【短編小説】本日、黒坂探偵はブラックを飲みながら。
【第一話】「ミルクと銃声」
――報告書 No.001。タイプ:事件未満。天気:薄曇り。気圧:低め、心もやや曇り。
俺の名は黒坂。
探偵を名乗っているが、
どこからどこまでが仕事で、
どこからが道楽か。
正直、境界はとっくに湯気に溶けちまってる。
あの日もそうだった。
午後11時28分。
俺は例によってブラックを淹れていた。
ケニア産。深煎り。
ドリッパーの湯気が、
まるで誰かの過去のように絡みつく。
夜の静けさを、タイプライターの音が破る。
カチャッ、カチャカチャ……パーン。
まるで心の中の澱を打ち抜くように、
俺は一文字ずつ、過去を叩き起こしていく。
足元に気配。
まただ。
こいつは決まって、俺が文章に没頭するタイミングを狙ってくる。
キジトラのノーツ。
名付け親は俺じゃない。
気づけばここにいて、
気づけば名がついていた。
「そこ、邪魔だって言ってるだろ」
ノーツは言葉の代わりに、机の上の飴玉を前足で転がす。
チョコレートじゃなくてよかった。
溶けると後が面倒だ。
俺は視線を戻し、カップに手を伸ばす。
ブラック。もちろんブラックだ。
けれど心のどこかでは、
棚の奥に隠したチョコクッキーの在庫数を数えている。
猫は知らないふりで、
またタイプ音に耳を傾ける。
そうしている間に、電話が鳴った。
「近所のカフェで銃声がしたと通報があったんです」
声の主は町内会の老婆。
その声の震え具合が妙にリアルでな。
俺の中で何かが”抽出”された。
現場は、駅裏のカフェ《ミルク・ホール》。
割れたカップ。
床にこぼれたミルク。
監視カメラは、なぜかエラー表示。
完璧だ。いや、完璧すぎる。
まるで、
誰かが「事件っぽく」仕立てたような違和感。
俺はすぐに“裏”を探った。
カフェの店主は元警察官。
その隣の席に座っていた常連は、かつて組関係にいた男。
「ふ……これは、過去が今に滲み出したな」
自分で言ってて酔いそうだった。
けれど、証拠は何も出なかった。
いや、正確には“すでに収まっていた”。
カフェの蒸気バルブは完全に閉じられ、
店主は「音は気のせいだったかも」と言い始め、
通報した老婆も「夢だったかしら」と首をかしげる。
……妙だ。
何もかも、少しだけ整いすぎている。
俺は椅子にもたれ、ブラックを一口。
苦い。
だがそれがいい。心まで苦くなる。
そして――ふと窓際を見ると、あいつがいた。
ノーツ。
柄の濃いキジトラ。
うちにいつの間にか住みついた居候。
俺の足元を通るとき、わざと踏む。
俺が菓子をつまんでると、あからさまにため息をつく。
「こら。あっち行け」
俺は素っ気なく追い払う。
だが――心の中では、こうつぶやく。
“巻き込みたくねえんだ、お前みたいな柔らかな毛玉を。
俺のハードボイルドな世界にゃあ…”
ノーツはあくびをし、
ポトンとカウンターから何かを落とした。
それは、カフェの蒸気バルブの取扱説明書だった。
なぜか、
バルブの初期不良について赤ペンで印がついていた。
俺は、何が何だかわからなかったが、
そいつをカフェの店主へ届けてやった。
すると
『あぁ!このバルブを閉め忘れてガスが溜まってたんですね!
さすが名探偵と名高い黒坂探偵だ』
──何が事件だ。何が銃声だ。
すべて、“収まるべきところに収まっていた”。
この町は、今日も事件未満。
解決したとは限らないが、整えられていた。
ブラックをすする音だけが、唯一の証拠だ。
タイプ音が止んだ。
窓の外でノーツが一声、低く鳴いた。
それはまるで、
「報告書完了」の合図のようだった。
🛎 ここでCMです。
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湯気の向こうにぼんやりと浮かんでいたプロットが、
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ブラックな探偵も、猫の一言も、すべてがちょうどいい温度で仕上がる。
――次の一杯、どうしますか?
以上、みひろ商店の紹介でした。
んがクック
一応、全三話くらいの予定で書いてます。
あと二話。
タイトルもらったらそれをお題に続き書こうかな
──とっぴんぱらりのぷぅ
