雑談で信頼は作れない — 心理的安全性の因果が逆だった話
TL;DR
チームの心理的安全性を上げたくて雑談の時間を設けたのに、なぜか場が温まらなくて困っている人向け。
心理的安全性を高めるために「会議の冒頭で雑談しましょう」という施策がある。でも因果が逆だと思っています。関係性があるから雑談が成り立つのであって、雑談から関係性は生まれない。信頼は、一緒に課題を乗り越えた経験からしか作れません。
雑談の3分が苦痛な理由
会議の冒頭に「最近どうですか?」と振る文化がある。
心理的安全性のための施策らしい。本題に入る前の3分で空気を和らげましょう、と。
正直、あれが苦痛な人は結構いるんじゃないかと思います。
私のチームでも導入されていた時期がありました。何を振っても反応が薄い。「ふーん」で終わる。場が温まるどころか、沈黙が気まずさを増幅させるだけでした。
一方で、他チームの人とは仕事の話から自然に脱線して、ツールの話になったり、過去の失敗談で笑い合ったりする。でもそれは「雑談の時間を設けたから」じゃない。仕事を通じて話す機会が増えて、お互いの考え方が見えて、信頼が積み重なった結果です。
この差を見て気づいたのは、因果が逆だったということでした。
「場を作れば関係性ができる」という思い込み
「雑談の場を設ければチームの関係性が良くなる」。
一見もっともらしい。でも実感としては、こういう順序だと思っています。
仕事で協働する → 相手の考え方が見える → 尊重が生まれる → 雑談が自然に成り立つ。
このプロセスの最後だけを取り出しても、機能しません。
ではなぜ、この施策がこれほど広まっているのか。
たぶん、導入コストがゼロだからです。ツールも予算もいらない。「会議の最初に3分雑談しましょう」と決めるだけ。マネージャーが「心理的安全性の施策を入れました」と報告できる。やってる感が出る。
心理的安全性の重要性が広く知られるようになってから、この手の「コストゼロで始められる施策」が急速に増えました。リモートワークの普及も追い風になった。それ自体は悪い話ではありません。
ただ、「場の設計」で安全性が生まれるのは、すでに関係性がある場合だけです。関係性がない状態で雑談を強制されると、苦痛になるだけでした。
自己紹介では信頼は得られない
新しく入った人が「まず関係性を作ろう」と雑談から入るケースがあります。
「自己紹介させてください」とか「仲良くなりましょう」とか。
きつい言い方になりますが、正直なところ、今までいなかった人の自己紹介にはあまり興味が湧きません。
仕事ができるなら信頼する。でもそれを証明するには、雑談ではなく仕事の場面で見せるのが一番早い。
雑談で得られるのは「話しやすい人」という印象まで。「信頼できる人」は仕事の実績でしか作れないと思っています。
既存メンバーの立場からすると、新しい人が入ってくるメリットは最初の時点では見えません。だから「この人が入ると自分たちにとってプラスがある」とイメージさせる必要がある。
自己紹介は自分目線です。相手に何を与えられるかが見えないから、刺さらない。
逆に「あなたのことが知りたい」から入って、メンバーから情報を集めて、一人ひとりと直接話して。そういう順序の方が、入り口としては機能するんじゃないかと思います。
ただし、この考えには条件がある
ここまで書いてきたことは、ある前提の上に成り立っています。
「仕事で証明する」が機能するのは、お互いに実力があって、仕事を通じて認め合える環境の場合です。
まだ経験が浅い人や、異業種から来た人にとっては、「仕事で見せろ」と言われても入口がない。見せるチャンスすらもらえない可能性があります。
「興味がない」は正直な感情として正しい。でも、態度として閉じてしまうと、相手が仕事で証明するチャンスを潰してしまいます。
証明の入口を用意するのは、迎える側の役割でもある。私の場合、これは「人を変えようとする」のではなく「動ける道筋を整える」というアプローチに近いと思っています。
雑談の代わりにやったこと
じゃあ3分の雑談をやめて何をするのか。
答えはシンプルで、仕事の話をすればいい。
ただし「進捗報告」ではありません。「今困っていること」「判断に迷っていること」「誰かの意見が欲しいこと」。こういう話を会議の冒頭でやる方が、結果的に関係性を作る効果がありました。
困りごとを共有すると「助ける/助けられる」の接点が生まれます。雑談では接点にならない。仕事上の課題を共有して、一緒に考えた経験が、関係性を作ります。
賛成でも反対でもいいから、自分の意見を持って返してくれる人との間には、自然と信頼が生まれる。その信頼は、3分の雑談ではなく、仕事を通じてしか作れないと感じています。
まとめ
心理的安全性が大事だという話は正しいと思います。
でも「雑談の時間を入れましょう」で作れるほど単純ではなかった。
関係性は仕事で作る。一緒に課題を乗り越えて、相手の考え方が見えて、尊重が生まれて、その延長線上に雑談がある。
順序を間違えると、施策は苦痛になるだけです。
やるなら、雑談の3分を「今困っていること」の共有に変える方がいい。結果として、そこから自然に雑談が生まれるかもしれません。少なくとも私は、そう感じています。
