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【165日目】夢野久作「ドグラ・マグラ」を1日1ページずつ読んでいく

  【四】 夢遊状態発作当初の行動……絞殺……

 この事件の根本的説明となるべき兇行の目的が、今日に到るまで茫乎ぼうことして、推理の範囲外にある事実と同時に「つくし女塾内には呉一郎母子おやこと、女塾生に関する以外の事跡を認めず」云々というW氏の調査諸項を併せ考うる時は、この事件の真相が呉一郎のその母に対する夢中遊行の発作なる事を、最も簡単、且つ適切に首肯し得ると同時に、その他の犯人に関する推断が、強いて第三者を仮想せむと試みたるより生じたる一種の錯覚なる事をも、遺憾なく説明し得べし。すなわち呉一郎は前記の性的衝動を心理に包みて熟睡後、これに依りて刺戟誘発されたる心理遺伝の発作のために夢中遊行状態となりて起き上り、その意識裡に現われたる夢幻(その内容はこの時まで不明)の欲求に従って、眼に当りたる被害者の帯締めを拾い取りて、その夢幻の対象たる一女性……実は母親……に対する兇行を遂げ、なおのちに述ぶるが如く学術上の珍とすべき奇怪なる夢中遊行の若干を続行したる後《のち》、就寝したるものと推測さる。而して右の兇行は、同人の脳髄の作用、即ち意識的精神作用が熟睡によって休止しおる間に於て、全身の細胞相互間の反射交感作用が、脳髄の代用となりて(主として交感、迷走神経と連絡せる内臓の諸機関がこの役をつとめ、筋肉、結締組織、脂肪、血液等もこれに参加して、事後に於ける異常の疲労状態を呈す――拙著『精神病理学』参照)五官と直接に連絡し、見、聞き、判断し、且つ実行せるものなるを以て、覚醒後の有我的意識には、殆ど何等の記憶の痕跡を留めず、この点を混同して、一切の判断力を要する行動を、有我的意識(脳髄の覚醒時に於ける意識作用)に依ってのみ行われ得るものと妄信せられたるがために、前記の如く、仮想の犯人を拈出せんしゅつするが如き、推断上の錯誤を生じたるものにして、現代に於ける科学知識の発達程度に於ては、誠に止むを得ざるに出でたる帰結と云うを得べし。
 ちなみに、この事件に依って研究さるべき呉一郎の夢中遊行状態中、第二回の発作(後段参照)に依て演出さるべき、この事件の眼目たる心理遺伝の内容と直接の連絡関係を有せる発作は、この……絞首・・……の一事のみにして、爾後《じご》の夢中遊行は寧ろ脱線的のものと云うを得べし。然れども、その爾後の脱線的夢中遊行なるものの正体は、実に学界の珍とも称すべきものにして、精神科学上の研究価値甚だ高く、且つかくの如く親近なる参考事例を他に発見し得ざるを以て、いささか脱線を共にするのきらいあれども特にここに記述し、併せてこの事件の真相が、呉一郎の夢中遊行発作によって一貫せられおる事実を、徹底的に明白ならしめんと欲する所以ゆえんなり。

  【五】 絞首に引続く第二段の夢中遊行……屍体飜弄……

 被害者が、床上その他を輾転てんてんして苦悶したる痕跡及び絞殺のあと顕著なるにもかかわらず、更にこれを縊死と見せかけたるは浅薄なる犯罪隠蔽行為なるが如くにして実は然らず……云々として、犯人たる仮想の第三者の智力の尋常ならざるを疑われたるは、一面の理由ある判断なるが如くなるも、これ亦、余りに穿うがち過ぎたる不自然の観察なりと信ずるに躊躇せず。何となれば右の事象は又、偶々たまたま以て夢中遊行状態特有の怪異なる行動が当夜、同所に於て行われたる事跡を物語るものにして、著者の所謂いわゆる……屍体飜弄・・・・……が当夜の呉一郎に依って演ぜられたるものと認めていささかの不自然を感ぜざるのみならず、かえって右の事象に対する説明の簡単適切、疑うべからざるものあるを以てなり。
 但し夢中遊行中の屍体飜弄・・・・・・・・・なる現象に関しては古来、明確なる記録の憑拠ひょうきょするに足るべきもの殆ど存在せず。唯、かかる超唯物科学的なる現象に対して深き興味を有する拉甸ラテン人種間に伝われる記録及び迷信深き東洋諸民族間に残存せる伝説等に散見するあるのみ。而してその記録なるものも所謂、実見記等の類にあらず。或る特異の頭脳を有する僧侶、医師等が他人より聞知し、又は探聞し得たる事を記載せる随筆程度のものに過ぎざるのみならず、その記事の十中八九は屍体を使用して人を脅威し、電力を与えて死者を動かし試み、死人をよそおうて悪事を働らく等、その他、迷信的の薬物たる臓器の獲得、埋葬品の奪掠だつりゃく屍姦しかん等の事跡の誤認、誤伝せられたるものなるを以て、容易に真相を捕捉し難きうらみあり。

うーむ、やはり夢遊状態だったとはいえ、呉一郎が殺したと言うことは疑いようがないということを強調し過ぎていて逆に怪しいな…

若林先生なら検死結果に嘘もつけるし…

つっかえ棒が落ちた説明もされる気配がないしな…

首吊り自殺に見せかけようとしたのもちゃんと説明されていない…

これはやはり…


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