【2025年最新】英国「デジタル資産財産権法」施行 ― 暗号資産・NFTが"財産"として認められる時代の到来と日本への影響
■ はじめに ― デジタル資産をめぐる法的不確実性
2025年12月2日、英国で画期的な法律が施行されました。「Property (Digital Assets etc) Act 2025(デジタル資産等財産法)」です。この法律により、暗号資産(仮想通貨)、NFT(非代替性トークン)、その他のデジタル記録が、法律上正式に「財産(property)」として認められることになりました。
一見すると、「デジタル資産が財産? 当たり前では?」と思われるかもしれません。しかし実は、法律の世界では「何が財産なのか」という定義は極めて重要であり、それが明確でなければ、所有権の主張も、相続の対象とすることも、法的保護を受けることもできません。
今回の英国の法改正は、単なる技術的な法整備にとどまらず、デジタル時代における財産概念そのものを再定義する歴史的転換点なのです。
本記事では、司法書士としての視点から、この法改正の内容、実務への影響、そして日本への示唆を詳しく解説します。
■ 英国法における「財産」の伝統的分類とデジタル資産の問題
英国のコモンロー(判例法)では、個人財産(personal property)は伝統的に以下の2つに分類されてきました。
1. Things in possession(占有物)
物理的に存在し、手に取って占有できるもの。例:不動産、自動車、書籍、貴金属など。
2. Things in action(訴求権)
物理的には存在しないが、訴訟を通じて権利行使できるもの。例:債権、株式、特許権など。
ところが、ビットコインやNFTといったデジタル資産は、このどちらにも該当しません。
物理的に存在しないため「占有物」ではない
しかし単なる「訴求権」でもない(ブロックチェーン上で独立して存在)
この法的グレーゾーンが、実務上さまざまな問題を引き起こしてきました。
◇ 実務上の課題例
✔ 相続手続き: 故人が保有していた暗号資産は相続財産に含まれるのか?
✔ 破産手続き: 破産者のデジタル資産は破産財団に組み入れられるのか?
✔ 差押え: 債権者はデジタル資産を差し押さえることができるのか?
✔ 盗難・不正流出: デジタル資産が盗まれた場合、追跡請求や返還請求は可能なのか?
これらの問いに対し、裁判所は個別のケースごとに類推適用や解釈で対応してきましたが、法的安定性・予測可能性に欠けるという根本的な問題がありました。
■ Property (Digital Assets etc) Act 2025 の概要
今回施行された「Property (Digital Assets etc) Act 2025」は、こうした法的不確実性を解消するために制定されました。
法律の骨子
デジタル資産が、物理的に存在しないこと、または訴求権でないことを理由に、財産権の対象から除外されることはない
デジタル資産は「第三の財産カテゴリー」として法的に承認される
所有、譲渡、保護、回復に関する法的権利が明確化される
重要なのは、この法律が包括的・原則的なアプローチを採用している点です。つまり、「ビットコインは財産」「NFTは財産」と個別に列挙するのではなく、デジタル資産全般に適用できる柔軟な枠組みを提供しています。
これにより、今後登場する新しいデジタル資産に対しても、裁判所が柔軟に法を発展させていくことが可能になります。
■ 実務への具体的影響 ― 相続・破産・差押え・カストディ
では、この法改正は実務にどのような影響を与えるのでしょうか?
【1】相続手続きへの影響
従来、暗号資産が相続財産に含まれるかどうかは解釈に委ねられていました。今後は、デジタル資産も不動産や預金と同様に、相続財産として明確に扱われます。
◇ 実務上のポイント
遺言書にデジタル資産の記載がある場合、その承継が法的に保護される
相続人は、故人のウォレット(秘密鍵)にアクセスできれば、正当な権利として資産を取得できる
遺産分割協議の対象にデジタル資産を含めることが可能
ただし、秘密鍵(プライベートキー)の管理という技術的課題は残ります。秘密鍵がなければアクセスできないため、生前の情報管理・承継準備が極めて重要です。
【2】破産手続きへの影響
破産者が暗号資産を保有している場合、それが破産財団に組み入れられるかという問題がありました。今後は、デジタル資産も破産財団の対象として明確に扱われます。
◇ 実務上のポイント
破産管財人は、破産者のデジタル資産を換価し、債権者への配当原資とすることができる
ただし、秘密鍵を破産者が開示しない場合の実効性確保が課題
【3】差押え・強制執行への影響
債権者が債務者の暗号資産を差し押さえることは、技術的にも法的にも困難でした。今後は、法的根拠が明確化されます。
◇ 実務上のポイント
裁判所は、デジタル資産に対する凍結命令(freezing order)を発令できる
取引所やカストディアン(資産管理業者)に対し、資産の移転禁止を命じることが可能
不正に流出した資産の追跡請求(tracing claims)が可能に
【4】フィンテック・カストディアンへの影響
暗号資産の管理・保管を行うカストディアン事業者にとって、この法改正は事業の法的基盤を大幅に強化します。
◇ 実務上のポイント
顧客資産を「財産」として法的に保護する明確な根拠を得た
契約条項、利用規約、保険設計などが法的に安定化
規制当局の監督も、より明確な基準に基づいて行われる
■ 国際的な潮流 ― EUのMiCA、米国のSEC規制との関係
英国のこの動きは、孤立したものではありません。世界的に、デジタル資産に関する法整備が急速に進んでいます。
【EU】MiCA規制(Markets in Crypto-Assets Regulation)
2023年に成立し、EU全域で暗号資産市場の統一ルールを確立。ライセンス制度、顧客保護、透明性要件などを規定。
【米国】SEC(証券取引委員会)の規制強化
暗号資産を「証券」として扱うケースが増加。コンプライアンス要件が厳格化。
【日本】資金決済法・金融商品取引法による規制
暗号資産は「財産的価値」として法律上認められているが、民法上の「物」や「債権」とは異なる扱い。
英国の今回の立法は、「財産概念そのものを拡張する」という根本的アプローチであり、国際的な議論においても重要な先例となるでしょう。
■ 日本への示唆 ― 司法書士実務への影響は?
では、英国のこの動きは、日本の司法書士実務にどのような示唆を与えるのでしょうか?
【1】デジタル遺産の取扱い
日本でも、故人がビットコインやNFTを保有していたケースは増えています。相続手続きにおいて、デジタル資産をどう扱うかは実務上の重要課題です。
◇ 現状の課題
遺産分割協議書にどう記載すべきか、明確な実務慣行がない
秘密鍵の承継方法が確立されていない
英国の立法は、デジタル資産も他の財産と同様に扱うべきという方向性を示しています。日本でも、今後の実務指針策定の参考になるでしょう。
【2】不動産登記のデジタル化との関連
日本では不動産登記情報のオンライン化が進んでいますが、ブロックチェーン技術を活用した登記制度の可能性も議論されています。
英国のように、デジタル資産の財産権が明確になれば、「不動産の所有権をNFTで表現する」といった先進的な試みも法的基盤を得ることになります。
【3】法教育・研修の必要性
デジタル資産、ブロックチェーン、NFTといった新しい概念は、従来の法律実務の枠組みを超えています。司法書士も、これらの技術と法律の交差点を理解し、依頼者に適切なアドバイスを提供できる専門性を養う必要があります。
■ 今後の展開 ― 英国法の発展と日本への影響
Property (Digital Assets etc) Act 2025は、簡潔な原則を示すにとどまり、詳細は今後の判例法の発展に委ねられています。
今後注目すべき論点
✔ 秘密鍵の法的性質(所有権? 占有権? 管理権?)
✔ スマートコントラクトと財産権の関係
✔ 分散型システムにおける国境を越えた権利行使
✔ デジタル資産を担保とする融資の法的枠組み
これらは、英国だけでなく、日本を含む世界各国で議論されるべきテーマです。
■ まとめ ― デジタル時代の財産法を考える
英国の「Property (Digital Assets etc) Act 2025」は、デジタル時代における財産概念の再定義という、法律史上極めて重要な一歩です。
この法改正が示すもの
✅ テクノロジーの進化に、法律が追いつき始めている
✅ デジタル資産は、もはや「グレーゾーン」ではなく、明確な法的保護の対象
✅ 国際的な法整備の流れが加速している
日本でも、デジタル資産をめぐる法的課題は今後ますます増えていくでしょう。私たち司法書士は、こうした国際的な動向を注視しながら、依頼者に寄り添い、新しい時代の財産管理・承継をサポートしていく役割を担っています。
「財産とは何か?」――この根源的な問いに、法律が新しい答えを出し始めています。その変化を、私たちも一緒に学んでいきましょう。
参考情報(英語)
🔗 Hamlins LLP - A new era for digital property rights
https://hamlins.com/insight/a-new-era-for-digital-property-rights/
