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〜 おへその乱読1000本ノック #0073 ~ タンパク質制限はアルツハイマー病の進行を遅らせるのか

 ようこそ、第73回 おへその乱読1000本ノックへ。
 今回は、アルツハイマー病モデルマウスにおいて、タンパク質制限が病理の発症・進行に及ぼす影響を検討した Babygirija et al.(2024)を取り上げます。
 前回までに、食餌制限や栄養バランスの変化が、老化や神経変性にどのように関わるのかを見てきました。第70回では、食餌制限がDNA修復欠損マウスの神経変性を抑えることを確認し、第71回では、タンパク質量とGLTD・老化進行の関係を読み解きました。今回はその流れを受けて、タンパク質制限という栄養介入が、アルツハイマー病モデルにどのような影響を及ぼすのかを見ていきます。
 食事による老化制御は、単に寿命や代謝の話にとどまるのでしょうか。それとも、神経変性疾患の進行にも関わりうるのでしょうか。今回は、タンパク質制限とアルツハイマー病病理の接点から、この論文を読んでいきます。

要約
 アルツハイマー病では、老化や代謝異常に加えて、mTORC1シグナルの亢進やオートファジーの低下が病理進行に関与する。本研究では、3xTg ADマウスに21%タンパク質の対照食または7%タンパク質のタンパク質制限食を与え、タンパク質制限がAD病態に及ぼす影響を検証した。
 タンパク質制限は、雌雄マウスの体脂肪蓄積を抑制し、とくに雌3xTgマウスの耐糖能異常とインスリン抵抗性を改善した。また、脳内および血中代謝物プロファイルを性依存的に変化させ、AD病理と関連するスフィンゴ脂質サブクラスを低下させた。
 神経病理では、雌3xTgマウスの海馬Aβプラーク密度と不溶性Aβ40が低下し、雌雄でTau Thr231リン酸化の加齢性上昇が抑制された。これらの変化と並行して、脳内mTORC1シグナルが低下し、p62低下を伴うオートファジー関連変化が認められた。
 さらに、タンパク質制限は3xTgマウスの認識記憶および空間記憶の障害を改善し、生存率も向上させた。以上より、タンパク質制限は3xTg ADマウスにおいて、代謝、脳内脂質環境、mTORC1・オートファジー関連経路、Aβ・Tau病理、認知機能、生存を多層的に改善し、AD進行を遅らせる栄養介入となりうることが示された。

1. イントロダクション

1.1 アルツハイマー病と老化・代謝異常

 アルツハイマー病は加齢とともに発症リスクが高まる神経変性疾患であり、高齢化に伴って患者数と医療負担の増加が予測されている。肥満や2型糖尿病もアルツハイマー病リスクと関連し、アルツハイマー病患者では糖代謝の障害も認められる。したがって、アルツハイマー病の進行を抑える新たな介入法の探索が重要である。

1.2 食餌制限とタンパク質制限

 カロリー制限は代表的な老化制御介入であり、複数のアルツハイマー病モデルで病理の進行を抑えることが示されている。しかし、長期的なカロリー制限は実践が難しい。そこで、総カロリーではなく主要栄養素の構成を変える介入として、タンパク質制限に注目した。タンパク質制限はげっ歯類で代謝健康を改善し、寿命延長にも関与することが報告されている。

1.3 mTORC1とアルツハイマー病病理

 アミノ酸はmTORC1を活性化する主要な栄養シグナルであり、タンパク質制限は複数の組織でmTORC1活性を低下させる。mTORC1は老化制御だけでなく、アルツハイマー病病理とも関連している。mTORC1活性の亢進はオートファジーを抑制し、Aβ産生やTau蓄積を促進しうる。一方、ラパマイシンによるmTORC1阻害やS6K1欠損は、マウスモデルで認知機能やAD病理を改善する。

1.4 本研究の目的

 以上を踏まえ、タンパク質制限がアルツハイマー病病理と認知機能低下の進行を抑えるかどうかを検証した。3xTg ADマウスモデルと非トランスジェニック対照マウスに、21%タンパク質の対照食または7%タンパク質のタンパク質制限食を与え、代謝状態、AD神経病理、認知機能、生存への影響を解析した。

2. 実験デザイン:3xTg ADモデルにタンパク質制限を導入する

2.1 3xTg ADマウスモデルを用いた検証

 本研究では、Aβ病理とTau病理の両方を示す3xTg ADマウスモデルを用い、タンパク質制限がアルツハイマー病の進行に及ぼす影響を検証した。比較対象として、非トランスジェニックマウスも同時に解析した。3xTgモデルは、AD病理と認知機能低下を併せて評価できるため、食餌介入の効果を検討するモデルとして用いられた。

2.2 対照食とタンパク質制限食

 6か月齢の雌雄マウスを、21%タンパク質の対照食または7%タンパク質のタンパク質制限食に割り付けた。両食餌は等カロリーになるよう設計され、タンパク質由来カロリーの低下分は炭水化物で補われ、脂肪由来カロリーは一定に保たれた。したがって、本研究では総カロリー制限ではなく、タンパク質量の低下そのものの影響を評価した。

2.3 長期介入と多層的な評価

 食餌介入は6か月齢から開始され、体重と体組成は9か月間にわたって追跡された。その後、代謝試験、行動試験、脳組織解析を組み合わせることで、タンパク質制限の影響を多層的に評価した(Fig. 1A)。解析対象には、代謝健康、脳内代謝物、脂質組成、AD神経病理、mTORC1・オートファジー関連指標、認知機能、生存が含まれた。

Fig. 1|タンパク質制限は6か月齢の3xTgマウスおよび非トランスジェニック対照マウスにおける体重増加と脂肪量増加を抑制する。 A 6か月齢の雌雄3xTgマウスおよび非トランスジェニック対照マウスに、21%タンパク質の対照食または7%タンパク質のタンパク質制限食を与え、9か月間にわたって表現型を追跡した。雌では、タンパク質制限により体重増加と脂肪量の蓄積が抑えられ、最終的な体脂肪率も低下した(B–E)。雌のタンパク質制限群では摂食量は増加したが、タンパク質摂取量は低下していた(F, G)。雄でも同様に、タンパク質制限により脂肪量の増加が抑制され、体脂肪率が低下した(H–K)。雄では摂食量に対する食餌の明確な影響はみられなかったが、タンパク質摂取量はタンパク質制限群で低下していた(L, M)。

本研究ではタンパク質制限の効果を、体重や代謝だけでなく、脳内病理、認知機能、生存までを含む多層的な介入効果として検証した。

3. タンパク質制限は肥満を抑え、糖代謝を改善する

3.1 タンパク質制限は体重増加と脂肪蓄積を抑制する

 6か月齢から9か月間の食餌介入を行うと、対照食群では体重が増加したのに対し、タンパク質制限群では雌雄ともに体重増加と脂肪量の蓄積が抑えられた。雌では、非トランスジェニックマウスと3xTgマウスの両方で、タンパク質制限により体重が維持され、脂肪量と体脂肪率が低下した。雄でも同様に、タンパク質制限群では脂肪量の増加が抑制され、最終的な体脂肪率が低下した(Fig. 1B–E, H–K)。

3.2 体脂肪の低下は摂取カロリーの減少だけでは説明できない

 タンパク質制限による体重・脂肪量の低下は、単純な摂取カロリーの減少によるものではなかった。雌では、タンパク質制限群の摂食量はむしろ増加していたが、タンパク質摂取量は低下していた。雄では、食餌による摂食量の明確な差はみられなかったが、タンパク質摂取量はタンパク質制限群で低下していた。したがって、この介入では総摂食量よりも、摂取タンパク質量の低下が体組成変化と結びついていた(Fig. 1F, G, L, M)。

3.3 エネルギー代謝への影響には性差がみられる

 代謝ケージ解析では、タンパク質制限によるエネルギー代謝の変化に性差がみられた。雌では、非トランスジェニックマウスでエネルギー消費の増加がみられた一方、3xTgマウスでは明確な増加は認められなかった。雄では、タンパク質制限により呼吸交換比が3xTgマウスで上昇し、非トランスジェニックマウスと3xTgマウスの両方でエネルギー消費が増加した。タンパク質制限は体脂肪蓄積を抑えるが、その代謝応答は雌雄で同一ではなかった(Fig. 2A–F)。

Fig. 2|タンパク質制限は3xTgマウスのエネルギー代謝に性依存的な影響を及ぼす。 雌では、呼吸交換比に対する食餌または遺伝子型の明確な全体効果はみられなかった(A)。エネルギー消費は非トランスジェニック雌で増加したが、3xTg雌では明確な増加を示さなかった(B)。自発活動量には遺伝子型の影響があり、明期では非トランスジェニック雌でタンパク質制限による活動量増加がみられた(C)。雄では、タンパク質制限により3xTgマウスの呼吸交換比が明期に上昇し、非トランスジェニックマウスと3xTgマウスの両方でエネルギー消費が増加した(D, E)。雄の自発活動量はタンパク質制限で増加傾向を示し、3xTgタンパク質制限群で最も高い傾向を示した(F)。

3.4 タンパク質制限は3xTgマウスの糖代謝異常を改善する

 3か月間の食餌介入後に糖代謝を評価すると、対照食を与えた雌3xTgマウスでは耐糖能異常とインスリン抵抗性が認められた。タンパク質制限はこの異常を改善し、雌3xTgマウスでは耐糖能、インスリン感受性、ピルビン酸負荷試験の結果が改善した。雄では、対照食下の3xTgマウスで雌ほど明確な耐糖能異常はみられなかったが、タンパク質制限により耐糖能とインスリン感受性が改善した(Fig. 3A–H)。

Fig. 3|タンパク質制限は3xTgマウス、とくに雌の糖代謝異常を改善する。 3か月間の食餌介入後に、雌マウスでグルコース負荷試験、インスリン負荷試験、ピルビン酸負荷試験を行った。対照食の雌3xTgマウスでは耐糖能異常とインスリン抵抗性がみられ、タンパク質制限によりこれらの異常が改善した(A–C)。雌の代謝指標を統合すると、タンパク質制限は3xTgマウスの糖代謝異常を全体として改善した(D)。雄では、対照食下の3xTgマウスで雌ほど明確な耐糖能異常はみられなかったが、タンパク質制限により耐糖能、インスリン感受性、ピルビン酸処理能が改善した(E–G)。雄の代謝指標を統合しても、タンパク質制限による代謝改善が確認された(H)。

タンパク質制限は、摂取カロリーの単純な低下ではなく、タンパク質摂取量の低下に伴って体脂肪蓄積を抑制し、3xTgマウスの糖代謝異常を改善した。

4. タンパク質制限は脳と血中の代謝プロファイルを性依存的に変化させる

4.1 脳内代謝物はタンパク質制限により変化する

 タンパク質制限が脳内代謝状態に及ぼす影響を調べるため、全脳を用いた非標的メタボロミクス解析を行った。3xTgマウスでは、タンパク質制限により脳内代謝物プロファイルが変化し、その応答は雌雄で異なっていた。雌3xTgマウスでは6種類の代謝物が有意に増加した一方、雄3xTgマウスでは53種類の代謝物が有意に低下した(Fig. 4A–D)。

4.2 雌雄で異なる代謝応答がみられる

 雌3xTgマウスで増加した代謝物には、3,2-hydroxyethyl indole、D-pantothenic acid、cis-aconitic acid などが含まれていた。これらは過去のアルツハイマー病研究で低下が報告されている代謝物であり、タンパク質制限による脳内代謝の変化がAD病態と関連する可能性がある。一方、雄3xTgマウスでは、creatine phosphate、thiamine、riboflavin など、エネルギー代謝や酸化還元バランスに関わる代謝物の低下がみられた。したがって、同じタンパク質制限でも、脳内代謝への影響は雌雄で同一ではなかった(Fig. 4B, D)。

4.3 分岐鎖アミノ酸関連経路が共通して変化する

 個別の代謝物だけでなく、代謝経路単位でもタンパク質制限の影響を評価した。3xTgマウスでは、雌雄に共通して「バリン・ロイシン・イソロイシンの生合成および分解」に関連する経路がタンパク質制限により上昇した。分岐鎖アミノ酸はmTORC1活性化に関わるため、この変化はタンパク質制限、アミノ酸代謝、mTORC1制御をつなぐ代謝的な手がかりとなる(Fig. 4E)。

4.4 血中代謝物にも性依存的な変化が生じる

 血漿を用いた標的メタボロミクス解析でも、タンパク質制限による代謝変化には性差がみられた。3xTg雌ではUTP、GTP、PEPが低下し、histidine、citrate、ornithineが上昇した。3xTg雄ではproline、arginine、guanosineが低下し、uridineが上昇した。さらに、システイン・メチオニン代謝は雌雄に共通して変化したが、その方向は雄で低下、雌で上昇と異なっていた。血中代謝物の変化も、脳内代謝と同様に、タンパク質制限への応答が性依存的であることを示した。

Fig. 4|タンパク質制限は3xTgマウスの脳内代謝物プロファイルを性依存的に変化させる。 全脳を用いた非標的メタボロミクス解析により、3xTg雌マウスと3xTg雄マウスの脳内代謝物を評価した。主成分分析では、タンパク質制限に対する代謝応答が雌雄で異なることが示された(A, C)。雌3xTgマウスではタンパク質制限により6種類の代謝物が有意に増加し、雄3xTgマウスでは53種類の代謝物が有意に低下した(B, D)。代謝物セット濃縮解析では、雌雄に共通して「バリン・ロイシン・イソロイシンの生合成および分解」関連経路が変化した(E)。

タンパク質制限は、3xTg ADマウスの脳内および血中代謝プロファイルを変化させ、雌雄で大きく異なる応答を示した。

5. タンパク質制限はAD関連脂質、とくにスフィンゴ脂質を変化させる

5.1 脳脂質プロファイルは脳領域ごとに大きく異なる

 タンパク質制限が脳脂質に及ぼす影響を調べるため、3xTgマウスの海馬と皮質を用いて非標的リピドミクス解析を行った。脂質プロファイルは食餌条件よりも脳領域によって強く分かれ、タンパク質制限による全体的な分離は明確ではなかった。したがって、PRは脳脂質全体を一様に変化させるのではなく、特定の脂質クラスに影響する介入として捉えられた。

5.2 PRはAD関連脂質クラスに影響する

 脂質クラスごとの解析では、リゾホスファチジルエタノールアミン、エーテル型ホスファチジルエタノールアミン、スフィンゴ脂質などがPRにより変化した。これらの脂質は、炎症、酸化ストレス、神経保護、膜脂質の恒常性と関わる。とくにスフィンゴ脂質は、Aβの産生・凝集やAβによる細胞毒性と関連するため、AD病理との接点として重要である。

5.3 スフィンゴ脂質の低下は雌3xTgマウスでより明確である

 全脳を用いた標的スフィンゴ脂質解析では、PRにより3xTgマウスのスフィンゴ脂質サブクラスが低下した。雌3xTgマウスでは、グルコシルセラミド、セラミド、スフィンゴミエリンが有意に低下した。雄3xTgマウスでも、グルコシルセラミドとセラミドの低下がみられたが、雌ほど広範な変化ではなかった(Fig. 5A–H)。

5.4 脂質変化はAD病理改善と結びつく可能性がある

 スフィンゴ脂質はAβの処理や凝集に関わるため、PRによるスフィンゴ脂質低下は、AD病理の緩和と関連する可能性がある。とくに雌3xTgマウスでは、スフィンゴ脂質サブクラスの低下が明確であり、次章で扱うAβプラークやTau病理の改善と合わせて、PRが脳内脂質環境をAD病理の進行しにくい方向へ変化させたと考えられる。

Fig. 5|タンパク質制限は3xTgマウスの脳内スフィンゴ脂質を性依存的に変化させる。 全脳を用いた標的スフィンゴ脂質解析により、セラミド、スフィンゴミエリン、グルコシルセラミドの変化を評価した。ヒートマップでは、タンパク質制限により3xTgマウスのスフィンゴ脂質サブクラスが変化し、雌では複数のサブクラスが低下していた(A, E)。雌3xTgマウスでは、グルコシルセラミド、セラミド、スフィンゴミエリンが有意に低下した(B–D)。雄3xTgマウスでは、グルコシルセラミドとセラミドが有意に低下し、スフィンゴミエリンには明確な変化はみられなかった(F–H)。

タンパク質制限は、3xTg ADマウスの脳内脂質環境を変化させ、とくにAD病理と関連するスフィンゴ脂質サブクラスを低下させた。

6. タンパク質制限はAβ・Tau病理とグリア反応を緩和する

6.1 タンパク質制限は雌3xTgマウスのAβプラークを減少させる

 9か月間の食餌介入後、15か月齢の3xTgマウスを用いてAD神経病理を評価した。雌3xTgマウスでは、タンパク質制限により海馬のAβプラーク密度が有意に低下した。不溶性Aβ40も低下しており、プラーク負荷の減少と整合していた。一方、可溶性Aβ40およびAβ42には明確な変化はみられなかった(Fig. 6A–C)。

6.2 Tauリン酸化の加齢性上昇はタンパク質制限で抑えられる

 Tau病理については、Thr231部位のリン酸化を指標として評価した。対照食の3xTgマウスでは、6か月齢から15か月齢にかけてTauリン酸化が上昇した。タンパク質制限はこの加齢に伴うTauリン酸化の増加を抑制し、雌雄の3xTgマウスでTau病理の進行を緩和した(Fig. 6D, I)。

6.3 グリア反応は雌でより明確に低下する

 神経炎症の指標として、アストロサイトマーカーGFAPとミクログリアマーカーIBA1を解析した。雌3xTgマウスでは、対照食群に比べてタンパク質制限群でアストロサイトおよびミクログリアの反応が低下していた。雄では、ミクログリア活性化の低下傾向はみられたが、アストロサイト反応には明確な変化はみられなかった(Fig. 6E, J)。

6.4 病理改善には性差がある

 タンパク質制限は、3xTgマウスのAD病理を複数の階層で緩和した。ただし、その効果は雌雄で同一ではなかった。雌ではAβプラーク密度、不溶性Aβ40、Tauリン酸化、グリア反応に改善がみられた。雄ではAβプラークやAβ量の変化は低下傾向にとどまったが、Tauリン酸化の抑制は認められた(Fig. 6K)。

Fig. 6|タンパク質制限は雌雄3xTgマウスのAD神経病理を改善する。 雌3xTgマウスでは、15か月齢時点で海馬のAβプラーク密度がタンパク質制限により低下した(A, B)。Aβ ELISAでは、不溶性Aβ40が低下したが、可溶性Aβ40およびAβ42には明確な変化はみられなかった(C)。Tau Thr231リン酸化は、対照食群で加齢とともに上昇したが、タンパク質制限により抑制された(D)。GFAPおよびIBA1染色により、雌ではアストロサイトおよびミクログリア反応の低下が示された(E)。雄3xTgマウスでは、Aβプラーク密度およびAβ量に有意な低下はみられなかったが、全体として低下傾向を示した(F–H)。Tau Thr231リン酸化の加齢性上昇は雄でもタンパク質制限により抑制され、ミクログリア反応も低下傾向を示した(I, J)。病理指標を統合すると、タンパク質制限は3xTgマウスのAD病理を緩和し、その効果は雌でより明確であった(K)。

タンパク質制限は、3xTg ADマウスのAβプラーク、Tauリン酸化、グリア反応を緩和し、AD神経病理の進行を抑制した。

7. タンパク質制限はmTORC1を抑制し、オートファジー関連指標を改善する

7.1 3xTgマウス脳ではmTORC1活性が亢進している

 mTORC1の過剰活性化はAD病理に関与し、オートファジーの抑制を通じてAβプラークやTau凝集の蓄積に寄与しうる。3xTgマウスの脳では、mTORC1下流基質であるS6K1と4E-BP1のリン酸化が、非トランスジェニックマウスより高かった。これは、ADモデル脳でmTORC1シグナルが亢進していることを示している(Fig. 7A–C)。

Fig. 7|タンパク質制限は雌3xTgマウス脳におけるmTORC1シグナルとp62発現を低下させる。 A 全脳ライセートを用いたウェスタンブロットにより、mTORC1下流基質であるS6K1と4E-BP1のリン酸化、およびオートファジー関連タンパク質p62の発現を評価した。3xTg雌マウスでは、対照食下でS6K1 Thr389リン酸化と4E-BP1 Thr37/Ser46リン酸化が上昇し、タンパク質制限により低下した(B, C)。p62発現もタンパク質制限により低下し、オートファジー活性化を示唆する変化がみられた(D)。雌雄のウェスタンブロット指標を統合すると、タンパク質制限は3xTgマウス脳におけるmTORC1シグナル亢進を抑え、p62発現を低下させる方向に作用した(E)。

7.2 タンパク質制限は脳内mTORC1シグナルを低下させる

 タンパク質制限により、3xTgマウス脳で亢進していたS6K1および4E-BP1のリン酸化は低下した。この変化は雌雄の3xTgマウスで認められ、タンパク質制限が脳内の栄養感知シグナルに作用し、AD病理と関連するmTORC1過活動を抑えることを示している(Fig. 7A–C, Supplementary Fig. 6A–C)。

7.3 p62低下はオートファジー活性化を示唆する

 ADではオートファジーの破綻が病理進行に関与し、mTORC1の過剰活性化はタンパク質恒常性ネットワークを障害する。オートファジー受容体p62/SQSTM1は神経原線維変化とも関わる分解関連タンパク質であり、PR食を与えた雌3xTgマウスではp62発現が有意に低下した。雄3xTgマウスでも同様の低下傾向がみられたが、有意差には達しなかった。したがって、タンパク質制限はmTORC1抑制とともに、オートファジー活性化を示唆する変化をもたらした(Fig. 7D, E; Supplementary Fig. 6D)。

Supplementary Fig. 6|タンパク質制限は雄3xTgマウス脳におけるmTORC1シグナルを低下させる。 A 雄マウスの全脳ライセートを用いて、mTORC1下流基質であるS6K1 Thr389リン酸化、4E-BP1 Thr37/Ser46リン酸化、およびp62発現をウェスタンブロットで評価した。雄3xTgマウスでは、対照食下でS6K1 Thr389リン酸化が上昇し、タンパク質制限により低下した(B)。4E-BP1 Thr37/Ser46リン酸化にも遺伝子型と食餌の影響がみられ、タンパク質制限により低下した(C)。p62発現はタンパク質制限群で低下傾向を示したが、有意差には達しなかった(D)。

7.4 ミトファジー指標には明確な変化はみられない

 ミトコンドリア機能障害や損傷ミトコンドリアの蓄積は、ADにおける神経変性や認知機能低下に関与する。そこで、ミトファジー関連指標としてBNIP3L/NIXを解析した。PR食群ではミトファジー上昇傾向がみられたものの、統計的に有意な変化は認められなかった。したがって、本研究で明確に支持された機序は、ミトファジーよりもmTORC1抑制とp62低下を伴うオートファジー関連変化であった(Supplementary Fig. 7A–D)。

Supplementary Fig. 7|タンパク質制限は3xTgマウス脳のミトファジー指標に明確な変化を示さない。 雌雄マウスの全脳ライセートを用いて、ミトファジー関連タンパク質BNIP3L/NIXの発現をウェスタンブロットで評価した。雌ではBNIP3L/NIX発現を代表的な免疫ブロットと定量により解析した(A, B)。雄でも同様にBNIP3L/NIX発現を解析した(C, D)。タンパク質制限群ではBNIP3L/NIX発現の上昇傾向がみられたが、雌雄いずれにおいても統計的に有意な変化は認められなかった。

タンパク質制限は、3xTg ADマウス脳で亢進したmTORC1シグナルを抑制し、p62低下を伴うオートファジー関連変化を誘導した。

8. タンパク質制限は認知機能障害を改善する

8.1 行動試験により認知機能を評価する

 12か月齢時点、すなわち6か月間の食餌介入後に、認知機能と行動特性を評価した。行動試験には、オープンフィールド試験、新規物体認識試験、バーンズ迷路試験を用いた。新規物体認識試験では認識記憶を、バーンズ迷路試験では空間学習と空間記憶を評価した。

8.2 雌3xTgマウスでは認識記憶が改善する

 対照食を与えた雌3xTgマウスでは、新規物体よりも既知物体を探索する傾向があり、短期記憶試験と長期記憶試験の両方で認識記憶の障害がみられた。タンパク質制限はこの障害を改善し、雌3xTgマウスの新規物体認識成績を向上させた。一方、非トランスジェニック雌マウスでは、タンパク質制限による明確な影響はみられなかった(Fig. 8A)。

8.3 バーンズ迷路では空間記憶の改善がみられる

 バーンズ迷路試験では、空間手がかりをもとに逃避箱の位置を学習させ、短期記憶および長期記憶を評価した。雌では、タンパク質制限群が遺伝子型にかかわらず訓練期間中により速く逃避箱へ到達した。短期記憶試験では、タンパク質制限を受けた雌3xTgマウスが、対照食の雌3xTgマウスよりも速く逃避箱を見つけた(Fig. 8B)。

8.4 雄3xTgマウスでは空間記憶の改善がより明確である

 雄3xTgマウスでは、対照食下で新規物体認識の長期記憶が低下していたが、タンパク質制限により改善した。さらに、バーンズ迷路では短期記憶試験と長期記憶試験の両方で障害がみられ、タンパク質制限はこの空間記憶障害を改善した。したがって、雌では認識記憶の改善が目立ち、雄では空間記憶の改善がより明確であった(Fig. 8C, D)。

Fig. 8|タンパク質制限は3xTgマウスの記憶障害を改善する。 雌マウスでは、新規物体認識試験により短期記憶と長期記憶を評価し、対照食の3xTgマウスで低下した識別指数がタンパク質制限により改善した(A)。バーンズ迷路では、タンパク質制限群が訓練期間中により速く逃避箱へ到達し、雌3xTgマウスの短期記憶成績も改善した(B)。雄マウスでは、新規物体認識試験の長期記憶障害がタンパク質制限により改善した(C)。バーンズ迷路では、対照食の雄3xTgマウスで短期記憶と長期記憶の障害がみられ、タンパク質制限により両方の成績が改善した(D)。

タンパク質制限は、3xTg ADマウスの認識記憶および空間記憶の障害を改善し、AD病理の緩和が認知機能の改善と結びついた。

9. タンパク質制限は3xTg ADマウスの生存率を改善する

9.1 3xTgマウスでは雄の死亡率が高い

 実験過程で、3xTgマウス、とくに雄では1年齢前後に死亡しやすい傾向が認められた。これは過去の3xTg ADマウス研究とも一致しており、雄3xTgマウスでは雌よりも死亡率が高いことが報告されている。本研究でも、雄3xTgマウスの生存期間は雌3xTgマウスより短かった(Fig. 9A, B)。

9.2 タンパク質制限は3xTgマウス全体の生存を改善する

 食餌条件で比較すると、タンパク質制限は3xTgマウスの生存率を改善した。雌雄を層別化したログランク検定では、タンパク質制限食による生存改善が認められた。性別ごとに分けた解析でも同様の改善傾向がみられたが、主な結論は、雌雄を含めた3xTgマウス全体でPRが生存に有益な影響を示した、という点にある(Fig. 9A, B)。

9.3 生存改善はAD病態への多層的作用と連動する

 タンパク質制限は、体脂肪蓄積と糖代謝異常を改善し、脳内代謝・脂質プロファイル、Aβ・Tau病理、mTORC1シグナル、認知機能にも影響した。生存率の改善は、これらの変化と並行して認められた。したがって、本研究では、PRが単一の病理指標だけでなく、代謝から神経病理、行動、生存までを含むADモデルの表現型全体に作用することを示した。

Fig. 9|タンパク質制限は3xTg ADマウスの生存率を改善する。 3xTgマウスでは、雄が雌よりも短い生存期間を示した。雌雄を層別化した解析では、タンパク質制限食により3xTgマウス全体の生存率が改善した(A, B)。性別ごとに分けた解析でも、タンパク質制限による生存改善の傾向がみられた(A, B)。

タンパク質制限は、3xTg ADマウスの生存率を改善し、代謝・神経病理・認知機能に加えて、生存という全身的なアウトカムにも有益な影響を及ぼした。

10. まとめ:タンパク質制限はADモデルに多層的に作用する

10.1 タンパク質制限は代謝状態を改善する

 本研究では、6か月齢から開始したタンパク質制限により、3xTg ADマウスおよび非トランスジェニック対照マウスの体脂肪蓄積が抑制された。とくに3xTg雌マウスでは、耐糖能異常とインスリン抵抗性が改善し、タンパク質制限がADモデルにおける代謝異常を緩和することを示した。

10.2 脳内代謝・脂質環境が変化する

 タンパク質制限は、脳内および血中の代謝物プロファイルを変化させ、その応答には明確な性差がみられた。さらに、脳内脂質解析では、AD病理と関連するスフィンゴ脂質サブクラスが低下した。これにより、タンパク質制限は全身代謝だけでなく、脳内の代謝・脂質環境にも作用することが示された。

10.3 AD神経病理とmTORC1シグナルが緩和される

 タンパク質制限は、3xTgマウスにおけるAβプラーク、Tau Thr231リン酸化、グリア反応を緩和した。これらの病理改善と並行して、脳内で亢進していたmTORC1シグナルが抑制され、p62低下を伴うオートファジー関連変化も認められた。したがって、タンパク質制限によるAD病理の緩和には、mTORC1抑制と細胞内分解系の改善が関与する可能性がある。

10.4 認知機能と生存率が改善する

 行動試験では、タンパク質制限により3xTgマウスの認識記憶および空間記憶の障害が改善した。さらに、3xTgマウス全体で生存率の改善も認められた。これにより、タンパク質制限の効果は分子・病理レベルにとどまらず、認知機能と生存という機能的アウトカムにも及ぶことが示された。

10.5 本研究の結論

 タンパク質制限は、3xTg ADマウスにおいて、代謝異常、脳内代謝・脂質環境、mTORC1シグナル、オートファジー関連指標、Aβ・Tau病理、認知機能、生存を多層的に改善した。タンパク質制限による栄養介入、またはその作用を模倣する薬理学的介入は、ADの進行を遅らせる候補となる可能性がある。



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