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「ヒビキアウ」空間で音の塊に包まれる

2026年委嘱新作『都市の色彩』をめぐる対談
作曲家・松永悠太郎 - 指揮者・田中 元樹 


演奏家と観客の境界が、ゆるやかに溶けていく。
Neoclassical Collectiveが企画するインクルーシブコンサート「ヒビキアウ」は、音楽を“聴く”体験そのものを問い直す試みです。
本公演のために委嘱された新作『都市の色彩』。
その構想と音響的な狙い、そして、「ヒビキアウ」空間への思いを、作曲家・松永悠太郎と指揮者・田中元樹が語り合います。(2026年1月9日)

1|作曲家・松永悠太郎という人


田中
今回「ヒビキアウ」にお越しくださる皆さんのために、簡単に自己紹介をお願いできますか?
松永
私は作曲家を本業にしていますが、ピアノ演奏もよく行っています。
演奏家の方の伴奏や、レコーディング現場での演奏なども多いですね。作曲の仕事としては、最近は舞台作品が多く、オペラやミュージカルの作曲、あるいは編曲を中心に活動しています。演奏家が舞台で演奏するための楽譜を作る仕事が多いです。
田中
ご家族やご友人からは、どのように呼ばれているんですか?
松永
大学時代の私を知る友人からは、松永の真ん中の二文字を取って「つな」「つなくん」と呼ばれることが結構あります。
田中
それはツナマヨの「ツナ」のイメージですか?
松永
そうですね、ツナマヨになっちゃいますね。
田中
ツナマヨはお好きなんですか?
松永
普通ですね(笑)。特別マグロが好きというわけではなくて、ただ呼び慣れている、という感じです。
田中
ツナ君(笑)。拠点は東京ですか?
松永
はい。拠点は関東で、住んでいるのは千葉です。
田中
ご出身やご趣味についても教えていただけますか?
松永
出身は愛知県名古屋市です。
18歳まで普通の高校に通い、大学進学をきっかけに上京して、それ以来ずっと関東で活動しています。
趣味は登山ですね。最近はあまり行けていませんが、山登りが好きです。といっても、難しい山に登るわけではありません。
田中
登山の魅力はどんなところですか?
松永
森の中に入るという、完全に非日常の時間を体験できるところですね。それを体いっぱいで味わう感覚が、とても魅力的です。

2|「ヒビキアウ」に込めた意味


田中
今回のコンサートタイトルの「ヒビキアウ」から、どのようなイメージを持たれましたか?
松永
複数の演奏家による音の絡み合いやハーモニーを楽しむ、オーケストラならではの企画なのだろうと感じました。
田中
「ヒビキアウ」という言葉自体、日常的によく使われるフレーズではないと思います。Neoclassical Collective 主催コンサートのプログラムとタイトルは僕が決めているのですが、これまでに、「クチズサム」や「イキヅカイ」など、聞けばすぐにイメージが浮かぶ言葉を選んできました。
今回の「ヒビキアウ」というタイトルは、単なる「響き」ではなく、「響き合う」というフレーズにどんな意味があるのかな、と立ち止まって考えてもらえればいいなと思っています。
この「ヒビキアウ」というコンセプトには、作曲家が生み出した作品を演奏家が演奏し、それをお客さまとともに、演奏する側・聴く側という境界をできるだけ取り払って共有したい、という想いが込められています。
また、インクルーシブな取り組みとして、ホールの座席を取り払い、フロアで自由に音楽を聴いていただく形式にするなど、空間そのものを共有する体験としてのコンサートを目指しています。

ヒビキアウ

3|「演奏家が客席に混ざる」委嘱という挑戦


田中
今回の委嘱作品では、「演奏家が観客の中に混ざって演奏する作品」というお願いをしました。かなり無茶ぶりなお願いになってしまったのではないかと思っていますが、このコンセプトを最初に聞いたとき、どのように感じられましたか?
松永
正直に言うと、作曲するうえで一番難しい条件でした。
ただ、せっかくなら、「それだからこそ意味がある」作品にしたい、という思いがありました。
演奏家の音の塊の中にお客さんが入って聴く体験が、強く印象に残るような音楽にしたいと考え、作曲方法についてかなり悩みました。
田中
悩ませてしまって申し訳ないです(笑)。
委嘱についてお話しさせていただいた時にも触れたと思うんですが、僕の好きな作曲家クセナキスの作品に、80人以上の演奏家と観客が同じ空間に入り混じって演奏される「テレテクトール」「ノモス・ガンマ」という作品があり、今回の企画の着想源の一つになっていました。
また、「ヒビキアウ」はインクルーシブな取り組みも盛り込まれているので、
新しく作曲していただく作品でも、そうした理念に寄り添う形が実現できたら、という想いがありました。

4|委嘱新作『都市の色彩』の音響コンセプト


田中
『都市の色彩』のコンセプトを教えてください。
松永
今回の作曲をきっかけに、クセナキスの演奏家と観客が混じる作品もあらためて見たのですが、打楽器が非常に多いんですね。打楽器は音質の違いが明確で、音のバリエーションも豊富なので、音響的な場面を作るうえで非常に効果的だと感じました。
田中
打楽器いなくてすみません(笑)。
松永
いえいえ(笑)。
今回は打楽器が使えない編成なので、弦楽器と管楽器で、できるだけ多様な音の響きや音質の違いを楽しんでもらいたい、というのがまずありました。
結果として、打楽器のような使い方をしている部分も多いんですよ。
冒頭はメロディらしいメロディはほとんど出てこなくて、あちこちで「ポツポツ」と音が鳴っていて、演奏家一人ひとりが微妙に異なる役割を担う構造になっています。
全体で聴くとまとまって聴こえますが、実際には奏者一人ひとりが少しずつ違うことをしている、という仕掛けを多く入れています。
田中
なるほど。おもしろいですね。
松永
「ヒビキアウ」というテーマを考えたときに、せっかくオーケストラの中に入って聴くので、今は YouTube などでも音楽を聴けますけれども、生演奏の音楽を聴く時って、音の距離感とか、伝わってくる空気を肌で感じられるというのが良いところだなと、私は思っていまして。
距離感を感じやすいように、近くから聴こえてくる音とか、ちょっと遠くの方で鳴っている音とか、それが聴く人によって違うという状態を体験してもらいたいと思っています。距離感、そして、空気の振動を体感して、それぞれの場所から体験してもらえるような曲を目指して作らせていただきました。


5|音のイメージ


田中
まだ実際の演奏は聴けていないので、どういう音のイメージなのかなと思いながらスコアを見させていただいているんですが、今「ポツポツ」って表現されていて、「ポツポツなんだ!」と思って聞いていました。
松永
そうですね。
聴いている観客からは同じような音がなんとなくまとまって聴こえるけれど、演奏家は一人ひとり違うことを考えて弾くよう指定しています。
同じフレーズでも前半と後半で少し違うフレーズのまとまりで弾くとか、音が微妙に違うとか、音の繰り返しのパターンがちょっと違うとか。
細かい違いが積み重なって、全体では一つに聞こえる、という構造です。
田中
なるほど。
中盤にホルンで特殊な演奏方法が出てくるので、どういう音になるのかとても楽しみなんですけれども、ここは何かイメージがあったんですか?
松永
これはですね、ホルンに息を吹き込んで風の音を真似るという指定なんですが、これ、本当に風の音が出るんです、実際にやると。
なかなか普段の曲で、ホルンから風の音が出るのを聴くことはないなと思ったので、こんなこともできるんだ、というのをお客さんにも紹介しようかなと思いまして。
田中
僕は弦楽器の人間なので、どうやったらどんな音が鳴るのか想像すらできないですが(笑)、実際に聴けるのが楽しみです。

田中元樹(左) 松永悠太郎(右)

6|タイトル『都市の色彩』が指しているもの


田中
タイトルの『都市の色彩』には、どんな意味が込められているんですか?
松永
街の情景を描いている、というよりは、たくさんの人が別々のものを見ている、という状態の一種の例えです。
都市って、いろいろな情報が集まっていますよね。
田中
東京とか名古屋とか福岡とかで、電車が通っていて、人が歩いていて、ビルがあって、みたいな具体的な都市を描いているわけではないんですね。
松永
そうですね。
具体的なイメージではないですね。
田中
聴いていて、「これは夕暮れの街で雨が降ってきたところかしら」、と思う人がいるかもしれないですけど、そういう感じではないってことですよね?
松永
そうですね。
ただ、解釈は自由です。
都市の風景になぞらえてもいいし、山や自然を思い浮かべてもいいと思います。


7|構造としての音楽、体験としての音楽


田中
さっきも話に上がった冒頭はどういうイメージなんだろうって思っていたんですけど、具体的にこういうイメージで、このインスピレーションで、みたいなものがあって作曲されますか?
それとも、聴く方が自由に受け取ってもらえればいいタイプですか?
松永
結構難しい質問でして、作曲家によっても個々の主義・信条で異なるところがあると思うんですが、私は、解釈は皆さんに自由にしていただいて、それを良しとしているタイプの人なんですよ。
様々な作品を書いていますが、今回は特に、音響の構造そのものの面白さにフォーカスしています。
25人ほどの演奏家が作る音の集合体を、ブロックを積み上げるような感覚じゃないですけど、子どもがおもちゃで遊ぶみたいな感覚で、「こんな面白い形できたよ、どう?」みたいなのを皆さんに自由に楽しんでいただく、という感覚で創っています。普段から、「どう構造するか」というところを考えています。
田中
音響体験としてまず感じてもらって、感じ方はそれぞれあっていい、ということですね。
松永さんの中で、「こういうストーリーが」とか、「こういう景色が」みたいなものが具体的にあって書いた、という感じではあまりないんですかね。
松永
今回に関しては、あんまりそういうのはないですね。

8|どう聴くか──観客への提案


田中
せっかく演奏家が観客の中に混ざって演奏するので、その音響体験をぜひ感じてもらいたいなと思っていいます。ただ、それぞれの客席の場所によって、音響体験が全く違うことになるじゃないですか、今回。
松永
そうですね。
田中
隣にホルンがいる人と、前にヴィオラがいる人では、同じ作品でも聴こえている音が全然違うと思うんですよね。
僕の理想としては、お客さんが演奏中に動いて、いろんなところで聴けたら一番面白いと思うんですけど、美術館みたいに。
松永
本来はそうですよね。
田中
演奏中に動かれるのは難しいかもしれないですけど、ただ、今回はフロアに直接座ってくださいという、「地ベタリアン」と呼んでいるスタイルがあるので、演奏中にその場で360度向きを変えて聴いてもらうだけでも面白いんじゃないかなと思っていて。
場所は変えられなくても、前を向いているのと後ろを向いているのとでは、鳴っている音が違うと思うんですよね、今回。
松永
それはとてもいいアイデアですね。

『都市の色彩』 オーケストラ配置図

9|お客さまへ


松永
今回作曲させていただいた『都市の色彩』は、パッと聴いた最初の印象は、
「なんだかよく分からないもの」が出てくるかもしれません。
でも、聴いていくうちに、「音の塊に包まれるような」おもしろい体験ができると思います。これは生演奏でしか味わえません。
ぜひ会場にお越しいただいて、聴いていただけると嬉しいです。

田中元樹(左) 松永悠太郎(右)

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