【152日目】夢野久作「ドグラ・マグラ」を1日1ページずつ読んでいく
オーヤオーヤ……ナアーンのコッタイ……。天然色浮出発声活動写真が、とうとう会話ばかりになってしまった。これじゃ下手なラジオか蓄音機と一緒だ。活弁もやって見るとナカナカ楽じゃないね。一々「御座います」とくっ付けるだけでも大変なお手数だ。ツイ面倒臭くなって「御座います」を抜きにしようとするもんだから、こんな事になるんだが……。おかげで少々くたびれたから今度は一ツ「御座います」抜きの「説明要らず」という映画を御覧に入れる。否……「説明要らず」どころではない。「スクリーン要らず」の「映写機要らず」の「フィルム要らず」の……これを要するに「何も彼も要らずの映画」と云っても差支ないという……とても独逸製の無字幕映画なぞいう時代遅れな代物が追付く話ではない。……というのはどんなシロモノかと云うと、種を明かせば何でもない。すなわち今の若林君が、吾輩に引渡して、吾輩が空ストーブの中に抛り込んでおいた一件の調査書を、吾輩が後から読んで要点だけを抜書きにして、自分一個の意見を書き加えた所謂抜萃の各頁を、一枚毎に順序を逐うて、映画として御覧に入れるのだ……というと又、ドエライ手数がかかるようだが、実は何でもない。ただ、その抜萃の原本を、この遺言書のココントコへ挿入しておくだけの手数で……エヘン……諸君もただ、それを読むだけで訳がわかるという……吾輩最近の発明にかかるトリック映画だ。今にこの式の映画が大流行を来すと思うから、何ならパテントをお譲りしても宜敷い。御賛成の諸君がありましたら……ハイ只今……一寸お待ち下さい。
実はこの抜萃記録は吾輩の「心理遺伝論」の中に挿入しようと思っていたものであるが、そんな論文の原稿は最前すっかり焼棄てたけれども、特にこの一部だけは残しておいたものだ。諸君は今迄吾輩が説明したところによって、現在天晴れの精神科学者を兼ねた名探偵となって御座るわけだから、その力でこの記録を読んで行かれたならば、徹底的にこの事件の真相を看破して、ギャフンとまいる位の事は、何の雑作もあるまいと思う。
……この事件は如何なる心理遺伝の爆発に依て生じたものか? その心理遺伝を故意に爆発させた者が居るか居ないか。又、居るとすればどこに居るか。そうしてこの事件に対する若林と吾輩の態度はこの事件の解決に対して、如何なる暗示を投げかけているか……という風にね。併し、よっぽど緊りと褌を締めてかからないと駄目だよ……なぞと脅かしておいて、その間に吾輩は悠々とスコッチを呷り、ハバナを燻そうという寸法だ……ハハン…………。
◆心理遺伝論附録◆[#「◆心理遺伝論附録◆」は3段階大きな文字]…………各種実例[#「…………各種実例」は1段階大きな文字]
その一 呉一郎の発作顛末[#「その一 呉一郎の発作顛末」は1段階大きな文字]
――W氏の手記に拠る――
第一回の発作
◆第一参考 呉一郎の談話
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▼聴取時日[#「聴取時日」は太字] 大正十三年四月二日午后零時半頃。同人母にして、左記女塾の主人たる被害者千世子(三十六歳)の初七日仏事終了後――
▼聴取場所[#「聴取場所」は太字] 福岡県鞍手郡直方町日吉町二〇番地ノ二、つくし女塾の二階八畳、呉一郎の自習室兼寝室に於て――
▼同席者[#「同席者」は太字] 呉一郎(十八歳)被害者千世子の実子、伯母八代子(三十七歳)福岡県早良郡姪の浜町《はままち》一五八六番地居住、農業――余(W氏)――以上三人――
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一番最後のところ、
余(W氏)
とな…若林博士のW氏だと思うが、一人称が余なのか…
前は普通のことなのか?
その抜萃の原本を、この遺言書のココントコへ挿入しておくだけの手数で……エヘン……諸君もただ、それを読むだけで訳がわかるという……吾輩最近の発明にかかるトリック映画だ
というのは、映画という体の文章だから、文章を変えるだけで映画も変えられるというメタな話をしているのか…?
