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「環境情報化」が拓くサステナブル経営の未来

AIとデータ連携で進化するサステナブル経営の新基盤

 気候変動、生物多様性の喪失、資源制約などの課題が絡み合う中で、企業の環境・サステナビリティへの対応は複雑化しています。一方で、環境情報を「コスト」ではなく「価値創造の源泉」として活用する動きが始まっています。AIやデータ連携によって「環境情報」を活用することで、①未来を見据えた経営基盤を構築し、②AI駆動によるバリューチェーンを共創し、③未来の市場を創造するエコシステムをつくりだす――。この仕組み作りである「環境情報化」が、どのようにサステナブル経営を進化させるかをシリーズで探っていきます。

環境対応は不可逆のトレンド

 国際政治の不安定化や物価高・インフレを受けて、世界の環境ビジネスを取り巻く状況は、いま大きな転換点にあります。一見すると「脱炭素の勢いが鈍化している」「ESG投資が停滞している」といったニュースも増え、気候変動対策をめぐる国際的な議論には不確実性が漂っています。

 しかし、一時的にはこうした揺り戻しがあっても、中長期的には、環境対応がビジネスの前提条件となり、競争力の源泉へと変わるトレンドは継続すると考えられます。

 その背景には、環境配慮を重視する消費者意識の高まりにより、環境対応がブランド選択の重要な基準となり、企業の差別化要因になり得ることがあります。さらに、自然災害や地政学リスクの増大に伴い、サプライチェーンの持続性確保が求められている点も見逃せません。資源や物流の不安定化を乗り越えるためには、環境を含めたリスクをデータで定量的に把握し、サプライヤーの連携や代替戦略を可視化することが不可欠です。

 政治・国際情勢の面では、欧州をはじめとする主要国が気候関連規制を着実に強化しており、企業活動のルールとして定着しつつあります。

 長期的に見れば脱炭素化やサプライチェーンでの環境配慮に対する動きは不可逆的に進み、これらへの対応が、企業や地域の競争条件そのものになっていくと考えられます。

 例えば、東証プライム企業のTCFD[1]開示実質義務化、欧州電池規則等による製品CFP(カーボン・フットプリント)[2]開示、SSBJ[3]の開示基準に基づく開示対応など、国内外で情報開示や制度への対応が次々と増加しており、それらを受けて、企業は複雑な報告義務に適切かつ効率的に対応することが求められています。

 一方で、ビジネスの前提条件としての環境対応を義務的な対応コストとして捉えるのではなく、リスク最小化や機会創出のための取り組みとして位置づけていくことが重要となります。環境情報を単なる「義務対応」から「価値創造の起点」へと転換することが、企業の競争力を左右する鍵となるのではないでしょうか。

 AIや高度な分析ツールを活用すれば、環境負荷やリスクデータを「見える化」するだけでなく、そこから新たなビジネス機会を創出することが可能です。

 不安定な社会・経済情勢の中で、企業活動における環境対応は、もはやコストではなく、競争力の新しい形へと進化しつつあります。

「環境情報」を経営に活用

 これまでは、環境対応や情報開示はコストアップやビジネスの制約として捉えがちでした。そうしたコスト型の発想から脱却し、環境対応を企業の価値創造、そして成長の源泉へと転換していく――その鍵となるのが、AIやデータ連携を中心とするICTによる「環境情報化」です。ここでいう「環境情報」には、CO₂排出量やエネルギー使用量、水資源の消費、廃棄物発生量、生物多様性など、企業がサプライチェーンで配慮すべき地球環境に関わるデータが含まれます。

 「環境情報化」とは、経営の場において分断された環境に関する「データ」を「整え」(効率的収集)、企業内・企業間のデータ連携で安全に「つなぎ」(管理・共有)、AIなどでインテリジェンスを加えて「活かす」(分析・活用)という仕組み作りです。

 第一のステップである「整える」では、社内外の環境データを一元的に管理できる仕組みを構築します。エネルギー使用量、排出量、資源利用、廃棄物量などをデジタルで取得し、単なる数値である「データ」を、連携・分析が可能な「環境情報」として扱えるようにする。これにより、開示対応の負荷を軽減しつつ、将来的にAI分析にも使える信頼性の高い情報基盤が整います。
 次の「つなぐ」では、その「環境情報」を組織や企業の境界を越えて共有します。取引先やグループ企業、自治体などと安全に「環境情報」を連携し、同じ指標で比較・協調できる関係を築く。これにより、サプライチェーン全体でのリスク把握や、企業横断での資源・エネルギーの最適化が可能になります。環境情報化がめざすのは、情報を囲い込むことではなく、信頼に基づく「つながり」を生み出すことです。
 そして「活かす」では、AIなどを活用して環境情報を経営判断の中核に位置づけます。例えば、AIがコスト・性能と環境負荷の最適なバランスや、リスク予測を提示し、経営はその分析をもとに最適な投資判断を下す。環境対応を守りのコストから攻めの戦略へと変えるフェーズです。環境情報を活かすことで、企業は新しい市場や技術の機会を発見し、社会全体の持続可能性にも貢献できます。

価値創造の連鎖:個別企業の競争力を、未来の市場の力へ

 環境情報化の本質は、個別企業の効率化やサステナビリティ対応にとどまりません。それは、データを起点に企業・業界・社会をつなぎ、連鎖的に新しい価値を生み出す仕組みづくりです。個別企業の競争力を未来の市場の力へ変えていく進化のプロセスが、環境情報化のゴールにあります。

 出発点は、各企業の課題解決です。脱炭素対応、資源有効利用、自然環境への配慮、サプライヤーのリスク管理など、企業ごとに抱える課題を、環境情報に基づいて可視化・分析し、より確かな経営判断につなげていきます。この段階では、環境情報の整備や統合管理によって、自社の取組の「見える化」が進み、未来を見据えた経営基盤が構築されます。こうした取り組みは、単なる業務改善ではなく、ステークホルダーとの協働や共創のための基礎体力づくりでもあります。
 個別企業の環境情報化が進むと、同じ情報基盤を介して取引先や業界全体、または地域全体で情報を共有できるようになります。AIがサプライチェーン全体の環境情報を分析し、どの拠点にリスクが集中しているか、どの領域に改善の余地があるかを可視化することができるようになり、バリューチェーンの共創をおこなえるようになります。その分析をもとに、サプライチェーンのプレイヤーが協力して、個別企業では難しかった企業横断での最適な判断をおこなえるようになります。つまり、環境情報化は「分断された最適化」から「協働による全体最適」へと進化するプロセスでもあります。
 このような連携が進むと、業界を越えた社会的共創の土台が整います。企業が持つ環境情報や技術が社会インフラと結びつき、AIが政策設計や新市場形成に活用できるようになります。環境負荷の削減や資源の循環利用が、行政・企業・市民の間で共有され、未来市場を創造するエコシステムを形づくるようになります。この段階では、企業は単に「ルールに従う存在」ではなく、「ルールを共に創る存在」に移行します。環境情報とAIを通じて、社会の仕組みそのものを再設計するプレイヤーへと変わっていくのです。
 ポイントとなるのは、「個別企業の課題解決」にあたる企業内での環境情報のデジタル化が、価値の連携や社会の共創といった新たな仕組みや市場に参画するための基盤となることです。デジタルデータによる共有や分析がその前提となるためです。こうした連携の仕組みが広がる前に、自社の環境情報化を進めることが重要になります。

<Editor’s Opinion>

 本記事ではIISEが考える「環境情報化」の概念について説明しました。「環境情報化」の本質は、これまで規制対応コストとみなされていた環境課題への対応が、ICTの活用で新たな価値を生み出す源泉になるという発想の転換になります。データが行動を導き、行動が価値を生む。この循環が社会全体で回り始めたとき、環境と経済の好循環が実現します。
 今後の記事やウェビナーでは、そのような価値創出をおこなうための技術や事例について紹介していく予定です。
(IISE 藤平慶太)

<参考>

[1]TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures/気候関連財務情報開示タスクフォース):気候変動が企業の経営や財務に与える影響を適切に開示するための国際的な枠組み。
[2]CFP(Carbon Footprint of Products/製品のカーボン・フットプリント):製品やサービスのライフサイクル全体で排出される温室効果ガス(GHG)量を可視化・定量化する仕組み
[3]SSBJ(サステナビリティ基準委員会 / Sustainability Standards Board of Japan):日本におけるサステナビリティ情報開示の会計基準を策定する公的専門機関

<お知らせ>

 「環境情報化」についてのセミナーを2025年12月17日に開催します。
ウェビナーでは、「環境情報化」の概念について解説。グローバルの規制や市場動向に精通するPwCコンサルティング合同会社の専門家をお招きし、 環境対応を競争力の源泉に変えるための視点を提供します。また、NECの事業開発責任者から、サプライチェーンのサステナビリティ情報を収集・評価するICT実践事例と将来構想を紹介します。
関心のある方は、以下から詳細をご参照いただき、お申し込みをご検討ください。

<参考情報>

IISE公式note 環境マガジン 環境ソートリーダーシップ活動に関連する記事をまとめています。

 <国際社会経済研究所について>

国際社会経済研究所(通称:IISE)は、世界の知の集積で未来の社会価値創りをリードする、NECグループの独立シンクタンクです。生活者の視点と社会の視点を持ち、中立的な立場で課題を探索、そこで得た「気づき」を起点に、未来を構想、実現への道筋を描きます。世界の多様な機関や団体、オピニオンリーダーと協働し「未来の共感」を育む中で、新たな社会価値の創造と社会への実装を目指してまいります。

https://www.i-ise.com/jp/

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