竜をサウナに入れるには(改作)
国会カレー。皿のかわりにトレーいっぱいにルーと米が盛られ、カツまで乗って880円。それをエナジードリンクで流し込む。
「ちょっとは健康に気を使えよ」
呆れ顔の堂島に、「それで国が良くなるんですか」と、五色は食べる手を止めない。
「気持ちはわかるがよ。だって、竜だもんなあ……」
堂島の手には、五色の新しい名刺がある。
【内閣官房 竜種接遇対策室 室長】
「最悪ですよ。俺に何しろって言うんですかね」
五色は、見学の団体越しに、議事堂中央食堂のテレビを見る。
北海道上空。ヘリのカメラは、火山を覆う巨大な天幕を写している。付属の煙突が煙を吐いている。
『出てきました!』
アナウンサーが叫ぶ。火口観測カメラが、天幕の一部が開くのを写す。大量の熱気に空気が歪み、ついで巨大な影が這い出す。ぬううっ、と出てくる長い体。つややかに濡れた美しい鱗が、無人の山小屋を圧潰する。竜である。掲げられた鎌首には奇妙な帽子が乗っている。
竜が火山を滑り降りる。上空のカメラが追う。かつて登別市だった場所を破壊しながら、一気に海岸線へと向かい、海へとなだれ込む。
莫大な質量が海に入り込めば、当然津波が起こる。巨体に押し出され、大量の水が塊のように海岸に押し寄せる。破壊された市街地を更地に戻していく。防潮堤が津波を受け止めた瞬間、火口カメラが大きく揺れた。
上空から、竜が海に体を投げ出している様子が見える。神話の一幕のような光景に、アナウンサーが息を飲む。
竜は、被っていた帽子ーーサウナハットを取って、少しだけ不満そうに、鼻を鳴らした。
五色はため息をつき、『地熱テントサウナ作戦』の映像を止めた。
「何がいけなかったのかねえ」
国交省の中道が眉をしかめ、自衛隊、農水省の出向者も続く。
「それなんだけど」
若い女の声がして、全員が入り口を向く。
「竜ちゃんのお言葉がきたよ」
セーラー服の女の胸元には、神祇省の徽章が光っている。
【続く】
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改稿にあたって
本稿は、逆噴射小説大賞2021に参加した小説、『竜をサウナに入れるには』を改稿したものです。
昨日のBARメヒコでの反省会で、ゆめくらげ親方や2倍チャンピオンをはじめ皆さんのアドバイスを受けて、変えてみました。
・主人公
シンゴジラでいうところの矢口蘭堂がいない、という指摘があり、同時に「主人公ってどうすれば作れるの」みたいな話もあったので、明確な主人公を設置してみました。
主人公・五色を「国を良くすることに邁進する官僚」とし、左遷されたんだろうな、というのが出せればいいかなと思っています。これで、『竜をサウナに入れる』というログラインを残したまま、そこから「五色の人間性がサウナでほぐれていく」とか、そんな感じのサブプロットを用意できればいいかなと。
・テントサウナの出し方
改稿前の出だしはこれでした。
熱と蒸気の吹き出す火口を、周囲の山ごとすっぽりと覆う天幕。巨大なテントサウナだ。
「テントサウナだって説明しちゃってる。事実と説明が終わってしまっている」という指摘をいただきました。
火山にバカでかいテント的なものがあるという事実から、「あれってなんなんだ?!」「なんのために?!」「竜は何を?!」みたいな要素を、『テントサウナだ』で全部説明しちゃっているじゃん。という話ですね。カメラワークでいうと、全貌がわかるカメラを即出しちゃってる。
ウルトラマンの登場シーン、いきなりウルトラマン全体を写すことはしない。足とか、光る目とか、降り立ってドシーンてなって飛び散る車とかをたっぷり写してから、ババーンとウルトラマンの全身が映る(そんなイメージがある)。これのほうがかっこいいし、「なんだこれは!?」という読者の「わからなさ」を貯めて驚きに変換できる。これは本当にそうだとおもった。
事実→説明
事実→(事実→説明)(事実→説明)(事実→説明)→説明
事実「デカいカレーをドカ食いしてる男」→説明「左遷されてヤケ食い」
↓
事実「デカいカレーをドカ食いしてる男」→(事実「健康に気を使ってない」→説明「国を良くするために他を顧みない」)(事実「名刺を見て『竜だもんなあ』」→説明「左遷されたっぽい」)→説明「左遷されてヤケ食い」
事実「北海道の上空にテントがある」→説明「竜が使うテントサウナ」
↓
事実「北海道の上空にテントがある」→(事実「何かが出てくる」・「長い」・「鱗がある」・「デカい」→説明「出てきたのは竜(へんな帽子つき)」)→(事実「竜がどこかへ向かう」→説明「海に向かう」・「海に入る」・「津波がおきるほどつかる」)→説明「竜はサウナに入っていて、海は水風呂」
事実「作戦が失敗した」→説明「竜の不満がこれからわかる」
↓
事実「作戦が失敗した」→(事実「原因不明、首をひねる」・「竜は不満、不満を知る必要がある」・「あらわれたギャルが言葉を伝える」→説明「竜の不満がこれからわかる」)
うーん。わかりやすい図式だ。これから全部書こう。
・角度
逆噴射フォーマットは事象に対する角度が重要、みたいな話がありました。
「角度」とは、起こっている物事に対してどの程度離れた描写を行い文脈を圧縮するか、というような話(だとおもう)
うどん屋を開く落語家の話を書くとして、「じゃあ、うどん屋開くかぁ!」って言い出すのが正面、「うどん屋が鳴かず飛ばずで居眠りしてるところ」から始めるのがちょっと角度
今回であれば、「五色が室長に任命されるところから入る」が正面として、少し角度をつけて「任命に納得行かずやけ食いしている」から入ることで、五色の人間性や左遷っぽいことを圧縮しています。便利概念だ。
・飛距離
飛距離という概念もあります。800文字でどの程度物事を飛躍させるか、ということ(だとおもう)
逆噴射では、起承転結の転までいれるとか、2話の冒頭までやるとか、そんな飛距離が求められていますね。
今回だと、「左遷やけ食い」→「竜サウナ失敗」→「神祇省のギャル」まで勧めているので、ちょっと飛距離が出たんじゃないかとおもいます。
見返してみるとやっぱり、こっちのほうがいいなあとおもいました。
みんなもBARメヒコに来ていろいろしゃべろう。そして俺にいろいろ教えて下さい。
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サウナに行きたいです!