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宇宙の視座が拓く地球の未来 ~意識や社会を変える宇宙からの視点~

「最初の1日か2日は、みんなが自分の国を指していた。3日目、4日目は、それぞれ自分の大陸を指さした。5日目、私たちの目に映っているのは、たった1つの地球だった。」
 
これは、サウジアラビア初の宇宙飛行士、スルタン・サルマンの言葉です[1]。

Credit NASA

このように、人類が宇宙に進出したことで得られた視点は、我々が国境や文化を超え、コモンズとしての地球に暮らす仲間であるということに気づかせてくれます。これらの宇宙飛行士の言葉や考え(ソート)は、地球環境へ想いや、平和への希望となって、私たちの心に深く共感してきました。前回に続き、今回はそんな宇宙飛行士の活動や映像が社会に与えた影響を紹介します。

宇宙の視座が育む、地球への意識

〇毛利衛さんとユニバソロジ

日本人初の宇宙飛行士として、毛利衛さんは1992年にスペースシャトルで宇宙へ飛び立ちました。毛利さんは、二度の宇宙飛行を通じ地球環境への強い危機感を抱き、「ユニバソロジ※」という独自の視点を生み出し、宇宙、地球、そして人類の繋がりを説いています。
※毛利さんがユニバース(宇宙)とロジー(学問)を組み合わせた造語

毛利衛さん Credit:NASA

毛利さんは、「営業マンが自分の仕事の意味を考えるとき、地球という存在を意識することで、日々の挑戦が地球生命の未来に深く関わっていることに気づき、新たなやりがいを見つけることができる。」「現代社会で求められる新たな世界観は、一人ひとりが、地球の大きさと生命のつながりを意識して生きること」と述べています [2]。
 
社会の分断や孤立、環境問題が顕在化する今、我々一人ひとりが、このような宇宙からの視点をもち、人類がこれまでに培ってきた知恵や文化、新しいテクノロジーと融合することで、人類と自然がよりそい、社会とつながる新たな未来が拓けます。

〇 アポロ計画:「地球の出」がもたらした環境意識

1968年12月24日、アポロ8号の乗組員は、月の裏側から昇る「地球の出(Earthrise)」を撮影しました。この写真は、宇宙の漆黒に浮かび上がる地球の美しさと儚さを鮮明に映し出し、「史上最も影響力のあった写真」と評されています [3]。

地球の出 Credit:NASA

この歴史的な写真は、我々に「地球人」としての新たなアイデンティティを呼び覚まし、15ヶ月後には世界初の本格的な環境運動である「アースデイ(地球の日)」が創設されるなど、1960年代後半から1970年代にかけて、環境保護への関心と国際協力への大きな高まりをもたらしました [4]。
 
人類は、アポロ計画の「月」探査を通じて、「地球」を守らなくてはいけない、と気づきました。現在、再び有人月面探査計画が進行する中で、「地球人」としての新たな気づきに再び出会うでしょう。

〇 宇宙の視座がもたらす国際平和

アポロ9号の宇宙飛行士シュウェイカート氏は、宇宙遊泳中に国境のない地球を目の当たりにし、地上での争いの愚かさを痛感しました。彼は「宇宙を知った人間は、決して前と同じ人間ではいられない」と語り、地球帰還後、ソ連のレオノフ宇宙飛行士とともに「世界宇宙飛行士会議:Association of Space Exploration [5] 」を設立しました。冷戦下で米ソが協力して地球の未来を語り合う活動を主導するなど、平和構築に大きく貢献しました。

アポロ・ソユーズプロジェクトのクルー写真 Credit:NASA

このような国際協力は、米国のアポロ宇宙船とソ連のソユーズ宇宙船のドッキングプロジェクトや、米ソが協力する国際宇宙ステーション(ISS)計画にもつながりました。ISSは、15か国が協力する国際協力の象徴であり、冷戦下に多くの国々を団結させ、国際協力による地球上の平和に貢献し、ノーベル平和賞候補に推薦されるほどの評価を受けています [6]。

我々も、宇宙を知れば知るほど、前と同じ価値観ではなくなるでしょう。

衛星テクノロジーが拓く、地球の未来

「Earthrise (地球の出)」の写真が人々の環境意識に変革をもたらしたように、衛星が捉える地球の姿は、我々に新たな視点を提供しています。

〇 オゾンホールの可視化

NASAが提供したオゾンホールの衛星画像は、これまで目にすることのなかったオゾン層破壊の実態を鮮明に映し出し、世界中に衝撃を与えました。この科学的な証拠は、国際的な関心を急速に高め、1987年のモントリオール議定書というオゾン層保護のための国際的な枠組みの合意形成に、極めて重要な役割を果たしました [7]。

衛星で撮影したオゾンホール Credit:NASA

モントリオール議定書以降、世界中でオゾン層を破壊しない代替物質の使用が一般化し、NASAは、2066年までにはオゾン層が回復する可能性があると予測しています [8]。このように、衛星画像は世界中の人々に地球の危機、地球環境を守る意識を高め、新たな行動を促しています。

〇 ユニセフの教育支援

衛星画像を活用した取り組みは、環境問題への対応にとどまらず、ユニセフの活動を通じて、アフリカなどの途上国の教育環境の改善にも大きく寄与しています [9, 10]。衛星画像を活用して、学校の立地やインフラの状況、教育機会が不足している地域を可視化することで、教育支援が確実に届き、アフリカの子どもたちの未来に大きな影響を与え、持続可能な社会発展の基盤が築かれるようになりました。

▼UNICEFのスクールマッピングプロジェクト

〇地雷除去

カンボジアでは長年の内戦の影響により、地雷除去は人命に関わる重要な課題となっています。衛星画像を活用することで、地雷が埋められている可能性のある地域を特定し、効率的な除去活動が進められるようになっています [11, 12]。これにより、カンボジアの住民の多くの命が救われ、地域の復興が加速しています。

▼AIで衛星画像から地雷埋設エリアを予測

〇 ハッブル宇宙望遠鏡

宇宙に浮かぶ衛星が捉えるのは地球だけではありません。地球の大気の影響を受けないため、宇宙の鮮明な映像を捉えることができます。その1つが1990年に打ち上げられたハッブル宇宙望遠鏡です。ハッブル宇宙望遠鏡が捉えた壮大で美しい画像は、宇宙の広大さと神秘を示すとともに、ビッグバン宇宙論や宇宙全体の進化の解明に寄与しています [13]。

ハッブル宇宙望遠鏡が捉えた深宇宙 Credit:NASA

宇宙の壮大な歴史を考えると、我々は、138億年前のビッグバンで始まった同じエネルギーの中に、みんな一緒にいたと気づきます。人種なんてもちろんなく、空気や石、人間を構成する原子、さらにはアンドロメダ星雲に至るまで、すべてがそのエネルギーから時間をかけて作られてきました。私たち一人ひとりが、138億年前の宇宙の始まりから脈々と続く進化の産物であり、宇宙全体と深く繋がっているのです。

宇宙を考えることは、地球を考えること

宇宙に人類が進出することで、新しい視点で地球を見ることができます。宇宙を探査することは、より良い地球の未来を探索すること。人と自然、社会がつながり、よりそう社会。これからも宇宙の視座から、コモンズとしての地球の未来を探索していきます。

文:IISEソートリーダーシップ推進部 佐野智
JAXAに長年勤務し社会課題解決に向けた新規宇宙事業創出に尽力。内閣府(衛星を利用した社会実装プログラムを推進)を経て現職。博士(理学)。

参考文献

[1] 高井次郎, “魂を熱くさせる 宇宙飛行士100の言葉”, 2009年, 彩図社
[2] 毛利衛, “宇宙から学ぶ ユニバソロジのすすめ”, 2011年, 岩波新書
[3] 100 Photographs that changed the world by Life, the digital journalist
[4] Cosgrove, “Contested Global Visions: One-World, Whole-Earth, and the Apollo Space Photographs”, 1994, Annals of the Association of American GeographersVolume 84, Issue 2 p. 270-294
[5] 世界宇宙飛行士会議、JAXAアーカイブ (accessed May 2025)
[6] SPUTNIC International, 2014/1/21, “Space Station Creators Get Support for Nobel Nomination” (accessed May 2025)
[7] Gervsmuhl and Briday, “Satellite images as tools of visual diplomacy: NASA's ozone hole visualizations and the Montreal Protocol negotiations”, Published online by Cambridge University Press: 13 February 2023
[8] Riordon, ”NASA, NOAA Rank 2024 Ozone Hole as 7th-Smallest Since Recovery Began”, NASA Web, Oct30 2024 (accessed May 2025)
[9] UNICEF, Mapping schools in Sudan using artificial intelligence, March17, 2022, (accessed May 2025)
[10] UNICEF, “School Mapping”, (accessed May 2025)
[11] Lin et al., “Crater detection from commercial satellite imagery to estimate unexploded ordnance in Cambodian agricultural land”, PLoS One 2020 15(3)
[12] Duncan et al., “Detection and mapping of artillery craters with very high spatial resolution satellite imagery and deep learning”, Science of remote sensing, 2023, Vol7
[13] NASA Hubble Mission Team, “Hubble Paints Picture of the Evolving Universe”, Aug16 2018, (accessed May 2025)

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