10年前の私が信じたかった愛犬のこと。と、その続き
きのころさんの「続きを考えませんかコンテスト」にどうしても参加したい〜!どうしようかと思い悩んで、わたくしは10年前のブログを引っ張り出してきました。
昔の文章の「続き」を、書いてみようかなあと。
当時実家で暮らしてたミニチュア・シュナウザーの『グレちゃん』が、いなくなって。グレちゃんにとっては、私や家族が世界のすべてだったのかなあ。その無償の愛情に、私は応えられていたのかなあ。と、なんか必死だったころに書いた、一編のお話。
つたなかった10年前の私が、信じたかったこと。
と、その続きを。
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EP.01 -
僕は6匹の兄弟たちと一緒に、この世界に生まれた。
世界はまぶしくて、目をあけることにすら時間がかかり、僕らは、ママのあったかい体温と、ミルクの匂いだけを頼りに生きていたんだ。
ある日。僕たちの家にやってきた大きな生き物が、ひょいと僕を手のひらにのせて言った。
「この子は度胸がすわってるね」
つるりと毛の生えていない手の上で、僕はバタバタと手足を動かしているばかり。そのままその手に抱えられ、どこか知らない場所に来た。ママも兄弟たちもいない世界は、心細くてたまらなくて、僕はしばらくの間ずっと震えていた。
その生き物は、ずっと僕から離れずに、ふやけた柔らかいものを差し出して、じっとしている。ふんふん、ミルクの匂い。しばらくして、僕がそれをペロッとなめると、「ああ、いい子」と頭をやさしく撫でてくれた。あったかくて優しくて大きい生き物を、僕はもう一度ママと呼ぶことにした。
ママはいつも僕をみていた。だから僕もママを追いかけた。僕が座っても、僕がおしっこをしても、僕が走っても、いつもママは笑ってくれた。かまってほしくて、ふわふわの白い紙を箱の中から全部引っぱりだした時には、少しだけ怖い顔をしたけれど。
ママ、ママ、僕のママ。大好きな僕のママ。
EP.02 -
今日も彼女は帰りが遅い。一体何してるんだ、オレをほって。薄暗くなる空を見つめながら、彼女の帰りをじっと待つ。彼女のいない部屋の中はガランとしていて、寂しさが胸につのる。食べかけの食事が皿に残っているけれど、あいにく今はそんな気分じゃない。腹はずいぶん減っているはずなのに。
カチャリと鍵の音がして、オレは思わず立ち上がる。「遅いじゃないか」と文句の一つも言ってやろう。そう思っているのに、体は言うことをきかない。
「ごめんね、遅くなって」
抱きついてくる彼女の頬に、力いっぱいのキスをして、彼女のあたたかい胸の中に顔をうずめる。あぁ、こうやっていつも彼女のペースになるんだ。
一緒に散歩にでかけ、一緒に食事をする。一緒に風呂に入り、一緒に眠りにつく。眠っている彼女の顔はとても穏やかで、それを見つめながら静かに目を閉じる。彼女と一緒の布団の中は、とてもあたたかい。彼女は眠りの中でも、オレの背中をなで続ける。朝になればまた、彼女との一日が待っている。
EP.03 -
最近この子はすぐに悲しそうな顔をする。だから私は、少しふんばって足を伸ばし立ち上がる。
大丈夫さ、ほら、ご覧よ。
それでもやっぱり、この子は悲しい顔で、震える私の体を支えようとする。あぁ、私にはもうこの子を笑わせてやることができないのか。
あたたかい膝によりかかり、そっと顔をのぞき見る。私を見つめている目には、今にもあふれそうな涙がたまり、瞬きをするとポツリと落ちた。
もう一緒に食事をすることができなくなってしまった。もう一緒に歩くことができなくなってしまった。日がな横たわり眠る私の側を、片時も離れようとせず、「大丈夫、大丈夫」と呟きながら、もうすぐそこまで来ているその日を、この子は一緒に迎えようとしてくれている。
あぁ、愛しい子。お前の腕の中にずっと抱かれていたいけれど、どうやらお別れの日が来たようだ。最後に話をしよう。私が生まれてからこれまでの話を。
私には愛するママがいて、天気のいい日はいつも一緒に散歩をしたもんさ。私には愛する恋人がいて、ケンカをしながらたくさんの想い出を作ったもんさ。そして私には愛するお前がいて、今、命を終えようとしている。
もうお前の顔が遠く見えなくなってしまったけれど、私の目の中には、はっきりと残っている。だから、どうか泣かないで。最後に、力いっぱい抱きしめてくれないか。
私にとって、このぬくもりが世界のすべてだったんだ。
━━ここまでが、10年前に書いたお話。
私はいまでも、ミニチュア・シュナウザーを見ると、あの子の名前でこっそり呼んでしまう。
「あ、グレちゃんがいる。グレちゃん、グレちゃん」
振り返ったその子は、私の顔を少しだけ見て、ト・ト・トとご機嫌に、お散歩の続きに戻っていく。隣を歩くのは、大好きなママね。何度も上を見上げて、スキップするみたいに。
そうか、キミはきっと、幸せなんだ。
きのころさん、お祝いコンテストにしめっぽい作品で、なんだかすみません!でも、10年前も書いていて、今また書き始めている私にとっては、なんだか嬉しい機会になりました。続くっていいですね。10年後にもまた、昔の自分とコラボできたらいいなあ、なんてね。
