〜 おへその乱読1000本ノック #0047 ~ 早期アルツハイマー病に対するドナネマブの長期有効性と安全性
第47回「おへその乱読1000本ノック」へようこそ。
アルツハイマー病は、加齢に伴って進行する代表的な神経変性疾患です。近年では、脳内に蓄積するアミロイドβを標的とした抗体医薬が登場し、病気の進行をどこまで遅らせられるのかが大きな関心を集めています。しかし、こうした治療においては、どの段階で介入するのがよいのか、効果はどの程度持続するのか、さらに投与をいつまで続けるべきかなど、まだ十分に整理されていない点も少なくありません。
今回取り上げるZimmer et al. (2026)は、ドナネマブの長期投与後の経過を追跡し、早期介入の意義や効果の持続性、安全性について検討した研究です。アルツハイマー病の進行は治療によってどこまで変えられるのか。本研究を手がかりに、病態修飾療法(進行を抑える治療)の可能性と課題を見ていきます。

要旨
ドナネマブは、早期症候性アルツハイマー病に対するアミロイド標的治療として、臨床的進行を抑制することが示されている。本研究では、TRAILBLAZER-ALZ 2 の長期延長期間の結果を用いて、ドナネマブの長期的な有効性、安全性、および投与完了後のアミロイド動態を評価した。
TRAILBLAZER-ALZ 2 は、76週間のプラセボ対照期間に78週間の長期延長期間を加えた第3相、無作為化、二重盲検試験である。参加者はドナネマブまたはプラセボに割り付けられ、アミロイドPETに基づく治療完了基準を満たした場合には、盲検下でプラセボへ切り替えられた。有効性は主として CDR-SB の変化量と CDR-G による病期進行リスクで評価し、真のプラセボ対照を欠くため、外部対照として ADNI コホートを用いた。
その結果、ドナネマブは3年にわたる臨床的利益を示し、その効果は早期に治療を開始した参加者でより大きかった。早期開始群と遅延開始群のいずれにおいても、強固なアミロイド除去が認められ、治療完了後の再蓄積は緩徐であった。安全性については、長期延長期間において新たな安全性シグナルは認められず、ARIA は主として投与早期に出現し、最終投与後には頻度が低下した。
以上より、ドナネマブは早期症候性アルツハイマー病において、早期介入および投与期間を限定した治療戦略の有用性を示した。
1. イントロダクション
アルツハイマー病は、脳内におけるβアミロイドプラークおよび神経原線維変化の蓄積を特徴とし、進行性の認知機能低下をもたらす加齢関連神経変性疾患である。無作為化比較試験により、アミロイドプラークを十分に除去することが疾患進行の抑制につながることが示されている。
TRAILBLAZER-ALZ 2は、早期症候性アルツハイマー病で、アミロイド病理およびタウ病理を有する参加者を対象とした第3相試験であり、ドナネマブは76週時点でプラセボに対して臨床的進行を有意に抑制した。本試験の特徴は、アミロイドプラーク量の低下に基づく治療完了基準を設定し、それを満たした参加者を盲検下でプラセボ投与へ切り替える投与期間を限定した治療(limited-duration dosing)を採用した点にある。この設計は、将来的な不必要な治療を減らし、コストを抑えることを意図したものである。
76週間のプラセボ対照期間を完了した参加者は、さらに78週間の長期延長試験へ参加可能であった。この長期延長期間では、当初プラセボに割り付けられていた参加者が盲検下でドナネマブ投与を開始できる一方、当初ドナネマブに割り付けられ、すでに治療完了基準を満たしていた参加者は盲検下プラセボ投与を継続した。また、治療完了基準を満たさなかった参加者は、長期延長期間でもドナネマブ投与を継続した。
本報告の目的は、この長期延長期間の結果を通じて、投与期間を限定した治療後のドナネマブの長期有効性および安全性を評価することである。
2. 方法
2.1. 試験デザイン
TRAILBLAZER-ALZ 2は、76週間のプラセボ対照期間に78週間の長期延長期間(long-term extension, LTE)を加えた、第3相、無作為化、二重盲検、並行群間、多施設共同、プラセボ対照試験である。参加者は1:1でドナネマブ群またはプラセボ群に割り付けられ、ドナネマブは初回3回を700 mg、その後は1400 mgで、4週ごとに静脈内投与された。
本試験の設計はFig. 1aに要約されている。プラセボ対照期間中、ドナネマブ投与中の参加者は、アミロイドPETで治療完了基準を満たした場合、盲検下でプラセボ投与へ切り替えられた。治療完了基準は、単回のPETでアミロイドプラーク量が11 Centiloids未満となること、または連続2回のPETで25 Centiloids未満となることであった。切り替えは24週または52週に行われた。
76週間のプラセボ対照期間終了後、参加者はLTEへ移行可能であった。初回割付でドナネマブを受けた参加者のうち、76週時点で治療完了基準を満たしていない者は、LTEでもドナネマブ投与を継続した。一方、初回割付でプラセボを受けた参加者は、LTE開始時からドナネマブ投与へ移行し、プラセボ対照期間と同じ用量漸増スケジュールに従った。さらに、LTE中にドナネマブを受けた参加者も、102週または130週で治療完了基準を満たした場合には、盲検下でプラセボへ切り替えられた。参加者と治験担当者の盲検は、LTE期間を通じて維持された。
本論文では、初回割付でドナネマブを受けた集団をearly-start群(早期開始群)、初回割付でプラセボを受け、LTEでドナネマブ投与を開始した集団をdelayed-start群(遅延開始群)と定義している。Fig. 1bは、この設計に対応して、両群におけるドナネマブ投与割合が時間とともに低下していくことを示している。すなわち本試験は、全参加者が3年間継続して実薬投与を受ける設計ではなく、アミロイドPETに基づいて治療完了後に blinded placebo へ移行する投与期間を限定した治療を前提とした長期観察試験である。

2.2. 参加者
LTEへの参加にあたり、プラセボ対照期間を完了した参加者に追加の適格基準は課されなかった。もともとの試験登録基準は、60〜85歳、スクリーニング時Mini-Mental State Examination(簡易知能評価検査, MMSE)20〜28点、18F-florbetapirまたは18F-florbetaben PETで評価されたアミロイド病理陽性(37 Centiloids以上)、および18F-flortaucipir PETの中央判定によるタウ病理陽性であった。
主な除外基準として、amyloid-related imaging abnormalities of edema/effusion(浮腫/滲出を伴うアミロイド関連画像異常, ARIA-E)の存在、4個を超える脳微小出血、2か所以上の表在性ヘモジデリン沈着、1 cmを超える脳内出血、あるいはMRIで認められる高度白質病変が設定された。完全な適格基準は既報に委ねられている。
2.3. 外部対照コホート
本LTEには内部プラセボ対照群が存在しないため、アミロイド標的治療を受けていない参加者における自然経過との比較のため、Alzheimer’s Disease Neuroimaging Initiative(ADNI)のデータベースから外部対照コホートを構築した。臨床評価としてClinical Dementia Rating Scale–Sum of Boxes(CDR-SB)を用い、TRAILBLAZER-ALZ 2の参加者とマッチさせたADNI参加者との比較を行った。
ADNIからは、認知機能障害を有し、かつ脳脊髄液total tau/Aβ42比が0.28を超える、すなわちアミロイド病理を示唆する参加者が選択された。著者らは、この集団がアミロイド標的治療未曝露のアルツハイマー病集団を概ね代表し、マッチング後の比較対象として利用可能であると位置づけている。
2.4. 評価項目
LTEにおける有効性評価の中心指標は、CDR-SBのベースラインからの最小二乗平均変化量である。CDR-SBは認知機能と日常機能の両方を反映する指標であり、0〜18点の範囲をとり、高値ほど障害が強いことを示す。外部対照であるADNIにおいて利用可能な臨床指標であったため、本指標が主要な比較対象として採用された。
加えて、early-start群とdelayed-start群の間で次の臨床病期へ進行するリスクを評価するため、CDR-Global(CDR-G)が用いられた。CDR-Gは0から3までの尺度であり、高値ほど重度の認知症段階を示す。
バイオマーカー評価としては、102、130、154週におけるアミロイドプラーク減少およびクリアランスが評価された。また、52週までに治療完了基準を満たした参加者では、治療終了後のアミロイド再蓄積も解析対象とされた。再蓄積速度の推定には、本試験に加え、他の3つのドナネマブ試験のデータも統合して用いられた。安全性評価には、有害事象報告と中央判定によるMRIが含まれた。
2.5. 統計解析
すべての解析は探索的解析として実施され、多重性の調整は行われていない。
2.5.1. 有効性
LTEにおける有効性は、early-start群とdelayed-start群について独立に評価された。ADNI外部対照との比較可能性を高めるため、propensity score weightingが用いられた。重み付けに際しては、年齢、性別、APOE ε4状態、CDR-SB、ADAS-Cog13、スクリーニング時MMSEがベースライン共変量として用いられた。一方、ベースライン時のアミロイドCentiloid値は、定義されたADNI集団の43%で欠測していたため調整変数に含められなかった。
重み付け後は、各共変量の標準化平均差が0.10未満であることを確認し、極端な重みは95パーセンタイルでトリミングした。その上で、CDR-SB変化量について混合効果反復測定モデル(MMRM)による3つの解析を実施した。第1の解析では、76週までのTRAILBLAZER-ALZ 2プラセボ群と対応するweighted ADNI cohortを比較し、外部対照が内部プラセボ群と整合するかを検討した。第2および第3の解析では、それぞれearly-start群およびdelayed-start群とweighted ADNI cohortとの154週時点での差を評価した。共変量には、治療、年齢、APOE ε4状態、ベースラインCDR-SB、ベースラインADAS-Cog13、スクリーニングMMSE、visit、およびvisit-by-treatment、visit-by-baseline CDR-SB交互作用が含まれた。
累積効果の評価にはAUC差が用いられ、台形公式により算出された。さらに、36か月時点のearly-start群の平均値に対応するADNI側の時点を逆算することで、relative time savingsも推定された。
病期進行の解析では、CDR-Gが連続する2回の来院で上昇した場合を「次の臨床段階への進行」と定義し、その最初の来院日をイベント時点とした。解析にはCox比例ハザードモデルを用い、pooled investigatorおよびベースラインタウ量で層別化した上で、年齢、CDR-G、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬またはメマンチン使用を共変量、群(early-startまたはdelayed-start)を固定因子として組み込んだ。
2.5.2. バイオマーカー
アミロイドPET Centiloidのベースラインからの変化量については、治療、visit、treatment-by-visit interactionを固定因子とし、ベースライン値、score-by-visit interaction、年齢、タウカテゴリーを共変量としたMMRMで、最小二乗平均、標準誤差、95%信頼区間、p値を推定した。アミロイドクリアランスは24.1 Centiloids未満と定義され、これは視覚判定で陰性と概ね一致する閾値とされた。
アミロイド再蓄積は、52週までに治療完了基準を満たしたearly-start群における平均Centiloid値の推移として描出された。再蓄積速度は、本LTEデータを既存のドナネマブ曝露反応モデルに追加することで推定され、そのモデルにはphase 1b、TRAILBLAZER-ALZ、TRAILBLAZER-EXT、TRAILBLAZER-ALZ 2のデータが組み込まれた。
2.5.3. 安全性
安全性評価は記述的に行われた。最初のARIA-E発現までの時間は、MRI所見またはtreatment-emergent adverse event cluster reportingに基づいて評価された。この解析の観察期間は、治療期間に加えて最終投与後57日までを含んだ。
また、ドナネマブ投与終了後のARIAリスクを評価するため、新規ARIAイベントまたは悪化した有害事象を6か月ごとの区間で集計した。最初の区間は最終ドナネマブ投与58日後から開始された。さらに、52週までに治療完了基準を満たした参加者では、観察時間の違いを補正するためobservation time-adjusted incidence rate(OAIR)を算出した。OAIRは、該当有害事象を少なくとも1回経験した参加者数に100を乗じ、リスク下にあった参加者年で除して求められた。
3. 結果
3.1. 参加者とLTEでの追跡状況
76週間のプラセボ対照期間を完了し、長期延長期間で少なくとも1回投与を受けた参加者は、早期開始群550例、遅延開始群657例であった(Fig. 1a, Fig. S2)。早期開始群の内訳は、プラセボ対照期間中に治療完了基準を満たし、盲検下でプラセボ投与へ切り替えられていた、D→P群(Donanemab→ placebo 群)393例と、76週時点で治療完了基準を満たさず、長期延長期間でもドナネマブ投与を継続したD→D群(Donanemab→donanemab 群)157例であった。遅延開始群は、初回プラセボ割付後、長期延長期間でドナネマブ投与へ移行したP→D群(Placebo→donanemab 群)657例から構成された(Fig. S2)。
長期延長期間の完遂率は、D→P群で74.3%、D→D群で81.5%、P→D群で72.3%であった(Fig. S2)。試験中止はそれぞれ24.7%、17.8%、26.8%に認められ、主な中止理由はいずれの群でも参加者の希望による中止であった。有害事象による中止はD→P群で2.3%、D→D群で2.5%、P→D群で5.2%であり、病勢進行による中止はそれぞれ2.0%、0.6%、2.0%であった(Fig. S2)。

長期延長期間開始時点の背景因子をみると、平均CDR-SBはD→P群およびD→D群でいずれも5.1であったのに対し、P→D群では5.7であった(Table S1)。また、MMSE 20点未満の割合はD→P群38.7%、D→D群38.9%、P→D群45.2%であり、P→D群は長期延長期間開始時点でより進行した集団であった。アミロイドPETでも、長期延長期間開始時の平均アミロイド量はD→P群で3.7 CL、D→D群で37.5 CL、P→D群で102.5 CLであり、D→P群ではアミロイド負荷が大きく低下していた一方、P→D群では高いアミロイド負荷が残存していた(Table S1)。
以上より、長期延長期間に組み入れられた集団は一様ではなく、早期開始群の中にも、すでに治療完了基準を満たしてプラセボ投与へ切り替えられていた集団と、なお実薬投与を継続していた集団が含まれていた。一方、P→D群は長期延長期間開始時点で、臨床的にもバイオマーカー上もより進行した状態にあり、この点は以後の有効性比較を解釈する上で重要である(Fig. 1a, Table S1)。

注:カテゴリーデータの分母には、欠測のない参加者数を用いた。a 長期延長期間(LTE)中に少なくとも1回投与を受けた参加者を含む。 b 長期延長期間(LTE)における治療開始前、または開始時点で得られた最後の欠測のないMMSEスコア。
略語:AChEI,アセチルコリンエステラーゼ阻害薬;AD,アルツハイマー病;APOE,アポリポタンパク質E;CDR-G,Clinical Dementia Rating Scale–Global;CDR-SB,Clinical Dementia Rating Scale–Sum of Boxes;LTE,長期延長期間;MMSE,Mini-Mental State Examination;N,解析対象集団の参加者数;n,各カテゴリの参加者数;PET,陽電子放出断層撮影;SD,標準偏差;SUVR,standardized uptake value ratio。
3.2. 有効性
3.2.1. CDR-SBでみた臨床進行の抑制
ドナネマブ投与は、早期開始群、遅延開始群のいずれにおいてもCDR-SBで評価した臨床進行を抑制し、その効果は早期開始群でより大きかった。早期開始群では、3年時点のCDR-SB変化量が重み付け後の外部ADNI対照コホートより小さく、調整平均治療差は−1.2点(95%信頼区間 −1.7〜−0.7)であった(Fig. 2a)。遅延開始群でも、ドナネマブ開始76週後のCDR-SB変化量は重み付け後の外部ADNI対照コホートより小さく、調整平均治療差は−0.8点(95%信頼区間 −1.3〜−0.3)であった(Fig. 2b)。
また、プラセボ対照期間52週までにアミロイドPETで治療完了基準を満たした早期開始群に限定した解析でも、3年時点で同様の進行抑制が認められた(Fig. 2c)。このサブグループは325例で、スクリーニング時の平均CDR-SBは3.8、平均MMSEは23.9であり、比較的早期の集団であった。

外部ADNI対照コホートを用いた比較の妥当性については、補足解析で支持されている。プラセボ群と外部ADNI対照コホートのCDR-SB軌跡は18か月までよく一致しており、外部対照がアルツハイマー病の自然経過の推定として概ね適切であることが示された(Fig. S5)。さらに、早期開始群における累積的利益は時間とともに増大し、78週間の長期延長期間全体でみたCDR-SBの平均差は0.97点であった(Fig. S6)。

略語:ADNI:アルツハイマー病神経画像化イニシアティブ;CDR-SB:臨床的認知症評価尺度–ボックス合計スコア;CI:信頼区間;ESS:有効標本サイズ;LS:最小二乗法;N:参加者数;SE:標準誤差。

略語:ADNI:アルツハイマー病神経画像化イニシアティブ;AUC:曲線下面積;CDR-SB:臨床的認知症評価尺度–ボックス合計スコア;LS:最小二乗法;SE:標準誤差。
3.2.2. CDR-Gでみた病期進行リスク
CDR-Gを用いた解析では、早期開始群は遅延開始群と比べて、次の臨床段階へ進行するリスクが有意に低かった(Fig. 3)。次の臨床段階への進行は、CDR-Gスコアが連続する2回の来院で上昇した場合と定義され、参加者は3か月ごとに評価された。解析にはCox比例ハザードモデルが用いられ、pooled investigatorおよびベースラインのタウ量で層別化した上で、年齢、CDR-Gスコア、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬またはメマンチン使用が共変量として組み込まれた。
その結果、早期開始群では遅延開始群に比べて、次の臨床段階へ進行するリスクが27%低く、ハザード比は0.73(95%信頼区間 0.62–0.86、p<0.001)であった(Fig. 3)。
長期延長期間開始時点では、遅延開始群は早期開始群よりも進行した集団であり、CDR-G 2の割合はP→D群で14.5%であったのに対し、D→P群およびD→D群ではそれぞれ10.7%、10.8%であった(Table S1)。このような背景の違いを踏まえても、早期にドナネマブを開始した群で病期進行リスクが低かったことは、早期介入の有用性を支持する結果である。

略語:CDR-G:臨床的認知症評価尺度–全般スコア;CI:信頼区間。
3.3. アミロイドPETでみたアミロイド除去と再蓄積
ドナネマブは、早期開始群、遅延開始群のいずれにおいても、脳内アミロイドプラークを大きく減少させた。早期開始群では76週時点で、アミロイドプラーク量は最小二乗平均で86.96 CL減少した。一方、遅延開始群でも、ドナネマブ開始76週後にあたる154週時点で、同様に86.01 CLの減少が認められた(Fig. 4a)。すなわち、投与開始後76週という時間軸でみると、両群でほぼ同程度のアミロイド低下が得られた。
アミロイドクリアランス(<24.1 CL)に到達した参加者の割合も、投与開始後の経時的推移は両群でほぼ同様であった。早期開始群では、24週で29.7%、52週で66.1%、76週で76.4%がアミロイドクリアランスに到達した。遅延開始群でも、ドナネマブ開始後24週で33.2%、52週で66.7%、76週で76.5%がクリアランスに到達した(Fig. 4b, Table S4)。このことから、ドナネマブは投与開始後およそ1年半で、多くの参加者においてアミロイド陰性域に近い水準まで低下をもたらしたことが示された。

また、治療完了基準を満たした参加者の割合も、両群で類似した推移を示した。遅延開始群では、ドナネマブ開始後24週で17.6%、52週で51.3%、76週で70.7%が治療完了基準を満たしており、これはプラセボ対照期間中の早期開始群における24週17.1%、52週46.6%、76週69.2%と概ね一致していた(Table S4)。さらに、長期延長期間でも投与を継続した早期開始群のうち、アミロイドPETを受けた参加者では、102週で29.9%、130週で45.6%、154週で55.6%が新たに治療完了基準を満たした。

注:データは、指定された時点において基準を満たした欠損値のない参加者の割合(基準を満たした参加者数/PETスキャンを実施した参加者の総数)。略語:CL:センチロイド(Centiloids)、n:基準を満たした参加者数、N:PETスキャンを実施した参加者の総数、PET:陽電子放出断層撮影(ポジトロン断層撮影)。
一方、長期延長期間終了時点までにアミロイドクリアランスに到達しなかった早期開始群の参加者も少数存在した。これら33例では、スクリーニング時の平均アミロイド量が127.0 CLと高く、APOE ε4保有率も87.9%と高かった。154週時点の平均アミロイド量は43.9 CLであり、アミロイド低下は認めるものの、クリアランス閾値には到達していなかった(Table S3)。
さらに、プラセボ対照期間52週までに治療完了基準を満たした早期開始群では、154週時点の平均アミロイド量は10.99 CLであり、アミロイド陰性の基準である24.1 CL未満を維持していた(Fig. 4c)。4つのドナネマブ試験のデータを統合した解析では、アミロイドプラークの再蓄積速度は2.4 CL/年と推定された。したがって、治療完了後も少なくとも観察期間内では、アミロイド低下の効果は比較的安定して維持されていたと考えられる。

注:カテゴリーデータの分母には、欠測のない参加者数を用いた。クリアランスは、アミロイドプラーク量が 24.1 CL未満 に到達することと定義した。 a 治療開始前、または治療開始時点で得られた最後の欠測のないMMSEスコア。 略語:AChEI,アセチルコリンエステラーゼ阻害薬;AD,アルツハイマー病;APOE,アポリポタンパク質E;CDR-G,Clinical Dementia Rating Scale–Global;CDR-SB,Clinical Dementia Rating Scale–Sum of Boxes;CL,Centiloids;LTE,長期延長期間;MMSE,Mini-Mental State Examination;N,解析対象集団の参加者数;n,各カテゴリの参加者数;PET,陽電子放出断層撮影;SD,標準偏差;SUVR,standardized uptake value ratio。
3.4. 安全性
3.4.1. 長期延長期間における安全性の概略
長期延長期間において、新たな安全性シグナルは認められなかった(Table 1)。著者らは、18か月までの安全性所見は早期開始群と遅延開始群で概ね一貫しており、ARIAおよび輸注関連反応(infusion-related reaction)の頻度も、プラセボ対照期間にドナネマブを投与された参加者で既に報告されていた安全性プロファイルと整合的であったとしている。さらに、76週を超えてドナネマブ投与を継続した参加者でも、安全性プロファイルは概ね一貫しており、長期延長期間ではARIAおよび輸注関連反応の頻度はむしろ低下していた。
遅延開始群では、長期延長期間中の輸注関連反応、ARIA-E、ARIA-Hの頻度はそれぞれ7.5%、26.0%、39.7%であり、これはプラセボ対照期間中にドナネマブ投与を受けた参加者で報告された値と概ね同程度であった。早期開始群のうち、長期延長期間開始時までにプラセボ投与へ切り替えられ、その後少なくとも1回プラセボ投与を受けた参加者では、死亡、重篤な有害事象、治療下有害事象の発現率はそれぞれ2.0%、20.4%、80.2%であり、輸注関連反応、ARIA-E、ARIA-Hの頻度はそれぞれ0.5%、1.5%、14.0%であった。

注:参加者は複数のカテゴリに重複して計上される場合がある。 AE,有害事象;ARIA,アミロイド関連画像異常;ARIA-E,アミロイド関連画像異常―浮腫/滲出;ARIA-H,アミロイド関連画像異常―微小出血およびヘモジデリン沈着;CNS,中枢神経系;LTE,長期延長期間;MRI,磁気共鳴画像法;N,解析対象集団の参加者数;n,各事象タイプで少なくとも1回イベントを経験した参加者数;SAE,重篤な有害事象;TEAE,治療下有害事象。 a 長期延長期間(LTE)中に少なくとも1回投与を受けた参加者を含む。 b 死亡は、重篤な有害事象および有害事象による試験中止にも含まれる。 c 既報の、ARIA-Eおよび頭蓋内出血による死亡2例を含む。頭蓋内出血は血栓溶解療法施行後に発生しており、同日に施行されたMRIでは重度のARIA-Eが認められていた[13]。 d TEAEのベースライン有害事象は、長期延長期間の初回投与時点で継続していたすべての有害事象と定義した。ベースライン後の期間は、長期延長期間における初回投与日から開始し、試験中止日または試験完了日、長期延長期間終了57日後、あるいはデータカットオフ日のうち、最も早い日で終了した。 e 治験担当医師により試験治療との関連があると判断された事象を含む。 f MRI所見または治療下有害事象クラスターに基づく。 g 治療下有害事象クラスターに基づく。
3.4.2. ARIAの発現時期と投与終了後の推移
ARIA-E の初回発現時期をみると、その多くはドナネマブ投与開始後24週以内に認められた(Fig. S7)。また、最終ドナネマブ投与後の6か月ごとの解析では、ARIA-E の発現率は各期間で 1.0% 以下であり、ARIA-H のリスクも時間とともに低下した(Fig. S8)。さらに、最終投与後の任意の6か月区間において、症候性 ARIA-E および症候性 ARIA-H の頻度は、それぞれ 0.1% および 0.3% を超えなかった。


プラセボ対照期間52週までにアミロイド低下に基づく治療完了基準を満たし、その後プラセボへ切り替えられた早期開始群では、投与切り替え後の any ARIA、ARIA-E、ARIA-H の頻度はそれぞれ 20.3%、2.0%、18.3% であり、ARIA関連の重篤な有害事象は認められなかった(Table S5)。また、観察時間で補正した発現率では、ARIA-E および ARIA-H は、プラセボ対照期間中にプラセボを受けた参加者と概ね同程度であった。
以上より、ドナネマブの安全性プロファイルは長期延長期間においても概ね一貫しており、ARIAは主として治療早期に出現し、投与終了後にはその頻度が低下した。

注:参加者は複数のカテゴリに重複して含まれる場合がある。開始日の欠損しているベースライン後の治療下有害事象(post TEAE)は除外した。ベースラインは初回プラセボ投与日とし、観察期間は初回プラセボ投与後から開始した。 a 52週までに治療完了基準を満たし、その後少なくとも1回プラセボ投与を受けた参加者を含む。 b MRI所見または治療下有害事象クラスターに基づく。 c 治療下有害事象クラスターに基づく。 d ARIA-EではARIA症例報告書、ARIA-Hでは有害事象報告に基づく。 e 大出血には脳出血および出血性脳卒中を含む。全ARIA件数には脳内出血は含まれない。略語:ARIA,アミロイド関連画像異常;ARIA-E,アミロイド関連画像異常―浮腫/滲出;ARIA-H,アミロイド関連画像異常―微小出血およびヘモジデリン沈着;LTE,長期延長期間;MRI,磁気共鳴画像法;N,解析対象集団の参加者数;n,各イベントで少なくとも1回事象を経験した参加者数;SAE,重篤な有害事象;TEAE,治療下有害事象。
4. 考察
4.1. 長期的な有効性
本研究は、ドナネマブが早期症候性アルツハイマー病の経過を修飾し、未治療集団と比較した治療効果が3年まで増大することを示した。アミロイドプラーク低下は早期開始群と遅延開始群のいずれでも明瞭であったが、全体としての有効性は早期にドナネマブ治療を開始した参加者でより大きかった。さらに、アミロイドクリアランス達成後1年以内に治療を完了した参加者では、その後も長期的利益が保持された。
4.2. 早期介入の意義
長期延長期間の有効性結果は、疾患連続体のより早い段階でアルツハイマー病を治療するほど、長期転帰がより良好となる可能性を示している。3年時点では、早期にドナネマブ治療を受けた参加者は、遅延開始群と比べてCDR-SBおよびCDR-Gの両面で有利であった。この差は、早期治療が将来の臨床的利益を最大化する可能性を示すものである。
4.3. 投与期間を限定した治療と治療完了後のアミロイド動態
本研究では、アミロイドPETに基づく治療完了基準を設定し、達成後は盲検下でプラセボへ切り替える投与期間を限定した治療を採用した。この設計のもとでも、ドナネマブによるアミロイド除去は早期開始群・遅延開始群のいずれにおいても強固であり、投与開始後76週でのアミロイドクリアランス率は両群で非常に近かった。さらに、先行試験データを統合した解析では、治療完了後のアミロイド再蓄積速度は 2.4 CL/年と推定され、自然経過における蓄積速度と同程度であった。これにより、ドナネマブ治療後のプラーク再蓄積が緩徐であることが再確認された。今後は、血漿P-tau217など他のアルツハイマー病関連バイオマーカーの評価も必要である。
4.4. 安全性
長期延長期間において、新たな安全性シグナルは認められなかった。18か月時点までの安全性所見は早期開始群と遅延開始群で概ね一貫しており、ARIAおよび輸注関連反応の頻度も既報のドナネマブ安全性プロファイルと整合的であった。76週を超えて投与継続となった参加者でも、安全性プロファイルは概ね一貫しており、長期延長期間ではARIAおよび輸注関連反応の頻度は低下していた。さらに、TRAILBLAZER-ALZ 6では、より緩徐な用量漸増によりARIA-Eリスクが低下することも示されており、安全性最適化の可能性が示唆される。
4.5. 試験デザイン上の特徴
TRAILBLAZER-ALZ 2 の長期延長試験の解釈には、この試験特有の設計を踏まえる必要がある。第一に、長期延長期間へ移行した早期開始群の大多数(71.5%)は、長期延長期間の全期間を通して盲検下プラセボのみを受けていた。したがって、早期開始群で観察された有効性は、すでに実薬投与を終えた後にも効果が持続した参加者を多く含む結果である。第二に、長期延長期間に入った遅延開始群は、プラセボ対照期間開始時の集団より病勢が進んでおり、MMSEのみでみても約半数は当初の適格基準を満たさない状態に至っていた。それにもかかわらず、遅延開始群でもADNI外部対照コホートに対するCDR-SBの乖離がみられた。第三に、アミロイド低下後にプラセボへ切り替えられた後も、参加者と評価者の盲検化が維持されていた。この点は、通常の非盲検延長試験に比べて観察者バイアスや参加者バイアスの可能性を小さくする。
4.6. 限界
本研究にはいくつかの限界がある。長期延長期間には真のプラセボ対照群が存在せず、時間経過に伴う survivor bias の可能性がある。また、外部対照コホートの使用は、試験実施方法、評価法、データ収集時期や地域の違い、未測定交絡などを導入しうる。さらに、参加基準のために一般臨床集団への外的妥当性は限定される可能性がある。加えて、長期延長期間開始時点で遅延開始群は早期開始群よりも病勢が進行しており、この違いは早期開始群に有利な方向へ有効性結果を偏らせた可能性がある。統計解析はいずれも探索的であり、多重性の調整は行われていない。
5. 結論
ドナネマブは、早期症候性アルツハイマー病において3年にわたる臨床的利益を示し、その効果は早期に治療を開始した参加者でより大きかった。アミロイド除去は強固で、治療完了後の再蓄積は緩徐であり、長期延長期間において新たな安全性シグナルは認められなかった。これらの結果は、早期介入および投与期間を限定したドナネマブ治療戦略の妥当性を示している。
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