【162日目】夢野久作「ドグラ・マグラ」を1日1ページずつ読んでいく
(甲)犯行の現場たる女塾内には、呉一郎母子と塾生に関する事跡及び勝手口の唯一の締りとされおりたる径約一寸、長さ四尺一寸余の竹の支棒が、不明の原因にて土間に脱落しおりたる以外に、犯人の指紋、足跡等の一切を認め居ず、拭い消したるものなるや否やも不明なり。尚、右支棒は外より板戸を強く押せば、指をさし入れて外し得る位置に在りたるものなる事を推定し得たり。而して右板戸の縁辺の支棒に接触する部分は、磨滅を防ぐためと支棒の作用の堅確を期するため、新しく亜鉛板を以て蔽いありたるも、這は却って軽微の力を以て、支棒を脱落せしめ得る原因となりたるものの如し。
(乙)被害者千世子は同夜午前二時――三時の間に、背面より絹製の帯締を以て絞殺され、寝具を蹴散らし、畳の上を輾転して藻掻き苦しむなど、甚しき苦悶の跡を残したるまま絶命せるものを、更に階段の処に持行きて手摺より細帯にて吊し下げ、階段の降り口に正面させて縊死と見せかけたる事明らかなり。しかも、その絞首の跡を示す斑痕が、二重もしくは三重となりおる状況は、犯行当時に於ても明瞭に認められし事を察し得るに拘わらず、更にこれに縊死を装わしめたるは、一見、浅薄なる犯行隠蔽の手段なるが如きも、実は左に非ず、他の指紋等を消去りたる犯人の行動と比較考慮する時は、その矛盾せる行為の相互間に生ずる一種の錯覚を以て、犯人に対する目星を誤らしめんがために執りたる極めて巧妙なる手段なりと思惟し得べし。
尚、被害者の手中その他には何物も止めず。或は軽き麻酔を施されたるものに非ずやとも疑わる。
尚又、当時犯行用と認められし帯締めは、その後、数名の警官の手に転々したる後なりしを以て、何等犯人に関する証跡を検出するを得ず。
(丙)呉一郎は、麻酔を施されたるものなる事を、同人の談話に現われたる予後の諸徴候に依りて推測し得べし。
(丁)屍体は死後約四十時間目に、同女塾の裏庭に於て、舟木医学士立会、余(W氏)執刀の下に解剖の結果、最近に於ける性交の形跡なく、子宮には、嘗て一児を孕みたる痕跡を止むるのみなる事を確かめ得たり。
如上の事実に依り犯人及び犯行の目的等に関する推定は殆んど困難なり。然れども、犯人は相当の学識あり、麻酔剤の使用に慣れ、思慮深く、且つ腕力逞ましからざる者なる事、及び犯行が呉一郎に及ぶ事を好まざりし者なる事を推測し得べし。(中略)。その筋の捜索方針は、初め如上の推定に基きて進行し、呉一郎を釈放したるも結局、再びこの方針を放棄し、純然たる見込捜索に移りたるため、遂に何等得るところなく、事件は所謂迷宮裡に遺棄さるるに到りたり。(下略)
▼右に関する精神科学的観察
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この事件は著者(正木)自身が直接に調査したるものに非ざるを以て、専門の精神科学的の考察と説明には多少の不便を感ずるものなり。然れどもW氏が、同氏独特の法医学的の見地に立ちて調査記録したる、この事件の各種の特徴に依て観察する時は、この事件の真相が現代の所謂、科学知識及び、これに伴う所謂常識の発達範囲に於ては、到底判断し且、説明し得べからざる「心理遺伝の発作」にあること疑を容れず。筆者の所謂「犯人無き犯罪」の最も顕著なる好適例なり。すなわちW氏の最初の直覚が適中しおりたる事を、一切の事象が指しいる事を一々摘出、明示し得べし。W氏が事件後も尚、この点に関する疑念を捨てず、前掲の如き貴重なる談話を記録せる、その用意の周到なるに、劈頭の敬意を表せざるを得ざるものなり。
乃ち前記W氏の観察と、三項の談話とを通じて、この事件の真相を究むべき、観察要項を列挙すれば左の如し。
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また列挙は翌日か。
区切るところが微妙だ。
自分で区切ってるのだが。
正木先生のコメントが出てきたか。
犯人無き犯罪か…
モルグ街の殺人のようなものか…
本当にそういう話で終わるのか、真犯人がいるのか…
若林先生から正木博士への挑戦状じゃないかという気もしてきた
つまり犯人は若林先生…
主人公が麻酔を撃たれていたなら、その可能性は高いだろう…
医者なら簡単に麻酔が手に入りそうだし
