpGモジュールと年齢との関連の例。モジュールの代表値(eigengene)は年齢と相関を示し、加齢に伴うメチル化変化が特定のCpG群において協調的に生じていることを示す。 (c) CpGサイト間の相関構造の年齢依存的変化。若年ではCpG間に強い相関が認められるが、高齢ではこれらの相関が弱まり、メチル化パターンの協調性が低下することが示されている。

7. 今後の課題と展望

 これまでの研究により、加齢に伴うDNAメチル化変化は、CpGサイトの平均メチル化レベルの変化(DMP)、メチル化ばらつきの増加(VMP)、メチローム全体のエントロピーの増加、さらにCpGサイト間の相関ネットワークの変化といった、複数の解析スケールで捉えられることが明らかになってきた。本レビューでは、これらの異なる視点を統合することで、老化メチロームを理解するための概念的枠組みが提示されている。
 この枠組みをさらに整理するモデルとして、DMPとVMPがそれぞれ異なる老化過程を反映している可能性が提案されている(図4)。DMPは、寿命を通じて比較的一貫して観察されるDNAメチル化変化であり、時間の経過とともに進行する一次的老化(primary ageing)を反映する指標と考えられる。一方、VMPは個体間で大きく異なるメチル化変化を示し、環境要因、遺伝的背景、疾患などの影響によって加速または減速する二次的老化(secondary ageing)を反映する可能性がある。このモデルでは、同じ年齢の個体であっても、DMPのパターンは類似している一方で、VMPのパターンは大きく異なることが示唆される。また、食事制限や長寿化合物はメチロームの劣化を遅らせる可能性がある一方、不利な環境要因や疾患はその進行を加速させる可能性があると考えられている。

図4 DMPとVMPが反映する一次的老化と二次的老化 (a) 年齢関連DMPの模式図。異なる個体においてDNAメチル化レベルは加齢とともに類似した方向に変化する。DMPは寿命を通じて共有されるメチル化変化を表し、個体に共通する老化過程を反映すると考えられる。 (b) 年齢関連VMPの模式図。同じ年齢の個体であっても、DNAメチル化変化の方向や程度は個体によって異なる。VMPは加齢に伴う個体差を反映するメチル化変化を示す。 (c) メチロームの劣化(erosion)を示す概念モデル。DMPは時間とともに進行する一次的老化(primary ageing)を反映するのに対し、VMPは環境要因、遺伝的背景、疾患などによって加速または減速する二次的老化(secondary ageing)を反映すると考えられる。食事制限や長寿化合物はメチロームの劣化を遅らせる可能性がある一方、不利な環境要因や疾患はその進行を加速させる可能性がある。

 さらに、エピジェネティック老化の分子機構についてもいくつかの仮説が提案されている(図5)。まず、エピジェネティック時計は胚発生期の低い生物学的年齢状態から始まり、出生後は組織幹細胞の非対称分裂や細胞分化とともに進行すると考えられている。こうした細胞分裂と組織更新の過程は、エピジェネティック老化の進行速度と密接に関連している可能性がある。
 また、概日リズムとエピゲノムの関係も重要な要素として挙げられる。若年ではCpGメチル化に周期的な振動が観察されるが、加齢とともにこの振動は弱まり、メチル化パターンの変化につながる可能性がある。さらに、DNA損傷の蓄積と修復過程もエピジェネティック老化の重要な要因として考えられている。DNA損傷の修復にはSIRT1やPARP1などのNAD⁺依存性酵素が関与し、これらの過程にクロマチン修飾因子が動員されることで、エピゲノムの再編成が引き起こされる可能性がある。
 加えて、代謝状態とエピゲノムの相互作用も老化過程に影響を与える可能性がある。特に、加齢に伴うNAD⁺レベルの低下は、概日リズムや代謝調節に関与するSIRT1の活性を低下させることが知られている。逆に、カロリー制限やNAD⁺補充などの介入は、これらの代謝経路を調節することで健康寿命を延ばす可能性が示唆されている。

図5 エピジェネティック老化の提案機構  エピゲノムは本来、発生・組織維持、概日リズム、DNA修復、代謝などの生理機能を協調的に制御している。本図は、これらのシステムの調和が加齢とともに低下することでエピジェネティック老化が進行する可能性を示した概念モデルである。 (a) Development and maintenance(発生と組織維持) エピジェネティック時計は胚発生期の生物学的年齢ゼロに相当する状態から始まり、出生後は組織幹細胞の非対称分裂と分化を通じて進行すると考えられる。幹細胞から分化細胞への移行や組織更新の速度が、エピジェネティック老化の進行速度に影響する可能性が示唆されている。 (b) Circadian rhythm(概日リズム) 若年ではCpGメチル化レベルに比較的強い周期的変動(CpG oscillations)が観察されるが、加齢とともにその振幅は減衰する。こうした振動の弱化が、年齢依存的なDNAメチル化変化の前駆現象となる可能性がある。NAD⁺増強、カロリー制限、長寿化合物、運動などの介入がこのリズムの回復に関与する可能性も示唆されている。 (c) DNA damage and repair(DNA損傷と修復) 加齢に伴うDNA損傷の蓄積は、DNA修復過程においてクロマチン修飾因子を動員し、エピゲノム構造の再配置を引き起こす可能性がある。SIRT1やPARP1などのNAD⁺依存性酵素、さらにDNMT1、DNMT3B、Polycomb複合体などのクロマチン調節因子が損傷部位に集積することで、転写抑制やDNAメチル化パターンの変化が生じる可能性が示唆されている。 (d) Metabolism(代謝) 代謝状態とエピゲノムは密接に関連している。特にNAD⁺は概日リズムおよび代謝調節に関与するSIRT1の活性を調節する重要な分子であり、加齢に伴うNAD⁺レベルの低下はこれらの調節機構の機能低下につながる可能性がある。逆に、NAD⁺の補充やカロリー制限は概日リズムや代謝機能を改善し、健康寿命の延長に寄与する可能性が示唆されている。

 しかし、DNAメチル化変化が老化の原因なのか、それとも老化過程の結果として生じる現象なのかという因果関係は依然として明らかではない。また、メチローム老化の速度やパターンが組織ごとにどの程度異なるのか、さらに生活習慣や環境要因がこれらの変化にどのように影響するのかについても、今後の研究が必要である。
 今後は、CpGサイトレベルの変化からメチローム全体の構造、さらには細胞機能や代謝との相互作用までを統合的に解析することで、エピジェネティック老化の分子基盤がより明確になると期待される。



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