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「優秀なのに使えない」社員が出るたびに失っている、組織の価値変換力

この記事を読もうとしているあなたは、おそらくこんな経験をしたことがあるはずだ。

「スキルは高い。でも、チームで動かない」「個人の成果は出す。でも、組織の価値にならない」「どう扱えばいいかわからないまま、時間だけが過ぎていく」

そのとき、あなたの組織は何を失っているのか。私はこの問いを、人事問題でも労務問題でもなく、価値の設計問題として捉えている。

この記事を読まずにいると、次に同じタイプの人材が入ってきたとき、また同じ損失が繰り返される。あなたの組織が「人を価値に変換する構造」を持っているかどうか、今日ここで確認してほしい。


1. なぜ今、この視点が必要なのか

日本の採用市場は構造的に変わった。

かつては「どこに入るか」が個人の選択基準だったが、今や「どんな仕事を、どんな条件でするか」が先に来る。スキルを特定分野に尖らせ、やりたい仕事だけを引き受けようとする人材が、特にデジタル・IT系で急増している。採用コストが高騰する中、企業は「欲しいスキルを持つ人材」を取ることに精力を注ぎ、「その人材が組織で価値を生む構造になっているか」を設計することを後回しにしてきた。

その結果として生まれているのが、「採用ミスマッチ」という言葉で片付けられている現象だ。しかし私から見れば、ミスマッチの多くは採用フェーズではなく、入社後の「価値の回路設計」の欠如から起きている。

この記事が問いかけているのは、「問題社員をどう扱うか」という対処の話ではない。あなたの組織が、人材の能力を組織価値に変換する設計を持っているか、だ。

2. 記事の本質(Fact Focus)

出典:村井真子(社会保険労務士・キャリアコンサルタント・経営学修士),「上司の指示は無視『やりたい仕事だけやる』26歳の問題社員を『揉めずに辞めさせた』まさかの解決策」,マネー現代(講談社),2026年5月20日

村井氏は、物流会社P社の人事担当Aさんが相談を持ち込んだ実際の事例をベースに、問題社員への対応プロセスを論じている。

事例の概要はこうだ。26歳のSEであるBさんは、基幹システムの改修業務では突出した成果を上げる一方、OJTや他部署との調整、前工程の下準備といった「やりたくない業務」には一切手をつけず、上司の指示を無視し、指導しようとする担当者には「パワハラではないか」と反発した。入社5ヶ月で遅刻10回、面談4回を経ても行動は変わらず、OJT担当者は退職を考え始めていた。

村井氏が論じる対応の要点を価値の流れとして整理すると次のようになる。

① 問題を「人格」ではなく「業務義務違反」として構造化する

「態度が悪い」という印象論ではなく、「何の業務指示に従っていないか」という事実の明文化が最初の一手。

② 指導の記録を「組織の証跡」として積み上げる

面談内容・改善期限・反応を逐一テキスト化し、「会社として段階的な機会を与えた」というプロセスを組織の資産にする。

③ 懲戒処分ではなく「選択肢の設計」で解決を図る

最終的にP社はBさんに「業務限定+給与見直しによる雇用継続」か「業務委託契約への転換」の2案を提示。Bさんは翌日、業務委託を選択した。

村井氏はこの事例を通じて「企業に求められているのは、正しい判断そのものではなく、正しいプロセスを踏んだ判断だ」と論じている。

3. 価値創造プロデューサーの視点(Insight & Design)

この事例を読んで、私が最も注目したのは「解雇」でも「懲戒処分」でもない。P社が最終的に選んだ「業務委託への転換」という解決策だ。

これは労務管理上の妙手であると同時に、価値の流れを再設計した一手でもある。

Bさんというリソースを、「正社員という器」に無理矢理収めようとしたとき、価値は詰まり、摩擦だけが生まれた。しかし「業務委託という別の器」に移したとき、Bさんの能力は改めて価値として流れ始めた。しかも翌日には本人が自ら選択した。

これは偶然ではない。P社とAさんが「どうすれば双方にとって価値が生まれるか」という問いを、プロセスの末尾に設計していたからだ。

私が事業や組織の現場で繰り返し見てきたのは、この「器の設計ミス」が引き起こす価値の喪失だ。スキルは高いのに、雇用形態・配属・役割の定義が合っていないせいで、その人が組織で火を噴かない。本来なら「価値の源泉」になれる人材が、「問題の震源」として処理されていく。

「問題社員」という言葉が出た瞬間、組織はもう答えを決めている。

その瞬間から、問いが変わる。「どうやって排除するか」へ。本来あるべき問いは「どんな器なら、この人の価値が組織に流れるか」のはずなのに。

4. 論点の深掘り:語られざる「価値の設計ミス」

この記事が労務管理の文脈で語られているために、最も重要な問いが見えなくなっている。それは、「なぜP社はBさんをSEとして正社員採用したのか」という採用設計の問題だ。

Bさんは「フリーランスになりたかった」「コミュニケーションが苦手で入社時は無理をした」と最後に語っている。これはBさんの資質の問題ではなく、採用プロセスで「どんな価値をどんな器で組織に受け取るか」というジョブ定義がなされていなかったことを示している。

ジョブ理論(Clayton Christensen)の文脈で言えば、P社がBさんを「雇う(hire)」際に依頼したジョブと、Bさんが「この仕事に就く(hire back)」際に期待したジョブが、根本的にズレていた。正社員という雇用形態が内包する「やるべきことを引き受ける姿勢」を、Bさんは最初から引き受けるつもりがなかった。

これは道徳の話ではない。設計の話だ。

現場で私がよく見る「価値の設計ミス」はパターンがある。

パターン①:役割の輪郭を曖昧にしたまま採用する

「優秀そうだから採った」という採用は、価値の受け取り口を作らないまま人を入れることだ。川に水を引いても、水路がなければ田んぼは潤わない。

パターン②:雇用形態と期待値の設計が連動していない

正社員に期待する価値と、業務委託に期待する価値は本来異なる。しかし採用時にこの設計が曖昧なまま、入社後に「正社員らしく動いてほしい」という期待だけが組織から圧力としてかかる。

パターン③:問題が可視化されてからしか、設計の問いを立てない

P社のケースで言えば、Bさんが業務委託という器で最もよく機能するという答えに、なぜ5ヶ月後にしか至れなかったのか。採用時点でその設計ができていれば、OJT担当者の苦しみも、面談4回の消耗も、組織の生産性の低下もなかった。

この「設計を後回しにするコスト」が、最も見えにくい価値の喪失だ。

5. 実践への適応:価値創造を"動かす"初手

「問題社員が出てから動く」組織と「問題社員が出る前に設計する」組織では、蓄積される組織能力が根本的に違う。

今まさに「扱いに困る社員」を抱えているリーダーへ、まず投げかけてほしい問いはこれだ。

「この人の能力が最も価値として流れる器は、今の雇用形態・役割・チーム配置か?」

「扱いに困る社員」を抱えているリーダーへ

この問いを、「どうやって辞めさせるか」の前に立てられるかどうか。それだけで、出てくる選択肢の数が変わる。

さらに、採用・配置を設計する立場にいるリーダーには、次の3つの問いを組織の「価値設計チェックリスト」として持ってほしい。

① 採用時:「この人に、どんなジョブを依頼するか」を文書化しているか

役職名でも給与レンジでもなく、「何を、誰と、どんな働き方で達成してほしいか」を具体的に言語化できているか。

② 配置時:「この器(雇用形態・チーム・役割定義)は、この人の価値が流れる構造になっているか」を検証しているか

「正社員だから何でもやってもらう」という前提を一度壊して、その人の能力が最も流れる環境を設計者として描けているか。

③ 問題発生時:「これは人の問題か、器の問題か」を最初に問えているか

問題社員と感じた瞬間に、まず「器の設計ミスではないか」という問いを立てる習慣が組織にあるか。

この3つの問いが習慣として機能する組織は、「問題社員」の発生率が構造的に下がっていく。なぜなら、人の価値が流れる設計を最初から作っているからだ。

6. リフレクション&メッセージ

この記事を通じて伝えたかったのは、一つのことだ。

人の問題に見えるものの多くは、設計の問題だ。

「あの社員は問題だ」という言葉が出た瞬間、組織はもうその人を「コスト」として見始めている。しかし本来なら、その人が「なぜ価値を生んでいないのか」「どんな器なら価値を生めるのか」という問いを、設計者として立て続けることができる。

Bさんは最終的に業務委託という器を選び、翌日には自ら申し出てきた。あの解決が「まさかの解決策」に見えるのは、多くの組織が「雇用形態という器を変える」という選択肢を、問題解決の文脈で持っていないからだ。

価値創造プロデューサーとして私が組織に入るとき、最初にやることの一つは「人の価値がどこで詰まっているか」を、組織の構造ごと見ることだ。人を責めるのではなく、流れを設計する。その視点を持った経営者・リーダーと、もっと対話したいと思っている。

「うちの組織でも、同じことが起きているかもしれない」と感じたなら、ぜひコメントを、あるいは直接メッセージをいただきたい。一人で抱えなくていい問題を、一人で抱えているリーダーが、あまりにも多い現場を私は見てきた。

7. 参考文献・リンク

村井真子,「上司の指示は無視『やりたい仕事だけやる』26歳の問題社員を『揉めずに辞めさせた』まさかの解決策」,マネー現代(講談社),2026年5月20日

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「価値をどこで生み、どう届けるか」を一緒に設計するパートナーとして、経営者・事業責任者・次世代リーダーの方々と伴走しています。新規事業の立ち上げ、既存事業の再設計、組織の価値創造能力の構築など、まずは対話から始めましょう。ご相談・お問い合わせはプロフィールのリンクよりお気軽にどうぞ。

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