〔ショートストーリー〕届かないから祈らない
祈ることは得意じゃない。欲が無いわけじゃなく、むしろ反対。叶わないことがありすぎて、清らかとは言い難い祈りを延々と続けてしまいそうになる。だから、私は祈らないし願わない。最初から諦めてしまえば、傷付いたりしないから。
「何だよそれ。スゲーマイナス思考」
レイヤがケラケラ笑う。だって私はあなたの二番目。一番になりたいなんて祈って、叶うと困るでしょ。そう思ったけど言わない。あなたは重い女は嫌いだから。
「ま、お前らしくて良いけどな」
簡単に言うよね。私らしいって何?私の何も知らないくせに。そんな言葉を飲み込んでヘラッと笑ってみせると、レイヤも笑いながらキスしてきた。私は軽くてお手軽な女。少なくとも、あなたの前では。
「じゃあ、そろそろ帰るわ。彩音が待ってるから」
性欲を満たすと、あなたはいつも帰ってしまう。好きな料理やお酒を用意して、話題のゲームや映画を並べても、それらをどんなに喜んでいるように見えても、必ず決まった時間になれば帰っていく。まるで、二人で朝日に照らされるのを避けるように。
「あいつ、特に趣味もなくてさ。その分、掃除や料理を一生懸命やって、ひたすら俺の帰りを待ってるんだよ。正直、ちょっと重すぎてキツいけど、夫として応えてやらないとかわいそうだからさ」
奥さんをディスるような言い方で、私の心をズタズタにして帰るのも慣れた。週に一度か二度しか会えないのに、そのために部屋を整えてあれこれ期待して待っている私のことは、かわいそうじゃないんだね。それがあなたの今の優先順位。そんなの、とっくにわかっていたけど。
「じゃ、また連絡する」
レイヤは軽く手を振って部屋を出た。鞄に入れた私のピアスにも、首筋につけた甘い香りにも気が付かないで。彼はいつも詰めが甘い。私の前で堂々と奧さんの話をするくらい、他人の気持ちをわかっていない。本人は上手くやっているつもりなのだろうけど、奧さんも私も、お互いの存在にはとっくに気がついている。どちらが先に爆発するか、危うい駆け引きを続けているだけ。
彼女も私もこの関係に苦しみながら、それでも壊すことを恐れている。レイヤに選ばれなくて、一人になるのは怖いから、聞きたいことも言いたいことも飲み込んで。でも、飲み込んだ感情は消えること無くドロドロに腐り、胸の中に溜まり続けている。多分、二人ともそろそろ限界。さあ、どちらが先に吐き出して楽になれるだろう。
急に静かになった部屋で、膝を抱えて目を閉じる。私は何も祈ったりしない。祈ったところで、自分の気持ちすらままならないことを知っているから。嫌いになれるか、もしくは忘れてしまえるなら。その程度の想いなら、あの人の唇の感触を思い出して、こんなに胸が苦しくなることなんてないのに。
レイヤが帰った後の夜は、とても長くて暗い。
(完)
こんばんは。こちらに参加させていただきます。
何だかまた、小さく救いのない話で済みません。もっと大きな祈りについて書きたかったのですが、力不足でした。
小牧さん、お手数かけますがよろしくお願いいたします。
読んでくださった方、ありがとうございました。
