【171日目】夢野久作「ドグラ・マグラ」を1日1ページずつ読んでいく
=同= 狸穴の先生と呼ばるる占断者の言に「お前達は、何者かに咀われている」とあるは、同占断者が、同女との対話中に、同女の言葉の中に含まれたる或る事実を推測して、斯く云いたるに非ずやと疑わるる事。
=八代子の談話中= 直方署の留置場に於て、初めて呉一郎に面会したる際「お前は何か夢を見ていやしなかったか」と尋ねしは「嘗て夢遊病の事を耳にせしためなり」云々と弁明せるが、一婦人、特に農家の一主婦としての教養以外に、何等の高等なる学識を有せざるべき筈の八代子が、此の如き非常事件に際し、かかる超常識的に高等なる、精神科学的現象の存在の、可能なる事を考え得るさえも、不可思議というべきに、更にこれを実地に当て嵌めて、直ちに事件の裡面の真相を穿たんと試みたるが如きは、真に驚くべき事実にして、仮令同婦人が如何に慧敏、且つ果敢なる判断力を有するものと見るも、尚且つ、不自然の感を免れず。但し、同婦人が常に、何等かの痛切なる事情に迫られて、かかる問題を念頭にかけおり、此の如き事実に関する風説又は説明等に就て、鋭き注意を傾注しおりたるものとすれば、かかる際、かかる質問を発するは強ちに不自然と云い得べからざること。
=同= 同婦人は、姪の浜なる実家に、近き親戚の尠き旨を洩らせるが、田舎の富家には往々にして此の如く血縁的に孤立せる家系あり。而して、その孤立の原因は多くの場合、その家柄もしくはその血統に絡まる伝統的の悪風評もしくは、或る忌むべき遺伝的の素質あるがために、附近の者が姻戚関係を結ぶを好まざる結果なるを以て、呉家も、或はその種の家柄に非ずやと疑わるる事。
=同= 妹千世子が家出の原因は刺繍と絵画の修業を目的とせるものに外ならざる旨、繰返して弁明せるも、前項の疑点と照合する時は、尚、別の意味をも含まれいるものの如し。すなわち千世子は、姉と共に同家に居りては、到底結婚の不可能なるべきを予感し、又は他国に於て、呉家の血統を繋ぎ残すべく、姉との黙契の下に家出したるものにして、これあるがために、その行衛捜索に対する姉の態度は、稍々不熱心の嫌なきに非ざりしやの疑を存する余地あり。且つ、同姉妹が二人共、女性としては珍らしき気嵩なる性格の所有者なる事実よりこれを推せば、両人の間にかかる黙契の成立し得べき事は想像に難からざる事。
=松村マツ子女史の談話中= 「千世子が有名なる男喰いなりとの噂」云々の事実と、前記の疑問とを綜合する時は、此の如き事情を負うて家出せる同女の、その後の行動の一斑を窺うに足るべき事。
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如上の各項の疑点を通じて、姪の浜の呉家に伝統的の、しかも、極めて恐怖すべき或るものが存在せる事、及び同家の最後の血統を有せる八代子と千世子の姉妹が、この事を熟知しおるらしき事は、この事件の当初より既に、充分に暗示しありたるものと見るを得べし。
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【十一】 残るところは、この事件に於ける呉一郎の夢中遊行の発作が「~如何なる種類の心理遺伝の《・・・・・・・・・・》、如何なる程度の発露に依りて行われたるものなりやという問題なり
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即ち這般の第一回の発作は、その夢中遊行の直接誘因とも見るべき有形的の暗示が「一女性の寝顔の美」という簡単なるものに過ぎず、且つその刺戟が、異性的魅惑力の最も薄弱なる母親によって与えられたるものなりしため、呉家の固有に属する驚異的の心理遺伝に対する暗示の度も亦、甚だ浅かりしものと察せらる。従って、その夢中遊行の内容も、同家固有の心理遺伝の内容(後段参照)と合致せるは唯「絞首」の一事あるのみ。爾余はその屍体、及びその容貌の暗示より来れる脱線的の夢中遊行に移りて、それ以上の心理遺伝の内容を示さざりしものと思惟し得べし。
而して、前記諸項に関する一切の根本的の疑問に対する解決と説明は、この直方事件の発生後、約二箇年目に現われたる左記、第二回の発作に現われたる諸般の事情に依って、徹底的に明らかにするを得べし。
夢中遊行するような家系、言ってしまえばなにか遺伝する病気を持ってると噂になって村八分…とまではいかないが結婚できなかったからとな…
よく分からないが昔の地方とかだと有り得そうな説得力があるな…
次はモヨ子事件か。
