#35 トランプによる「飛行中のエンジン交換」と、機内食を食べる私たち
対象: 構造改革や技術的負債に挑んでいる人
概要: トランプがやろうとしていることを
システム視点で解釈してみた話
エンジニアリングの世界には、一つの理想があります。目的関数が共有されている場合に「各モジュールが自律的に最適化されていれば、全体としても最高のパフォーマンスを発揮する」という疎結合の美学です。
しかし、現実はそうはいきません。トランプ氏の「アメリカ・ファースト」の本質は、絡まり合った国際的な依存関係(言わば密結合な状態)を一度断ち切り、米国という単一ユニットを最適化しようとする、極めてロジカルで強引な再構築(作り直し)の試みに見えます。
インフラの世界では「技術負債の解消」として称賛される作り直しが、政治において劇薬となるのは、そこが「論理」ではなく「生命」のレイヤーだからです。システムは初期化できますが、社会はできません。過去の約束や人々の人生という履歴と、各人の存在そのものがシステムと癒着しているため、根本を入れ替えようとすると生命を破壊するリスクが伴います。
また、コンピュータやプラントに意思はありませんが、人間には意志があります。自分が「非効率な部品」として削除されると察知した瞬間、彼らはシステムを内部から攻撃する抵抗勢力へと転じます。
インフラと政治の最大の違いは、モックアッププラントやテスト環境がないことです。2026年現在の米国は、「乗客を乗せた飛行機のエンジンを、空中で無理やり最新型に積み替える」ような状態です。失敗してもロールバックは効きませんし、切り替え可能な予備系列を用意することはできません。
かつてのグローバリズムは、究極の「密結合」を志向するシステムでした。世界全体での経済成長という最適化は果たされるものの、目的関数が歪んでいた事で、特定の国への富や権力の集中や、一箇所が壊れると全体が止まる脆弱性を抱えていたのです。トランプ氏が進める再構築は、この依存関係を切り離す「疎結合化」への強制移行であることは明らかです。
この世界的な再構築の中で、日本というインフラを抱える管理者はどう振る舞うべきでしょうか。米国という戦後世界の「中央監視制御装置」の更新工事に振り回されないための、三つの戦略が見えてきます。
①設備の多重化
米国との接続(日米同盟)を維持しつつも、米国のシステムがダウンした際に備え、ローカル側にもコントローラを置くように、設備の多重化を図っておきます。政治の舞台では、米国以外の西側諸国との連携がキーになるのでしょう。
②自律性の強化
設備の屋根に太陽光パネルを乗せて電力を賄うように、外部からのユーティリティの供給に頼らずに、システムを維持することが可能な環境を構築します。政治の世界では、戦略物質の国産化を図ることに通じるでしょうか。
③柔軟性の維持
多様な未来に対応できるように、システムの標準化やオープン化を進め、柔軟性を高めておくことです。政治の世界では、米国が提示する再構築の試みを適度に取り入れつつ、トランプ後の世界も予測して諸外国との関係性や、国内経済の立て直しを図り財政的なフリーハンドを確保しておくことに相当します。
私はトランプ氏のやり方に賛成か反対かを述べるつもりはありません。ただ、一人のインフラ技術屋として、この再構築の強制実行が、果たして物理的に成功し得るのかという点に、抗いがたい興味を抱いています。
目的関数の共有という前提すら乗り越えて、「理屈」が「現実」をねじ伏せて、全く新しい高効率な秩序を作り出すのか。それとも「現実」の重みが「理屈」を撥ね退け、システムダウンを招くのか。
私たちはいま、航空機エンジンの改装工事を眺めながら、未来行きの機内で機内食を食べています。この壮大な実験の帰趨を、今はただ冷静に見届けたいと思います。

2015年に訪れたときに、今の状況は想像できなった
彼は今の米国を世界をどう見ているのか
RX100 1/320 F2.8 28mm相当 ISO125
