住まない高級マンションが増える街?―「タワマン5割所有者不在」が問いかける都市の未来?
2026年7月27日付の日本経済新聞朝刊は、「タワマン5割 所有者不在」という見出しを掲げた。
東京都心や大阪市内の高層マンションでは、登記上の所有者の約半数が実際には居住していないという調査結果である。
一見すると不思議な現象にも映る。
しかし、その背景をたどると、日本の住宅が「住むための器」から「資産を保有する器」へと役割を変えつつある姿が見えてくる。
静かに進むこの変化は、都市のあり方そのものを問い始めているのである。
▶︎住宅は「生活」から「資産」へ
高度経済成長期、日本人にとって住宅は人生最大の買い物であった。
住宅ローンを組み、家族が暮らし、地域社会を形成する拠点。それが住まいの本来の役割であった。
1990年代のバブル崩壊後には、「住宅価格は下がるもの」という考え方が社会に定着した。
ところが近年、都心部では様相が一変する。
歴史的な低金利、円安、海外投資家の流入、建築コストの上昇などが重なり、タワーマンションは「住む場所」である以上に、「保有する資産」として評価されるようになった。
住むためではなく、値上がりを見込んで保有する。
あるいは海外資産の一部として取得する。
そうした買い方は、もはや珍しいものではなくなりつつある。
▶︎5Whys分析
Why1 なぜ所有者が住まないのか
投資や資産保全を目的として購入するケースが増えているためである。
Why2 なぜ投資対象になるのか
都心部では住宅価格の上昇が続き、不動産が金融資産として高い魅力を持つようになったためである。
Why3 なぜ価格が上昇するのか
都心の土地供給には限りがない一方、国内外から投資資金が流入しているためである。
需要が供給を上回る構図が、価格を押し上げている。
Why4 なぜ海外からも資金が集まるのか
日本は政治・治安・所有権制度が比較的安定しており、主要都市の不動産価格は世界の大都市と比較してなお割安と評価される場面があるためである。
Why5 なぜ社会問題になるのか
所有者が居住していない住戸が増えると、管理組合の運営、防災活動、地域コミュニティーの維持などに影響が及ぶ可能性があるためである。
マンションは建物だけで維持されるものではない。人のつながりによって支えられている側面も少なくない。
▶︎問題の本質
本質は、住宅と金融商品との境界が曖昧になっていることにある。
住宅価格は市場によって決まり、投資対象として売買される。
一方で、住宅は地域社会を形成する生活基盤でもある。
価格だけを追えば市場は活性化する。
しかし、人が暮らさなければ街は成熟しない。
資産価値と居住価値。
この二つをいかに両立させるかが、これからの都市政策における大きな論点になるのであろう。
▶︎世界ではどう対応しているのか
こうした問題は日本だけではない。
カナダ・バンクーバーでは空き家税が導入された。
シンガポールでは外国人による住宅取得への課税を強化している。
香港でも投機抑制策が講じられてきた。
各国とも、「住宅は投資商品なのか、それとも生活インフラなのか」という問いに向き合いながら制度設計を進めている。
日本でも同様の議論は今後深まっていく可能性が高い。
▶︎3つの未来シナリオ
シナリオ① 資産としての価値がさらに高まる
海外資金の流入が続けば、都心部では所有者不在率がさらに高まり、住宅の金融商品化が一段と進む可能性がある。
シナリオ② 制度改革が進む
空き住戸への課税や管理組合制度の見直しなど、所有者にも一定の社会的責任を求める制度が検討される可能性がある。
シナリオ③ 居住価値が見直される
金利上昇や市況変化によって投資需要が落ち着けば、「住むための住宅」という本来の価値が改めて評価される局面も考えられる。
▶︎結びに
都市は、高層ビルの数だけで発展するものではない。
そこに暮らす人々が地域を支え、日々の営みを積み重ねることで、街は初めて持続的な価値を持つ。
マンションの価格は市場が決める。
しかし、街の価値を決めるのは、人の暮らしである。
「所有すること」と「住むこと」。
その二つの価値をいかに調和させるか。
それこそが、日本の都市づくりに突きつけられた新たな問いなのであろう。
“A city is not its buildings, but its people.”
「都市をつくるのは建物ではなく、人である。」
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