俺とシバ子の10の約束
俺の甲子園は終わった。あっさり打たれた。あいつは『絶対に捕るから、僕を信じて』と言ったのに、日和った球を投げた。怖かったんだ。それから、何もやる気が起きないでいる。
平日真昼の運動公園はイヌを連れた人が多い。子どもと遊ぶイヌの老婆。車いすを押して歩く青年イヌ。公園を歩く二人の警官も、イヌと人間のペアだ。
毛皮の生えた最高の隣人。イヌといる人の幸せそうな姿を見ると、そんな格言も過言ではないと思う。
(母さんとシロおばさん、元気かな)
飛び出してきた実家のことまで考えてしまう。
「きゃん」
ぼんやり歩いていたせいで誰かにぶつかった。が、見回しても誰もいない。
「ちょっと、ニンゲン!」
「うぉ」
おもいっきりシャツの裾をひっぱられ、がくんと膝をつく。
こげ茶色の毛皮に、真っ黒な鼻、ピンと立った耳。麻呂眉のような白い模様のある、小さくて可愛らしいイヌの女の子だった。すごい腕力だ。
「どうしてくれるの!私のドリンク!」
ズボンがいつの間にか水浸しだった。子イヌは牙をむいてキャンキャン吠えるが、いまいち迫力がない。
「もう、デカいくせに間抜けな……」
今度は急に黙って、跪いたままの俺の腕や足を、肉球のついた手でぺたぺた触り始める。
「……許してあげるかわりに、投げなさい」
「は?」
子イヌは公園の一角を指した。空高く投げられた円盤を、長身のイヌたちが美しく跳んでキャッチしている。
「『ディスクドッグ競技会』……お前、そんな小さいのに選手なのか?」
「これからなるのっ!小さいからってバカにして!あんたに選択肢はないんだから!」
子イヌは馬鹿力で俺を引きずっていく。
「でも、俺あんなの投げたことなんて」
「私はシバ・コハル。あんたは」
「……増田大輔」
「ダイスケ。あんたは全力で投げればいい。約束する。ぜったいキャッチするから」
コハルは、まっすぐな黒い瞳で俺を見上げて、言った。
「私を信じて」
俺は声を詰まらせた。
【つづく】
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