🎹【小6予選編第10話】掲示板の前の絶望 —— 涙の「奨励賞」と、貴公子のエール
予選の演奏が終わった瞬間、私は確信していました。
バッハの祈りと、チョコバーのパキッとした輝き。
「間違いなく、通っている」
1ミリの疑いもなく、私たちは結果が張り出される掲示板へと向かいました。
そこには、合格者の名前が並んだ紙。
人だかりをかき分け、一番上の「予選通過者」の欄へ視線を走らせます。
……ない。
娘の名前が、どこにもありません。
視線をさらに下げると、その下の「奨励賞」の欄に、娘の名前を見つけました。
通過ラインまで、あとほんのわずか。でも、その「わずか」の差で、本選への切符は私たちの手からこぼれ落ちたのです。

💧崩れ落ちた「12歳のプライド」💧
「……なんで? あんなに頑張ったのに!」
会場を出た瞬間、娘のダムが決壊しました。
ピアノ歴、わずか3年。
物心がついた頃から積み上げてきた周囲の子たちに比べ、スタートの遅さは絶望的でした。
「自分は人より下手なんだ」
その事実を誰よりも本人が受け止め、歯を食いしばってついてきました。
3年分の遅れを、この1ヶ月で取り戻してやる。そんな無謀な挑戦に、彼女は本気で挑んでいたのです。
けれど、張り出された紙に自分の名前はない。
「やっぱり、小さい頃からやってる子には勝てないんだよ!」
あんなに強く、あんなに前向きだった娘の心が、音を立ててポッキリと折れてしまった瞬間でした。

「もうピアノなんて嫌い! お寿司なんかいらない! なんにもいらない!」
叫ぶだけ叫び、帰りの車内では抜け殻のようになり、帰宅するなりふて寝。
無理もありません。
でもね、お母さんは心の中で密かに思っていました。
(……お寿司、食べたかったよ。トロ、食べたかったなぁ……🍣)

🎵貴公子からの「震えるLINE」
静まり返ったリビングで、私は恐る恐る神セブン先生にLINEを打ちました。
「先生、申し訳ありません。奨励賞で、予選通過は叶いませんでした……」
すぐに既読がつきました。返ってきたのは、慈愛に満ちた言葉でした。
「よく頑張りました。娘ちゃんはこの一ヶ月で、誰よりも成長しました。もう一回、チャンスがあります。腐らずに頑張りましょう」
突き放すでもなく、過度に慰めるでもない。
「君の努力は無駄ではなかったし、まだ道は続いている」という先生の静かな全肯定。その優しさに、私の目からもポロポロと勇気がこぼれました。

🌿泥の中から立ち上がる「雑草の魂」🌿
数時間後。
モゾモゾと布団から這い出してきた娘が、目を腫らしながら私の前に立ちました。
「お母さん」
「……なあに?」
「私、このままじゃ終われない。次の予選、絶対通過してやる」
さっきまでの「絶望のヒロイン」はどこへやら。
そこには、自分の中の悔しさをガソリンに変えた、一人のピアニストの顔がありました。
私は、笑って言いました。
積み上げた年数では負けても、しぶとさだけは、誰にも負けない。
「そうだよ。あんたはそういう子だよ。雑草魂、なめんなってね!」

絶望の淵でお寿司は食べ損ねたけれど、私たちの心には、もっと熱いリベンジの火が灯りました。
さあ、本当の勝負はここからです。

#ピアノエッセイ
