【132日目】夢野久作「ドグラ・マグラ」を1日1ページずつ読んでいく
さて……以上の蒙古人系統の特徴を除外した、この少年の骨相をよくよく観察致しますと、そこにあらゆる異人種系統の寄り合所帯が発見されるので御座います。
まず……大体の顔の形は拉甸系統のふくらみを持った卵型でありますが、眉と、睫毛が、絵筆で描いたように濃く長くて、眼の縁の隈がドコとなく青ずんで見えまするところは、何といってもアイヌ式であります。又、鼻の外見的な恰好は純然たる希臘型で、頬から腮へかけての抛物線と、小さな薄い唇が、ハッキリと波打っている恰好を見ますると、我国の古い仏像などに残っているアリアン系統の手法を聯想させますが……よく御覧下さい。こころもち薄い腮の中央に、北欧人種式の凹みがありますから……「頬の笑凹がルビーなら腮の笑凹はダイヤモンド」と申しますアレで、男にはあまり必要のない美的要素で御座いますが……御覧の通り微笑を含みますと一層よく解るので御座いますが……。
ところで斯様に、一人一人の人間の骨相を調べましてから、その人間の特徴と照し合せてみますとまことによく一致いたします。その中でも一番よく一致いたしますのは性癖、その次は趣味、その次が才能という順序になっておりますようで……すなわちこの少年は、日本人式の順良さと、アイヌ式の尊崇心と、拉甸人種式の頭の良さとを同時に持っているので御座いますが、それが又……あの通りウットリとした瞬のし方でもお察し出来ます通りに、どことなく北欧人種式の隠遁的な、高雅な気風によって包まれておりますために、表面にパッと現われていないのであります。……つまり一口に申しますとこの少年は、どちらかといえば年齢の割合に落付た、物静かな性格と見るべきで御座いましょう。
然るに、そのような表面的に冷静な性格が、一朝にして心理遺伝の暗示によって、撃破、顛覆されてしまいますと、今まで内部に潜み流れておりました大陸民族式の、想像も及ばない執拗深刻、且、兇暴残忍な血が、驀然に表面へ躍り出して、摩訶不思議な大活躍を演ずる事に相成ましたので、つまり只今から御紹介致します空前絶後的な怪事件の真相と申しますのは、要するにこの少年の鼻の穴の中に隠れておりました蒙古人種系統の心理遺伝が、一時に暴れ出したものと、お考え下されば宜しいので御座います。
なお又、このほかに、この少年の骨相の中には、見逃してはならぬ大切なものが残っております。それは一面に極めて楽天的な、呑気なところがありながら、チョットした刺戟や、僅かな環境の変化にもすぐに感激昂奮して、あたり構わず笑ったり、泣いたり、怒ったりする……一口に申せば極めて気の変り易い、仏蘭西人みたいな性格を象徴している、純拉甸型の薄い腮を持っている事でありますが、しかし、この特徴も、この少年の平生の性格には、あまり現われていないようであります。やはり前に述べました極めて明晰な頭脳と、厭人的にハニカミ勝な性格に押え付けられているらしく思われるのであります。……とは申せ、随分と著しい特徴でありますから、この少年が解放治療場に参りましてから後の、長い長い心理遺伝の発作の途中、もしくはその回復期に於て、いつかはそうしたこの少年の腮の性格……感傷的な、もしくは激情的な気質が、あらわれるに違いないであろう事を、正木博士は楽しみにして待っておられた次第で御座います。
この少年がなにをやったんだ…
実際そんな多様な血が混ざり合ってるのか?
それにしてもアゴを腮とも書くとは知らなかった
