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〜 おへその乱読1000本ノック #0120 ~ 一炭素代謝はSAMを介してヒストンメチル化と遺伝子発現を制御する

 ようこそ第120回 おへその乱読1000本ノックへ。
 前回は、インスリン/IGF-1シグナル伝達経路による寿命制御を、タンパク質リン酸化の視点から見てきました。今回はメチオニン代謝へ視点を移し、栄養状態が一炭素代謝とSAMを介してヒストンメチル化へ伝えられる仕組みを取り上げます。
 MentchとLocasale(2016)は、一炭素代謝とエピジェネティクスの接続を、ヒストンメチル基転移酵素の生化学的特性から整理した総説です。本稿では、メチオニンを代謝と遺伝子発現を結ぶ栄養入力として捉え、その選択的な制御機構を見ていきます。

要旨
 一炭素代謝は、グルコース、アミノ酸、ビタミンなどの栄養状態を取り込み、葉酸回路とメチオニン回路を介してS-アデノシルメチオニン(SAM)を産生する。SAMは普遍的なメチル基供与体としてDNA、RNA、タンパク質、代謝物のメチル化に用いられ、ヒストンメチル化を介してクロマチン状態と遺伝子発現を制御する。
 ヒストンメチル基転移酵素(HMT)はSAMを基質とし、反応産物としてS-アデノシルホモシステイン(SAH)を生じる。SAHはHMTを阻害するため、ヒストンメチル化能はSAM量とSAM/SAH比に左右される。また、細胞内SAM濃度は多くのHMTのKm値に近く、栄養状態やメチオニン代謝の変化がHMT活性へ反映されやすい。
 ただし、代謝変化の影響はすべてのHMTやヒストン修飾に一様に及ぶわけではない。各HMTはSAMに対する感受性や標的領域が異なるため、SAM濃度の変化は特定のヒストンメチル化と遺伝子群に選択的な変化をもたらす。したがって、一炭素代謝は単なるメチル基供給系ではなく、栄養状態を特異的なクロマチン変化と遺伝子発現へ変換する代謝感知機構である。

1.イントロダクション:栄養状態はエピジェネティクスへ伝えられる

1.1 栄養代謝は細胞機能と遺伝子発現を結ぶ

 細胞は、周囲の栄養環境の変化に対して恒常性を維持するため、代謝と細胞機能を適応させる必要がある。とくに栄養が不足する状況で増殖を続けるには、利用可能な栄養素を感知し、その情報を生理応答へ変換する仕組みが欠かせない。
 栄養代謝とエピジェネティクスの関係は、正常な生理機能だけでなく、糖尿病、肥満、がん、心血管疾患、老化などの病態にも関わる。一炭素代謝は、グルコース、ビタミン、アミノ酸などを基質として、ヌクレオチド合成、酸化還元恒常性、脂質合成、メチル化反応へ一炭素単位を供給する。すなわち、栄養状態を複数の細胞機能へ振り分ける代謝ネットワークである。

1.2 一炭素代謝はSAMを介してヒストンメチル化へ接続する

 一炭素代謝の中心をなす葉酸回路とメチオニン回路は、一炭素単位を受容体分子へ受け渡す。とくにメチオニン回路は、S-アデノシルメチオニン(SAM)を産生することで、代謝状態をヒストンメチル化へ接続する。
 ヒストンメチル基転移酵素(HMT)は、SAMからヒストンのリジンまたはアルギニン残基へメチル基を転移し、S-アデノシルホモシステイン(SAH)を生成する。細胞内SAM濃度は多くのHMTのKm値に近く、SAHはHMTを阻害するため、SAM量やSAM/SAH比のわずかな変化でもヒストンメチル化は変動しうる。実際、スレオニン欠乏やメチオニン欠乏、SAM消費酵素NNMTの過剰発現によって、SAM/SAH比とH3K4me3、H3K9me2、H3K27me3が変化することが報告されている。
 しかし、代謝変化がどのHMTに作用し、どのヒストン修飾・遺伝子群を選択的に変化させるのかは十分明らかではない。本総説では、メチオニン代謝とSAM供給に注目し、HMTの生化学的特性と標的特異性が代謝状態を選択的なヒストンメチル化と遺伝子発現へ変換する可能性を検討する。

2.メチオニンと一炭素代謝はSAMを産生する

2.1 葉酸回路とメチオニン回路が一炭素単位を受け渡す

 一炭素代謝は葉酸回路とメチオニン回路を中心に構成され、一炭素単位を運搬してさまざまな受容体分子へ供給する(図1)。葉酸回路では、テトラヒドロ葉酸(THF)がセリンなどから一炭素単位を受け取り、5,10-メチレンTHFや5-メチルTHFへ変換される。
 5-メチルTHFは、メチオニン合成酵素(MS)によるホモシステインの再メチル化に用いられ、メチオニンとTHFを生成する。この反応により、葉酸回路で運ばれた一炭素単位はメチオニン回路へ受け渡される。ホモシステインからメチオニンを再生する別経路として、ベタイン‐ホモシステインメチル基転移酵素(BHMT)が、コリン代謝由来のベタインからメチル基を供給する。

2.2 メチオニンはSAMを経てSAHとホモシステインへ循環する

 メチオニン回路では、メチオニンアデノシル基転移酵素(MAT)がメチオニンをアデニル化し、SAMを産生する(図1)。SAMは、代謝物、RNA、DNA、タンパク質のメチル化に用いられる普遍的なメチル基供与体であり、ヒストンメチル化にも利用される。
 SAMがメチル基を受容体分子へ渡すと、SAHが生成される。SAHはSAH加水分解酵素(SAHH)によりアデノシンとホモシステインへ分解されるが、生成物が十分に除去されないと逆反応が進み、SAHが蓄積しやすくなる。そのため、メチル化反応を維持するには、SAH由来の代謝物を後続経路へ流すことが重要である。
 ホモシステインは、MSまたはBHMTによってメチオニンへ再生されるほか、シスタチオニンβ合成酵素(CBS)によりセリンと縮合し、トランススルフレーション経路へ流入する。細胞内SAM量は、食事から供給される必須アミノ酸メチオニンの利用可能性に大きく依存する。血中メチオニン濃度は食事などの影響で変動する一方、SAMは主に細胞内に存在し、その濃度は組織によって異なる。すなわちメチオニン回路は、栄養状態を細胞内のメチル基供与能へ変換する代謝系である。

図1 一炭素代謝を構成する葉酸回路とメチオニン回路  

葉酸回路では、セリンなどに由来する一炭素単位がテトラヒドロ葉酸(THF)へ取り込まれ、5,10-メチレンTHF、5-メチルTHFへと変換される。5-メチルTHFは、メチオニン合成酵素(MS)を介してホモシステインをメチオニンへ再メチル化し、葉酸回路とメチオニン回路を接続する。メチオニンは、メチオニンアデノシル基転移酵素(MAT)によってS-アデノシルメチオニン(SAM)へ変換される。SAMはメチル基転移酵素にメチル基を供与し、S-アデノシルホモシステイン(SAH)を生成する。SAHは加水分解されてホモシステインとなり、MSまたはベタイン‐ホモシステインメチル基転移酵素(BHMT)によってメチオニンへ再生されるほか、トランススルフレーション経路へ流入する。

3.ヒストンメチル基転移酵素はSAM濃度に応答する

3.1 SAM/SAHバランスがヒストンメチル化能を左右する

 ヒストンは主にリジン残基とアルギニン残基でメチル化される。リジンには1〜3個のメチル基が付加され、アルギニンにはモノメチル化または対称・非対称ジメチル化が生じる。これらの反応は、リジンメチル基転移酵素(KMT)またはタンパク質アルギニンメチル基転移酵素(PRMT)によって触媒される。
 いずれのヒストンメチル基転移酵素(HMT)もSAMをメチル基供与体とし、反応産物としてSAHを生成する。SAMは反応基質である一方、SAHはHMTを阻害するため、ヒストンメチル化能はSAM濃度だけでなくSAM/SAH比にも依存する。
 この点は、ATPを利用するキナーゼ反応とは異なる。細胞内ATP濃度は一般にキナーゼのKm値を大きく上回るため、通常の範囲でATP量が変動しても反応速度はほとんど変化しない。一方、細胞内SAM濃度は多くのHMTのKm値と重なる範囲にあるため、SAM濃度のわずかな増減でもHMT活性とヒストンメチル化が変化しうる(図2)。


図2 細胞内基質濃度に対するメチル基転移酵素とキナーゼの応答性

酵素反応速度は基質濃度の上昇に伴って増加し、やがて最大反応速度へ近づく。細胞内SAM濃度はメチル基転移酵素(MT)のKm値と近い範囲にあるため、SAM量の変動が反応速度へ反映されやすい。これに対し、細胞内ATP濃度は一般にキナーゼのKm値を大きく上回り、キナーゼは基質がほぼ飽和した状態にある。したがってHMTはキナーゼよりも基質濃度の変化を受けやすく、一炭素代謝の変動をヒストンメチル化へ伝える代謝センサーとして機能しうる。

3.2 HMTごとの反応速度論が代謝感受性を決める

 リジン特異的HMTの多くは、Su(var)、Enhancer of Zeste、Trithoraxに由来するSETドメインをもつ。例外はH3K79をメチル化するDOT1Lである。SETドメインは、SAM結合部位とヒストン基質結合部位を結ぶトンネル状の構造を形成する。KMT7/SET7/9では、ヒストンH3由来ペプチドが酵素表面に結合し、標的となるリジン残基がSETドメイン内部の活性部位へ挿入される(図3A、B)。
 活性部位では、標的リジンの側鎖がリジンアクセスチャネルへ入り、その反対側にメチル基供与体が配置される(図3C)。このチャネルの形状や活性部位残基の配置は、HMTの基質特異性や、標的リジンへ付加できるメチル基数を左右する。
 標的リジンの脱プロトン化されたε-アミノ基は、SAMのメチル基に対してほぼ直線状に配置される。この構造は、ε-アミノ基がSAMのメチル基を求核攻撃するSN2型のメチル基転移機構を支持する。したがって、HMT活性はSAM供給量だけでなく、酵素の立体構造、細胞内量、標的ヒストンへの接近性によっても制御される。


図3 KMT7/SET7/9によるヒストンリジンの認識とメチル基転移機構
 

A KMT7/SET7/9の全体構造。SETドメインは、補酵素結合部位とヒストン基質結合部位を隔てる立体構造を形成する。  B KMT7/SET7/9とヒストンH3由来ペプチドの複合体構造。ヒストンペプチドは酵素表面に沿って結合し、標的リジン残基がSETドメイン内部の活性部位へ挿入される。  C 活性部位の拡大図。標的リジンの側鎖は狭いリジンアクセスチャネルへ入り、ε-アミノ基が補酵素のメチル基に近接して配置される。この配置は、SN2型反応によるメチル基転移を支持する。チャネルを構成するアミノ酸残基の配置は、基質認識と付加されるメチル基数を規定する。

 さらに、HMT間ではSAMに対するKm値が大きく異なる(表1)。H3K4をメチル化するMLL1/KMT2AのKmは約10.4 μM、H3K9を標的とするSUV39H1/KMT1Aでは約12.3 μMである。一方、H3K27をメチル化するEZH1とEZH2のKmは、それぞれ約1.24 μMと1.64 μMである。Km値の高い酵素ほどSAM濃度の低下による影響を受けやすく、Km値の低い酵素は低濃度のSAMでも比較的活性を維持しやすい。
 したがって、一炭素代謝が変化しても、すべてのHMT活性が同程度に低下するわけではない。各HMTの反応速度論的特性に応じて、特定のヒストンメチル化が選択的に変化すると考えられる。

表1 代表的なヒストンメチル基転移酵素のSAMに対する反応速度論的特性

HMTは標的とするヒストン残基・メチル化段階に加え、SAMに対するKm値も異なる。表中にはH3K4、H3K9、H3K27を標的とする代表的酵素のKm値を示す。細胞内SAM濃度がこれらのKm値と近いことから、一炭素代謝の変動はHMTごとのSAM感受性に応じて異なる影響を与えると考えられ、とくにMLL1/KMT2AやSUV39H1/KMT1AはEZH1・EZH2よりSAM低下の影響を受けやすい可能性がある。

4.ヒストンメチル化はクロマチン状態と遺伝子発現を制御する

4.1 リーダータンパク質がメチル化標識を読み取る

 ヒストンのリジン残基にメチル基が付加されても、アセチル化やリン酸化とは異なり、局所の電荷やDNAへのアクセス性は大きく変化しない。そのため、ヒストンメチル化の機能は修飾そのものよりも、それを認識するリーダータンパク質を介して発揮される。
 リーダータンパク質には、クロモドメインやRoyalスーパーファミリーに属するメチル化リジン結合ドメインなどが含まれる。これらの因子は特定のメチル化標識へ結合し、クロマチン再編成因子や転写装置を動員することで、転写、RNAプロセシング、DNAメチル化、DNA損傷応答などへ情報を変換する。
 代表例として、H3K4me3はTAF3などの因子によって読み取られ、転写開始複合体の形成を促進する。一方、抑制性のH3K9me3やH3K27me3は、HP1やPolycomb複合体などのリーダーを介して抑制的クロマチン状態を形成する(参考図1)。したがって、一炭素代謝によってHMT活性が変化すると、その影響はヒストン上のメチル化量にとどまらず、リーダータンパク質の結合とクロマチン構造の変化を介して遺伝子発現へ波及する。

参考図1 メチル化標識を読み取り、クロマチン状態と転写を制御するリーダータンパク質  (おへそ作成)

上段は活性化経路を示す。H3K4me3は活性型プロモーターの転写開始点付近に集積し、TFIID構成因子TAF3に認識されることで、一般転写因子やRNAポリメラーゼIIを含む転写装置の動員を促進する。下段は抑制経路を示す。H3K9me3はHP1を介してヘテロクロマチン形成を促進し、H3K27me3はPolycomb複合体を介してクロマチン凝縮と遺伝子サイレンシングへつながる。本図は、ヒストンメチル化標識がリーダータンパク質によって読み取られ、異なる転写状態へ変換される過程を模式的に示す。

4.2 H3K4、H3K9、H3K27メチル化は異なる転写状態を形成する

 ヒストンメチル化の作用は修飾部位によって異なる。H3K4me3は活発に転写される遺伝子の転写開始点付近に集積し、活性型プロモーターの指標となる。基本転写因子TFIIDの構成因子TAF3によって認識され、RNAポリメラーゼII依存的な転写開始を促進する。一方、H3K4me1は主にエンハンサー領域に分布し、遠隔からの遺伝子制御に関わる。
 H3K9メチル化は、構成的または条件依存的なヘテロクロマチンの形成と維持に関与する。H3K9me3にはHP1が結合し、SUV39H1と協調して周辺のH3K9メチル化を広げる。この正のフィードバックによってクロマチンの凝縮状態が維持され、転写が抑制される。
 H3K27メチル化も遺伝子抑制と結びつく。これを担うEZH1とEZH2はPolycomb抑制複合体に属し、H2Aのユビキチン化、DNAメチル基転移酵素の動員、クロマチン凝縮を通じて遺伝子サイレンシングを促進する。
 このように、H3K4、H3K9、H3K27のメチル化は、それぞれ異なるリーダータンパク質とクロマチン制御機構へ接続される。そのため、SAM量の変化によって特定のHMT活性が変動すれば、影響は一様な転写増減ではなく、修飾部位ごとに異なる遺伝子発現応答として現れる。

5.HMTごとの特異性が選択的な遺伝子制御を生む

5.1 H3K4メチル基転移酵素はプロモーターとエンハンサーを選択的に制御する

 H3K4メチル化は活性化された遺伝子のプロモーターやエンハンサーに分布し、その形成にはSET1およびMLLファミリーのHMTが関与する。酵母ではSET1がCOMPASS複合体を形成し、転写中のRNAポリメラーゼIIと結合して、活発に転写される遺伝子へH3K4メチル化を付加する。哺乳類ではSET1A、SET1Bに加え、MLL1〜4がそれぞれ異なるCOMPASS様複合体を形成する。
 これらの酵素は機能的に重複する部分をもちながらも、標的とする遺伝子領域は同一ではない。MLL1は活性型プロモーターのH3K4me3形成に広く関与し、MLL2は発生関連遺伝子の二価プロモーター、MLL4は分化に伴って活性化されるエンハンサーに選択的に局在する。したがって、H3K4メチル化を担う酵素群の活性が変化しても、すべての活性型クロマチンが一様に変化するのではなく、特定のプロモーターやエンハンサーが選択的に影響を受けると考えられる。

5.2 H3K9・H3K27メチル基転移酵素は抑制性クロマチンを形成する

 H3K9メチル化を担うSUV39H1とSUV39H2は、主にセントロメア周辺領域のクロマチン構造を維持する。一方、EHMT2/G9aは発生関連遺伝子などに局在し、一部ではPolycomb抑制複合体2と共局在する。H3K9メチル化も一様な抑制マークではなく、酵素ごとに異なる染色体領域や遺伝子群を制御している。
 H3K27メチル化はEZH1またはEZH2によって触媒される。両酵素には機能的な重複がある一方、EZH2の抑制によって細胞周期、細胞死、細胞機能の調節に関わる一群の遺伝子でH3K27メチル化が低下し、発現が上昇することが示されている。すなわち抑制性ヒストンメチル化も全ゲノムに均一に作用するのではなく、酵素ごとに異なる標的遺伝子群を制御する。

5.3 代謝変化の影響はHMTと標的遺伝子によって異なる

 一炭素代謝の変化は、ヒストンメチル化を一括して増減させる単純な入力ではない。HMTごとにSAMに対するKm値が異なるうえ、酵素量、複合体形成、標的ヒストンへの接近性、標的遺伝子への局在も異なるため、代謝変化の影響は酵素間で一様ではない。
 たとえばメチオニン不足によってSAM濃度が低下すると、Km値の高いHMTは活性低下の影響を受けやすい。参考図2に示すように、MLL1/KMT2Aのような高KmのHMTではH3K4me3が低下しやすく、その結果TAF3/TFIIDの結合やRNAポリメラーゼIIの動員が弱まり、発生関連遺伝子やHox遺伝子など一部の活性化遺伝子で発現低下が起こりうる。一方、EZH1/EZH2のような低KmのHMTでは活性が保たれやすく、H3K27me3やPolycomb複合体を介した抑制状態も維持されやすいため、すでに抑制されている遺伝子群はオフのまま保たれやすい。
 このように、栄養低下時に生じるのはゲノム全体の一様な転写停止ではなく、HMTごとの速度論的特性と標的特異性に応じた選択的な転写変化である。ただしこの選択性はKm値のみで決まるわけではなく、実際の応答には酵素の発現量、局在、複合体構成、他のヒストン修飾との相互作用も関わる。したがって、代謝変化に応答する遺伝子群を明らかにするには、異なる栄養条件下でのクロマチン解析と遺伝子発現解析を組み合わせることが重要である。


参考図2 代謝低下が特定の遺伝子発現のみを選択的に変える仕組み(おへそ作成)

メチオニン不足によってSAM濃度が低下すると、細胞内SAM濃度が作動域に近い高KmのHMTは活性低下の影響を受けやすい。上段はその例を示す。MLL1/KMT2A活性の低下はH3K4me3の減少をもたらし、TAF3/TFIIDの結合低下とRNAポリメラーゼIIの動員低下を介して、一部の活性化遺伝子の発現低下へつながる。下段は低KmのHMTの例を示す。EZH1/EZH2は活性を維持しやすく、H3K27me3とPolycomb複合体を介した抑制状態も保たれやすいため、すでに抑制されている遺伝子群はサイレンシングが維持される。本図は、一炭素代謝の変化がゲノム全体を一様に停止させるのではなく、HMTごとの速度論的特性と標的特異性に応じて選択的な転写変化を生むことを模式的に示す。

6.結論:一炭素代謝は代謝状態を選択的なエピゲノム変化へ変換する

 一炭素代謝は、葉酸回路とメチオニン回路を介してSAMを産生し、栄養状態をヒストンメチル化へ接続する。SAMはHMTの反応基質、SAHはその阻害因子として働くため、細胞のメチル化能はSAM量とSAM/SAH比に左右される。
 ただし、代謝変化の影響はすべてのHMTやヒストン修飾に一様に及ぶわけではない。HMTごとにSAMに対するKm値、酵素量、複合体形成、標的領域が異なるため、SAM濃度の変化は特定のヒストンメチル化と遺伝子群に選択的な変化をもたらす。すなわち、一炭素代謝は単なるメチル基供給系ではなく、栄養状態を特異的なクロマチン変化と遺伝子発現へ変換する代謝感知機構といえる。
 今後は、食事、がん、老化などの生理・病態条件下でメチオニン代謝がどのように変化し、それがどのHMT、ヒストン修飾、遺伝子群へ波及するのかを明らかにする必要がある。代謝とエピジェネティクスの接続を遺伝子特異的に理解することは、栄養環境が一過性あるいは持続的な遺伝子発現変化を生み分ける分子基盤の解明につながる。



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