〜 おへその乱読1000本ノック #0066 ~ 長寿遺伝子APOEの別の顔:神経炎症とアルツハイマー病
第66回「おへその乱読1000本ノック」へようこそ。
今回のテーマは、APOEと神経変性疾患です。第63回では、APOEを健康長寿に関わる遺伝的因子のひとつとして取り上げました。しかし、APOEは長寿研究だけでなく、アルツハイマー病研究においても非常に重要な遺伝子です。とくにAPOE4アレルは、遅発性アルツハイマー病の代表的な遺伝的リスク因子として知られています。
今回取り上げる Fernández-Calle et al.(2022)は、APOE遺伝子型がアルツハイマー病病理や脳疾患にどのような影響を与えるのかを整理したレビューです。apoE2・apoE3・apoE4の構造と機能の違い、脳内の脂質輸送、アミロイドβやタウ病理、神経炎症、グリア細胞機能、さらに食事・運動・性差・年齢との関係まで、APOEをめぐる幅広い論点が扱われています。
とくに興味深いのは、APOEが単なるリスク遺伝子ではなく、脳の脂質代謝と免疫応答をつなぐ結節点(ハブ)として描かれている点です。APOEは、健康長寿に関わる一方で、脳がどのように老化し、どのように壊れやすくなるのかにも深く関わっています。
このレビューを手がかりに、今回はAPOEを、寿命を支える遺伝的背景としてだけでなく、脳の老化、神経炎症、アルツハイマー病病理を結びつける分子として見つめ直していきます。

要旨
ApoEは、中枢神経系における主要な脂質・コレステロール輸送体である。ヒトAPOEには主にAPOE2、APOE3、APOE4の3つの多型が存在し、そのうちAPOE4は遅発性アルツハイマー病の最も強力な遺伝的リスク因子のひとつである。アルツハイマー病では、アミロイドβプラークと過リン酸化タウからなる神経原線維変化に加えて、神経炎症が第3の病理学的特徴として位置づけられる。
本レビューでは、apoEの進化的背景、APOE多型がapoEの構造と機能に与える影響、中枢神経系におけるapoEの産生・分泌・脂質化、受容体結合、細胞間コミュニケーションについて整理される。さらに、APOE多型がアストロサイトやミクログリアの機能、神経炎症応答、シナプス機能、Aβ蓄積、タウ病理、オートファジーに与える影響が検討される。
APOE4は、Aβ凝集やクリアランス低下、タウ病理の増悪、神経炎症の促進、シナプス障害、脂質代謝異常など、AD病理の複数の側面に関与する。一方で、APOEの影響はADに限定されず、パーキンソン病、レビー小体関連疾患、外傷性脳損傷、脳卒中、ALS、多発性硬化症など、明らかな神経炎症を伴う他の中枢神経疾患にも及ぶ可能性がある。
また、APOE遺伝子型の影響は、性差、年齢、食事、身体活動、治療介入などの因子によって修飾される。本レビューは、APOEを単なるADリスク遺伝子としてではなく、脂質代謝、神経炎症、グリア細胞応答、タンパク質凝集、神経変性をつなぐ分子として捉え、APOE研究の現状と今後の治療標的としての可能性を整理する。
1.背景
1.1 アルツハイマー病の基本病理
アルツハイマー病は、進行性の認知機能低下と記憶障害を特徴とする神経変性疾患である。病理学的には、細胞外のアミロイドβプラークと、過リン酸化タウからなる神経原線維変化を主な特徴とする。古典的なアミロイドカスケード仮説では、Aβの産生と除去の均衡が崩れ、Aβが蓄積することが病態の起点になると考えられてきた。Aβの蓄積は、炎症、酸化ストレス、カルシウム恒常性の異常、膜電位の変化、細胞骨格障害などを介して神経毒性を示し、タウ病理を促進するとされる。
1.2 アミロイド仮説の限界と多因子疾患としてのAD
一方で、近年はアミロイド仮説の限界も指摘されている。抗アミロイド治療の多くが十分な臨床効果を示さなかったこと、アミロイドプラーク密度と疾患重症度が必ずしも対応しないこと、臨床経過を十分に再現するADモデルが限られていることなどがその理由である。そのため、細胞老化随伴分泌形質、ミスフォールドタンパク質のプリオン様伝播、コリン作動性障害、炎症・感染仮説、タウを中心とする病態仮説など、複数の病因論が検討されている。
1.3 早発性ADと遅発性AD
ADは、発症年齢に基づいて早発性ADと遅発性ADに大別される。早発性ADは全症例の2〜10%を占め、65歳未満で発症し、APP、PSEN1、PSEN2などの常染色体優性変異と関連することが多い。一方、遅発性ADは多くが孤発性であり、症状出現の10〜20年前からAβ関連変化が進行する長い前臨床期をもつ。遅発性ADにおいて最も重要な遺伝的リスク因子がAPOEである。APOE2はAβ依存的および非依存的な機構を通じてリスクを低下させる一方、APOE4は1コピーで約3倍、2コピーで約9〜15倍にADリスクを高めるとされる。
1.4 APOEを中心にAD病理を読み直す
APOEの影響は複雑で多因子的である。APOE4は、Aβ凝集、タウ病理、神経炎症、神経変性を悪化させるとされ、アストロサイトやミクログリアの発現プロファイルにも影響する。さらに、近年のシングルセル解析、トランスクリプトミクス、メタボロミクスにより、APOEがAD病理の複数の側面に関与することが示されている。GWASでは遅発性ADに関わる多数のリスク座位が同定されており、それらはエンドサイトーシス、細胞内輸送、APPプロセシング、タウ代謝、脂質・エネルギー代謝、シナプス可塑性、炎症、自然免疫、グリア細胞活性化など多様な経路に関係する。
1.5 本レビューの射程
本レビューでは、APOE多型がAD病理に与える影響を、グリア活性、シナプス機能、オートファジー、細胞内シグナル伝達などの観点から整理する。さらに、食事、性差、身体活動などの外的因子や、AD治療および臨床試験との関係も扱う。APOEの影響はADに限らず、明らかな神経炎症を伴う他のタンパク質凝集疾患や神経変性疾患にも及ぶため、それらの疾患におけるAPOE遺伝子型の影響も検討される。
2. APOEの進化的側面
2.1 アポリポタンパク質ファミリーとしてのAPOE
ここでは、APOEが進化的に保存されたアポリポタンパク質ファミリーの一員として整理される。アポリポタンパク質は水生および陸生の脊椎動物に広く存在し、APOEのオルソログは魚類、両生類、爬虫類、哺乳類に認められる。一方で、鳥類ではAPOEが欠失しており、鳥類系統に特異的な遺伝子喪失と考えられる。APOE遺伝子は、約4億年前に魚類と哺乳類の共通祖先でAPOC1の重複から進化した可能性がある。
2.2 ヒトAPOE多型の特徴
ヒトに特徴的なのは、APOEに複数の機能的多型が存在する点である。主要なAPOEアレルであるAPOE2、APOE3、APOE4は、rs429358とrs7412という2つの一塩基多型の組み合わせによって生じる。これに対し、チンパンジー、デニソワ人、ネアンデルタール人では、ヒトAPOE4に近い単型のAPOEが認められる。したがって、APOE2およびAPOE3は、ヒト系統で生じた比較的新しい多型である可能性がある(参考図1)。

2.3 APOE多型をめぐる選択圧
APOE多型がどのような選択圧によって維持されてきたのかは明らかではない。APOE3が肉食への適応と関係した可能性、APOE3およびAPOE2がヒトの長寿化に関与した可能性がある。一方で、APOE4についても、感染症が主要な選択圧であった時代に免疫機能上の利点をもっていた可能性が示される。寄生虫負荷の高い集団では、APOE4がAPOE3よりも認知機能を保つ可能性も報告されており、APOE4が環境条件によって異なる影響をもつことが示唆される。
APOE多型は、現代の疾患リスクだけでなく、脂質代謝、長寿、感染防御などの進化的背景の中で形成されてきた遺伝的多様性である。
3. apoEの構造とアイソフォーム
3.1 apoEタンパク質の基本構造
apoEは299アミノ酸からなる約34 kDaの糖タンパク質であり、両親媒性の交換可能アポリポタンパク質ファミリーに属する。ヒトAPOE遺伝子は19番染色体長腕の19q13.32に位置し、4つのエクソンと3つのイントロンから構成される。apoEタンパク質は、受容体結合領域を含むN末端ドメイン、脂質結合領域を含むC末端ドメイン、および両者をつなぐ柔軟なヒンジ領域からなる。apoEの構造的特徴と主要な変異部位は、図1に模式的に整理されている。

3.2 apoE2・apoE3・apoE4の違い
ヒトAPOEには、APOE2、APOE3、APOE4という主要な3つのアレルが存在し、それぞれapoE2、apoE3、apoE4というタンパク質アイソフォームを生じる(参考図2)。これらの違いは、112番目および158番目のアミノ酸残基によって規定される。apoE2はCys112/Cys158、apoE3はCys112/Arg158、apoE4はArg112/Arg158をもつ。わずかなアミノ酸置換であっても、apoEの折りたたみ構造、脂質結合能、受容体結合能に違いを生じさせる。
APOEアレルの組み合わせにより、ヒトでは3種類のホモ接合型と3種類のヘテロ接合型が生じる。世界集団におけるAPOE2、APOE3、APOE4のアレル頻度は、それぞれ約7%、79%、15%とされる。APOE3が最も一般的なアレルである一方、APOE4は遅発性アルツハイマー病の重要な遺伝的リスク因子として位置づけられる。

3.3 APOE多型と研究モデル上の注意点
マウスapoE遺伝子は7番染色体に位置し、ヒトのような主要な複数アイソフォームをもたない。マウスapoEの機能的特徴はヒトapoE3に近いとされるが、ヒトapoEとマウスapoEでは、Aβクリアランス、神経炎症、シナプス維持などのAD関連過程における機能が異なる。そのため、ADモデル研究では、ヒトAPOE配列を導入したトランスジェニックモデルが用いられる。
主要なAPOE2、APOE3、APOE4に加えて、Christchurch変異やJacksonville変異など、apoEの機能に影響しうる希少変異も報告されている。これらの変異は、APOEの構造変化がAD病理に影響する可能性を示す例として位置づけられる。
apoE2、apoE3、apoE4の違いはわずか2か所のアミノ酸残基に由来するが、その構造差は脂質結合や受容体結合を変化させ、AD病理に関わる機能差につながる。
4. 中枢神経系におけるapoEの産生・分泌・脂質化
4.1 脳内apoEの主な産生細胞
中枢神経系において、apoEは脂質およびコレステロール輸送を担う主要なアポリポタンパク質である。脳内ではアストロサイトがapoEの主要な産生細胞であり、ミクログリア、オリゴデンドロサイト、ペリサイト、脈絡叢、ストレス条件下のニューロンも少量ながらapoEを産生しうる。apoEは小胞体で合成された後、ゴルジ体で糖鎖修飾やシアル酸化を受け、細胞膜へ輸送されて分泌される。
4.2 LXR/RXR経路とABCA1によるapoE脂質化
アストロサイトにおけるAPOE発現と分泌は、コレステロール代謝に関わるLXR/RXR経路によって調節される。apoEが機能するためには、分泌されるだけでなく脂質化される必要があり、この過程にはABCA1およびABCG1が関与する。ABCA1はコレステロール排出とHDL形成に重要であり、apoEの脂質化状態は受容体結合能、分子安定性、機能に影響する。
4.3 APOE4による脂質輸送の障害
APOEアイソフォームの違いはapoE脂質化にも影響し、脂質化の程度はapoE4<apoE3<apoE2の順に異なるとされる。apoE4は自己凝集しやすく、ABCA1の膜リサイクリング低下を介してapoE4粒子の脂質化を低下させる可能性がある。脳内で脂質化されたapoEは、LRP1、LDLR、VLDLR、ApoER2などの受容体を介してニューロンへ作用し、膜構造の維持、シナプス可塑性、シグナル伝達、傷害後修復などに関与する。アストロサイトからニューロンへの脂質輸送と、APOE4による低脂質化、凝集、エンドソーム経路、シナプス受容体への影響は、図2に模式的に整理されている。

apoEはアストロサイトを中心に産生され、ABCA1などにより脂質化された後、ニューロンへ脂質を運ぶ。APOE4ではこの脂質輸送が乱れやすく、シナプス機能や神経細胞の恒常性に影響しうる。
5. apoEアイソフォームによる受容体・標的分子結合の違い
5.1 apoEアイソフォームと結合特性
APOEアレルの違いは、apoEが結合する脂質粒子の大きさ、脂質やプロテオグリカンとの相互作用、脳内脂質プロファイル、受容体への結合能に影響する。apoE4はVLDLやLDLへの親和性が高く、apoE3およびapoE2はHDLへの親和性が高いとされる。これらの違いは、apoEアイソフォームごとの構造差に基づく脂質結合性や受容体認識の違いを反映している。
5.2 LDLRファミリー受容体との相互作用
apoEは、LDLR、LRP1、VLDLR、ApoER2などのLDL受容体ファミリーを介して細胞内に取り込まれる。LDLRは主に脂質化apoE粒子に結合し、LRP1は組換えapoE、apoE凝集体、apoEを多く含むリポタンパク質粒子などに結合する。VLDLRは脂質を含まないapoEにも結合しうる。ApoER2およびVLDLRはReelinシグナル伝達にも関与し、学習、神経細胞移動、樹状突起成長、シナプス可塑性に関わる。主要なapoE受容体と中枢神経系における発現細胞は、表1に整理されている。

5.3 apoE2・apoE3・apoE4の結合親和性の違い
apoEアイソフォーム間では、受容体結合親和性にも違いがみられる。LDLRへの結合はapoE2で低く、apoE3およびapoE4で高い。LRP1への結合もapoE2で低く、apoE3およびapoE4で高いとされる。SORLA/LR11では、apoE2の結合親和性が低く、apoE4で高い傾向が示される。これらの受容体結合性の違いは、アイソフォームごとの脂質代謝、細胞内取り込み、AD病理への影響を理解するうえで重要である。apoEアイソフォームごとの主要受容体への結合親和性は、表2に整理されている。

5.4 脂質・プロテオグリカンとの相互作用
apoEは脂質だけでなく、プロテオグリカンやグリコサミノグリカンとも相互作用する。apoE4はヘパラン硫酸やデルマタン硫酸に強く結合する一方、脂質を含まない状態ではヘパリンへの結合がapoE3やapoE2より低いとされる。HSPGsは細胞外マトリックスに豊富に存在し、Aβやタウ凝集体との相互作用、Aβ取り込み、アミロイド沈着にも関与する。apoEアイソフォームごとの脂質結合およびN末端側を介した結合特性は、表3に整理されている。

apoEアイソフォームは、脂質粒子、受容体、プロテオグリカンへの結合性が異なる。この結合特性の違いが、脳内脂質輸送、細胞内取り込み、Aβ・タウ病理、神経炎症への影響を分ける基盤となる。
6. APOE多型が中枢神経系細胞の生理機能に与える影響
6.1 APOE多型と細胞機能の変化
APOEアイソフォームは、中枢神経系のさまざまな細胞機能に影響する。ニューロンではシナプス機能、アストロサイトでは脂質恒常性、ミクログリアでは免疫応答が主な影響対象となる。さらに、APOE多型はミトコンドリアの生合成や動態にも関与する。APOE4/4マウスでは、APOE3/3マウスと比較して、加齢に伴う皮質および海馬のミトコンドリア呼吸の変化や、酸化的リン酸化関連遺伝子の発現変化が報告されている。
6.2 APOE4とシナプス障害
APOE4は、シナプス変性とも密接に関連する。APOE4をもつAD患者由来の脳オルガノイドでは、細胞死の増加とシナプス完全性の低下が認められている。また、iPS細胞由来のニューロンやグリア細胞を用いた研究では、APOE4をAPOE3へ等遺伝子的に変換することで、トランスクリプトームの大きな変化とAPOE4関連表現型の軽減が示されている。したがって、APOE4は単にADリスクを示す遺伝的マーカーではなく、神経細胞やグリア細胞の機能状態そのものを変化させる因子として位置づけられる。
APOE多型は、ニューロン、アストロサイト、ミクログリアの機能に影響し、APOE4ではシナプス維持、ミトコンドリア機能、細胞応答の異常が生じやすい。
7. 脳・髄液・血液におけるapoEの分布
7.1 脳内apoEと髄液apoE
apoEは髄液中の主要なリポタンパク質のひとつであり、中枢神経系では主にHDL様粒子と結合してコレステロールを輸送する。APOEノックインマウスを用いた研究では、脳内apoE量にアイソフォーム依存的な違いが認められ、apoE2、apoE3、apoE4の順に低下するとされる。APOE4発現マウスでは、他のアイソフォームと比べて髄液中apoE量も低いことが報告されている。一方、ヒト研究では、APOE遺伝子型が髄液中の総apoE濃度に明確な影響を与えないとする報告もあり、髄液apoEとAD病態との関係はなお一貫していない。
7.2 中枢apoEと末梢apoEの関係
血漿中のapoEと中枢神経系のapoEは、血液脳関門を越えて自由に交換されるわけではなく、基本的には独立したプールとして存在する。末梢では主に肝細胞がapoEを産生し、中枢神経系ではアストロサイトが主要な産生細胞となる。そのため、血漿apoE量の変化がそのまま脳内apoE量を反映するとは限らず、ヒト研究でも髄液apoE濃度と血漿apoE濃度の相関は低いとされる。
ただし、末梢apoEも脳機能と無関係ではない。血漿apoEの回復によって学習・記憶が改善するマウス研究や、ヒトAPOE4肝臓をもつマウスでシナプス完全性、インスリンシグナル、神経炎症への影響が報告されている。ヒト研究でも、低い血漿apoE値はADや他の認知症リスクと関連し、血漿apoE量にはAPOE遺伝子型、性差、年齢、代謝状態が影響する可能性がある。
apoEは脳・髄液・血液に存在するが、中枢と末梢のapoEは基本的に独立したプールである。血漿apoEは脳内apoEをそのまま反映しない一方で、認知機能や脳代謝、神経炎症と関係しうる指標として注目されている。
8. 神経炎症応答におけるAPOE
8.1 神経炎症とAPOE
神経炎症は、中枢神経系が傷害や病的刺激に応答して恒常性を回復しようとする反応である。短期的には保護的に働くが、過剰または慢性的な神経炎症は神経変性を促進する。アルツハイマー病では、アミロイドβプラーク、タウ神経原線維変化に加えて、神経炎症が第3の病理学的特徴として位置づけられる。神経炎症の中心となる細胞はミクログリアとアストロサイトであり、APOEはこれらの細胞の応答を変化させる。APOE4ノックインマウスでは、炎症刺激後のグリア活性化、炎症性サイトカイン産生、シナプスタンパク質喪失がAPOE3やAPOE2より強くみられる。
8.2 ミクログリア受容体とAPOE
ミクログリアは、中枢神経系の常在性マクロファージとして周囲環境を監視し、炎症、貪食、シナプス刈り込み、神経保護などに関与する。本文では、APOEと関連するミクログリア受容体として、TREM2、TLR、TAM受容体、LRP1、補体系などが整理される。特にTREM2はADリスク遺伝子として重要であり、apoE、Aβ、リン脂質、損傷ミエリン関連分子などを認識し、ミクログリアの生存、遊走、活性化、貪食、脂質代謝に関与する。TREM2とAPOEは、疾患関連ミクログリア表現型の形成に深く関わる軸として位置づけられる。
TLR経路では、APOE4がTLR4依存的な炎症応答を介してAD病理に悪影響を与える可能性が示される。一方、apoE3はTLR4によるマクロファージ活性化を抑制しうる。TAM受容体はアポトーシス細胞やAβプラークの貪食に関わり、Aβプラークへの応答や脂質代謝関連遺伝子の発現にも影響する。LRP1はapoEの取り込みに関与するだけでなく、ミクログリア炎症応答の調節にも関わる。これらの受容体経路を通じて、APOEは脂質認識、貪食、炎症性シグナル、Aβ病理を結びつける因子として機能する。
8.3 ミクログリア動態と疾患関連表現型
近年の単一細胞解析やRNA-seqにより、ミクログリアは単純な「炎症性/抗炎症性」の二分法では説明できない多様な状態をとることが示されている。ADモデルでは、恒常性ミクログリア遺伝子の低下と、ApoE、Trem2、Tyrobp、Lpl、Clec7aなどの発現上昇を特徴とする疾患関連ミクログリアが同定されている。代表的な表現型として、DAMやMGnDが挙げられる。DAMはAβプラーク周囲で誘導される応答状態として、MGnDは複数の神経変性疾患モデルでみられる神経変性関連表現型として整理される。RNA-seq解析により分類された主なミクログリア表現型は、Table 4に整理されている。

ただし、これらのミクログリア表現型が常に有害であるとは限らない。TREM2やAPOEを介したミクログリア応答は、Aβプラーク周囲での封じ込めや貪食に関与する一方、文脈によっては炎症や神経毒性にもつながる。したがって、APOEを介したミクログリア応答は、保護的作用と病的作用の両面をもつ動的な過程として理解される。
8.4 アストロサイト機能とAPOE4
脳内apoEの大部分はアストロサイトによって産生される。アストロサイトはニューロンへのコレステロール供給を担い、成熟ニューロンの機能維持に重要である。ヒトiPS細胞由来モデルでは、APOE4アストロサイトでapoEタンパク質およびmRNA量がAPOE3アストロサイトより低く、アストロサイト由来apoE4はapoE3より脂質化が不十分であることが示されている。これにより、APOE4アストロサイトではニューロンへのコレステロール輸送効率が低下する可能性がある。
APOE4アストロサイトでは、コレステロール合成の増加、細胞内コレステロール蓄積、脂質代謝異常も報告されている。したがって、APOE4はミクログリア炎症応答だけでなく、アストロサイトを介した脂質恒常性とニューロン支持機能にも影響する。神経炎症におけるAPOEの役割は、ミクログリア単独ではなく、アストロサイト、ニューロン、血液脳関門、末梢免疫細胞を含む細胞間ネットワークの中で理解される。
APOEは神経炎症において、ミクログリアの疾患関連表現型とアストロサイトの脂質代謝を結びつける因子である。APOE4では、炎症応答、脂質恒常性、ニューロン支持機能が乱れやすく、AD病理の進行に関与しうる。
9. アルツハイマー病におけるAPOE
9.1 APOEとAβ病理
APOE4は、ADにおけるアミロイド病理と強く関連する。APOE4ではAβプラーク量が増加し、とくにプラークの成長よりもシーディングを促進する可能性が示されている。また、APOE4はAβの産生や凝集にも影響しうる。一方で、AβクリアランスはAPOE4存在下で最も低下するとされる。ニューロンによるAβの取り込み、エンドソーム輸送、リソソーム分解はapoE3の方がapoE4より強く促進される可能性があり、血液脳関門を介したAβ除去もapoE4ではapoE2やapoE3より低下する。したがって、APOE4はAβの蓄積を、産生・凝集・除去低下の複数の段階から促進しうる。
9.2 APOEとタウ病理
タウ病理はADの主要病理のひとつであり、認知機能低下と密接に関連する。APOE4保有者では、より典型的なBraakステージに沿った内側側頭葉から側頭・皮質領域へのタウ拡がりがみられることが報告されている。前臨床モデルでは、APOE4がタウ依存的な神経毒性、神経炎症、神経変性を悪化させることが示されている。P301Sタウオパチーモデルでは、APOE4発現マウスでタウ誘導性神経変性が最も強く、APOE欠損ではこの影響が軽減される。
一方で、ADにおいてapoEとタウの直接的な関係を切り分けることは難しい。APOE4のタウ病理への影響は、APOE遺伝子型がAβ蓄積に強く作用することを介した二次的な効果である可能性も議論されている。APOE2はAβ沈着に対して保護的に働く一方、タウ病理に対する同様の保護効果は一貫して示されていない。したがって、APOEとタウ病理の関係は、Aβ病理、ミクログリア応答、神経炎症を含む文脈の中で理解する必要がある。
9.3 APOEとシナプス機能
シナプスはADで早期に障害される細胞部位のひとつであり、シナプス終末の喪失は認知機能低下とよく相関する。apoEは脳内の主要な脂質輸送体として、アストロサイトからニューロンへコレステロールを運び、軸索成長、シナプス形成、スパインリモデリングに関与する。APOE4では、APOE3と比較して神経突起伸長やシナプス密度が低下し、長期増強も低下することが報告されている。
APOE4によるシナプス障害の機序として、エンドソームリサイクリングの障害が挙げられる。APOE4ではapoEやApoER2、NMDA受容体、AMPA受容体などがエンドソーム内に捕捉されやすくなり、Reelinを介したシナプス可塑性制御が乱れる可能性がある。アストロサイト由来APOE4の除去がシナプス喪失を救済することも報告されており、APOE4は脂質輸送だけでなく、受容体輸送やシナプス可塑性にも影響する。
9.4 APOEとオートファジー
エンドサイトーシス、ファゴサイトーシス、オートファジーは、細胞内輸送とリサイクリングに関わる密接な過程である。ADでは、これらの経路の破綻がAβ蓄積や神経炎症と関連する。遅発性AD関連アレルの中でも、APOE4はエンドサイトーシス・オートファジー経路との関連が強い。apoEはAβの内部化に関与するが、apoE4はapoE2やapoE3よりこの過程の効率が低く、Aβ蓄積につながる可能性がある。
APOE4アストロサイトでは、APOE3アストロサイトと比較してオートファジーフラックスが低く、Aβクリアランス能も低下する。APOE4マウスでは海馬におけるオートファジーおよびミトファジーの低下、エンドソーム・リソソーム経路の異常も報告されている。ヒト脳サンプルでも、APOE4保有者ではLC3、p62、LAMP2などのオートファジー関連分子の発現低下が示されている。これらの知見から、オートファジー異常はAPOE4がAD病理を悪化させる主要な細胞過程のひとつとして位置づけられる。Aβ病理、タウ病理、シナプス機能障害、エンドソーム・リソソーム経路、オートファジー異常を含むAPOE4のAD関連作用は、参考図3と表5に整理されている。


9.5 APOEと非遺伝的リスク因子
APOE遺伝子型は、年齢、性差、食事、身体活動などの非遺伝的リスク因子とも相互作用する。加齢はADの最大のリスク因子のひとつであり、APOE4のADリスクへの影響は65〜70歳で最も強いことが報告されている。加齢に伴う免疫老化や低度炎症は神経炎症と関連し、APOE4は炎症性タンパク質やADリスクとの関係にも影響する可能性がある。一方、APOE2は長寿や加齢性認知低下への保護と関連することが示されている。
食事や代謝状態もAPOEの影響を修飾する。APOE4は糖代謝や脂質代謝の変化、インスリン抵抗性、食事性脂質への応答と関連し、ADリスクに影響する可能性がある。身体活動については、APOE4保有者で座位時間の多さがアミロイドPET高値と関連する報告があり、身体活動とアミロイド負荷の関係はAPOE4保有者でより明瞭である可能性が示されている。ただし、運動介入がAβやタウのバイオマーカーを改善するかについては一貫した結果が得られておらず、介入時期、評価方法、APOE遺伝子型の影響をさらに検討する必要がある。
APOE4はAβ、タウ、シナプス、オートファジー、神経炎症を横断してAD病理に関与する。ただし、その影響は単独で決まるものではなく、年齢、性差、食事、身体活動などの非遺伝的因子と組み合わさって現れる。
10. AD治療と臨床試験:APOE4を標的とする戦略
10.1 APOE4を標的とする治療アプローチ
APOE4を標的とする治療戦略は、近年、動物モデルを中心に検討されている。主なアプローチとして、bexaroteneによるapoE量の増加、apoE模倣ペプチド、apoE-Aβ相互作用の阻害、APOE発現抑制、ゲノム編集によるAPOE4からAPOE2またはAPOE3への変換などが挙げられる。これらの前臨床研究では有望な結果が示されているが、完了済みまたは進行中の臨床試験はまだ少ない。
10.2 apoE量を増加させる戦略
apoE量を増加させる戦略として、RXR作動薬であるbexaroteneを用いた臨床試験が行われている。APP/PS1マウスでは、bexaroteneの経口投与によりAβクリアランスの増加、Aβプラーク面積の減少、認知機能障害の改善が報告された。一方、ヒトでは中枢神経系への移行性が低く、髄液apoE量の増加も限定的であった。第2相試験では、APOE4非保有者で脳内アミロイドの有意な減少が認められたが、APOE4保有者では変化がみられず、主要評価項目は陰性であった。
同様の方向性として、非スタチン系脂質低下薬であるprobucolを用いた臨床試験も行われているが、本文時点では結果はまだ公表されていない。したがって、apoE量を増やす戦略は理論的には有望であるものの、APOE遺伝子型、薬剤の中枢移行性、apoE脂質化状態などを考慮する必要がある。
10.3 APOE遺伝子型を変える戦略
より直接的なAPOE4標的戦略として、APOE4をAPOE2へ変換する遺伝子治療が検討されている。AAVベクターを用いてAPOE4からAPOE2への遺伝子スイッチを行う第1相試験では、APOE4ホモ接合型のAD患者を対象に、髄腔内投与の安全性が評価される。このアプローチはAPOE4ノックインモデルでapoE脂質化を増加させ、内因性Aβを低下させる有望な結果を示している。
また、APOE3ホモ接合型の若年ドナー由来血漿を、APOE4ホモ接合型の軽度認知障害患者へ投与する血漿交換療法の第1相試験も進行中である。これらの試験はいずれも本文時点ではリクルート段階であり、主に安全性評価を目的としている。
10.4 免疫療法とapoE抗体
AD治療では、aducanumab、gantenerumab、lecanemabなどの免疫療法が有望な進展として位置づけられている。一方で、これらの抗体療法では、脳出血と関連するアミロイド関連画像異常、すなわちARIAが問題となる。ARIAの原因は明確ではないが、APOE4保有者ではARIA反応が強まることが報告されている。
Aβを直接標的とする抗体とは別に、apoEを標的とする抗体療法も検討されている。動物モデルでは、HJ6-3やHAE-4などの抗apoEモノクローナル抗体により、脳内AβおよびapoE量の低下、認知機能の改善が示されている。特に低脂質化apoEを認識するHAE-4抗体では、実質内Aβプラークと脳血管アミロイドの両方が減少し、Aβ抗体で問題となる血管合併症を伴わなかったとされる。これらの知見は、抗apoE抗体が今後の臨床試験候補となりうることを示している。

APOE4を標的とする治療は、apoE量の調節、APOE遺伝子型の変換、apoE-Aβ相互作用の制御、抗apoE抗体など多方向に展開している。ただし、臨床試験はまだ少なく、APOE4を安全かつ有効に操作する治療戦略は発展途上である。
11. 他の神経変性疾患におけるAPOE
11.1 神経変性疾患に共通する病態軸
神経変性疾患では、神経構造や神経接続の喪失により、運動機能障害や認知症が生じる。多くの神経変性疾患に共通する機構として、異常タンパク質の蓄積、免疫系の活性化、神経細胞死が挙げられる。これらの過程は互いに密接に関連し、神経炎症、酸化ストレス、ミトコンドリア機能障害、軸索輸送障害、細胞死などを介して病態を進行させる。
この章では、AD以外の神経変性疾患や急性脳傷害におけるAPOE遺伝子型の影響が扱われる。特に、異常タンパク質がニューロン内に蓄積する疾患では、apoEのリソソーム・オートファジー制御が重要になる可能性がある。一方、脳卒中や外傷性脳損傷では、ミクログリアを中心とする強い炎症応答が誘導されるため、APOEは免疫応答と神経細胞内代謝の両面から病態に関与すると位置づけられる。AD以外の神経変性疾患および脳傷害におけるAPOEの関与は、Fig. 3に整理されている。

11.2 パーキンソン病とレビー小体関連疾患
パーキンソン病は、レビー小体と呼ばれる細胞内タンパク質凝集体を特徴とする神経変性疾患である。レビー小体の主要構成成分であるαシヌクレインは、脂質膜との相互作用を介して凝集や細胞間伝播に関わるとされる。apoEは脂質輸送体であるため、αシヌクレインの凝集や伝播、神経炎症に影響する可能性がある。実際、apoEアイソフォームによってαシヌクレイン凝集への影響が異なることや、パーキンソン病患者の髄液でapoE量が変化することが報告されている。
一方で、APOEとパーキンソン病発症リスクの関係はADほど一貫していない。大規模研究ではAPOEとPD発症そのものの明確な関連が示されない一方、APOEはパーキンソン病における認知機能低下やレビー小体型認知症の病態に関与する可能性がある。したがって、PD領域では、APOEを発症リスク因子としてではなく、αシヌクレイン病理、認知機能、神経炎症を修飾する因子として捉える必要がある。
11.3 外傷性脳損傷と脳卒中
外傷性脳損傷は、認知症リスクや記憶低下と関連し、APOE4はTBI後の転帰不良と関連する可能性が検討されている。TBI後にはアストロサイトやミクログリアの活性化、血液脳関門障害、Aβやタウの蓄積が生じうる。APOE4保有者のTBI後脳組織では、AβオリゴマーやAβ1-42の増加が報告され、apoE4存在下では可溶性Aβ中間体がより速く凝集する可能性が示されている。反復性TBIは慢性外傷性脳症にもつながり、APOE4保有者ではびまん性Aβプラークとの関連も示される。
脳卒中では、脳血流の途絶または出血により急性の脳傷害が生じる。APOE遺伝子型は、脳卒中の発症年齢、転帰、血液脳関門障害、脳卒中後認知症と関連する可能性がある。APOE4は虚血性脳卒中後の言語記憶回復遅延や嗅内皮質体積低下、脳卒中関連認知症リスクと関連することが報告されている。一方で、脳卒中におけるAPOEの影響は一方向ではなく、集団や評価項目によって異なる結果も示されている。虚血後のミクログリア応答、アストロサイト・内皮細胞相互作用、白質障害、Aβクリアランスとの関係が、APOEを介した病態修飾の重要な論点となる。
11.4 ALSと多発性硬化症
筋萎縮性側索硬化症は、運動ニューロンの変性と異常タンパク質蓄積を特徴とする進行性で致死的な神経変性疾患である。ALSでは神経炎症、アストロサイト応答、脂質代謝異常が病態に関与する。APOE遺伝子型とALSリスクとの関連は一貫しておらず、包括的メタ解析ではAPOE多型とALSの明確な関連は支持されていない。一方で、APOEやその関連経路は、発症年齢、脳代謝、脂質代謝異常、ABCA1やLXR経路の変化を通じてALS病態に関与する可能性がある。
多発性硬化症は、神経炎症と脱髄を特徴とする再発寛解性疾患であり、選択的な皮質ニューロン障害も伴う。APOE多型とMS発症の関係は長く議論されてきたが、研究結果は一貫していない。APOE4はMSの進行や重症度と関連する可能性が示される一方、大規模メタ解析ではAPOE4やAPOE2がMS感受性に明確に関与することは支持されていない。近年は、MSにおける脂質代謝異常、LXR経路、血液脳関門障害との関連が注目されており、APOEは発症リスクそのものよりも、炎症・脱髄・血管障害を修飾する因子として検討される。
APOEの影響はADに限られず、αシヌクレイン病理、外傷性脳損傷、脳卒中、ALS、MSにも及ぶ。ただし、疾患ごとに関与の強さや方向性は異なり、APOEは共通の発症因子というより、脂質代謝、神経炎症、血液脳関門、タンパク質凝集を修飾する分子として位置づけられる。
12. 結論
12.1 APOE遺伝子型が中枢神経系に与える広範な影響
APOE遺伝子型は、中枢神経系における細胞機能の多くの側面に影響し、ADだけでなく、明らかな炎症を伴う他の中枢神経疾患の進行にも関与する。APOE4は、Aβ病理、タウ病理、神経炎症、シナプス機能、脂質代謝、オートファジーなど複数の過程に関わるが、その作用は単一の経路に限定されない。したがって、APOEはADリスクを示す遺伝的マーカーにとどまらず、神経変性疾患の病態を多面的に修飾する因子として位置づけられる。
12.2 新規APOE変異と未解明の課題
APOEに関する新たな遺伝的変異は現在も同定されており、神経変性疾患におけるAPOE遺伝子型の意義を理解する手がかりとなっている。たとえば、脂質結合領域に変異をもつAPOE Jacksonville変異は、5xFADマウスでAβ凝集を低下させることが報告され、ADにおける脂質代謝の重要性を示している。また、R251G変異はADリスク低下と関連する可能性が示されている。
一方で、中枢神経系または末梢におけるapoE量の変化がもつ生物学的意味は、なお明確ではない。低い血漿apoE量は認知症リスク上昇と関連する一方、低いシナプス前apoE量はAD抵抗性と関連する可能性も報告されている。したがって、今後はapoEアイソフォーム量の変化を、脳内・髄液・血液といった区画ごとに分けて検討し、さらにニューロン、アストロサイト、ミクログリア、ペリサイトなど、どの細胞がapoE供給源となるのかを明らかにする必要がある。
12.3 APOEを取り巻く細胞環境と外的因子
APOE遺伝子型は、apoEを産生する細胞だけでなく、周囲の細胞環境や下流の分子経路にも影響する。さらに、APOE以外の遺伝因子や外的因子も、神経炎症や神経変性に関与し、年齢段階による記憶機能の違いに影響しうる。APOE4保有者であっても、年齢や環境条件によって認知機能への影響が異なる可能性があり、APOEの作用は発達段階、加齢、炎症状態、代謝状態と組み合わせて理解する必要がある。
また、総apoE濃度や各アイソフォーム濃度が、Aβ、リン酸化タウ、認知症の程度、その他の生物学的指標とどのように関係するのかは、現時点では十分に明らかではない。末梢apoEと中枢apoEの違い、腸脳相関、心血管疾患、黄斑変性などの末梢疾患との関連も、今後の検討課題として残されている。APOE遺伝子型は神経変性疾患だけでなく、炎症性眼疾患や網膜炎症とも関連する可能性があり、ADとの接点を含めた解析が重要である。
総じて、APOEはADリスクを示す単一の遺伝因子ではなく、脂質代謝、神経炎症、細胞間コミュニケーション、末梢代謝をつなぐ多面的な調節因子である。APOE遺伝子型の影響を理解するには、apoEアイソフォームの違いだけでなく、細胞種、組織区画、年齢、環境因子を含めた統合的な視点が必要である。
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