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【242日目】夢野久作「ドグラ・マグラ」を1日1ページずつ読んでいく

「……それそれ。そこん処だ。階下より蝋燭の滴下起り……云々と書いて在るだろう。その百蝋燭の光りの前で、新郎と差向いになったモヨ子は、初めてその絵巻物を突き付けられながら……この絵巻物を完成するために死んでくれ……という意味の熱烈な要求を受けたに相違ない。しかもその絵を見ると、眼鼻立から年頃まで自分に生写しの裸体少女の腐敗像の、真に迫った名画と来ているのだからタマラない。はらわたのドン底まで震え上ると同時に卒倒して、そのまま仮死の状態に陥ってしまったものと考えられる……という事実を、その調査記録は『抵抗、苦悶の形跡なし』とか『意識喪失後に於て絞首』云々の文句で明かに想像させているではないか」
「……のみならずモヨ子がその後に於て、程度は余り深くないながらに自分と同姓の祖先に当る花清宮裡かせいきゅうり双きょう姉妹そうきょうしまいの心理遺伝を、あの六号室でき現わしている事実に照してみると、その仮死に陥った瞬間というのは、の土蔵の二階で、呉一郎がサナガラに描き現わした一千年前の呉青秀の心理遺伝の身ぶり素振りによって、モヨ子が先祖のたいふん姉妹きょうだいから受け伝えていたマゾヒスムス的変態心理の慾望と記憶とを、ソックリそのままに喚起よびおこされた刹那せつなであったろうという事も、併せて想像されて来るではないか」
「……………」
「……ただし。こういうと不思議に思うかも知れないが心理遺伝の発作と消滅の前後に、仮死状態や無意識、昏睡状態なぞいうものが伴う例は古来、幾多の記録や伝説に残されているので、この方面の専門的研究眼から見ると、少しも不思議な事ではないのだ。……すなわち昔はこれを『神憑かみうつり』とか『神気かみげ』とか『神上かみあがり』とか称していたもので、はなはだしいのになるとその期間が余り長いために、真実ほんとうに死んだものと思って土葬した奴が、墓の下で蘇った……なぞいう記録さえ珍らしくない。能楽『歌占うたうら』の曲の主人公になっている伊勢の神官、渡会わたらえなにがしは三日も土の中で苦しんだために白髪しらがとなってい出して来た……なぞいうのは、そんな伝説の中でも最も有名な一つで、これを精神科学的に説明すると電気のスイッチを一方から一方へ切り換える刹那せつなに生ずる暗黒状態みたようなものだ。勿論その気持の変化の強弱、又はその人間の体質、性格等によって時間の長短の差はあるが、普通の場合、突然の驚きに似た卒倒と、それに引続く身神しんしんの全機能の停止があってのちに、やがて息を吹き返すと、挙動が全く別人のようになる……すなわち心理遺伝の夢遊発作を初める……又はそうした発作を続けて来た人間が同じ暗黒状態の経過ののちに、正気に立帰ったりするので、前に述べた狐憑きなどの場合は、夢中遊行発作の程度が割合に浅いだけに、無意識状態に陥る時間も短かいのが通例になっているのだ。……なおこの仮死の間に於ける栄養作用や、新陳代謝の具合なぞの研究は、この呉モヨ子のモデルに依って、若林が充分な研究をげている事と思うし、吾輩も他人の受売りなら多少出来るが、この話には直接の必要がないから略する。いずれにしても呉モヨ子が仮死状態に陥った直接の原因が、呉一郎の夢中遊行から来た暗示であったろうという事は、この若林の手に成った調査書類の文句が云わず語らずのうちに表明している推論で、吾輩も双手を挙げて賛成せざるを得ないところだ」
「……………」

モヨ子の心理遺伝のトリガーは絵なのか呉一郎なのか…

これまでは絵は男性のみの心理遺伝トリガーになるという話だったが、呉一郎が心理遺伝がモヨ子の心理遺伝のトリガーになりうるとは…

それにしても昨日の分も18禁にカテゴライズされてしまった

そんなシーンはないが、変態と性欲という単語が頻出したからだろう

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