見出し画像

【ショートストーリー・片想い文芸部】スタートライン

あざとい女は、同性からは嫌われる。けれど、何故か男ウケは良かったりする。
「ええー?やだあ、そんなこと無いよお!」
テスト前で部活のない放課後、教室でわざとらしいアニメ声で騒いでいるのは、あざと女の典型のような紀香。ゆるふわ巻き毛に上目遣いもバッチリで、一見すると守ってあげたくなる女。でも実際は、男の前と女の前で全く態度が違うし、その中でも自分にとって使えるかどうかでまた態度を変える。私みたいに何の得にもならない女相手だと、氷のように冷たい態度をとるヤツだ。高校生にしてこのスキル、なかなか末恐ろしいと思う。
「ねえねえ、大原くんはぁ、どう思う?」
紀香は唐突に、話の輪に入らず一人で本を読んでいた大原くんに声をかけた。何でそんなことするのよ。あんたは取り巻きと仲良くしてればいいでしょ!と言いたくなるのをグッと抑える。気に入らないけど、私は大原くんの彼女ではないから何も言えない。ただの片想いだから。
「あ、ごめん、聞いてなかった」
ニコリともしない大原くんの返事に、紀香は鼻白む。私は心の中でガッツポーズをした。

「ねえ咲希、また紀香が大原くんを巻き込もうとしてるよ。いい加減、諦めたらいいのに、粘るよねー」
のんびりした声で言うのは葵。この子は裏表がなくて、私から見てもめちゃくちゃ可愛い。しかも性格も穏やかでいい子。この間、一緒に映画を見に行こうと待ち合わせたときも、私の電車が遅延して30分も待たせてしまったのに、文句ひとつ言わずに笑って映画館まで走ってくれた。美術部員で、いつも小さなスケッチ用のノートを持ち歩いているが、恥ずかしがってあまり中は見せてくれないのもやっぱり可愛いと思う。私のクラスでは紀香と葵が男子からの人気が高いが、私を含め女子の中では葵が断トツ人気だ。


私が思うに、男が「可愛い」ともてはやすタイプは2種類ある。
1つ目は紀香のタイプ。男に甘えるような視線で、男が喜びそうなパワーワードとボディタッチを散りばめて、浅はかな男達を引っ掛けていく。見た目はそこそこ可愛いとは思うが、あくまでもそれだけの女だ。その行動には計算が透けて見えるから、私たち女にはウケが悪い。いわゆる「あざとい女」だ。なぜ何人もの男達がこんな見え透いたやり方に引っ掛かるのか、私には理解できない。
そして2つ目は葵のタイプ。見た目だけは紀香タイプに近いこともあるが、相手が誰であろうと態度を変えたりしない。甘えた話し方になろうが、ボディタッチをしようが、それらはとても自然で相手は男女問わずだから、時には女の私でも抱きしめたくなるほど可愛い。そう、裏も表もなく、正真正銘「可愛い」のだ。稀に、葵のことを「あざとい、嫌な女」なんて言う女子もいるけど、それはそれで見る目がないと思っている。
その他、不器用でも一生懸命な子や、付き合えば付き合うほど良さが沁みてくる子、可愛さよりも格好良さが勝つ子もいる。でも、こういうタイプは女子には人気があっても、なかなか男子には良さを理解されにくいのが現実だ。
そして私は。ショートカットで背も高く、バスケ部に所属しているせいか、カッコいいと言われることもある。バレンタインに後輩(もちろん女子)からチョコをもらったことも何度かある。が、正直あまり嬉しくない。だって、私が憧れるのは葵のタイプ。可愛くいるための努力はちゃんとしているけど、誰彼かまわずチヤホヤされたいとは思っていないところがいい。きっと大原くんの隣が似合うのは、こんなタイプのはず。私じゃないんだよね。


「おい、大原!そろそろ帰ろうぜ」
隣のクラスの吉見が、教室のドアから顔を出す。
「おう。お前、居残りはもう良いのか?」
「あんな宿題ぐらい、俺が本気を出せばあっという間よ」
「だったら家でやって来いよ」
吉見はごもっともな意見にガハハと笑いながら、ふと私に気がついて声をかけてきた。
「おーい、まだ帰らねえの?」
吉見は私の幼なじみで、家も近い。サッカー部で私より長身、コミュ力も高くて年齢性別問わず好かれている。よくあるラブストーリーなら、「実は恋人候補は近くにいた」というパターンもありだが、私と吉見には絶対に当てはまらない。本当にいいヤツだとは思うけれどそれだけで、それは吉見も同じだろう。
その吉見に何と言おうか一瞬迷っていると、珍しく葵がこたえた。
「そうだね、私らも帰ろうかと思ってたとこ!」
「じゃ、駅まで一緒に帰ろうぜ」
「うん!」
え?大原くんも一緒に帰るの?待って、心の準備が……と悩む間もなく、葵に手を引っ張られて四人で帰路につく。視界の隅で、紀香がこっちを睨んでいた気がするが、それは気にしないでおこう。


大原くんは剣道部所属。いつも物静かで、ほかの男子たちがくだらない下ネタで騒いでいても、ほぼ無反応だ。まるで周りのことなど関心がないように見える。そのくせ、何か困っている人を見ると、男女問わず手を貸してくれたりするのだ。私が暑さで体調が悪くなった時も、黙って冷たいスポーツドリンクと濡れたハンドタオルを渡してくれたことがある。他にも、誰かが重そうな物を運んでいたらそっと手を貸したり、ノートを使い終わって困っている友達のために躊躇わず自分のノートをちぎって渡したり、とにかく優しい。しかもわざとらしさはゼロだから、秘かに好意を持っている女子は多い。私もそんな一人だけど。


対して、私の幼なじみの吉見は、見た目はどちらかというとチャラい。パッと見だと、何で大原くんと仲が良いのか不思議なくらい、逆のタイプじゃないかと思う。でも決して悪いヤツではなく、いつも真っ直ぐで嘘がつけない。お父さんもお祖父さんも柔道の師範だから、そういうのも影響しているのかも知れない。曲がったことが嫌いで、しかも思ったことをすぐ口に出してしまって、損な役回りを引き受けがち。だけど、本人はさほど気にしていないようだ。
「言うべきことを言わないで得するより、ちゃんと言って損する方がラク」
と言っていたし。
でも、そんな吉見が口に出来ないこともあること、私は知っている。ずいぶん前から、葵のことが好きなんだよな。上手く隠しているようだけど、幼なじみの私の目は誤魔化せない。まあその分、私の大原くんへの気持ちもバレていると思うから、お互いさまか。
吉見の恋、幼なじみとしては応援してあげたいところだけど、葵は男子に人気がありすぎるし、その上誰とでも軽く付き合ったりしない。モテても本人は一途なことを知ってるから、簡単に「吉見、どうかな?」なんて言えないんだよね。


「みんな、来週のテスト、勉強してる?」
葵の問いに、吉見が答える。
「いや、俺はまだまだ。自分がどこが分からないのかすら、まだ分かってないから、逆に余裕かも。大原は?」
「ああ、俺はボチボチかな。暗記は時間がかかる方だし、早めに取り掛からないと。お前と違って、自分がどこが苦手かぐらいは、取りあえず把握してる」
「……さすが」
思わずボソッと声に出る。あ、こんなこと言うと、誰でも褒めるような軽いヤツだと思われただろうか。いや、そんなことは全然ないんだけど、ホントにすごいと思ったから口にでただけで……と、内心焦っていると、大原くんが一言。
「お、褒められた」
え?笑ってる?私のこの拙い言葉で、笑ってもらえたの?うそー!最高なんですけど!
それが嬉しすぎて、何だかフワフワしてしまった。で、その後の会話はあんまり覚えていない。


こんな他愛のない話をしている間に、最寄りの駅に着いた。私と吉見は同じ路線、葵と大原くんはそれぞれ違う路線だけど、葵が
「ちょっと買い物に付き合って!」
と言うので、私と葵はショッピングモールへ向かう。
「ね、何を買うの?」
と問いかけると、葵は立ち止まり、キョロキョロと男子二人がいないことを確認すると、意を決したように私を見た。
「葵、どうしたの?」
「あのね、どうしても、咲希に聞いておかないといけないことが、あって」
「へ?私に?」
「うん。咲希と、あの、吉見くんって」
「吉見?」
「つ、付き合ってるの……かな?」
一瞬頭が真っ白になる。何?葵は何を言ってるんだ?
「は、はあっ???無い無い!絶対に無い!」
葵の顔がパアッと明るくなる。
「ほんと?私に気を遣ったりしてない?」
気を遣うって何で……ええ?まさか!
「も、もしかして葵、吉見のこと」
「……好き……なの」
ほえーっ!と叫びそうだったが、さすがにショッピングモールではマズい。結果、私は酸欠の金魚みたいに、ただ口をパクパクするだけ。取りあえず詳しく聞こうと、近くのファーストフード店に誘う。それぞれにドリンクを買い、空いていた席に座ると、葵は照れながらポツポツと話してくれた。


きっかけは2週間前。葵が私と映画を見に行こうと待ち合わせ場所で待っていたら、スマホにメッセージが入ったところから始まる。
『ごめん、電車遅延してる!』
『車両故障とか言ってる』
『30分ぐらい遅れるかも』
「あー、これはしょうが無い。映画、ギリだけど間に合いそうだし、いいや」
葵は呟くと、メッセージを返す。
『焦らなくて大丈夫!』
『スマホで動画見て待ってるから』
そして動画を見ようとした時、すぐそばで声がした。
「ねえねえ、君一人?」
ハッとして顔を上げると、左右にガラの悪い大学生っぽい男が二人、ニヤニヤ笑いながら葵を挟むように立っていた。葵は慌てて、
「いえ、友達と待ち合わせてるので!」
とそこを立ち去ろうとしたが、男達に行く手を阻まれてしまう。
「えー?でも今、一人でしょ」
「もしかして、すっぽかされたとか?」
「違います!電車が遅れてるだけで」
男達はますますニヤニヤ笑い出した。
「ああ、そっかー。じゃあさ、それまで俺たちと遊ばない?」
「そーだよ。ここでじっと待ってなくても良いじゃん」
男達が葵の肩や腕を掴む。嫌だ!怖いし、気持ち悪い!誰かに助けを求めたくても、みんな目を逸らして足早に通りすぎるだけ。絶望的な気持ちで泣きそうになった時。
「ごめん、お待たせ!」
大きな声がして顔を上げると、吉見が息を切らせて立っていた。
「ああ?なんだお前!」
凄む男達に、吉見は葵を背中にかばいながら、にっこり笑って答える。
「この子、俺の彼女なんで」
葵はドキッとしたが、吉見が助けてくれようとしているのが分かったので、黙って頷く。
「いや、この子、友達と待ち合わせって言ってたけど?」
「お前、彼氏なんかじゃねえんだろ?」
葵は(しまった!)と思ったが、吉見は全く動じなかった。
「やだなあ、まずは友達から、ってヤツですよ。今日にも、彼氏に昇格する予定なんで」
けれど男達もしつこい。
「はあ?何を訳分かんないこと言ってんだよ、ガキが!」
「今日は俺たちがこの子と遊ぶから、お前は一人で帰んな」
そう言いながら再び葵に伸ばそうとした手を、吉見が振り払う。そして、スッと愛想笑いを消すと、低く冷たい声で言った。
「お前ら、いい加減にしろよ。こんな嫌がってる子を強引に連れて行かないと、相手してくれる女もいねえのかよ。情けねえな」
「何だと!」
男達が激高しそうになった時、背後から声がした。
「うちの息子が、何かしましたか?」
「ああ?!」
勢いよく振り返った男達は、そのまま固まってしまった。180センチを超える身長の、岩のような男性が立っていたのだ。声は穏やかで、顔も微笑んでいる。が、目が全く笑っていないし、静かな怒りが全身から湧き出ていた。
「ですから、うちの息子が、何かしましたかと聞いてるんです」
Tシャツから伸びた頑丈そうな両腕は、怒りに震えているように見える。あの腕なら、片手だけでこんな男二人ぐらい吹っ飛んでしまうだろう。
「いや、あの、別に……」
「ちょっと、話をしていただけで……」
男達はしどろもどろになりながら後ずさる。
「ほほう、そうですか。それでは、話の続きをどうぞ」
ズイッと岩のような男性が男達に詰め寄ると、
「いや、もう終わったので!」
「俺らはこれで!」
ガラの悪い男達は、一目散に逃げ出した。


血の気が引くのを感じた。私が遅れたせいで、そんなことがあったなんて。
「ごめん、葵!怖い目に合わせて、ほんとゴメン!」
必死に謝る私を、慌てて葵が止めた。
「ううん、咲希のせいじゃないし!吉見くんが助けてくれたから、無事だったし……」
言いながら、葵がポッと赤くなる。か、可愛い。これは本気で吉見が好きなんだと、私もようやく実感する。
「でもさあ、どうしてそのこと、教えてくれなかったの?」
「うん……吉見くんがね、『待ち合わせって、咲希とだろ?あいつにはこのこと、黙っててくれよな』って言うから。『最後は親父に助けられたなんてカッコ悪いだろ?』って。でもそれ、違うと思うんだ」
「ん?何が?」
葵は私を見て微笑んだ。
「咲希のことだから『自分のせいで私が危ない目にあった』って、責任感じちゃうと思ったんじゃないかな。そんなに咲希のことを気遣うから、もしかしたら咲希のこと好きなのかなって……」
「いや、それは無い」
「でも……」
「あ、私のことを気遣ってくれたのは、そうだと思う。でも、それは幼なじみとしてだよ。それよりさ、他に気が付くこと無かったの?」
葵はキョトンとした顔になる。
「他にって、何?」
「あいつ、サッカー部だよ。それが息を切らしてたんでしょ、葵を助けに行った時。どんだけ必死で走ったんだよ、って話」
「あ……」
葵がまた赤くなる。うん、何て分かり易くて可愛いんだ!
「そう言えば彼のお父さんが、『せっかく珍しく二人で買い物に来たのに、コイツが急に凄い勢いで走り出すから、何事かと思いましたよ』って。『妻の誕生日プレゼントを探しに来たんですけどね』って笑ってた」
「でしょ?葵が危ないと思って、必死だったんじゃないかな」
「そ、そうなのかな……そうだと嬉しいな」
吉見よ、私のアシストはここまでだ。後は自分で頑張れ!


「でね、咲希はさ」
「うん?」
「咲希は大原くんのこと、好きなの?」
危うくコーラを吹きそうになった。
「な、な、何で急にそんなこと」
「うーん、何となく。吉見くんと付き合ってないなら、大原くんかなあって」
葵は悪戯っぽく笑う。
「だって咲希、まあまあ分かり易いし」
げっ。そんなに私は分かり易いのか。じゃあ、大原くんにも……。
「ま、何となく伝わってるんじゃない?」
マジか。そうだとしたら、明日からどんな顔して会えば良いんだろう。
「大丈夫!彼も咲希が好きだっていう確証はさすがに無いけど、嫌いじゃないのは確かだから」
「何でそんなこと、分かるのよ」
「分かるよ!だって、紀香に対する態度と、咲希に対する態度、全然違うじゃん!紀香なんてあんなにあからさまにハート飛ばしてるのに、大原くん、めっちゃ冷たいでしょ。紀香みたいなタイプ、多分嫌いなんだと思うよ」
そっか。それは、そうかも知れない。
「じゃあ……私もまだ可能性はあるのかな」
「あるよ!って言うか、私の勘だと、いい感じだと思う。私、自分のことは分かんないけど、他の子のことなら結構わかっちゃうから」
そう言うと、葵はスケッチ用のノートを取り出してパラパラとめくり、あるページを見せてくれた。そこには、とても優しい顔で微笑む大原くんがいた。ほわーっと見とれていると、
「これね、そっと咲希を見ているときの大原くんだよ」
え?ほ、ほんとに?体がカーッと熱くなる。あまりに照れくさくて、そのスケッチ用ノートを手に取り勝手にパラパラとめくってしまった。
「あ!ダメだよ!」
葵が慌てて手を伸ばすが、時すでに遅し。吉見の真剣な横顔、サッカーをする吉見、笑う吉見。ノートには吉見が溢れていた。
慌てて私からノートを取り返すと、恨めしそうに言う。
「絶対に誰にも言わないでよ」
「うん、言わない。けどさ」
「何」
「お、大原くんと、私のツーショット、描いて欲しいな、なんて。御守りにしたいから」
葵は一瞬驚いた顔をしたが、嬉しそうにOKしてくれた。
氷の溶けかけたドリンクを飲みながら、何となく顔を見合わせて二人でフフフッと笑う。お互い頑張ろうね、葵。私たちの恋はこれからだから。
(完)




こんばんは。こちらに参加させていただきます。

ナルさん、いつもありがとうございます。長くなりましたが、よろしくお願いします。
読んでくださった方、ありがとうございました。


いいなと思ったら応援しよう!