🎹【中1 ピティナD級・スタート編 第1話】「ついてこれますね」エルサ先生の静かな宣戦布告
春の発表会が、幕を閉じました。
「しょぼい」から始まり、「ダサい」を経由して、「キラッと光る」へ。
2ヶ月間の濃密な戦いを終えた娘に、エルサ先生は温かい労いの言葉をかけてくださいました。
ひと息ついた、その瞬間。
先生の手には、もう次の楽譜が。

🎹ピティナコンペD級の壁
ピティナ・ピアノコンペティション。
全国規模で開催される、日本最大級のピアノコンクールです。
バロック、古典、ロマン、近現代、音楽の歴史を彩る4つの時代から課題曲が指定され、参加者はその4期の音楽を深く学びながら本番に臨みます。
予選を通過した者だけが、次のステージへ進むことができます。
予選通過率は、およそ3割。
10人が舞台に立っても、先へ進めるのは3〜4人だけ。
厳しいようですが、それがピティナコンペという舞台の現実です。
今年、娘が挑むのはD級(〜中2以下が対象)。
CからDへ。
たった一文字の違いですが、この壁は想像以上に高い。
D級の課題曲は、C級と比べて難易度が一段、いや、数段跳ね上がります。
そしてここまで来ると、参加者の顔ぶれもガラリと変わります。
中学生になってもピアノを本気で続けている子は、ある意味での「生き残り組」。
部活、勉強、思春期という三大強敵をくぐり抜け、それでもピアノを手放さなかった子たちが集まってくる。
D級は、本気の子だけが残るステージです。
そんな舞台へ向けて、エルサ先生が娘に手渡した楽譜は4冊。
バロック、古典、ロマン、近現代。
音楽の歴史を縦断する、壮大なラインナップです。

🎹あなたは、音楽を真剣に学びたい子です
楽譜を受け取った娘の顔を見ながら、エルサ先生は静かに、でもまっすぐに話し始めました。
「音楽への向き合い方は、人それぞれでいい。趣味としてのんびり楽しむことも、芸術として本気で学ぶことも、どちらも尊いと私は思っています」
そこで先生は、少し間を置きました。
「でも、去年の秋から半年間、あなたを見てきて、分かったことがあります」
「あなたは、音楽を真剣に学びたい子です」
娘が、小さく息を呑みます。
「周りの子が3歳、4歳からスタートしている中で、あなたのスタートは格段に遅かった。でも、成長のスピードは本当に早い」
🎹ついてこれますね
ただ、と先生は続けました。
「がむしゃらに弾いてきた分、音楽の基礎がすっぽり抜けているところがある。まずはその基礎を丁寧に学びながら、予選通過を目指しましょう」
「結果よりも、曲を学ぶことを第一に。厳しい道のりになります」
「でも、乗り越えるポテンシャルは、あなたにある」
先生の瞳が、娘をまっすぐに見つめました。
「ついてこれますね」
娘は、背筋を伸ばして答えました。
「はい」

🎹最初の目標、弾き合い会
そして先生は、最初の目標を告げました。
「5月の連休に弾き合い会をします。
それまでに4曲、暗譜して弾けるように。
今日から頑張りましょう」
4曲、暗譜。連休まで、約1ヶ月半。
娘の心の中で、静かに何かが点火されました。
今はまだ、この先に何が待っているか見えません。
でも、きっとそれでいい。
この壁を乗り越えた先にしか見えない景色が、きっとある。
それだけは分かる気がしました。
春の訪れと共に。
娘の、新しい戦いが始まります。
それはきっと、ピアノに限らず、何かに本気で向き合うすべての人に訪れる瞬間なのだと思います。

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