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【連載小説】ファインディング・ユー! 第五話

迎えた朝は、薄暗かった。
雲ではなく、灰が大気圏を覆ってしまった空は霧が掛かったようぼんやりとした不完全な色をしていた。その向こうでぼんやりと太陽の白く丸い光が輝いているのが見える。地響きや揺れ、地鳴りもなく、水を打ったような静けさの中、圭介は洞窟から一歩出て一つ伸びをする。
昨夜、泥のように眠っていた。まだ疲れていてもおかしくないのに、体は元気を取り戻したようで、軽い。

寝る前に、こんなにも火山灰まみれの環境なのに自分の目や喉などの粘膜が無事なことに疑問を持ったところジェイリートが「オオワシドリの保護魔法が掛けられているようだ。彼に感謝したまえ」と言っていた。ドリーは人の言葉は話せなくても理解は出来るようで、誇らしげに胸を張って鳴いていた。動物も魔法が使えるのかと圭介は関心した。(とは言っても、身を守る為の必要最低限の魔法でしかないとジェイリートは言っていた。動物も人間も使える魔法には限りがあるとの事。)

目の前にあるカトナーレ火山は相変わらず堂々と目の前にそびえたつ。多分いつもと違うであろう部分があるとすれば、頂上の火口口付近が赤く染まっている所だ。圭介の住む世界にも立派な山がある。あの山はいつも頂上付近が雪で真っ白だが、カトナーレ火山はその色違いバージョンに見える。

程なくしてジェイリートが起きてきた。洞窟内に流れる川の水で髪を整えたのだろう、若干毛先が濡れていた。ドリーも洞窟内で捕まえたネズミを丸呑みしながら出てきた。

「さて、ドリーよ。私と青年を連れて頂上まで飛べるか?」

ジェイリートの問に、ドリーは「なんでお前も運ばなきゃならないんだ」と言いたそうにジェイリートを睨む。ドリーからしたら昨日突然現れたただのオッサンだから仕方ないのかもしれない。
ジェイリートは怯まずに咳払いをして、続ける。

「青年は魔法が使えない。その辺をサポートするのが私だ。大丈夫、彼を絶対死なせはしない。約束する」
「ドリー、ごめんね。彼も一緒に…どうかな」

圭介が眉を八の字にし、手を合わせればドリーは渋々うなづいた。自分の恩人がそこまで言うなら仕方ない。飛行速度は大幅に落ちるが、運べないこともない。
ジェイリートが杖を叩いて出したアップルパイを食べて、一同は出発することにした。
ちなみに魔法で出せる食事量も決まっているらしく、あとは昼ごはん用のサンドイッチしか出せないとジェイリートは言っていた。

東の羊飼いから貰ったストールをしっかり羽織ってからドリーの背に乗る。圭介の後ろにジェイリートが座った時、居心地悪そうにドリーが身体を揺らすので、圭介は宥めるように首筋を撫でた。ジェイリートは特に気にしていないようだ。かってに景色と全身を包み込む風を楽しんでいる。
ゆらり、ゆらりとドリーは高度を上げて火口口真上まで飛んできた。普段はぽっかり空いているだろう穴にはなみなみとマグマが溢れ出ている。煙たい空気と熱い風が下から上がってきている。

「ドラゴンの巣は、火口口の内部にあると言われているが…、流石に東羊のストールを身に着けていても、保護魔法を掛けていてもマグマに突っ込んだら我々は一瞬で存在が消えてしまうだろう」
「じゃあドラゴンは何故マグマが平気なの?」
「おそらくだが、カトナーレ女神からマグマ耐性の魔法かあるいは遺伝子を貰っているのだろう。元々この火山を護るように手配したと言うしな!」
「全然護れていないじゃないか!むしろ自分で壊している!」

その時だ、マグマの中から何かが出てきたのは。真っ黒な鱗に覆われた四本指のワニの様な手。指先には真っ白な鋭い爪がしっかりと付いている。
まるでプールから顔を出すように現れたソレは、一言で表すと巨大な爬虫類生物。頭には大きな角が二本、大きく裂けたような口と長く先割れた舌、逆三角形につり上がった目。もう少しして上半身がもっと出てきては、肩甲骨辺りから蝙蝠ような巨大な羽が付いているのが分かる。マグマが更に斜面に沿って大量に流れ込んでいく。

ドラゴンだ。圭介は唾を飲んだ。
本物は見たことないけれど、映画やゲームで見た架空の姿と瓜二つ。ドリーが更に高度を上げると、大陸の最北端らしき場所の上空に黒馬の馬車が何台か飛んでいるのが見える。彼らもきっとドラゴンの存在を認知しているだろう。こちらに近づいてくる気配は無く、その場をぐるぐる回っているようだった。

「あれはもうすっかり大人になったやつだ。幼体は角など生えておらん」

ジェイリートがストールに包まり身を縮めながら言う。彼の方が生まれたての赤子のように見えてしまい、圭介は口を開けて彼を見つめた。

「つまり、あれが子を産んだのだろう。そして子が本能に逆らえずマグマ遊びをして噴火をさせた」
「じゃあ、その子供ってどこにいるのさ」
「これは私の憶測だが、」

突如ドラゴンが上を向いて雄叫びを上げる。
よく目を凝らして見ると、ドラゴンの身体からはシュウシュウと小さな煙が立ち込めていた。どうやら絵本にあった神話の通り、異世界の人間から名前を授かることでマグマ耐性が弱っているのかもしれない。アレが外に出てくるのも時間の問題だろう。
雄叫びは、雷にも地響きにも似たその声が世界の空気をビリビリと震わせ、生き物全ての平衡感覚と骨を揺らす。ドリーはたまらず火山から離れた場所に下降する。その滑空スピードがあまりにも早く、圭介とジェイリートは必死でビリーの身体にしがみついた。
地面に近づいた途端、また別の大きな音が聞こえてくる。太鼓のように腹の底を揺らす水の音…。そう、ここはシャナーレの滝だ。 

滝の傍にドリーが着陸し、転げ落ちるように二人は降りた。もう既に手と腕の筋肉が限界を迎えていた。柔らかい草が彼らを受け止める。

「…で、えっと、なんだっけ」
「ああ、そうだ。私の憶測だが、大人のドラゴンがああやって火山から出てくることは大変珍しいことだ。だが今は非常事態、子供が生まれて興奮しているか…もしくは、最初の噴火で子供がどこかに飛ばされたことに気がついて取り乱しているか」
「後半は無いんじゃない? だって昨夜静かだったし」
「いくらドラゴンとはいえ、子を産んだ直後は動けないとかあるだろう」
「…まって、ドラゴンって哺乳類なの? 卵から孵ったんじゃなくて?」
「君の世界の生き物の基準で考えるのはよしたまえ。ドラゴンは母体の中で子供を育て産むものだ」
「そう、なんだ…?」

イメージしていたドラゴンの生態と違うことに首を傾げつつも、これからどうしたものかと頭を巡らせる。昨日の噴火前までテレパシーを散々送ってきた神という存在にどうしたらいいか質問を心の中で投げかけてもやはり返事はない。
ふと、圭介は目の前に流れる川の真ん中で動くものを見つけた。突起している岩の上、黒い動物が疼くまっている。一見アルマジロにも見えたが、それが幼体のドラゴンだと気がつくのに十秒は掛からなかった。

「案内人さん!!あれ!」
「ん、なに…?? あっ、あああ!? もしかして、もしかするというのか!」  

ジェイリートもすぐに察したらしい。杖を幼体のドラゴンに向け、上下に三振りすると幼体のドラゴンは圭介達の足元に瞬間移動をした。ころん、と大きな葉の上に転がった丸いボディには小さなコウモリ状の羽が付いている。先程見たドラゴンの面影がしっかりとあった。目は固く閉じられ、ヒューヒューと口で息をしている。

「なんとなくだけど…具合悪そう?」
「きのこの森で買った薬と、滝の水がある。ドラゴンにどれだけ効くか分からないが…神の御加護はある程度あるはずだ。飲ませようではないか」

粉薬を水で溶かし、恐る恐る幼体の子の口へジェイリートは流し込んでみた。横向きに寝ている為に全く飲めていないように見えるが、長い舌がチロチロ動いた。思わず声を上げて手を引っこめる。圭介とドリーも後ずさった。、

「どうするの、これ」
「とりあえず目的を果たしたまえ青年! このドラゴンに名前を付けるのだ! そして、火山の親元へ帰す。そうすれば火山からマグマが出てくるのくらいは止められるだろう、この大陸はもうめちゃくちゃだが、一番の不安要素を取り除く事はとても大きな意味がある。違うかい?」
「そう、だね。名前…名前か…」

そういえば全くドラゴンの名前を考えていなかったことに圭介は気が付き、頭を搔く。再度まじまじと幼体の子を眺めるも全く浮かんでこない。
そもそも圭介は産まれてこの方ペットを飼った経験も無いのだ。名付けって意外と難しいのでは無いかとぼんやり思う。

ドリーが何かを察知したように上を向いた。上から轟く声が聞こえる。先程マグマから顔を出していた親と思われるドラゴンが完全に外に出てきたらしい。ぐるりぐるりと回旋しながら空を飛んでいる。火山の三分の一がマグマの紅色で染まっていた。

「ねえ、今のこの状況ってあの親ドラゴンに見つかったらヤバいんじゃない?」
「ああ、絶対大変なことになるとも! 間違いない! この私が確信しているからね! 認知されたら命は無いだろうね!」
「どうするの!?」
「そういえば滝の裏に洞窟がある。そこに一旦避難しようではないか!」
「賛成!」


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