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【151日目】夢野久作「ドグラ・マグラ」を1日1ページずつ読んでいく

「ハイ……それはこの絵巻物を使って呉一郎に暗示を与えた人間……」
「アッ……ナルホドね。そんな人間がもし居るとすれば、其奴そいつはトテモ素晴しい新式の犯罪者だよ。たしかに君の受持だね。そいつを探り出すのは……」
「さようで……けれども、この一点が今のところではカイモク判りませぬために、事件の全体が隅から隅まで、神秘の雲に奥深く包み込まれた形になっておりますので……」
「それあそうだろうさ。心理遺伝に支配された事件は大抵神秘の雲に包まれたっきり、わからず仕舞じまいになるのが、昔からの吉例になっているんだからね。新聞に出た奴だけでも、どれ位あるか判らん」
「しかし……私が考えますと、今度の事件に限っては、その神秘の雲を破り得る可能性がありますようで……と申しますのは外でも御座いませぬ。その最後の疑問の一点というのは、必ずやその少年の記憶の底に……」
「ヤッ……わかったわかった。重々相判あいわかった……つまりその少年の精神状態を回復さしたら、その絵巻物を見せてくれた人の顔や姿を思い出すだろう……だからその記憶を探し出す目的で、とりあえず精神鑑定をやってくれというのだろう」
「さようで……まことに恐入りますが、こればかりは、どうしても私の力に及びませぬので……」
「イヤ。わかったわかった。重々相わかった。流石さすがは一代の名法医学者だ。よいところへお気が付かれました……かね。ハハハハ。イヤ引受けた。たしかに引受けた」
「ドウモ……まことに……」
「ウンウン。心得た心得た。万事心得た。最早もうこの事件をスッカリ頭から取り去て悠々自適のうちにビタミンを摂取したまえ……イヤ、ビタミンといえば、どうだい一ツ今から吉塚へうなぎを喰いに行かないか。久振りに一杯……といっても、飲むのは吾輩だけだが……まあいいや。この事件に対する君の慰労の意味で……」
「ハイ、それはどうも……しかし、その少年の精神鑑定にはいつ頃御出張願えましょうか。私から裁判所へ通告致しておきますが……」
「ウン。それあいつでもいいよ。何も面倒な事じゃない。その少年のつらをたった一目見ただけで、コレは殺人狂でも偽狂でも御座らぬ。しかし、なお細かい鑑定のために入院させる必要が御座るというので、この精神科へ連れてくる手筈が、今からチャンときまっているから他愛たあいないね。若林博士の評判地に落ちるに反して、正木の名声隆々たりかネ……ハハハハハハ」
「恐れ入ります……ではこの書類はどう致しましょうか」
「……ア……そいつは吾輩が預かるんだっけね。ハテ、どうしようか……ウン。いい事がある。こちらへよこし給え……このストーブの中へほうり込んで、こうして蓋をしておこう。今年の冬までは火をく気遣いないからね。お釈迦しゃかア様アでも気が付くめえ……と来やがった……」
「ハア……それは何の声色こわいろですか」
「声色じゃない。謡曲勧進帳の一節だ。法医学者の癖に何も知らないんだナア君は。アハ……」――【溶暗】――

最後の書類ってなんだっけか。

と思ったが、若林博士がまとめた呉一郎の事件の資料か。

呉一郎に死んだはずの妹も見せて、絵画も見せたが、記憶が戻る様子はなかった…

これ以上何かがあるのか?

それにしても正木先生元気そうだが、なぜ死んでしまうのか…



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