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〜 おへその乱読1000本ノック #0083 ~ カロリーだけでは説明できないショウジョウバエの寿命延長

 ようこそ、第83回 おへその乱読1000本ノックへ。今回は、Mairら(2005)による、ショウジョウバエの食事制限と寿命延長に関する論文を取り上げます。
 前回までは、老化が栄養・成長シグナルで制御されることを支えてきたパイオニア論文を拾い読みしてきました。今回からは、食事制限そのものを見直す論文群を取り上げていきます。
 食事制限は、しばしばカロリー制限と呼ばれてきました。しかし本論文は、ショウジョウバエでは寿命延長が単純なカロリー低下だけでは説明できないことを示しました。糖を減らした場合と酵母を減らした場合では、同じようにカロリーを変えても寿命への影響が大きく異なります。
 ここから、カロリー量、栄養素比率、摂食タイミングを区別して考える流れが始まります。今回はその入口として、カロリー中心モデルを揺さぶった重要な一報を読んでいきます。

要旨
 ショウジョウバエの食事制限による寿命延長が、総カロリー量の低下によって説明できるかを検証した。糖・酵母培地において、糖と酵母の濃度をそれぞれコントロール濃度または食事制限濃度に設定し、カロリー量と栄養組成の影響を切り分けて比較した。その結果、糖を減らした場合よりも、酵母を減らした場合に寿命は大きく延長した。糖と酵母は1 gあたりの推定カロリーがほぼ同じであるにもかかわらず、寿命延長効果はカロリー量ではなく、どの栄養成分を制限するかに強く依存していた。さらに、摂食時間の代償的増加や細菌増殖の違いではこの効果を説明できず、中年期の食餌切り替え実験でも、死亡率の急性変化は主に酵母量の変化によって生じた。したがって、少なくともショウジョウバエでは、食事制限による寿命延長を単純なカロリー制限として捉えることはできず、栄養組成の変化が重要であることが示された。

1. イントロダクション

 食事制限はしばしばカロリー制限と呼ばれ、多様な生物で寿命を延長する介入として知られてきた。しかし、その作用機構が生物種を超えて共通しているのかは明らかではない。
 従来は、摂取カロリーそのものの低下が寿命延長の主因と考えられてきた。一方で、げっ歯類でも、等カロリー条件で栄養組成を変えた場合や、タンパク質・メチオニンを制限した場合に寿命延長が報告されており、カロリー低下だけが決定因子とは限らない。
 そこで本研究では、ショウジョウバエを用いて、食事制限による寿命延長がカロリー量によって説明できるのか、それとも特定の栄養成分の変化によるのかを検証する。

2. 実験設計:糖と酵母を分けて操作

 ショウジョウバエの食事制限は、標準的な糖・酵母培地の栄養濃度を下げることで行われる。本研究では、糖と酵母をそれぞれコントロール濃度または食事制限濃度に設定し、Control SY、Control Y/DR S、DR Y/Control S、DR SYの4条件を比較した(Table 1)。
 この設計の重要な点は、砂糖と酵母の推定カロリーがほぼ同じであることにある。砂糖は4 kcal/g、酵母は4.02 kcal/gと見積もられるため、糖または酵母を別々に変えることで、カロリー量の変化と栄養組成の変化を切り分けて検討できる。この実験設計により、食事制限による寿命延長が総カロリー量で説明できるのか、それとも特定の栄養成分に依存するのかを検証することが可能となる。

Table 1|実験食の栄養組成と推定カロリー量 糖・酵母培地をもとに、酵母と砂糖をそれぞれコントロール濃度または食事制限濃度に設定した4種類の食餌条件が示されている。砂糖と酵母の推定エネルギー量はほぼ同じであり、糖または酵母を個別に変えることで、カロリー量と栄養組成の影響を分けて比較できる。

3. 寿命延長はカロリー量では説明できない

 4種類の食餌条件で雌のショウジョウバエの寿命を比較すると、寿命延長の程度は食餌の推定カロリー量とは対応しなかった。Control SYからDR SYへ糖と酵母の両方を下げると寿命は大きく延長したが、同じ程度のカロリー変化であっても、糖を下げた場合と酵母を下げた場合では効果が大きく異なった(Fig. 2, Table 2)。

Fig. 2|異なる糖・酵母条件における雌ショウジョウバエの生存曲線  糖濃度と酵母濃度をそれぞれコントロール濃度またはDR濃度に設定し、4種類の食餌条件で雌ショウジョウバエの生存を比較している。2回の独立した実験のいずれにおいても、糖を下げた場合より、酵母を下げた場合のほうが寿命延長効果は大きい。

 酵母をコントロール濃度からDR濃度へ下げると、糖濃度を高く保った条件でも寿命は大きく延長した。一方、糖だけをDR濃度へ下げた場合の寿命延長は限定的であり、実験によっては有意な効果を示さなかった。つまり、同程度のカロリー低下であっても、酵母を減らすことは糖を減らすことよりも強く寿命を延長した。

Table 2|各食餌条件における寿命中央値と最大寿命 Control SYを基準とすると、DR SYでは寿命中央値が82.6%および60.0%延長し、DR Y/Control Sでも65.2%および43.3%延長した。一方、Control Y/DR Sでの延長は8.7%および16.7%にとどまった。酵母濃度の低下が、糖濃度の低下よりも寿命延長に大きく寄与することを示している。

 この関係は、食餌の推定カロリー量と寿命中央値を対応させた解析でも明確である。寿命中央値はカロリー量に単純には比例せず、同じようなカロリー量の食餌でも、酵母量が低い条件では寿命が長くなった(Fig. 3)。したがって、ショウジョウバエにおける食事制限の寿命延長効果は、総カロリー量の低下だけでは説明できず、食餌を構成する栄養成分、とくに酵母成分の変化に強く依存する。

Fig. 3|食餌の推定カロリー量と寿命中央値の関係 各食餌条件の推定カロリー量と雌ショウジョウバエの寿命中央値を対応させている。カロリー量が同程度でも、酵母をDR濃度にした条件では寿命中央値が大きく延長する。寿命延長効果は総カロリー量ではなく、糖と酵母のどちらを変化させたかに強く依存する。

4. 代償的摂食と細菌増殖では説明できない

 食餌濃度を下げたとき、ショウジョウバエが摂食時間を増やして栄養摂取量を補っている可能性がある。そこで、各食餌条件で雌成虫が培地表面に口吻を伸ばして摂食している時間を比較した。しかし、糖または酵母の濃度を変えても、摂食行動に一貫した増加は見られなかった。少なくとも本実験条件では、低栄養培地による寿命延長は、摂食時間の増加による補償では説明できない(Fig. 1)。

Fig. 1|異なる糖・酵母条件における雌ショウジョウバエの摂食行動 雌成虫が培地表面に口吻を伸ばして摂食している時間の割合を、4種類の食餌条件で比較している。多くの測定時点で食餌条件間に有意差はなく、低栄養培地で摂食時間を増やす代償的摂食は確認されない。17日目には一部条件で差が見られたが、低栄養条件で摂食が増える方向ではなかった。

 もう一つの可能性として、高栄養培地では細菌が増殖しやすく、それが死亡率を高めている可能性が考えられる。この点を検証するため、培地にテトラサイクリンを添加して寿命を比較した。しかし、抗生物質の添加はコントロール食でもDR食でも寿命に有意な影響を与えず、食餌制限による寿命延長効果も消失しなかった(Fig. 4)。したがって、糖・酵母濃度の違いによる寿命変化は、培地上の細菌増殖の違いだけでは説明できない。

Fig. 4|テトラサイクリン添加が雌ショウジョウバエの寿命に及ぼす影響 コントロール食およびDR食にテトラサイクリンを添加し、抗生物質処理が寿命に与える影響を比較している。テトラサイクリン添加による寿命の有意な変化は見られず、DRによる寿命延長効果も維持される。高栄養培地における細菌増殖の違いは、寿命差の主要因ではないことを示している。

5. 死亡率の急性変化は酵母量に強く依存する

 ショウジョウバエでは、食事制限による死亡率低下が比較的短時間で現れることが知られている。そこで本研究では、中年期の雌成虫を別の食餌条件へ切り替え、糖または酵母のどちらが死亡率の急性変化に関与するかを検証した。
 酵母量を切り替えた場合、死亡率は48時間以内に大きく変化した。Control SYから低酵母条件へ移した個体では死亡率が速やかに低下し、反対にDR SYから高酵母条件へ移した個体では死亡率が上昇した。一方、同程度のカロリー変化であっても、糖量だけを切り替えた場合には死亡率の急性変化はほとんど見られなかった(Fig. 5)。

Fig. 5|中年期の食餌切り替えが雌ショウジョウバエの年齢別死亡率に及ぼす影響 中年期に糖または酵母の濃度を切り替え、食餌成分の変化が死亡率に及ぼす急性効果を比較している。酵母量を切り替えた場合には、48時間以内に死亡率が低下または上昇する。一方、糖量を切り替えても、同程度のカロリー変化にもかかわらず死亡率の急性変化はほとんど見られない。食事制限に伴う短期的な死亡率変化は、主に酵母成分に依存することを示している。

 したがって、食事制限による死亡率低下の即時的な効果は、総カロリー量ではなく、主に酵母成分の変化によって説明される。酵母量の低下は、寿命中央値を延ばすだけでなく、成虫期の死亡リスクそのものを短時間で変化させる要因として働く。
 なお、同様の傾向は、食餌切り替え後4日間を追跡した短期実験でも確認されている(Fig. S1)。

Fig. S1|中年期の食餌切り替えが雌ショウジョウバエの年齢別死亡率に及ぼす短期的影響 中年期に食餌条件を切り替え、切り替え後4日間の年齢別死亡率を追跡している。縦の破線は食餌切り替え時点を示す。酵母量を切り替えた場合には、Fig. 5と同様に48時間以内で死亡率が急速に変化する(A)。一方、同程度のカロリー変化であっても、糖量を切り替えた場合には死亡率の急性変化はほとんど見られない(B)。この補足実験は、食事制限に伴う短期的な死亡率変化が、主に糖ではなく酵母成分に依存することを支持している。

6. 結論

 ショウジョウバエでは、食事制限による寿命延長は、食餌の総カロリー量とは単純に対応しなかった。砂糖と酵母は1 gあたりの推定カロリーがほぼ同じであるにもかかわらず、酵母濃度の低下は糖濃度の低下よりも寿命を大きく延長し、死亡率も短時間で変化させた。この結果は、少なくともショウジョウバエでは、食事制限を単純なカロリー制限として捉えられないことを示している。寿命延長の効果は、総エネルギー量ではなく、どの栄養成分を制限するかに強く依存する。



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