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【170日目】夢野久作「ドグラ・マグラ」を1日1ページずつ読んでいく

  【八】 夢中遊行の行われたる時間、その他

 如上述べ来れる理由に依り、この事件を考察する時は、呉一郎の当夜の発作は、第一回と、第二回の覚醒の間に於て行われたるものと推定するを得べく、被害者の絶命時間が、二時――三時の間とすれば、呉一郎は第二次の就寝後三十分乃至一時間ののちに、かかる夢中遊行状態の起り得べき、最深度の熟睡に陥りたるものなる事を察し得べし。而して、第二回の払暁時ふつぎょうじの覚醒は、平生の覚醒時に於ける習慣的の潜在意識の発露と見るを得べく、その後の睡眠に於て、呉一郎は初めて夢中遊行の余波、もしくは夢中遊行中の嚥下物えんかぶつに依って刺戟せられたる悪夢より離脱し、真の熟睡、休養に入りたる事を、その発汗現象によりても察知するを得べし。

  【九】 夢中遊行に関する覚醒後の自覚、及び二重人格に関する考察

 次に呉一郎が覚醒後、警察に於て、母殺しの嫌疑の下に訊問を受けし際、茫然自失しながらも「そんなら、自分が殺しておいて忘れているのじゃないかしら」というが如き、極めて軽微なる疑問が動きおりし事を告白せるは、一見、同人が自己の夢中遊行の幾分を記憶にとどめおれる重大なる証左なるが如く思惟さるべし。すなわち第四項に略説せし通り、同人の当夜に於ける夢中遊行の事実は、同人の有意識的の記憶には存在せざる筈なれども、脳髄以外の細胞が作りし無意識的記憶のうちの或るもの……たとえば当時の甚しき疲労感等が、警部の訊問の暗示力によって意識裡に浮み出でしものにあらざるなきやも疑い得べし。然れども、これを他の一面より見る時は、気質の純真と、良心の澄明とが反映したる、極めて明敏なる頭脳の所有者にして且つ、小説類の愛好者たる呉一郎が、かかる局面に立ちたる結果起したる、この種の頭脳特有の錯覚に非ざるなきやを保し難し。したがって、這般しゃはんの疑問は、呉一郎の夢中遊行の存在を的確に立証し得るものに非ず。唯、一箇の補遺的参考としてここに掲ぐるを得るのみ。
 なお、以上述ぶるところに依って、古来、夢中遊行病者が一種の二重人格の所有者なるが如く思惟せられおる事が、真に近き理由をも理解するを得べし。すなわち、祖先代々より遺伝し来りたる無量の記憶と、その血統中に包含されたる各人種、各家系、各個性等の無数の性能の統一体たる一個の人間の性格のうち、その一部が覚醒中に分離してあらわれたるものが所謂二重人格にして、同じく睡眠中に発露されたるものが夢中遊行症なり。しかしてかかる夢遊病者の素質が、遺伝性を帯びおるものなるは無論なるを以て、夢遊病者が夢中遊行中に行いし犯罪に対する責任は、夢遊病者本人が負うべき場合甚だすくなく、これを遺伝せしめたる祖先及びその時代の社会等が、負うべき場合多き事を、この事件に対する法律的考察の参考として附記しおくべし。

  【十】 呉家の血統に関する謎語

 劈頭へきとうに掲げし四項の談話中、右に摘出したる以外にもまた、呉一郎の心理に、かかる夢中遊行を発作し得べき遺伝的の或るもの・・・・が存在せる事を暗示せる個所すくなからざるが如し。即ち左の如し。
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=呉一郎の談話中= 同人母千世子は、女性にしては珍らしき明晰なる頭脳を有し、且つ、気強き性格の持ち主なる事が説明されおり、且つ、迷信家にあらざる旨を弁護しあるにも拘らず、母子二人の宿命、もしくは運命に関しては、極めて平凡、且つ愚昧に属する迷信を極度に固執しおれる事実より推して、同女の心理に何等か不可抗的の憂悶不安の、不断に存在せるに非ざるなきやを疑い得る事。

母親が心配していた母子2人の宿命とは…?

それにしても昔の文体で非常に理解に時間がかかるな…

「もしかして僕が殺したって言うんですか?」ってぽろっと言ったら、ほら、そう言うことが無意識で殺したことを覚えてる証拠だとか言われるの怖すぎでは…

あんなに無実の人が狂人に仕立て上げられる罪を糾弾していたのにどうして…

と思ったがそれは正木先生か。

これは若林先生がまとめた事件録か。

ということは、正木先生は心理遺伝犯罪反対派で、若林先生は肯定派…だったりするのか?



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