見出し画像

【創作大賞2024/恋愛小説部門応募作】みつけた


第一章『君はね』


 今何もないところで転びそうになったでしょ。
あ、今度は大きな口を開いて、その小さな手のひらで覆ってあくびをしている。昨夜は眠れなかったのかな。
そのスカートは短すぎるよ。僕のこと誘ってるの?なんてね。

この間行っていた駅前の美容院、すごく混んでいたね。
美容院でもアイスコーヒーを飲んでいて、君は本当にコーヒーが好きなんだね。
以前の黒髪ストレートの髪型好きだったんだけどな、かなりイメージチェンジしたね。誰の影響なの?
まぁ何したって君は、今日も世界一可愛い。


「お兄さん!夜のお店とか興味ない?安くするよ〜」
「今忙しいんで、大丈夫です」
「へ?あぁそう...」


危ないよ。君も他の奴に声をかけられてしまう。
こんな夜道に外を出歩かないでよ。
でもどうせまた飲み歩くんでしょ。君はコーヒーだけでなく、お酒も好きなんだよね。
あともうひとつ好きなもの。男。
男が好きで好きでたまらないどうしようもない君。
男なら誰でもいい君。
救いようのない君。

あ、ほら。
今日もまた違う男と居酒屋に入って行った。
でもね、そんなどうしようもない君を僕は一番愛している自信があるんだ。


「ご注文お決まりですか?」
「生と、たこわさで」


君が好きなメニューだよ。
たこわさ、いつもお友達と飲んでる時に注文してるよね。
でも今日はカシスオレンジなんて頼んじゃって、らしくないね。


君がお酒強いのを僕は知っている。
だから、その赤い頬はさっき席を外した時にチークでも塗り直したのかな。
ああ、今度はベタベタくっついちゃってるね。
このまま夜の街に消えていくのかな。


(着信音)

「はい、もしもし」
「和馬〜お前暇してないの?飲み行こうぜ〜」
「今デート中、邪魔すんな」
「は?デート?お前いつのまにかのjy...」

うるさいから切ってしまった。
僕のデートの邪魔をしないでくれ。


その後、君は男を家に連れ込んだ。
君は本当に危ない男を好む傾向にある。
いや君に限らず、女性は危ない男に惹かれる生き物なんだろうか。


「ほんと可愛い」
「それみんなに言ってるんでしょ〜」
「言ってないよ、雫ちゃんだけだよ」
「チャラそうだもん(笑)」
「失礼な!こう見えて本気です〜」
「どうだか〜」


初対面で本気とか言ってんの笑えるな。
今日はこれをおかずに飯3合食えそう。
君の家の中に盗聴器を仕掛けておいてよかった。
家に帰っても君の声が聞けるなんて。
僕は本当に幸せ者だ。
でもなんだかいつもと声が違うような気がした。


不用心な君も、僕は心配になってしまう。
そうやって年中カーテン開けっぱなしにしているから、もう君の様子は丸見えなんだよ。
本当は隣の部屋がいいんだけどね。両隣埋まっていたから仕方ない。空きがでたらすぐに引っ越すね。
僕がずっと見守っているからね。


ブー、ブー、ブー


アラームの音で目が覚める。
今日は仕事が休みだから、君の勤務先へ行く。
今日も可愛いだろうな。

駅前のお洒落な珈琲屋さん。
週5勤務のフリーター。
白のワイシャツに黒のエプロンを身に纏い、茶色のふわふわ髪。
「いらっしゃいませ」
作り込んでいる笑顔を僕に向ける。
僕が欲しいのはそんな顔ではない。

「ご注文お決まりになりましたらお呼びください」

お冷を手に持って現れた君。
やっぱり今日も可愛い。



「ねぇ店長聞いてくださいよ!今日家のポストに私の好きな、のど飴入ってたんです!」
「へえ」
「へえじゃなくて!!私が風邪気味なの、神様気づいてくれたんです!!神様すごい!!!」
「風邪気味なのか、じゃあシフト減らした方がいいなぁ?」
「嘘です嘘です!!減らさなくていいですむしろ増やしてくださいお願いします!!!」
「いや減らすつもりないけど。馬鹿は風邪ひかないって言うしなぁ」
「ひいてるんですってば!!」
「はいはい、口じゃなくて手動かす!」

やっぱり風邪気味だったんだ。
いつもと声違うなぁと思ったんだよ。
神様だと思ってくれるならポストいれといてよかった。


「すみませーん」

「はい!ご注文お決まりですか?」
「アイスコーヒーで」
「アイスコーヒーですね!ミルクとお砂糖はお付けしますか?」
「いらないです」
「かしこまりました!少々お待ちください」


君は慣れた手つきで、僕が注文したアイスコーヒーを作ってくれている。
僕はこの上ない幸せ者だ。


「お待たせしました、アイスコーヒーです」
君は僕に出来上がったアイスコーヒーを差し出す。

「ありがとうございます」

やっぱり美味しい。
君が作ってくれるなら何でも美味しいだろうけど。

少しこじんまりとした小さな店内。
僕自身あまり明るい性格ではないから居心地としてはとても良い。
君のことは好きだけど、この店自体も実は気に入っている。


「ありがとうございました、またの御来店お待ちしております」
お得意の作り笑顔。

1時間程して僕は店を出た。
あまり長居しすぎると、僕の愛が君にバレてしまうから。
これぐらいが丁度いい。

その後は近くの本屋で暇を潰した。
そろそろかな?

あ、やっぱり出てきた。
もう帰りの時間だよね。

束ねていたヘアゴムをほどき、通常の巻き髪へ。
やっぱり君は黒髪ストレートの方が似合っていた気がするけど。

あれ、なんだか具合が悪そうだね。顔色が良くない。
風邪が悪化したんじゃないの?

君は珍しく真っ直ぐ家に帰った。


「はあ〜〜疲れた〜〜なんか体だるい」
ベッドが軋む音。


ピピピッ
「げっ!やっぱ熱あるじゃん」


「店長〜なんか体がだるくて今熱測ったら38度5分だったので明日お休みいただいてもいいですか?ほんとすみません...」

「はい...はい...わかりました。また連絡します」


男とばっか遊んでいるからだよ。なんてね。
どうしようもない君でも、僕は肯定する。
そんな君を愛しているからね。

それから僕はここから徒歩20分先にあるドラッグストアへと足を運ぶ。
ゼリー、ヨーグルト、スポーツドリンクなんかをカゴに入れて。あとは風邪薬も。

「お会計2120円です」
「バーコード決済使えますか?」


君へのお土産、買ってきたよ。
なにか口にできるものがあればいいけど。
ちゃんと薬を飲んで寝ていてね。


僕は再度同じ道を通り、家へ戻る。
君の家の玄関の前にビニール袋を置く。

僕は知ってるんだ。
君がこの後外へ出てくるのを。


〜30分後〜

「あれ、なんか置いてある!!え、薬あるじゃん〜店長が置いてってくれたのかな」

君は大きいゴミ袋を持って独り言を放っている。
明日は木曜日。
水曜日の夜に、君はいつも燃えるゴミの袋を持ってゴミ置き場へと歩いていく。
朝に捨てないとダメでしょ、なんて思いつつ君をいつも眺めていた甲斐があった。
君が外を出るのを僕は分かっていたんだよ。

君が馬鹿でよかった。お大事に。


ブー、ブー、ブー


アラーム音で今日も目が覚める。
今日は仕事だから君のこと見てあげられないのが残念だけど。安静にしていてね。


身支度をして職場へと向かう。

「おはようございます」
「木村くんおはよう!今日はいっぱい商品届いてるから大変かもしれないけど。今日も運転気をつけてね!」
「了解です」

僕の仕事は配送業。
みんながネットとかで買い物するような商品を自宅まで送り届ける。
君もたまにお買い物しているよね。
この間買っていた美顔器、気に入っているようでよかった。
お風呂上がりに毎日使っているね。
美意識の高い君も可愛い。


仕事は実に退屈だ。早く帰りたい。
君の看病をしてあげたいというのに。心配だ。


「お兄ちゃん今日もありがとね〜助かるわ」
「いえ」
「今日は暑いからこんなんしかないけど持ってって」
「いいんですか?ありがとうございます」
「またお願いね〜」


たまにこういう良いおばさんもいる。
僕は暑さに耐えきれず、貰ったばかりの冷えた水をがぶ飲みする。

基本的に配送業への当たりはみんな冷たい。
この水のように。
優しい人なんてひと握り。

でも最近は置き配という文化が出来て、置き配希望のお客さんも多いので人とあまり会わなくていいのは有難い。

でも君は毎回僕を家にあげる。
大きなお届け物も、そうでない物も。
君はきっと危機管理能力というものが備わっていない。
どこかいつも抜けている。
だから知らない男に盗聴器なんて仕掛けられちゃうんだよ。
君はもっと人を疑った方がいい。
相手が僕で本当に良かったよ、もっと悪い奴だったらどうするの。
でも大丈夫だよ、僕が守ってあげるからね。


仕事の帰り道、君がたまに寄っているパン屋を覗いてみた。
君は惣菜パンではなく、甘い種類を好む傾向にある。
チョコレートの味のものを沢山買っているね。
今日は真似して僕もチョココロネとか買ってみた。
また君に少し近づけたね。


「ありがとうございました〜」



しばらく歩いて、僕は自分の家に到着する。
君の具合は少しでも良くなったかな。
カーテンの間から覗く君の姿は、おでこに冷却シートを貼っており、スマホを弄っていた。
どうやらスマホゲームをやっている。
一喜一憂している君。
少しは元気になったようで良かったよ。
ゲームに没頭している君を僕はただただ眺めた。


しばらくすると君はスマホを耳にあてる。

「あ、店長!お疲れ様です!今日ゆっくりしてたらお陰様でだいぶ良くなりました。ご迷惑おかけして本当にすみませんでした」
電話だというのに身振り手振りしながら話している。


「明日は行けます!!はい!!絶対に!!」
ふとした拍子に笑顔を見せる君。
急にそんな顔をするのは反則だよ。

「あと、薬とか食料持ってきてもらっちゃって本当に助かりました。ありがとうございました」

電話だというのに深々とお辞儀をする君。

「.....え?置いてない?店長じゃなかったんですか、じゃあ誰だろう」

動きが止まる。

「やっぱり神様っているんですかね!私がいつも頑張っているから神様が労ってくれたんだぁ、嬉しい」

なんて言いながら朗らかな顔で、扇風機のボタンを押して起動させている。
出てくる風が君の前髪を乱す。
熱帯夜の今日、流石に蒸し暑さに嫌気がさしたのだろう。

「もう私は元気ですから!じゃあまた明日よろしくお願いします」

そう言って電話を切った後、君は冷蔵庫の下の方に手を伸ばす。
あれはチョコレート味のアイスクリームだ。
お気に入りのティースプーンを持ち出し、大事そうに一口ずつゆっくり味わっている。
急に冷たいものを食べたからか、頭を抑えている。
頭に響いたのか。

嗚呼、今日も本当に可愛い。






いいなと思ったら応援しよう!