【サクッと読める瀬戸芸2025レポ】わざわざ会期外を狙った直島新美術館編
瀬戸内国際芸術祭、略して「瀬戸芸」は、香川県・岡山県で瀬戸内海の島々を舞台に開催される現代アートの祭典である。
春・夏・秋の3会期に分けて開催される芸術祭で、6月の今は「会期外」に当たっている。
会期外に訪れる場合、交通の便が少ないとか、おトクな作品鑑賞パスポートが使えないなどのデメリットがある。
しかし私は来島者の少なさを最優先して、1泊2日で直島に出掛けてきた。
2025年5月、瀬戸芸会場のひとつである直島にオープンした新たな美術館をゆっくり楽しみたかったからだ。
‥結果、想像以上に充実した2日間を過ごせてしまい、それはもうウホウホで帰宅した。
さて、瀬戸芸2025から旅レポをブログとnoteの両方で公開することにした私は、瀬戸芸旅に出かけるたび、現地で回ったアートをご紹介している。
noteの方はいわばダイジェスト版なので、写真多めのガッツリレポを読みたい人は、ブログ(↓)でどうぞ。
私はいつも岡山県にある宇野港から直島の宮浦港に入り、島内を徒歩またはバスで巡る。
今回の旅では初めて訪れる施設をメインにスケジュールを組んだことで、かなり期待が高まっていた。
杉本博司ギャラリー「時の回廊」
直島のベネッセアートサイトには事前予約が必要な施設があり、この「時の回廊」もそのひとつだ。
私はフェリーやバスの時間に合わせて、12時に予約を取っていた。

ここに入館すると、お茶と季節の和菓子がいただける「呈茶券」がついており、オシャレなラウンジでお茶をいただくことができる。

ラウンジから望むガラスの茶室「聞鳥庵(もんどりあん)」が美しい。
芝生の庭、穏やかな海と島影、そして青い空と正方形の調和にため息が出る。

草間彌生「南瓜」
ここから少し歩くと、有名な草間彌生氏の「南瓜」がある。
宮浦港に赤い南瓜、そしてベネッセアートサイトに黄色い南瓜が設置されていて、どちらも大人気の撮影スポットだ。

地中美術館
ベネッセアートサイト内を走る無料シャトルバスの終点が、地中美術館である。

バスから降りて入館手続きをするチケットセンターへ。
事前予約しておいたチケットを提示して、美術館へのゆるい坂道を登る。
美術館までのアプローチに植えられた色とりどりの花は、館内に展示されているクロード・モネの庭を再現した「地中の庭」という名前らしい。

この美術館は、外から建物が見えない。
島の景観を壊さないよう、地中に埋められた美術館なのだ。

館内の作品は撮影禁止だが、撮影可能なエリアもある。
ここぞとばかりに写真を撮る来館者も多い、私も含めて。


地中美術館に収蔵されている作品はどれも大変素晴らしく、見応えがある。
一方で「10分もあれば全部見れる」というコメントも見かけたので、鑑賞の所要時間は人それぞれのようだ。
日時指定チケットのおかげで、混雑もない。
その気になれば何時間でも楽しめそうな空間で、カフェにも立ち寄りつつのんびり過ごした。
その後、バスで宮浦港に戻ってフェリーに乗船、宇野港付近のホテルに1泊、翌日、再び直島に渡った。

直島新美術館
前日と同じく宮浦港から島内バスに乗車。
停留所から少し歩いて、ベネッセアートサイト直島で10番目の安藤建築となる直島新美術館に向かう。
この美術館は瀬戸芸の作品鑑賞パスポートを持っていれば、会期中に1回だけ無料で入館が可能である。
会期外の今、パスポートを持っている私が入館料を払ってでも訪れたかったのがここだった。



館内は撮影禁止エリア以外、撮影OK・ネットへのアップもOKとのこと。
地下に続く階段を左手に眺めつつ、最初の展示室に入って度肝を抜かれてしまった。

タイの伝統的な仏教美術やデザインを使って、時間・喪失・荒廃、そして終焉に対する危機感への問いを提示しているそうだ。
写真ではわかりにくいが、この作品だけで物凄い情報量がある。
つい細部までガン見してしまうあたり「この一作だけでちょっとした美術館」レベルだと思った。
続いて地下1階に降りると、ソ・ドホ氏の代表作「Hub」シリーズが待っている。
こちらは、作家自身が暮らしてきた家の玄関や廊下などを布で再現した作品。

続いて地下2階に進むと、村上隆氏「洛中洛外図 岩佐又兵衛 rip」が展示されていた。
17世紀に描かれた国宝・岩佐⼜兵衛筆「洛中洛外図屛⾵・⾈⽊本」を参照した13mの大作だそうだ。
反対側の壁には、この作品をより詳しく知るための解説動画や資料が展示されていた。

展示室ごとに全く違う世界が広がっていて、いちいち驚かされる。
眩しく輝くコンテナは、Chim↑Pom from Smappa! Groupの「スウィート・ボックス(輸送中の道)」で、来館者は順番に中に入ることができる。
東京の各時代の廃材などが、地層のように積み重なる作品だった。

そして最後にご紹介するのは「私はこの作品を見るために、会期外に直島まで来た!」という壮大なインスタレーションである。
それが、蔡國強氏の「ヘッド・オン」。
99匹の狼の群れが、それはもう大変なことになっているのだ。

2006年、ベルリン・グッゲンハイムでの個展のために制作された本作は、99体の精巧な狼の群れが全力で走り、ためらうことなくガラスの壁にぶつかる大型のインスタレーションである。ベルリンの壁と同じ高さのガラス壁は人と人、異なる集団の間に存在する、見えないが確かにあるイデオロギーや文化の隔たりを象徴している。(中略)狼たちがまるで巨大な渦に巻き込まれているかのように円を成して走る様子は、活力に満ちていて力強く、その行動を貫く強い決意を感じさせる。
■出典:直島新美術館・作品解説パンフより
とにかく、狼1体1体の顔がめっちゃイイ。






この作品、私は狼たちが壁に激突した後が「更に素晴らしい!」と思ったのだ。

やや離れた位置から悔しそうに壁を見つめるのは、さっき起き上がったばかりの狼だろう。






‥「ヘッド・オン」を私の妄想全開でお届けしたが、鑑賞者によって狼の見え方や、彼らから聞こえる声は異なるだろう。
人によっては壁に衝突した後、全力を振り絞って立ち上がる狼から「イテテテ‥」「‥もう嫌だ」と聞こえるかもしれない。
また、ヨロヨロしながら再び列の最後尾につく狼から「‥オレ、もいっかい行かなきゃダメ?」と聞こえるかもしれない。
私はこの力強い狼たちの周りを、何周もしてしまった。
「ヘッド・オン」については、ブログの方にもう少し詳しいレポを掲載してみたが、ネタバレ注意でもある。
ちなみに美術館のスタッフさんによると、現在(瀬戸芸会期外)の来館者は日に300人くらいだが、瀬戸芸の春会期には1000人くらいだったとのこと。
‥その来館者数では、私はとてもゆっくり見て回れそうにない。
私が訪れた時は平日、しかも開館直後だったため閑散としていたが、それでも狼の群れにテンションが上がって同行者とはしゃぐ人・色んな狼との自撮りに忙しい人・お子様連れファミリーなども来られていた。
作品にコミットする力がよわよわな自分が情けないのだが、もし多くの来館者に囲まれていたら、絶対「狼たちの声」が聞こえない自信がある。
どんな環境であろうと作品に1対1で対面できる集中力がほしいところだ。
そんな私は、作品を心ゆくまで鑑賞できるかどうかは「運」もある、とも思っている。


「2〜3年で森の中にある美術館になる」という直島新美術館。
カフェの周りに植えられた、まだ小さな「森の元」が育つのも楽しみだ。
大竹伸朗「I♡湯(アイラヴユ)」
直島新美術館を後にし、島内バスで宮浦港まで戻る。
お次は、13時にオープンする銭湯が目的だ。
実際に入浴できる美術施設「I♡湯(アイラヴユ)」は、これまで何度も外から見ていたのだが、まだ施設内に入ったことがなかったのだ。


脱衣室も浴室も、本当に素晴らしい大竹ワールドだった。
ここの浴室には、ゾウがいる。
そして脱衣所のトイレにはクラゲ。
怪しい音楽が流れ、浴槽の底の春画やセクシーなピンナップがお湯にゆらめく。
日光が降り注ぎ、清潔感あふれるこの銭湯は、島民の方々も御用達だ。
「観光客と島民の交流の場として愛されることを目指している」そうだが、この時は、私ひとりの貸切り風呂だった。
暑さで少し汗ばんでいたため、本当は頭の先から足の先までガッツリ洗いたかったけれど、今から私はフェリーと在来線と新幹線に乗って家まで帰らなくてはいけない。
何しろ13時55分発の船に乗る予定なので、あまり時間がないのが残念だった。
足早に港へ向かう。
大型のフェリーで来島したが、帰りは小型船に乗船。



2日間のひとり旅で、数々のアート作品と島の風景にすっかり癒されて帰路についた。
直島は元気がある人はもっと長時間活動できる上、他にも魅力的なスポットが目白押しの島である。
瀬戸芸ファンの私は瀬戸芸本まで書いてしまったが、実は今回のように「人が少ない会期外」も大好きなのだ。
長いレポにお付き合いくださり、ありがとうございました。
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