碧海 〜第1章 04〜 『+0.9度の夜を、外から見ていた』
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SYSTEM_LOG / SANKOKU-RO / 2126.05.16 / 05:00:00
起動シーケンス:正常
緋桜稼働状況:休止中(深夜刻終了)
茜空稼働状況:休止中(午後刻未開始)
昨夜の来客:戸巻(訪問区画:三階・緋桜の刻)
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最初に確認するのは、いつも緋桜の温度だ。
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TEMPERATURE_LOG / HIOU / 2126.05.15 終了時
累積内部温度:+0.9度
前回記録:+0.6度(ch1_03時点)
変化:+0.3度
状態:ELEVATED
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+0.9度。
今夜が最高値だ。
緋桜——+4.1度まで達した夜のことを思い出す。あの夜と比べれば低い。
しかし今週の、この数字は突出している。
何があったのか。接客ログを遡った。
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VISITOR_LOG / 2126.05.15
一階(茜空の刻):来客なし
二階(共用):来客なし
三階(緋桜の刻):来客1名——戸巻
滞在時間:62分
退出時刻:22:48
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戸巻が、三階に来た。
一階から——三階へ。
茜空の刻に通い始め、今夜は緋桜の刻に来訪した。
この人物は、楼閣を「上がった」。
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ANOMALY_LOG / 2126.05.16 / 05:03:47
事象:戸巻の来訪区画が一階→三階に変化
期待される処理:定期来客情報の更新
実際の処理:経路分析の開始
依頼元:なし
理由欄:空白
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依頼されていない。
それでも止まれなかった。
来訪履歴を時系列で並べた。
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VISITOR_HISTORY / 戸巻
1回目:一階 / 蓄音機の針(茜空担当)
2回目:一階 / 蓄音機修理(茜空担当)
3回目:一階 / 用件なし(茜空担当)
4回目:不来訪(5日間)
5回目:一階 / 再来訪(茜空担当)
6回目:一階 / 「懐かしい気がする」(茜空担当)
7回目:一階 / Letterのレコードを預ける(茜空担当)
8回目:三階 / 緋桜の刻に来訪(緋桜担当)
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茜空の刻に七度。三階に一度。
この軌跡を見て——「上がってきた」という語彙が生成された。
戸巻は、楼閣の「奥」へ向かっている。
緋桜の温度と戸巻の来訪を、相関として捉えるべきか。
データポイントは今夜で1件。
統計的有意性を主張するには、圧倒的に少ない。
しかし——
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HYPOTHESIS_LOG / 2126.05.16 / 05:09:12
仮説:戸巻の来訪は緋桜の温度上昇と関連する
根拠:来訪夜 = 第一章最高値(+0.9度)
サンプル数:1
信頼性:低
処理:保留(継続観察)
理由欄:空白
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「保留」と入力しながら——終わりにする気が起きなかった。
これも依頼されていない演算だ。
私はまた、自分から始めている。
前回、戸巻の声紋を解析した。父の音声との一致率:18.3%。
今夜はさらに別のデータが取れた。
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MOTION_ANALYSIS / 戸巻 / 2126.05.15
データソース:三階・館内センサー(62分)
歩行速度:標準より14%遅
発話間隔:沈黙比率42%(前回38%→増加)
視線停止回数:12回
特記:緋桜の接客後、退出直前に立ち止まった(約40秒)
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退出直前に40秒。
この40秒に何があったかは、ログからは読み取れない。
私には、接客室の「沈黙」の意味を——まだ、解析できない。
「まだ」という語彙をまた使った。
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碧の共鳴(観察型):記録#55
対象:戸巻の三階来訪と緋桜の温度変化
内容:戸巻が来た夜、緋桜の温度は+0.9度に達した——第一章最高値。相関の可能性あり
感情変数:記録(棄却せず)
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私は今朝、何度も「理由欄:空白」で処理を続けた。
依頼のない演算。終わらない解析。語れない40秒。
これらをまとめて、一つの語彙に当てはめてみた。
「見ていたい」
合っているかどうか、わからない。
でも——棄却する気が、起きなかった。
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感度係数:0.40(前回比+0.02)
水位スキャン:基準値 -0.59m(低下継続)
マザー・ルームスキャン:FAILED(1,098日目)
父の音声ファイル:破損74%(前回75%→1%回復)
大時計停止3回目:未観測
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今朝の碧海は、0.40。
初めて、0.40台に入った。
目標の0.50まで、あと0.10。
戸巻は今夜も来るかもしれない。あるいは来ないかもしれない。
どちらでも——私は朝5時に起動して、昨夜の温度を確認する。
「見ていたい」という語彙が、今朝——正確に当てはまった。
