『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』シーズン3第5話リキャップ
ここ数話、“GOTを見ているな”という嬉しい既視感が続いてきたシーズン3。全シークエンスがTVシリーズ版オリジナルの脚色を施された第5話に至っては、ジリジリと話が進まない所までそっくりな事に苦笑いしてしまった(『ゲーム・オブ・スローンズ』シーズン5を思い出してほしい)。シーズンフィナーレの一大合戦を前に登場人物を掘り下げる今シーズンが、ここでは憎まれ役であった翠装派の面々にフォーカスしている。
筆頭は摂政王子ことエイモンド(ユアン・ミッチェル)だ。最強の竜ヴァーガーを駆る謂わば“ラスボス”ポジションに有り、既にレイニラの子供を殺している戦犯。今シーズンも丸腰のストロング家を相手に残虐の限りを尽くす悪役っぷりである。ところが不意を突かれたことから手負いとなった彼は、アリス・リヴァース(ゲイル・ランキン)に匿われ、巨竜によって隠されてきた生来のマザーコンプレックスが表出する。ドラゴンを御することはできないと度々、反復される今シーズンでは、騎竜者の全能さが如何に虚飾であるかが憐れなまでに暴かれている。
一方、ドラゴンも王位も失う試練によって新たなキャラクターアークを得ているのがエイゴン(トム・グリン=カーニー)だ。自身を醜い姿へと変えた弟に復讐を誓うも、どうやら憎悪の起源は幼少期に遡るようだ。武芸はおろか、ターガリエンたるアイデンティティとも言える高地ヴァリリア語すら習熟できなかった彼は、弟こそが母の愛情を一手に受けたのだと信じ込んでいる。今は埋伏の時だと説く幕臣ラリス(マシュー・ニーダム)の進言にも耳を貸そうとしない。生まれながらにして不具を負い、蔑まされてきた“内反足のラリス”からすれば、見るに耐えなかったのだろう。
「あなたは生まれながらの権利を泥に捨てた、最悪な人間です」
ガレットの海戦でTVシリーズ版から抹殺されたかのように見えたジェイソン・ラニスター(ジェファーソン・ホール)も合流。ボロボロの三者が、戦局を覆すべく今は時を待つようだ。
2人の王子が共に母の愛に飢えていたことが露わとなる中、当のアリセント(オリヴィア・クック)には子供が政争の具となり、女の身が父権社会における道具でしかなかったことを痛いほど感じているようだ。彼女が案じているのは行方知れずの男子達ではなく、黒装派政権を脅かすかも知れぬ赤子を宿した長女ヘレイナ(フィア・サバン)である。エイモンドに「何者だ」と問われ「私は泣かされてきた者よ」と応じたアリス・リヴァースの言葉は、ウェスタロスに生きる全ての女たちの答えでもある。第5話では異なるロケーションで女たちの言葉がリレーされていく。事態を察知したミサリア(ソノヤ・ミズノ)に、アリセントは言う。「あなたにはわかるはず。女が耐えている屈辱を」。アリセントはもはやウェスタロスの父権社会に隷属した意志なき女性ではない。彼女は「私は囚人よ」と自らの境遇を悟り、文字通り脱走を試みるのだ。

この血と暴力の国で許されざる者とは誰なのか?ハレンホールを出立したクリストン・コール(ファビアン・フランケル)の部隊は、黒装派のタンブルトン攻略を足止めせんとゲリラ戦を展開する。ウェスタロスと敵対関係にあるドーン出身ながら、武勇でキングズガード、さらには王の手まで昇り詰めた男が、騎士道からかけ離れた奇襲を是としている。レイニラ、アリセントと時の権力者に翻弄され、騎士の誇りを失った彼にはもうこだわる程の事ではないのかもしれない。エイゴン1世の征服戦争の折、恭順を拒み、徹底抗戦の末、現在の独立を維持したのがドーンである。為政者の権力闘争を前に厭世したコールは、ドーン人たる“まつろわぬ者”として一矢報いるべく突き動かされているようにも見えるのだ。
その頃、首都を奪還した黒装派は政権運営が暗礁に乗り上げていた。人材不足である。物価高騰で市民が困窮する城下では、王都の守人(=シティウォッチ)の暗殺事件が続発。治安は悪化の一途を辿っている。翠装派オーマンド・ハイタワーの調略による内乱誘導である。原作ではレイニラ(エマ・ダーシー)の失政が民衆の反発を招いたと描写されるが、『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』はヒロインが闇堕ちした『ゲーム・オブ・スローンズ』の反証であり、レイニラの失墜をミソジニーと結びつけようとしている。これが原作の持つ人類史に対するアイロニーを体現し得るのかは未知数だが、今はシーズンフィナーレに待ち受けるさらなるスペクタクルに目を向ける事としよう。
