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【210日目】夢野久作「ドグラ・マグラ」を1日1ページずつ読んでいく

 この大暖炉は、万一この実験が失敗するか、又は吾輩の研究の内容を他人に盗まれそうになった時に、そんな著述の原稿を全部、この中で焼き棄ててくれよう。事に依ったら吾輩自身もこの大暖炉を利用して天下をけむに巻きながら、ヒュードロドロドロと行衛を晦ましてくれようと思って、最初から瓦斯ガスと電気併用の自動点火式に設計したものだが……見給え……この鉄の蓋を取ると、内部なかはこんなに広々して、底一面の電熱装置の間から瓦斯が噴き出すようになっている。何の事はないブンゼンラムプの大きなヤツを二百ばかり併列した形だ。この上に生きた物でも戴せて、瓦斯のコックを開いて電気のスイッチをじると、取りあえず瓦斯が飛び出して窒息させてしまう。そのうちに電熱器が熱して来て、ドカンと瓦斯に点火したら一時間経たぬうちに骨までボロボロになってしまうだろう。その上に石でも瓦でも積み重ねておくと全部白熱して強烈な輻射熱を出すのだからね。見給え、肉よりも焼けにくいという西洋紙の原稿ばかり、本箱に四杯近くもあったのが、どうだい。たったこれんばかりの白い灰になってしまっているだろう。これで吾輩が又けむになれば、折角の大学理が、又、もとの空中に還元されてしまうわけだ。ハッハッハッ。……吾輩は、君と若林が、あの階段を上って来る音を耳にすると同時に、ウイスキーの瓶と一緒にこの中に逃げ込んで、この灰の上にこうして新聞紙を敷いて楽々と胡座あぐらいたまま、いつ何時でも煙になる覚悟で、葉巻を吹かし吹かし耳を澄ましていた訳だ。
 ……ところが流石さすが彼奴きゃつだ。天下の名法医学者だ。吾輩の姿が見えなくても平気の平左でいるばかりか、すぐにその機会を利用して君を錯覚に陥れ初めた。……彼奴のアタマは聖徳太子と同様二重三重に働くんだからね。だから吾輩や斎藤先生の事を色々と君に話して行く片手間に、この遺言書の内容を大急ぎで検査してみると、少々都合のわるい処もあるが、結論まで書いてないのだからまず安全である。のみならず、こいつを君に読ませれば、自分で説明するよりも遥かに都合よく、君自身を呉一郎と思い込ませ得るという見込みが付いたので、わざと君に押し付けておいて、君が夢中になって読んでいるうちにコッソリ姿を消してしまったのだ。そうしてこれに対して吾輩がドンナ処置をるかを試験しているらしい様子だ。
 ……そこで吾輩いよいよ面白くなったね。……よし……その儀ならばこっちも一つその計略の裏を行って、あべこべに彼奴の挑戦に逆襲してやれと思って、暖炉ストーブの中からソーッとここへ出て来て、この椅子に腰を卸しながら、君がその遺言書を読み終るのを待っていた訳なんだが……。ハッハッ……どうだい。今君と吾輩とは天下の名法医学者、若林鏡太郎氏の計劃の下に対決しているんだよ。そうして君がどこの何という名前の青年であるか……この事件と如何なる因果関係によって結び付けられて、現在その椅子に座らせられているのかという事は、まだ学理上にも実際上にも明白に決定されていないのだよ。
 ……だから彼奴、若林の予想通りに、君がその自我忘失症から、姪の浜の一青年呉一郎として覚醒して、吾輩をその事件の裏面に活躍している怪魔人……血も涙もない極悪非道の精神科学の手品使いとして指摘すれば、この対決は吾輩の負けになる。しかし、これに反して、君がドウシテモ呉一郎としての過去の記憶を思い出さなければ、早い話が吾輩の勝になる……君は『自我忘失症』と名づくる一種の自家意識障害を起して、九大の精神科に収容されている、第三者の立場から若林の手にかかって突然にこの事件に捲き込まれて来た無名の一青年という事実が公表され得る事になって、若林の計劃がオジャンになるという、その際どい土俵際に立っているんだよ君は……。ドウダイ面白いだろう。古今無双の名法医学者と、空前絶後の精神科学者の、痛快深刻を極めた智慧比べだ。しかも、その勝負を決すべき呉一郎が、君自身だかどうだかは、今も云う通りまだ決定しないでいる。ハッケヨイヤ残った残ったというところだね。ハッハッハッ……」

なるほど…

正木博士を失墜させたい若林博士と、正木博士の勝負か…

主人公が呉一郎と信じ込んだら若林博士の勝ち、そうでなければ正木先生の勝ちか…

だいぶ話が分かりやすくなった。

が、本当だろうか…?

もしや斎藤先生も一枚噛んできて3人のバトルになるのでは…

あとドグラマグラの新装版が出るらしい。

これはめでたい🎉

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