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ありがとうとごめん、タオルを置いた君へ。

ありがとうも
ごめんも
ちゃんと言えなかった日の話。


◯月✖︎日
昨日、パパとゲームをしていた。

僕がリードしてて、
もう少しで勝てそうだった。

いつものパターンで、僕が
「よっしゃー!」って叫んだとき、
パパも笑ってた

——と思う。
でも、あのときの笑顔はちょっと違った。

その瞬間、
ぐらぐらしてる歯が気になって、
つい指で触ってしまった。

なんとなくクセになってて、
特に意味もなくやってしまう。

パパが急に、少し低い声で言った。

「それ、触らない方がいいよ。ばい菌入る」

別に怒鳴ったわけじゃないし、
間違ってないのはわかってる。

でも、
楽しかった空気が
一気に変わったのが、わかった。

ああ、タイミング悪かったな…って、
僕の中のテンションがしゅっと下がった。

そのあともゲームをしたけど、
なんとなく楽しくなかった。


◯月△日
今日のパパは、びしょ濡れだった。

外は大雨で、
玄関に入ってきたパパは、
髪もシャツもズボンも、全部びちょびちょ。

ママが「うわ、えらいことになってる」って
笑ったけど、パパはちょっと疲れた顔してた。

僕はすぐにタオルを取りに行った。
ふわっとしてて、パパが好きなやつ。

急いで渡そうとしたら、
靴を脱いでるパパの足元がびちゃびちゃで、
床に水たまりみたいなのができてた。

でもそれでもいいと思った。
僕の足が濡れても、別にどうでもよかった。
早くタオルを渡したくて、近づいた。

そのときだった。

「あとでいいよ、濡れるから」

パパの声は、ちょっと強めだった。

反射的に言ったんだと思うけど、
僕の中で何かが止まった。

手に持ってたタオルが、少しだけ重たく感じた。

足も動かなくなって、
そのままソファの端にタオルを置いた。

あとで、パパはそのタオルをちゃんと使ってた。

「ありがとう」とかは、言われなかった。

でも、僕は見てた。
タオルで髪をゴシゴシふいてるパパの背中を。

…パパがあのとき

“あとでいい”じゃなくて
“ありがとう”って言ったら

僕は、きっともっと話せたのに。



夜、またゲームをした。

そのとき、僕がまた歯を触ってたら、
パパは何も言わなかった。

代わりに、僕の頭をポンって軽くたたいた。
強くもなく、ただ、そっと。

その瞬間、なんとなくわかった。

きっとパパも、さっきの「あとでいいよ」は
言いすぎたと思ってたんだ。

それでも、言葉にしない。
そういうの、パパってけっこう多い。

僕もあんまりうまく言えないけど、
またゲーム、一緒にやりたいと思った。



クチうるさいパパで、ごめん。

本当はもっと、
君と話したいんだ。

君の好きなゲームや漫画やアニメのこと、
それから最近頑張っている剣道のこと。

それから、
いつか君が出会う、君の大切になる人のこと。

いつか、
一緒に話せる日が来ると、いいな。

今のままじゃ、望み薄、かな?

君が話してくれる日を、待ってるくせに
「望み薄、かな」なんて言ってしまう。
パパも、ずるいよな。

君が、もっと話しやすくなる様に
パパも、もっともっと頑張るよ。

いつか
──旅立つ、君と話せるように。




なんのはなしですか?

これは、
あのひのかれのせなかのさみしさと
すこしみらいのじぶんへのてがみ

とっぴんぱらりのぷぅ

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