機嫌
私の亡くなった兄は、脳に障害があった。幼い時に、頭に水が溜まる病気になったのだ。発見が遅れて広範囲に脳がダメージを受けた。
二歳で失明し、肢体不自由、知的障害、重複障害だ。
当時は、福祉は立ち遅れていて、施設に入所させるか、家族がずっと面倒を見るかの二択しかなかった。
両親は後者を選んだ。
ここでは書けないような、本当にいろんなことがあったが、家族がバラバラにならなかったのは、兄のことを皆が考えていたからだと思う。
自分には、兄が亡くなるまで、それがわからなかった。
兄は、食事も、着替えも、入浴も、排泄も、意思の疎通も、自分でできなかった。いろんなリハビリをして、手を引けば歩けるようになり、おむつにではなく、トイレに連れていけば、そこで排泄できるようになった。
今考えると、両親とボランティアの人が定期的に集まり何か台の上で兄の手足を動かす補助をしていたのをうっすら思い出した。
どれだけの訓練をしてくれたのだろう……なんということだ……
兄は病気の後遺症で、てんかんの薬は、欠かすことができなかったが、専門の機械や技術が無いと、即、死んでしまうような医療ケア児ではなかった。
食事の時や散歩の時以外は、床に座ったり、疲れるとごろごろしたりしている事が多かった。危険な行動もできないので、周囲も楽ではあった。
何よりも、機嫌が良い事が多かった。これは凄い事だ。
私も、現在、持病で体が良くはないのだが、常に、この状況をどうにかしなきゃと、イライラしていてゆとりがない。ピリピリしているときもあって、過剰に反応して、ご迷惑をかけたりすることもある。
兄が生きている時は、私も、もっと元気だったし、もっと散歩させてあげればよかったと思ったりする。
歩けない人、歩かない人は便秘が多い。足だけの問題じゃないんだそうだ。兄は、結構頑固な便秘を抱えていた。
……何もしていないようでいたのに、兄は人を繋いでいた。行動の結果で繋いでたわけじゃない。存在で繋いでいたんだなと思う。凄いことだ。
脳に大きなダメージがある人は、よく腸の働きが悪くなる。酷い便秘になることが多い。
脳性腸管麻痺というのだそうだ。
それが、腸閉塞などに繋がりやすくなる。
それが悪化して兄は死んだ。
彼が40代のはじめの頃だった。
