三菱UFJが「江戸城」と呼ばれた日本企業の病巣

三菱UFJフィナンシャル・グループをめぐる「江戸城」という比喩が、今じわじわと注目を集めている。これは単なる揶揄ではなく、日本の大手銀行が抱えてきた構造問題を一言で射抜いた言葉だった。

> 年次主義と生え抜き主義が、日本の金融を城壁で覆ってきた。

この記事のポイント

・三菱UFJが「江戸城」と呼ばれた背景には年次・生え抜き主義がある

・1990年代から資本コストの概念が日本企業に届かなかった構造がある

・外部視点の導入は今も組織の城壁にぶつかり続けている

何が起きたか

2000年代初頭、金融庁の有識者会議「将来ビジョン懇話会」の委員を務めた川本裕子・現人事院総裁が、三菱UFJフィナンシャル・グループを「江戸城」と形容した証言が東洋経済オンラインに掲載された。川本氏はマッキンゼー出身のコンサルタントとして、1990年ごろから日本企業にROEや資本コストの概念を説いて回った人物。その外部の視点が、UFJをはじめとする大手銀行の組織壁にどう阻まれたかが、赤裸々に語られている。

なぜ「江戸城」は壊れなかったのか

川本氏がマッキンゼーに入った1990年ごろ、日本企業に資本コストを説明して回ったが、返ってきた反応は「だから何?」だった。2004年に早稲田大学で社会人大学院生にファイナンスを教え始めても、その上司たちはROEや時価総額をほとんど意識していなかったとされている。これは個人の怠慢ではない。利益率より「シェアと売上高」を追う経営モデルが、組織のDNAに深く刻まれていた。

三菱UFJフィナンシャル・グループのような大手銀行の場合、問題の根っこは人事構造にあった。年次主義とは、入行年次が上位者への服従を正当化する仕組みのこと。生え抜き主義とは、外部からどれだけ優秀な人材が来ても「城の外から来た人間」として扱われ続ける文化だ。城主は世代交代しても、城の構造は変わらない。だから「江戸城」なのだ。

実際に影響を受けたのは、外部から入った有識者や経営人材だけではなかった。三菱UFJ銀行の内部でも、新卒1000万円という破格の待遇を打ち出さざるを得ないほど、従来の年功型賃金では優秀な人材が集まらなくなっていた。日経新聞が報じたこの動きは、城壁が内側からも軋み始めているサインだった。

法規制の観点から見ると、スチュワードシップ・コードとコーポレートガバナンス・コードが整備された2010年代になって初めて、日本の大手銀行は「投資家との対話」と「高い規律」を求められるようになった。欧米ではずっと早い段階でガバナンスコードが機能していた。日本の規制側の動きが十数年遅れたという事実は、川本氏の証言と完全に符合する。

業界全体を見ると、三井住友フィナンシャルグループが年功序列廃止に動いているという報道も出ている。メガバンク3行が横並びだった人事制度に、ようやく亀裂が入り始めた時代に、私たちは今いる。三菱UFJフィナンシャルが新卒1000万円、三井住友フィナンシャルグループが年功序列廃止、とそれぞれが別の形で「城壁の解体」に動き始めているのは偶然ではなく、AI活用や人的資本開示といった外圧が一気に集中した結果だとされている。

この構造、私が組織の中でぶつかった壁に重ねると

私がコンサル時代に強く感じたのは、「外部の論理」は城壁の外で完結してしまうという事実だ。クライアント企業に資本コストベースの意思決定を提案すると、担当者は理解してくれる。でもその上の部長、さらにその上の役員に話が上がるたびに、「うちの会社のやり方ではない」という言葉で蒸発した。城主の交代ではなく、城の構造を変えないと何も変わらない、という川本氏の証言は、私の体験そのものだと思った。

気づきとして残ったのは、数字の言語を変えても組織の言語が変わらなければ意味がないということだ。ROEやROICを使えるようになった経営陣でも、人事評価の軸が年次ベースのままなら、行動は変わらない。三菱UFJフィナンシャルが新卒1000万円に踏み切ったのは、数字の言語と人事の言語を同時に書き換えようとした最初の試みだと私は見ている。

もう一つ。外部視点の導入をめぐる「論争」が起きること自体、城壁の存在を証明している。川本氏のような人物が「議論の対象」になるというのは、まだその視点が「城内の常識」になっていないということだ。MUFGがSakana AIや複数のテック企業と「全方位」でAI連携を進めているのも、特定の外部パートナーを選ぶと「それ以外は城の外」になる内側の論理を崩すための戦略だと考えられる。


城の構造が変わるとき、城主の名前ではなく城の石垣が動いている。

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