金利は低いほど良いは本当か?日銀利上げで変わる経済の正体
「金利は低ければ低いほど良い」という常識が、今まさに崩れている。日銀が異次元緩和を終わらせ、金利水準が上昇に転じた日本で、その「常識」が逆だったことを示すデータが続々出てきた。
> 低金利は経済を守っているのではなく、むしろ腐らせていた。
この記事のポイント
・低金利が続いた結果、資金の配分が歪み続けた
・金利上昇は痛みでなく、経済の体温が戻るサインだ
・預金・投資・為替すべての構造が同時に変わりつつある
何が起きたか
日本銀行は2024年3月に異次元緩和を終了。その後、長期金利は上昇を続け、2025年7月時点で10年物国債利回りが
1996年以来最高水準の2.90%
に達したと報道された。OECD加盟38カ国の中で、直近1年間の長期金利上昇率が断トツの1位になったのが日本だ。Yahoo!ニュースのエキスパートコラムで金融アナリストの久保田博幸が指摘したのも、まさにこの転換点の意味だった。
なぜ低金利は経済を活性化しなかったのか
日銀という組織の内部で何が起きていたかを振り返ると、構造的な問題が見えてくる。2016年1月29日の金融政策決定会合、マイナス金利導入を決めた日のことだ。正副総裁を含む9人の政策委員の意見は真っ二つに割れた。当時反対票を投じた木内登英・野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストは後に「マイナス金利の効果はほぼなく、副作用しかなかった」と断じている。しかも木内氏によれば、マイナス金利の導入は「秘密裏に進められていた」という。意思決定の透明性が欠けたまま、日本の金利水準は歴史的な低みへと押し込まれた。
実際に影響を受けた現場の話をする。低金利にあえぐ地域金融機関63社が、クレジットカード決済代行会社「全東信」に融資を実行し続けた。総額は
1130億円
に達した。全東信は粉飾決算をしていたのに、融資が止まらなかった。なぜか。低金利時代、地銀や信用組合は利回りを稼げる先がなかったからだ。全東信は高金利で借り入れており、「金利が高くても借りてくれる先」は貴重な存在だった。低金利が金融機関のリスク判断を鈍らせ、不健全な資金の流れを生み出した構造がここに露骨に出ている。
規制・監督の観点から見ると、問題はさらに根深い。金融庁は全東信への融資集中を受けてヒアリングに乗り出したが、事後対応だった。低金利環境そのものが「利回り追求→審査甘め」という行動変容を業界全体に促していたにもかかわらず、監督当局がその構造を事前に止める仕組みはなかった。
業界全体のトレンドで見ると、もっと大きな話になる。BIS(国際決済銀行)の分析によれば、円の低金利を利用した「円キャリートレード」の残高は1兆ドルを超えていたとされる。低金利の円を借りて、高金利の海外資産を買う。このポジションが積み上がると、ひとたび金利差が縮まった瞬間に「巻き戻し」が起き、急激な円高と金融不安が連鎖する。2024年以降の円相場の乱高下はまさにこの構造が表面化したものだと考えられる。
私が「金利のある世界」でむしろ安心した理由
私がコンサル時代に感じたのは、低金利が「プロジェクトの選別機能」を壊すという事実だった。クライアントの大手メーカーで、収益性がほぼゼロの事業を10年以上継続しているケースに出くわした。経営陣に理由を聞くと「借入コストが低いから、赤字でも回せる」という答えが返ってきた。本来なら退場すべき事業が、低金利によって生き延びていた。
私はその分析結果をもとに「金利が上がれば自然に整理される」という論点を出した。当時は「利上げなんてあり得ない」と一笑に付されたが、今になってその判断が正しかったと確認できる。金利水準が上がることは、痛みではなく、経済の新陳代謝が戻るシグナルだった。
定期預金の金利水準の変化も、私には朗報に見えた。2026年は日銀の断続的な利上げによって「本格的な金利のある世界」へのシフトが明確になる年とされている。普通預金や短期の定期預金の金利がじわじわ上がることで、家計が「貯める」から「選んで運用する」行動に移る。これは資本市場への資金流入を意味し、銀行の金融仲介機能が相対的に低下する代わりに、市場機能が強化される方向だ。日本の資本市場がずっと「小さすぎる」と言われてきた根本原因のひとつが、低金利による預金への過度な滞留だったとも解釈できる。
Yahoo!ニュースのエキスパートコラムを読んで、久保田博幸の論点が刺さったのはここだ。「金利のある世界ではむしろ経済が活性化する」という主張は、教科書的に聞こえて実は観察に基づいている。平山賢一・麗澤大学経済学部教授の著書『金利の歴史』でも触れられているように、最低金利国の地位は歴史的に移行する。日本がその座から降りることは「失敗」ではなく「成熟の終わり、次のフェーズへの移行」として読む方が正確だと私は見ている。
金融政策の内側から金利と経済の関係を知りたい人には、元日本銀行総裁・白川方明が39年間の経験を語った回顧録『中央銀行 セントラルバンカーの経験した39年』が参考になる。マイナス金利導入前後の意思決定の背景が、当事者目線で書かれている一冊だ。
低金利が当たり前だった時代の「常識」は、今まさに書き換えられている。
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