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〔ショートショート〕彼女の髭
僕には彼女がいる。優しくて綺麗で頭もよくて、非の打ち所がない。ただ一点、彼女に立派な顎髭があることを除いては。
マッチングアプリで初めて見た時は驚いた。
「その髭って……」
「私、土星人だから」
「は?」
「私の司令塔は髭。この身体は髭の命令で動いてるの。地球にいる土星人はみんなそう」
「は、はあ……」
彼女の言葉を信じた訳ではないが、興味が湧いた。いざ会ってみると、趣味も合って意気投合し、付き合うことに。
「この髭があなたに恋したのよ」
彼女の口癖だ。
だが、このままでは彼女を誰にも紹介出来ない。絶対、髭のせいで変な目で見られてしまう。一度髭を剃ったらどうなるか聞くと、
「髭はまた生えるけど……剃るのは嫌」
と。
でも諦めきれない。ある夜、彼女が眠るのを待って勝手に剃ってしまった。髭のない彼女に見とれていると、突然パチッと目が開く。
「ああ、スッキリした!」
「う、うん?」
彼女はテキパキと身支度を整えながら言う。
「あなた、全然私の好みじゃないの。髭があなたを気に入っていたから、従うしかなくて。じゃ、これでサヨナラ」
ヒラヒラと手を振り、出て行ってしまった。
僕に恋していたのは、彼女の髭だけだったようだ。
(完・493字)
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