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【197日目】夢野久作「ドグラ・マグラ」を1日1ページずつ読んでいく

 それは青い、美しいラムネの玉であった。
 呉一郎は真正面まともに太陽に向けた顔をニッコリとさせながら、その玉を黒い兵児帯へこおびの中にクルクルと捲き込んだが、大急ぎで裾をからげて前にかがみながら、両手でザクザクと焼けた砂を掘返し初めた。
 最前から入口の処に突立って、その様子を見ていた正木博士は、小使に命じてくわちょう持って来さして呉一郎に与えた。
 呉一郎はさも嬉しそうにお辞儀しいしい鍬を受け取って、前よりも数倍の熱心さでギラギラ光る砂を掘り返し初めた。それにつれて濡れた砂が日光にさらされると片端かたっぱしから白く乾いて行った。
 その態度を熱心に見守っていた、正木博士はやがてニヤリと笑ってうなずきつつ、サッサと入口の方へ立ち去った。

 【字幕】 それから約二個月後の解放治療場に於ける呉一郎(同年九月十日撮影)
 【映画】 解放治療場中央の桐の葉にチョイチョイ枯れた処が見える。その周囲の場内の平地の処々に真黒く、墓穴のように砂を掘り返したところが、重なり合って散在している。
 その穴と穴の間の砂の平地の一角に突立った呉一郎は、鍬を杖にしつつ腰を伸ばして、苦しそうにホッと一息した。その顔は真黒く秋日にけている上に、連日の労働に疲れ切っているらしく、見違えるほどやつれてしまって、眼ばかりがギョロギョロと光っている。流るる汗は止め度もなく、あえぐ呼吸は火焔のよう……殊に、その手に杖ついている鍬の刃先はさきが、この数十日の砂掘り作業の如何に熱狂的に猛烈であったかを物語るべく、波形に薄くり減って、銀のようにギラギラと輝いている物凄さ……生きながらの焦熱地獄にちた、亡者の姿とはこの事であろう。
 その呉一郎はやがて又、何者かに追いかけられるように、真黒な腕で鍬を取り直した。新しい石英質の砂の平地に、ザックとばかり打ち込んで別の穴を掘り初めたが、そのうちに大きな魚の脊椎骨を一個ひとつ掘り出すと、又急に元気付いて、前に倍した勢いで鍬をふるい続けるのであった。
 舞踏狂の女学生が、呉一郎の背後に在る大きな穴の一つに落ち込んで、両足を空中に振りまわしながら悲鳴をあげた。ほかの患者たちが手をって喝采した。
 しかし呉一郎は、ふり向きもせずに、なおも一心不乱に掘って掘って掘り続けて行くと、やがて今度は何か眼に見えぬものを掘り出したらしく、両手の指でしきりにねくっていたが、すぐに鍬を取り直して、眼を火のように光らし、白い歯を砕けるほど噛み締めつつ、死に物狂いの体で足の下を掘り返しはじめた。
 そのうしろから正木博士が悠々と這入って来た。鼻眼鏡をキラキラと光らせつつ、暫く呉一郎の作業振りを見守っていた。がやがて傍近く歩み寄って来て、鍬を振り上げた右の肩をポンとたたいた。
 呉一郎は驚いて鍬を下し、呆然となって正木博士を振り返りつつ、流るる汗を拭い上げた。
 そのすきを見た正木博士は、眼にも止らぬ早さで、片手を呉一郎のふところに突込んで、汚いハンカチで包んだ丸いものと、最前掘り出した魚の脊椎骨をつかみ出すと、素早く背後うしろに隠してしまった。しかし呉一郎はチットモ気付かぬらしく、なおも流るる汗を拭い上げ拭い上げして眼をしばたたきつつ、穴の中から見上げた。その顔を穴のふちから見下して正木博士はニッコリした。

正木博士のそのスリのスキルはどこで身につけたんだ…

呉一郎はなぜ急に地面を掘り出したんだろうか。

なにを探しているのだろうか…

正木博士も何がしたいのかわからないし、呉一郎も何がしたいのかわからん…

確か解放治療場にずっと畑を耕してる男がいたようような気がするが、それとは無関係か。

畑を耕すというよりは子供が土遊びをしているような感じだし。

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