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【The Okura Tokyo】美しい場所は、心の美容液

ホテルを訪れる理由は、ひとそれぞれ。

日常を離れた贅沢を味わうため、特別な日を祝うため、あるいはただ静かな時間を買うために、私たちはその門をくぐる。

けれど、私にとってThe Okura Tokyoという場所は、単なる「至高のラグジュアリーホテル」「日本のホテル御三家」という言葉には収まりきりません。

長くブライダルの仕事に携わってきた自分にとっても、今、人の人生やその人自身を読み解く仕事をしている自分にとっても、この場所はどこか、まっさらな状態に立ち返らせてくれるのです。


坂を上る時間

The Okura Tokyo(以下、オークラ)は、駅を出てすぐにその空間が広がるような、効率性だけを重視したホテルではありません。緩やかな坂を上りながら、少しずつオークラへ近づいていく。この「たどり着くまでの時間」こそが、私にとって最初の心地よい儀式になっています。

進むごとに、大通りの喧騒が少しずつ遠のいていく。呼吸が自然と深くなり、頭の中に渦巻いていた雑多な思考が、静かに削ぎ落とされていく。

「気のいい場所」と聞くと、多くの人は何か劇的なエネルギーが満ちているパワースポットを想像するかもしれません。けれど私にとって本当の意味で「気がいい」場所とは、特別な力で人を圧倒する場所ではありません。そこに身を置くだけで余計な緊張がほぐれ、自分自身の素直な感覚を取り戻せる場所。

坂を上りきり、少しずつオークラの空気へ入っていく。忙しない日常からホテルで過ごす時間へと気持ちを切り替えていく、この緩やかな移り変わりこそが、すでにオークラという体験の始まりなのだと思います。

和のかたち

ロビーへ一歩足を踏み入れた瞬間、世界から尖った音が消え去っていきます。

視線を上げる前にまず感じるのは、空間全体を包み込む柔らかな灯りです。

ドウダンツツジの濃い緑が美しい

「オークラ・ランターン」と呼ばれるその照明は、決して周囲を眩しく照らし出すことはありません。光の強さで客を圧倒するのではなく、影を置き去りにしないように、空間の隅々までを優しく抱きしめるような静かな光。

その光を見るだけで「ああ、オークラに来たな」と感じます。華やかでありながら主張しすぎず、日本特有の「陰翳」を重んじる美意識。私にとって、あの光はオークラそのものを象徴する存在です。

そして、そのランターンの下に置かれた椅子とテーブルにも、オークラらしい遊び心があります。一見すると、ごく自然に配置されたロビーの家具ですが、上から見ると梅の花の形になるように置かれています。

梅の花の配置。椅子の色も好き。

ロビーでくつろぐ客の誰が、自分が座っている椅子の配置が「上から見ると梅の花になっている」ことに気づくでしょうか。ちゃんと見える場所にありながら、おそらく大半の人は気づかずに通り過ぎていきます。

それでも、オークラはそのように家具を置くのです。

誰かに気づいてもらうためだけに作られた美しさではありません。誰かに褒められるかどうかに関わらず、ただそこに「美しくある」こと。目に見える場所にありながら、気づかれるかどうかにかかわらず、細部にまで一切手を抜かない。

この姿勢に触れるたび、私は胸が締め付けられるような感動を覚えます。

ふと壁面に目をやれば、麻の葉文様。日本の伝統的な意匠が、主張しすぎることなく現代の建築の中に溶け込んでいます。分かりやすい「和風」として誇張するのではなく、古いものをそのまま標本のように残すのでもなく、現代のデザインとして昇華させ、いまを生きる空間の中に生かしている。

そのロビーの壁面を彩る龍村美術織物には、いつ見ても、思わず足を止めてうっとりと見惚れてしまいます。龍村美術織物については以下のリンクより。

蘭の四弁花文様の優美な壁面装飾。ただの装飾や伝統工芸の説明として置かれているのではありません。何世代にもわたって継承されてきた職人の手仕事、気の遠くなるような時間と技術の積み重ねが、現代の洗練されたホテル空間を根底から支えています。

ずっと見ていたい、龍村美術織物の壁面装飾

工芸が博物館のガラスケースの中に閉じ込められるのではなく、人が行き交う現在進行形の時間の中で活き活きと呼吸している。一枚の織物の背後にある膨大な手仕事に思いを馳せるとき、私はこのホテルが築いてきた歴史の厚みを、肌で感じずにはいられません。

大人の空間で、子どもに戻る

ホテル最上階、41階にあるバー「スターライト」。ここに上がっていくエレベーターの時間が、私はとても好きです。高層階まで一気に上がっていく感覚は、まるで宇宙へワープしていくよう。何度訪れても、そのわくわくは変わりません。

スターライトは、洗練された大人の空間です。他のホテルのラウンジに比べても、比較的落ち着いて過ごせる場所だと感じています。

そこでいただくオリジナルブレンドティー「リュクスリー」は、イギリスの老舗紅茶ブランド「ベッジュマン・バートン」とのコラボレーションによるもの。メープルシロップと、砂糖漬けにした甘い栗の香り。その香りを嗅ぐたびに、「ああ、オークラの香りだ」と感じる。メニューを見るたびに、今日は違うものを頼もうと思うのに、結局いつもリュクスリーを選んでしまいます。

そして、私が本当に心を動かされるのは、もうひとつのオーダー、クレームブリュレをいただく瞬間。

写真を眺めていたら、また食べたくなってきた

しっかりと焦げ目のついたパリパリのカラメル。その上に鎮座するまん丸のバニラアイスと、キラキラとしたカットフルーツたち。大人ですから、「はい、来ましたね」というふうを装って、目の前に置かれるクレームブリュレをクールに眺めます。けれど、心の中はジャンプ、側転、宙返り。

美しいガラス細工のようなカラメルにスプーンを入れて「パリッ」と音をさせる瞬間は、幸せそのものです。口の中いっぱいに広がる柔らかい甘さと、ほろ苦いキャラメル。子どもの味と、大人の味。あんなに洗練された、大人のための空間にいるはずなのに、そこでいただく一皿だけが、私を無邪気な気持ちへ連れ戻してくれるのです。

大人になりきった空間の中に、ふと子どもの心が戻ってくる。その不思議な対比こそが、私にとってのスターライトの魅力なのかもしれません。

「夢より素敵」

オークラのブライダルには、「夢より素敵」という言葉があります。

私は、このキャッチコピーがとても好きです。

一見すると、「夢のように豪華絢爛な結婚式を作る」という意味に聞こえるかもしれません。けれど、私がこの言葉の奥に見ているものは、少し違います。

結婚式を迎えるお二人が頭の中で思い描く「理想の夢」。それを単にそのまま形にする(=期待通りにする)だけではありません。当人たちさえまだ気づいていなかった喜びや、想像すらしていなかった美しさを、静かに差し出すこと。相手の期待を当然のように、けれど誇示することなく超えていく姿勢。それこそが「夢より素敵」の真意なのだと思います。

期待どおりのものを渡すだけでは、夢のままで終わってしまう。その先へ、そっと連れて行ってくれること。そこにこの言葉の強さがあると、私は感じています。

オークラには、まったく印象の異なる二つのチャペルがあります。

41階にあるスカイチャペルは、天空をイメージした白を基調とした空間です。白い大理石、自然の草木の柄が描かれたガラススクリーン。高層階ならではの都会的でスタイリッシュな印象の中に、オークラらしい品格と静けさが漂う。そのバランスの絶妙さに、いつも息をのみます。

もう一つは、7階にあるグランドチャペル。柔らかく神聖な光を放つ、イエローオニキスの光壁が印象的です。イエローオニキスには「永遠」という意味があるそうです。気品と温もりを感じる、クラシカルなヨーロッパ調のチャペル。重厚感のあるミカドシルクのドレスも、グレース・ケリーが着ていたようなクラシカルで繊細なレースのドレスも、この場所にはよく似合うと思います。

優しく柔らかい、イエローオニキスの光


心の美容液

オークラを訪れるたび、私は自分自身の仕事や生き方を省みることになります。

坂を上る時間。ランターンの光。見える場所にありながら、気づく人にしか気づかれない梅の花の家具配置。龍村美術織物に込められた時間。スターライトで味わう紅茶とクレームブリュレ。夢より素敵という言葉が宿るチャペル。

それぞれは別々の記憶のようでいて、私の中では一つにつながっています。美しい場所、素敵な場所に自分から足を運ぶこと。それは、私にとって心の美容液のようなものです。

インターネットやSNSには、強い言葉や、人の心をすり減らすような情報があふれています。だからこそ私は、こうして自分が実際に見て、感じて、心を動かされたものを、丁寧に紹介していきたいと思っています。

派手さや効率では測れない美しさが、たしかにこの世界にはあります。私が見てきた美しい景色、美しいもの、頭の中に残っている記憶を、こうして誰かと分かち合うこと。それが、読んでくださった方の心に、少しでも届いたら嬉しいです。

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