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『天国のママ…』とつぶやいた、2歳の小さな背中が忘れられない

あれは、
子供が2歳くらいだったっけ

子どもと、スーパーに買い物に行った。

いつもの日常。
ほんの短い外出のつもりだった。

でもその日、
私は少しだけ、
自分の気持ちにブレーキを踏むことになる。


仕事が忙しい日が続いていた。

家ではできるだけ
子どもと過ごすようにしていたけれど、

どうしても
「今これだけやって」
「またあとで遊ぼう」
が口ぐせになっていた。



その日も、夕方の限られた時間。
私はスーパーの通路を、
買うものだけを効率よく選んで進んでいた。

子どもは私の横で、大人しく歩いていた。


静かだった。
でも、それが少しだけ気になって、私は手を伸ばした。


その小さな手は、少し冷たかった。
けれど、ちゃんと握り返してくれた。


ふと、手がスルリと離れた。

「おいおい、どこ行く」
そう言って追いかけると、
子どもはドラッグストアのエリアへ向かっていた。

目を奪われたのは、ヘアカラーのサンプル棚だった。

茶色、金、赤、黒。

色とりどりの髪の束が並び、
それがライトに照らされて、キラキラして見えた。


子どもはゆっくりとその前に立ち、右手を伸ばした。

一つひとつ、髪の束に触れていく。
左手はいつものように口元へ。
指しゃぶり。安心のサイン。

私は数歩後ろで立ち止まって、その様子を見ていた。

「どれが好きかな」
そんな軽い気持ちで見ていたのに、
子どもの声が私の胸を撃ち抜いた。


「……てんごくのママ……」


一瞬、時間が止まった。


私は聞き間違いかと思った。
けれど、
子どもは真剣なまなざしで、その髪の束を見つめていた。


「これ、ママの……ふわふわ……」


私は、言葉を失った。

——天国のママ。
——ふわふわ。

どこでそんな言葉を覚えた?
何を思って、それを口にした?

子どもにとって、ママはどんな存在なんだろう。

いつもそばにいられない日々の中で、
ママは心の中でどんな形をしているんだろう。

ママがいない時間。
この子の心の中に生まれた、“理想のママ”。

それが、この髪の感触なのか。


ふわふわで、やさしくて、きれいで、
遠くて、触れられない。

そんなママを、あの子は
「天国のママ」と呼んだのかもしれない。


私は胸の奥がぎゅうっと締めつけられるのを感じた。


——私じゃ埋められない。
——どう頑張っても、あの子が求めているのはママなんだ。


でも、その“ママ”はどこにいる?



本当に、天国……なんてことは——



思考がそこまで巡ったとき、
背後から聞き慣れた声がした。



「なにしてんの〜?」



振り向くと、ママがこっちに歩いてきていた。
エコバッグを持って、にこにこしながら。

子どもがその声に振り向いた。
そして、一拍おいて、
目をぱっと見開いて言った。



「……あっ、ママおった!」



ママはポカンとして、
それから笑った。


そう「……てんごくのママ」って、
ただの“ふわふわ髪フェチ”だったのだ。




この子にとってママは、
「ふわふわ」で「やさしくて」「どこかにいる」ものだった。
たぶん、天国なんかじゃなくて、ほんのちょっと目を離した“その先”にいる存在。


私はせいぜい、子どもの指を握っておく係。
だけどそれでもいい。

そんなことを、髪サンプルの前で思った午後だった。




#なんのはなしですか

これは、ママの髪こそ至高な子の話

──とっぴんぱらりのぷぅ

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