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09_鉄オタの嫁になった話

はじめに

 唐突ですが、私の夫は鉄オタです。かく言う私は鉄道には全く興味がなく、大学進学を機に上京するまではあまり電車に乗ったことがありませんでした。田舎の車社会で育ったため、夫と出会う前の電車の知識は平均以下で、電車の「待ち合わせ」を知らないレベルだったのです。ホームの両側にはそれぞれ反対方向行の電車が止まるものだと思っていたので、複々線のホームにて、乗る予定の電車を背中で見送ったこともあります。(ホームに降りるとき、私が行きたい方面の一本早い電車が出たところだったので、同じ側で待てばよいと思ったのです…)

 そして、鉄オタへのイメージはというと、「根暗で、社会性に欠け、空気を読まずに鉄道の事ばかり話している(鉄オタの皆さん本当にごめんなさい)」といった散々な感じでした。でも、鉄オタの嫁となった今はこう思います。

鉄オタって可愛くて楽しい…!!


今回は、私がそう思うようになるまでの経緯など、鉄オタ夫とのエピソードについて書きたいと思います。

夫の鉄オタ度

 本人は「俺は電車好きだけど、オタクまではいかない」と言いますが、私からすれば立派なオタクです。旅行を計画する際は「乗りたい列車」を軸に行き先やスケジュールを決めますし、出先・旅先の駅で「もうすぐ隣のホームに気になる電車が入線するから見てくる!!」と乗りもしないホームに突撃することも多々あります。

 念願のクルーズトレインに乗車した際は、貯金をはたいて乗車客限定販売のプラレール??を購入。(そこそこの額なんです…汗)品物が届くと、リビングで環状に組み立てたレールの内側に寝転がり、走る模型を眺めながらニマニマしていました。この世界に詳しくない私が判断するのは違うのかもしれませんが、立派なオタク…ですよね…???

鉄オタの落とし方???

 人からの視線や評価に敏感な夫は、「鉄オタは万人にウケる趣味ではない」と自分から周囲に公言することはしないのですが、私は付き合う前からなんとなく気付いていました。友達といった旅行の写真を見せてもらった際は、妙に電車の写真が多く、上手く言えないのですが、「私なら景色を撮るとき、あまり電車を画角に入れないな」とか、「いくら観光列車でも、正面ならともかく、ボディやドア、窓といった細かい部分は撮らないな」とか、そういったことを感じたのです。決定打は、過去の旅行の話になり、私が小さい頃、家族旅行で北斗星に乗ったと言ったときの食いつき具合です。それまでとは明らかに異なるテンションで、「マジ!?!?それもう廃止になってるんだよ、知ってる???うわぁぁぁ、いいなぁ、羨ましいーーー!!」と叫ぶ夫を見て、私は確信しました。この人、鉄オタだ…。

 ていうか、ここまで食いつかれたら誰でも気づきますよね(笑)詰めが甘いぜ。

 旅行などの話が面白く、真面目でしっかりした印象の夫のことが、私はとても気になっていました。なので、次のご飯の約束のときに、バレンタインが近いのにかこつけて、電車のロゴがプリントされたチョコレートをプレゼントすることに。(後にそのロゴは、ヘッドマークという名前だと知ることになります。)箱はシックなブラウンで、中身のチョコレートのプリントと同じヘッドマークが金色で描かれていました。
 食事も済み、私がもったいぶって「日頃遊んで頂いているお礼に、プレゼントを用意したんです…」とチョコの箱をバックから取り出そうとすると、夫はまだ箱が半分も見えないうちに「なんかいいもの持ってる!!!」と大興奮。私からチョコを受け取ると、「え、これ〇〇のヘッドマークじゃん!これは××!?こっちは△△だ!!!本当にくれるの!?!?」と大喜び。前半は何を言っているかさっぱりわかりませんでしたが、想像以上の手ごたえにひとまずホッ。後に夫は、「なぜ鉄道に興味がなさそうな子がこんなものを選べるんだと感動した。あれは効いた。」と述べているため、私と夫を近づけてくれたのは、他でもない鉄道だったのです。鉄オタは鉄道をもって落とすべし、といったところでしょうか…???

鉄オタ夫が救った私の修士論文面談

 私は理系の大学院を卒業しているのですが、修士の2年間をかけて執筆する修士論文には、自分の研究室の教授(主査)の他に、他の研究室の教授が副指導教員(副査)としてついてくれ、1年に数回自分の研究についてのディスカッションを行う決まりがあります。副査の先生は大学側から割り当てられ、日々主査の先生に激詰めされている学生たちは、副査の先生くらいは優しい人が良いと総じて願っていました。私の副査は学部生時代に授業を受けたことがなく面識のない先生で、けっこう厳しく詰められた人もいるとの噂だったので、私はそれは怯えていました。

 初めてのディスカッションの日、私が緊張丸出しでテーブルに着くと、教授は気を遣ってか、雑談から始めてくれました。

「君はどこの出身だね。」
「し、静岡県です…」
「あぁ。……大井川鐵道のとこね……(ボソッ)」

…この人、絶対鉄オタだー!!!しかも大井川鐵道は前に夫と乗ったぞ!?!?列車が北へ進むにつれて周辺に人の気配がなくなって、どこか知らない世界に連れて行ってくれそうな雰囲気が楽しかったっけ。ポツンと浮いているかのような奥大井湖上駅の景色は圧巻だったなぁ…

勝利の予感を感じ取った私はすかさず、夫との思い出を頼りに、今まで乗った鉄道や付け焼き刃の鉄道知識を披露しました。すると教授の嬉しそうなこと!「今どきの若い女の子に鉄道好きな子がいるなんて!僕はこの前時刻表検定に出てね…」と喋る喋る。いや、私は鉄道好きなわけではないし、時刻表検定ってなんですか???しかし今は少しでも長く喋ってもらうことに全力を注げ…!!話が終わりかけるたびに次の話題を繰り出し続け、引っ張りまくってなんと40分(笑)教授はディスカッションの後に別の予定を控えていたらしく、研究の話はササっと終わりました。

 その後数回あったディスカッションでも、まずは鉄道の話で時間稼ぎ。さすがに研究の話を避けることはできませんでしたが、どうやらその先生には気に入ってもらえたようで、鬼詰めされることもなく、「修論発表当日はこういうこと聞くから、準備しておくんだよー」と、ありがたすぎる予告まで頂けました。

 私は研究であまり良い成果が出せなかったので、修論発表を乗り切り無事卒業できたのは鉄オタ旦那が大きく寄与していると思っています。

鉄オタ夫の魅力

 夫の魅力はたくさんあるのですが、その中でも鉄オタならではだと思うのが、旅行の計画がとてもスムーズなことです。先述の通り、夫は乗りたい電車を軸に行き先を決めるので、まず行き先選びに迷いません。(私にあまりこだわりがないのも要因ですが。)次にそのエリアの観光地やホテルを調べて行きたいところを2人でピックアップ。あとは夫が電車やバスの時刻表を調べ、回る順番や各地点の出発時間を決めてExcelでスケジュール表を作ってくれるのでそれでおしまい!旅行の計画って、行き先候補を出すまでは楽しいけど、それを繋ぎ合わせる段階になると一気にげんなりしてきませんか…??私だけでしょうか。特に地方の観光地は電車やバスのダイヤがスカスカで、観光先の営業時間なんかも加味すると、計画が難航しがちですよね。その点夫は、その辺もあっという間に決めてくれますし、何より調べるのを億劫に思わないようなのです。面倒くさがりな私としては非常に助かっています(笑)

 そしてもう一つ挙げられる魅力は、鉄道関連の話題や行き先で見せてくれる、子供のように無邪気で楽しそうな様子です。乗ってみたい列車の話を始めたときや、二人で鉄道博物館に出かけたときは、口数が普段の5倍になり、車体がどうの、ダイヤがどうの、歴史・内装・発車メロディがどうのと私には到底よくわからないことを目を輝かせて語ります。これについては以前の私の鉄オタイメージ通りではあるのですが、相手が愛する夫だとこれまた可愛いのです。鉄道博物館にて電車のレール幅について力説する夫の横で、5歳くらいの男の子が夫に負けない熱量でご両親に知識を披露しているのを見たときには、「夫は人生において、この子供のように、まっすぐな情熱を注げる素敵な趣味を持っているんだな」と、誇らしくも羨ましくもある気持ちになりました。好きな人の楽しそうな顔を見たいというのは自然な気持ちだと思いますが、その観点でいうと、日々様々な形で夫の楽しそうな顔を提供してくれる鉄道に、私は感謝すべきかもしれませんね。

鉄オタ嫁のお気に入り鉄道

 「非鉄オタ」の私ですが、鉄オタではなくても鉄オタの嫁は向いていたようで、夫に丸投げの鉄道旅でもかなり楽しむことができます。車窓からの景色を見るのが好きで、田舎の大自然やきれな海はもちろんですが、特に好きなのは目に留まった建物をGoogleマップで調べることです。「グラウンドがいくつもあったけど、あの学校はスポーツの強豪校なのか」とか、「こんなに奇抜なデザインの工場があるのか」とか、そんなことをずっと調べているのが楽しいのです。

 さて、そんな私のお気に入りは、「TWILIGHT EXPRESS瑞風」です。

 瑞風は抽選に当たらないと乗車できないクルーズトレインで、お値段は一人40万円弱。普段使いはとてもできない高級鉄道ですが、私たちは新婚旅行という名目でかなり奮発して乗車しました。結婚式前に2度目の落選通知をもらって落ち込んでいたのですが、結婚式翌日にまさかのキャンセル待ちの当選連絡!!夫は学生時代から乗車を切望していたようで、二人で手を取り合って喜びました。

 瑞風では、高いお金を払うだけの価値がある素晴らしい体験ができました。車内で提供される料理はどれも絶品で、クルーの丁重なおもてなしや、行く先々で通行人や見物の人から浴びる歓声・お手振りに、ちょっとしたプリンセス気分を味わうことができます。ディナータイムやバーカウンターではセミフォーマル指定なのも、特別な気分を盛り立ててくれます。立ち寄り観光には必ずガイドがついて詳しい説明をしてくれるので、観光地も心行くまで満喫。そして私の一番のお気に入りは、全体的に大きな窓です。部屋の廊下側のスライドドアを開け放つと、自室から車両両サイドの景色が一望できます。また、車両前方と後方にそれぞれある展望車はほぼ全面ガラス張りになっており、頭上の空の景色まで楽しむことができるのです。
 ぜひ多くの人におすすめしたい、本当に素敵な鉄道でした。


さいごに

 鉄道は、自分自身は「オタ」の域にいなくても、オタと一緒に楽しむことができる趣味だと思います。旅行はその代表格ですね。また、パートナーの趣味が筋トレやスポーツ、何かのコレクションであった場合、自分からその分野に足を踏み入れない限り身近に感じることは難しいと思いますが、鉄道を割けて生きられる人は少ないのではないでしょうか。つまり、興味が無くても理解しやすく、イメージが湧きやすい趣味なのではないか、ということです。

 とは言っても鉄オタは、「アイドルオタク」「筋トレオタク」等、他のオタクと同様にその人の一面に過ぎません。一方で、鉄オタからしか得られない頼もしさ、愛おしさ、素敵な経験もあるのです。この世にそんな人が存在するのかわかりませんが、もし相手が鉄オタという点で交際や結婚を迷っている人がいるのなら、私はこの記事をもって背中を押してあげたいと思います。


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