日本製鉄USSが稼ぎ頭へ、実力利益9000億円の全体像
日本製鉄のCFOが決算会見で明言した。「USSがグループの稼ぎ頭になった」と。去年まで買収リスクの象徴だった会社が、今や利益の主役に変わった。この逆転劇の構造を読まないと、日本製鉄の今後の判断が追えなくなる。
> 「守られた市場に乗り込んだ日本製鉄が、ようやく回収フェーズに入った」
この記事のポイント
・USSが通期1800億円でグループ最大の稼ぎ頭になった
・国内マイナス900億円を海外プラス900億円で丸ごと相殺した
・中東・中国・国内の三重苦の中で利益構造が静かに変わっている
何が起きたか
日本製鉄の岩井尚彦・上席常務執行役員CFOが決算会見でこう語った。第1四半期の実力ベース連結事業利益は
1084億円
そのうちUSS単体での貢献は322億円。通期ではUSSの実力利益を1800億円以上と予想し、前回見通しから800億円の上方修正となった。日刊産業新聞が会見要旨を報じた内容から、利益構造の転換が明確に見えてくる。
なぜ国内が沈んでいるのに利益が増えているのか
日本製鉄の国内事業は今、三方向から痛めつけられている。中東情勢でホルムズ海峡を通過できなくなり、物流コストが跳ね上がった。その影響額は通期で600億円。しかも当初500億円と想定したコスト増が実際には250億円で済んだのは、ホルムズを迂回して海外コイルセンター経由でお客様に届けるという力技で補ったからだ。それができる海外拠点網があったからこそ乗り切れた。
中国の問題はもっと根深い。中国の粗鋼生産は国内需要が減っても減らない。年1億トン規模の鋼材輸出が続いており、ベトナムやインド経由で欧州に向かっていた鋼材が欧州のセーフガードで遮断されると、行き場を失って東南アジアに還流してくる。日本の国内市況を直撃するのはこの連鎖だ。政府がアンチダンピング措置を進めているが、市況に効くのはまだ先になるとされている。
一方でUSSのいる米国市場は構造が全然違う。データセンター向け建設需要が建設分野を下支えし、自動車生産は安定している。高い鋼材市況に関税が乗った結果、輸入量は関税引き上げ前から半減している。製鋼の稼働率は
80%超(2021年以来)
という水準まで回復した。日本製鉄のCFOが「守られた市場へのインサイダー化」と繰り返し言う意味はここにある。高コスト体質だったUSSに日鉄式の品質管理とコスト管理を入れれば、守られた高市況でその差がそのまま利益になる。
規制の観点からも見ておく必要がある。日本国内では輸入鋼材へのアンチダンピング措置が進みつつある。一方米国では関税が輸入鋼材への強固な壁になっており、日本製鉄にとってはその壁の内側にいる。この「内側にいる者の優位性」が、会見でCFOが「インサイダー化のメリット」と表現したものだ。
同業のJFEホールディングスもニューコアとの合弁で米国、JSWスチールへの出資でインドを攻めている。日本勢は揃って「中国の影響が届きにくい市場」に資本を集中投下する戦略を取っている。ただ日本製鉄のUSSは売上収益だけで
3兆円超
と規模が桁違いだ。成功すれば日本製鉄の競争優位は圧倒的になり、失敗すれば重い金利負担が長期間のしかかる。USSへの金融費用は今期だけで
約1200億円(第1四半期300億円×4倍の試算ベース)
と見込まれており、CFOはこの数字を公式の通期見通しに明示すらしていない。資金調達戦略に関わるからというのが理由だが、それだけ機動的に借り入れ条件を動かしたいということでもある。
CFOが語る「年率9000億円」を私はどう読んだか
私がコンサル時代に感じたのは、CFOの会見で「上期2500億円、下期4500億円以上」という数字が出たときの違和感だ。下期に倍近い利益を見込む構造は、値上げ浸透のタイムラグが原因なのか、それとも楽観的な前提が積み上がっているのか、どちらかで意味が全然変わる。今回の会見を読む限り、中東影響のコスト転嫁を下期にフルで浸透させる前提が前者の理由だと判断できる。市況分野でトン1万5000円の値上げを唱えて「浸透は半ば」という現状から、下期でフル浸透させると言っている。私はこの読みを「強気だがギリギリ現実的」と見ている。
シナジー効果の積み上がりも見逃せない数字だ。USSのシナジー効果見通しを前回の2億ドルから今回3億ドルに引き上げた。円換算で約160億円の改善。ビッグリバー2工場は6月に月次生産量で新記録の20万トンを達成した。私はこの「記録更新」という言葉を、日鉄流の現場管理が実際に効いているサインとして受け取った。コンサル時代に製造業の統合案件を見ていると、買収1年目に現場の生産記録が更新できるケースはかなり少ない。それが起きているのは、派遣した100人のオペレーションが機能しているということを示している。
為替についての見方も面白かった。CFOは「円安影響はニュートラル」と言い切った。国内の製鉄コストは円安でアップするが、海外事業の利益を円換算するとプラスになり、相殺される。海外事業のウエートが上がったことで、為替が「リスク」から「ニュートラルな変数」に変わった。私はここを、日本製鉄が本当にグローバル企業に変わった瞬間として記憶しておこうと判断している。
国内で沈みながら海外で稼ぐ構造への転換は、日本製鉄にとって始まりにすぎない。
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