僕と君には、愛情の差があるらしい
1月20日。大寒。
この日、わが家の献立はシチューだった。
やるな大寒、その名に恥じぬ寒さだぜ…と、ぬくぬくのオフィスから、ビュゴォと冷たい風が吹きすさぶ外の様子を眺めていた時。ピコンとスマホが鳴って、見てみると、夫からのメッセージ。
「おつっ 今日の晩ごはんはシチューです」
わぉ。帰ろ。
🏃♀️➡️
私の夫は、高校卒業とともにペイッと家から出ているもので、一人暮らし歴が長く家事スキルが非常に高い。掃除洗濯おてのもの、唯一負けないと思っていた料理についても、最近あやしい。
気まぐれに、好きなものだけ作って大きな顔をしている私と違って、”冷蔵庫のちょっとした残り物で炊いたやつ”とか、”スーパーのお買い得食材で煮たやつ”とか、夫はとても器用に作り上げる。
そうなると妻は「もう私じゃなくていいじゃん…」と落ち込む…どころか。さらに甘えが加速する。結果、わが家の台所のメインパフォーマーは必然的に彼になる。
日々の積み重ねというのはすごいもので、彼の料理の腕前は結婚してからの15年でメキメキと上達してる。ぶっちゃけ完全に抜かれてると思う。だって私、ご飯炊く時にちょっとだけみりんを入れたら美味しくなる、とか、知らんもん。なんか、彼のごはんは、ちゃんとお家の味なんだよな。もしもわが家に子どもがいたとしたら、ウチの味は彼の味になるんだろうと思う。
さて、そんなわが家。
今日の献立はシチューだそうだ。
シチューの力は偉大だ。家に一刻も早く帰りたくなる。寒い寒い家までの道のりも、シチューへ続くウィニングロードと思えばなんのその。今日はもう負ける気がしない。コートを突き抜けてくる空気の獰猛な冷たさも、つま先から失われていく感覚の不安も、それすべてシチューのスパイスだから。
私のテンションは、明確にあがっていた。
バタンッ、バタバタ…
「た!だ!い!ま!」
ダイニングへ入るなり、ふんわりと漂うしあわせの香り。うぅん、たまらない。
「今日のシチューはうまいぞぉ。愛情込めてるから」
期待をあげにくる料理長。言葉通り丁重な手つきでお鍋をかき混ぜている。吸い寄せられるように台所へ向かい、ふんふんと鼻をぴくつかせていると、彼はピシャリと指示を出してくる。パンを焼くという大役を仰せつかった見習いシェフの私。ぐるる…と鳴っているお腹をいさめて指示に従う。
最後の仕上げと腕まくりしている彼を横目に、トースターにフランスパンを突っ込んで、シチューだな、シチューだな、とのんびりスマホを触っていたら。
「ん?なんか臭くない?」
パンは黒く焦げていた。あれれ〜
「あ〜あ…」と、呆れたようなため息と一緒に、待望のシチューが目の前に置かれる。立ちのぼる湯気の前には、どんなお小言も関係ない。はふっと思わずかぶりつく。寒さも吹きとぶ、ウマい熱が口いっぱいに広がった。むふー!
ご機嫌な笑顔で、ぱくぱくぱくと食事を進める私を眺めながら、彼がつぶやく。
「…僕と君には、愛情の差がある気がするんよなあ」
なんだか不服そうな料理長だったけど。
焦げたパンに染み込んだトロトロのシチューは、少しの苦味も包み込んで、やさしいやさしい味がした。

はしさんの企画に参加させていただきました!
季節を追いかけるってなんか素敵。
